TOPQ&A記事同僚や後輩からのパワハラの疑いがある場合にどう対応すべきでしょうか。
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同僚や後輩からのパワハラの疑いがある場合にどう対応すべきでしょうか。

ある従業員から「同僚や後輩から、挨拶をしても無視される、飲み会で飲酒を強要されるなどのいじめを受けている。」という相談を受けました。どのように対応すればよいでしょうか?
ハラスメント被害の訴えがなされた場合、まずは調査をし、ハラスメントの有無を認定することが必要です。
調査の際は、言動だけを取り上げるのではなく、築かれている人間関係や言動が行われた経緯、言動の相手が新入社員なのかベテラン社員なのか、周りに他の労働者が大勢いたのかといった周辺事情にも十分に考慮する必要があります。
回答者
藤井 輝 弁護士
FUJII法律事務所

パワーハラスメントの社会的背景

「令和2年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」によれば、パワハラの相談件数は過去3年間変わらないとされています。他方で、ハラスメントの予防・解決に向けた取組を進める上での課題としては、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」の割合がもっとも高く、次いで「発生状況を把握することが困難」が高かったとされています。

パワーハラスメントの法的な取り扱い

法律上の定義

パワーハラスメントは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と法律上定義されています(労働施策総合推進法第30条の2第1項。太字・下線は筆者)。

事業主に対する要請

ア 事業主はパワハラに対して、以下の雇用管理上の措置を講ずる義務があります。

① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
② 相談(苦情)に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
③ 事後の迅速かつ適切な対応

イ パワハラを相談した従業員、調査協力者について、解雇等の不利益取扱いをしてはいけません。

ウ 事業主がこれらに違反した場合には、企業名の公表や過料の制裁が科される場合があります。

損害賠償請求

パワハラを受けた被害者は、パワハラを行った加害者に対する損害賠償請求をするとともに、会社に対しても損害賠償請求をすることが考えられます。

実際の対応時のポイント

調査の実施

調査の必要性

今回の質問のように、ハラスメント被害の訴えがなされた場合、まずは、中立性・公平性の担保された調査を開始し、ハラスメントの有無を認定することが必要です。ハラスメントの存在が認定された場合には、当該ハラスメントを行った人物に対して、何らかの処分がなされることが一般的です。被害を訴える側の言い分のみに基づきハラスメントがあったと認定してしまっては、適切な処分をすることができず、また、加害側から不当な処分であると訴えられる可能性もあります。

調査を実施する際に留意事項

「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(以下「パワハラ指針」といいます。)では、「相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。」とされています。

つまり、以下がポイントとして挙げられています。

① 相談者および行為者の双方から聞き取りをすること

② 相談者と行為者との間で言ってることが違う場合には、第三者からも事実関係を聴取すること

③ 相談者の心情に配慮すること

 

また、実際に調査をする際には、言動だけに着目するのではなく、当事者間の人間関係や言動がなされた環境にも配慮する必要があります。

本件の質問について

本件の場合は、①相談者である従業員やその同僚、後輩から事実関係の聞き取りをすること、②両者で言っていることが食い違う場合には、同一部署の他の従業員や飲み会に同席していた者からの聞き取りをする必要があります。

パワハラに該当するか否かの判断

ア パワハラの定義は既に述べたとおりです。①職場において行われる優越的な関係の背景の有無、②業務上必要かつ相当か、③労働者の就業環境が害されるかという観点から判断されます。

イ 職場における優越的な関係が認められるか

本件の場合、「同僚や後輩が挨拶を無視する」という言動については、同僚や後輩との間に優越的な関係があるかという点が問題となります。「飲み会の場での飲酒の強要」については、職場での言動といえるかが問題となります。

(ア) 「優越的な関係」とは、行為者が抵抗・拒絶することが難しいのか否かによって判断されます。パワハラ指針では以下が挙げられています。

① 職務上の地位が上位の者

② 同僚や部下で、業務上の知識や経験が豊富で協力が必要である者

③ 同僚や部下からの集団よる行為で抵抗することが困難な場合

本件の場合は、上記②あるいは③に該当すると判断されることが想定されます。

(イ) 「職場」とは、労働者が業務を遂行する場とされていますが、勤務時間外の「懇親の場」であっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に含まれます。職務との関連性や参加者の属性、参加が強制か任意か等を考慮して判断されます。
本件の場合は、飲み会の開催の趣旨や同僚や後輩以外の参加者の属性によって、「職場」か否かが判断されることとなります。

ウ 業務上の必要性が認められるか

「業務上の必要性」についてですが、挨拶を無視することが業務の遂行のために必要とは考えられません。飲酒の強要も業務上、必要であるとはいえないでしょう。

エ 労働者の就業環境が害されているか

就業環境が害されているか否かは、労働者が身体的・精神的苦痛を感じることで、就業することができなくなるほどの支障が生じているかによって判断します。人によって感じ方は様々ですので、この判断は、「通常の労働者」であればどのように感じるのか、という観点から判断されます。
本件の場合は、無視されても平気、飲酒を強要されても平気という労働者は想定し難いですから、そのことが原因で就業が困難になっているといえるのかを検討する必要があります。

まとめ

従業員から、ハラスメント被害を受けているといった相談を受けた場合には、まず、中立・公正な観点から事実関係の調査をする必要があります。

パワハラに該当するか否かを判断するにあたっては、パワハラの定義にあてはまるかを慎重に検討することとなりますが、その際には言動だけを取り上げるのではなく、築かれている人間関係や言動が行われた経緯等、周辺事情も十分に考慮する必要があります。

この記事は、2024年2月5日に作成されました。

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