TOPQ&A記事海外取引を開始するにあたり、どのような点に気を付けるべきでしょうか?
SHARE

海外取引を開始するにあたり、どのような点に気を付けるべきでしょうか?

当社では、今後自社製品を海外に向けて販売する方針が決まりました。これから取引予定の海外企業と製品の売買契約の締結を進めていくのですが、取引にあたってどのような点に気を付けるべきでしょうか。
「リスクを意識した」契約書を作成する点です。
例えば、取引スキーム・契約条項の作成・検討に当たり、自身の義務の先履行の回避/材料費高騰などのリスク/Incotermsの正しい利用/補償内容の限定/準拠法条項とウィーン売買条約の適用/紛争解決条項と仲裁利用/貿易管理/海外取引法務を取り扱っている弁護士への相談、などを意識して頂くと良いでしょう。
回答者
宮武 篤司 弁護士
宮武国際法律事務所

リスクを意識した契約書の作成

海外企業との取引では、言語、文化、法律などの違いから、国内企業同士の取引に比べて、紛争発生のリスクが高まるため、リスクを意識した契約書の作成を心掛けて下さい。
海外企業との継続的売買契約は、以下のような条項を含んだ内容になろうかと思いますので、条項にリンクさせながら、作成に当たっての具体的な注意点を説明します。

⑴前文、⑵文言定義、⑶注文・承諾・個別契約、⑷製品価格・決済通貨、⑸支払方法・時期、⑹製品引渡・検査、⑺船積条件、⑻危険負担・所有権の移転時期、⑼保険、⑽製品保証、⑾損害・損失・費用支出などに対する補償、⑿契約期間・解除、⒀不可抗力免責、⒁公租公課の負担者、⒂相手方への通知方法、⒃契約内容の修正方法、⒄完全合意、⒅準拠法、⒆紛争解決方法、⒇貿易管理など

自身の義務の先履行の回避(条項⑸、⑹)

まず、海外企業との取引では、相手方から反対給付を受けられないリスクを考え、自身の義務を後履行とすることや、信用状を利用して同時履行とすること、それらが難しいとしても、先に半金だけでも得ておく、与信額を小さくする、相手方からの支払サイトを短くするなど、リスクを意識した契約内容とすることを心掛けて下さい。

材料費高騰などのリスク認識(条項⑷、⑿)

次に、契約書上、製品価格、決済通貨などを定める必要がありますが(条項⑷)、契約締結後、材料費の高騰、材料の入手困難、為替の変動などにより、取り決めた契約内容では、利益を得られない事態が生じ得ます

そこで、例えば、敢えて契約期間を短く設定し、毎回の更新のタイミングで、そのようなリスクを回避できるようにしたり(条項⑿)、単なる協議に留まらない、製品価格を見直せる条項を定めたり(条項⑷)、為替レートを合意しておくなど(条項⑷)、リスクを意識した定めが必要になり得ます。

Incotermsの正しい利用(条項⑷、⑻、⑼)

また、通関費用、輸送費用、輸送中の保険費用、輸送中の事故などにつき、いずれの当事者が責任を負担するのかを明確に定める必要があります(条項⑻、⑼)。売主側がそれらの費用を負うことになれば、原則として、それらの費用が製品価格に乗ります(条項⑷)。

これらを定めるに当たり、Incoterms(最新版は2020)に依拠すると簡便です。但し、どの版のIncotermsを使うのか、明確にしておく必要があります。

なお、Incotermsでは、製品の所有権の移転時期を定めていないので、所有権の移転時期は、別途、定める必要があります(条項⑻)。

補償内容の限定(条項⑾)

更に、契約書上、製品に関し、相手方が損害、損失、費用を被った場合の補償に関する定めを設けることがあります(条項⑾)。その際には、自身からの補償の対象となる人的範囲や費目、補償の発生原因が不合理に広範とされていないか精査し、必要に応じて、契約交渉段階で、修正する必要があります。例えば、相手方だけでなく、相手方の役職員、子会社、代理人、顧客など、補償の人的範囲が広げられている場合や、直接かつ現実に生じた損害を超えて、結果損害、機会損失、およそ発生した全ての弁護士費用など、補償費目が広げられている場合などには注意が必要です。

準拠法条項とウィーン売買条約の適用(条項⒅)

また、契約書では、準拠法を定める必要があります。例えば、以下のような定めです。

この契約は、日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。
This contract shall be governed by and construed under the laws of Japan.

なお、⑴2009年8月1日以降に効力を生じる、「物品」(原則、引渡時に動産であるものをいいます)の売買契約で、⑵その契約に最も密接な関係を有する、各当事者の「営業所」が、「異なる国」に所在する場合に、上記サンプル条項を用いると、「日本法」という文言には、原則、国際物品売買契約に関する国際連合条約(通称、ウィーン売買条約)が含まれることになりますので注意して下さい(ウィーン売買条約1条⑴⒝、10条)。

上記サンプル条項に、以下の下線部を追加することで、ウィーン売買条約の適用を排除することも可能です。

この契約は、国際物品売買契約に関する国際連合条約を除き、日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。
This contract shall be governed by and construed under the laws of Japan, excluding the United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods.

紛争解決条項と仲裁利用(条項⒆)

加えて、海外企業との契約書では、強制執行まで意識した紛争解決条項を定める必要があります。訴訟ではなく、仲裁を利用する旨の条項(仲裁条項)になることが多いと思います。

その理由は、(日本の訴訟での)判決では、原則として、他国にある財産に対して強制執行ができず、海外企業が判決に従わない場合、判決取得の意味がなくなるのに対し、仲裁判断であれば、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(通称、ニューヨーク条約)に加盟している国(約170か国)において強制執行できるため、紛争解決に繋がりやすいからです。また、(相手方所在国の)判決では、相手方所在国では強制執行できるかもしれませんが、そもそも、その国の司法制度が成熟し、信頼できるものか、不明であることも多いからです。

なお、仲裁は、契約書に仲裁条項がないと使えません。日本には一般社団法人日本商事仲裁協会(通称、JCAA)という仲裁機関があり、JCAAでは、以下のような、同仲裁機関を使う場合のモデル仲裁条項が紹介されていますので、利用を検討されると良いと思います。

この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan.

貿易管理(条項⒇)

その他、日本から相手方所在国へ当該製品を輸出できるのか、また、相手方所在国において当該製品の輸入を認めているのか、確認しておく必要があります。その確認をどちらが行い、責任を負うのか、契約書で明確にしておくことが必要になり得ます。

海外取引法務を取り扱っている弁護士への相談

海外企業との契約書作成に当たっては、具体的な取引内容次第で、この記事で説明した以外にも、注意すべき事項がいくらでも生じ得ます。そのため、海外企業との取引法務に関しては、取引を開始する前、できるだけ早い時期に、海外取引法務を扱う弁護士にご相談することをお勧めします

 

この記事は、2024年4月5日に作成されました。

関連Q&A

長年口約束で取引を続けてきた会社とも、契約書を作成すべきでしょうか。
当社では長年付き合いのある取引先とは口約束で取引をしており、契約書を作成していません。念のため契約書を作成したほうが良いのではと社員から相談されたのですが、信頼感を損なうのではないか思い、打診を迷っています。長年取引している企業と改めて契約書を作成することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
免税事業者に対し、仕入税額分の値引きを求めることはできますか?
インボイス制度開始前は、免税事業者から商品を1,100円(消費税10%の税込み)で仕入れていました。今後、仕入税額控除ができなくなるため免税事業者に値引き交渉したいのですが、消費税分100円のうちいくらなら値引きするよう求めても問題ないですか。
契約を期間の途中で解除したいのですが、可能ですか?
取引先の成果物が期待を大きく下回るものだったため、取引先との契約を途中で解除したいです。途中でも契約を解除することは可能なのでしょうか。
特許侵害訴訟の訴状を受けたら、どう裁判に対応すべきでしょうか。
弊社は精密機械メーカーですが、新製品を開発し販売を開始したところ、他社から「当社の特許権を侵害している」とのことで警告書が届き、交渉したのですが、裁判所から訴状が届きました。弊社としてどのように裁判に対応すればよいでしょうか。
元請会社に報酬を支払わせる方法はありますか?
弊社は建設工事の下請企業で、長年、元請会社とは契約書は締結せずに見積書ベースで工事を行っていました。先日、工事を完了させたところ、元請会社から「過去の見積額が過大だったため、過払状態であり、過払金と相殺するため報酬を支払わない」という通告を受けました。報酬額を支払わせる方法はありますでしょうか。