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年棒制とはどのような仕組みですか。

当社では、社員のモチベーションを上げることを目的として、成果を給与に反映できる年棒制の導入を検討しています。そもそも年俸制とはどのような仕組みなのでしょうか。また、実際に導入:運用する上で注意点はありますでしょうか。
最近、従業員に対してその業績や成果を評価し、モチベーションのアップを図るために年俸制の採用を検討する企業が増えています。年俸制は、従来の年功序列型の給与制度と異なりますので、その導入には、労働基準法との関係で、一定の注意が必要となります。
回答者
前島 申長 弁護士
前島綜合法律事務所

年俸制とは

年俸制とは、従業員の業績等を評価して、賃金の全部または相当部分を年単位で決定する制度をいいます。

従業員に年間の目標を設定し、その目標達成度を評価して、年度末に翌年の目標と年間給与を定めるものであり、従業員の具体的な成果や業績を評価して賃金を支払おうとするもので、能力給・業績給の比率を高めた賃金制度といえます。

近年、年功序列の賃金制度ではなく、年俸制を採用することで、社員の勤労意欲を高めるとともに能力の高い人材採用の手法として年俸制を採用する企業が増加しています。

年俸制を採用するためには

年俸制を採用するためには、まず、個々の社員の明示または黙示による個別の同意が必要です。

次に、社員の同意があったとしても、労働基準法(以下「労基法」といいます。)では、就業規則において賃金の決定、計算及び支払方法の必要事項と規定しているところ(労基法8912号)、年俸制の採用は、賃金の計算方法の変更にあたりますので、就業規則の変更が必要となります。

さらに、労働組合がある場合には、労働協約で賃金制度を定めていることから、年俸制を採用するためには、労働協約の改定が必要となります。

年俸制における給与の支払について

支払方法

年俸制を導入しても、労基法では、給与について毎月1回支払いの原則をとっていることから、現実の給与支払いが年ごとにされることはありません(労基法242項)。通常は、決められた年棒を12分割ないし14分割(夏冬賞与分として支給)するなどして毎月の支払を行うことになります。

残業分の取扱い

また、年俸制を採用した場合でも、管理監督者(労基法412号)または裁量労働制(労基法38条の3および38条の4)の適用を受ける従業員を除いて、時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いは必要となります(労基法37条)。

年俸制において「割増賃金込み」の合意は可能か

年俸制において、割増賃金込みの合意をすることができるかですが、最高裁は、労働契約において、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要としています(最高裁平成2977日)。

固定残業制については、割増賃金の支払を規定する労基法37条との関係で問題となりますが、一般的には、従業員に対して実際に支払われた割増賃金が法所定の計算による割増賃金を下回らない場合は、同法違反にはならないとされています。判例は、年俸制においても、従来の判例理論を前提に、明確区分性を要求したものと理解できます。

賞与分の取扱い

年俸制において、割増賃金の算定基礎をどのように算定するかについて、厚労省は「割増賃金の基礎となる賃金に参入しない賃金の一つである賞与とは、支給額が予め確定されていないものをいい、支給額が確定しているものは賞与とみなさない」との態度をとっています。そのため、年俸制で毎月支払部分と賞与部分を合計して予め年棒額を決定している場合の賞与部分は、賞与とはいえず、賞与部分を含めて割増賃金額を支払う必要があります(平成1238日基収78号 なお、同様の見解に立つ裁判例としてシステムワークス事件 大阪地裁平成141025日)。

年棒額の合意が難しい場合

年俸制において、会社側と社員との間で意見が対立し、翌年度の年棒額について合意に至らなかった場合に次年度の年棒をどのように決定するかですが、会社側の解雇権が制限を受けており、社員の長期雇用を前提とするわが国においては、会社側に決定権があるとする裁判例があります(中山書店事件、東京地裁平成19326日)。

もっとも、会社の判断が極めて不当な場合については、従業員が、会社の裁量権の逸脱などを主張して法的に争うことは可能です。

また、裁判例の中には、会社側に年棒額の決定権を認めるためには、年棒額決定のための評価基準、決定手続、減額の限界の有無などがあらかじめ就業規則などで明確にされていて、その内容が公正な場合にかぎられるとするものがあります(日本システム開発研究所事件、東京高裁平成2049日)。

年度途中での年棒額の減額可否

また、年俸制の場合、当該年度の途中での年棒額を減額することは、原則として認められません(シーエーアイ事件、東京地裁平成1228日)。

 

※この記事は、2024年11月26日に作成されました。

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