スタートアップのM&Aで起業家が留意すべきポイントは何ですか。
目次
買い手におけるバリュエーション(Val)論理等の把握
M&Aにおける起業家の関心事の一つは、「いくらで売却できるか」ではないでしょうか。むやみに高値売却を推奨するわけではありませんが、ステークホルダーに報いる意味でも大切です。
この観点から重要なことは、買い手のVal手法、買収予算、買収実績、買収目的等を早めに把握することです。これを知らずに自分達の論理だけ押しつけても、特に買い手がオーナー企業以外の場合には、先方の社内稟議がとおりません。「敵を知り己を知れば~」ではないですが、先方の社内論理を知り、そこを通すための準備をしましょう。
また、オークションで価格上昇を狙うのもよい方法ですが、通常業務に加えて複数社とのM&A対応の負担が生じ得る点に留意してください。
ステークホルダーとの調整
スタートアップM&Aでは、ベンチャーキャピタル(VC)等の外部投資家や社内株主、ストックオプション(SO)保有者など、買い手以外にも複数のステークホルダーとの利害調整が必要です。この進め方は、投資金額+αが生じるM&Aか/投資金額を割るM&Aかによりやや異なります。
+αが生じるM&A
VCなど外部投資家に味方になってもらえる場合、買い手に対して、「〇億円以下ではVCのファンド方針として売却できないと言われている。」などの価格交渉材料にできるケースもあります。そのため、外部投資家との納得ラインを早めに擦り合わせることが重要です。
①外部投資家
まず、対価分配額(納得ライン)の計算のため、投資家保有株式等の内容を確認してください。例えば、優先株式の条件(優先権は何倍か、参加型か等)、J-KISS発行の有無(雛形ではM&Aは行使条件の一つである他、行使しない場合は投資金額の2倍の金銭交付で実施可能)などです。これにより分配額、処理、選択肢が把握できます。この点は弁護士に確認して、複数の想定Val毎に、誰に、いくら分配され得るかをシミュレーションした上でコミュニケーションを取りましょう。
②SO保有者
SOもM&A時のルールを確認し、どう処理するか決めます。M&A時の権利行使可否だけでなく、行使できない場合も、もし権利行使できたら得られた金額分の特別報酬を従業員に支給してもらうよう買い手に交渉するのもお勧めです。スタートアップで働く人の中には大企業へのグループインに抵抗感を示す人もいるため、SO買取報酬や特別報酬として臨時賞与等を支払うことで、SO保有者(コアメンバー)の心理的な抵抗感を和らげ、PMIの第一歩になり得ます。
投資金額を割るM&A
他方、投資金額を割るM&Aでは、このままでは投資金額が0円になることを誠実かつ丁寧に開示・説明し、M&Aをご承認いただきましょう。
法務デューデリジェンス(DD)対応~株式譲渡
確度が高まってきたら法務DDに入ります。法務DDとは、買い手企業による売り手企業の健康診断のようなもので、M&A後に隠れた問題が露になり損しないか、Valに影響を及ぼす未発見の事情がないかなどを炙り出す調査です。スタートアップの場合、法的事項の整理が十分でないケースも多く、弁護士などの専門家に対応を依頼することをお勧めします。
また、買い手の買収資金と起業家の希望価額との溝がある場合にはアーンアウトを株式譲渡契約書に設けるなど、取り得るオプションの把握も早い方が望ましいです。
まとめ
スタートアップM&Aは、会社を成長させる手段である他、起業家の転職ともいわれます。要点を確認し、ステークホルダーとの利害調整を適切に行うことで、会社も自分も満足のいくM&Aに向けた準備を進めましょう。
※この記事は、2025年3月31日に作成されました。