法務と事業部は相互補完の“バディ”
信頼関係が事業推進のエンジンに

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ひと目でわかる要チェック条文 業務委託契約書編
この記事について

法務の知識や業務経験が増えてきても、難しいのはそれをどう伝えるか。
「何もしないとドンドン敷居が高くなってしまうのが法務部」と経験者は口を揃えて言いますが、事業部・関連部署ともっと協働する法務になるために、どんなコミュニケーションをすべきでしょうか?

「Cross Talk―事業×法務の協働作戦―」の第1回は、株式会社ココナラの青木様・村上様にお話を伺います。新規事業立ち上げの際に、一緒に難題に向き合った経験を参考に、「事業」と「法務」の協力体制の構築方法をじっくりと探ります。

■インタビュイー
株式会社ココナラ 経営管理部 法務チーム 法務マネージャー
青木聡士(あおき さとし)
法務のなんでも屋。2022年に一人法務として入社後、日々契約審査やひな形作成に携わる中で、ある日、新規事業の支援依頼が舞い込む。

株式会社ココナラ ココナラビジネスグループ 事業開発チーム
村上 愛(むらかみ あい)
人材畑から、業務委託案件の紹介という新規サービスの立ち上げに邁進。業務委託の契約書が、この事業の将来を左右するといち早く気付き、法務に相談を持ち込んだ。

新規事業「ココナラエージェント」立ち上げに向かって

――まずは御社の事業内容と、提供サービスについて教えてください。

青木 法務の青木です。ごく簡単にご説明すると、株式会社ココナラは、知識やスキル、経験を売り買いできるスキルマーケット「ココナラ」、ITフリーランス向け業務委託案件の紹介サービス「ココナラエージェント」、無料で弁護士に質問できるマッチングサイト「ココナラ法律相談」の3つのサービスを中心に事業を展開しています。
「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」をビジョンに掲げ、あらゆる人がさまざまな場面で活躍できる世の中の構築を目指しています。

――今回立ち上げられた「ココナラエージェント」とはどのようなサービスなのでしょうか?

村上 事業推進の村上です。「ココナラエージェント」は、エンジニアやデザイナーといったITフリーランスと、企業の業務委託案件をつなぐサービスです。2023年1月にスタートした新規事業で、既存の「ココナラ」では扱えなかった、月次稼働型のマッチングが可能になりました。当社のエージェントがフリーランスの専門スキルを面談でしっかり理解した上で、条件にマッチした案件をご提案させていただきます。

――お二人は新規事業の立ち上げにどのような立場で関わられましたか?

村上 立ち上げメンバーは他の仕事との兼務が多く、専任は私だけでした。事業推進というポジションで立ち上げに携わりまして、プロデューサーとしてプロダクトの作成や業務フローの構築、システムの導入・運用、他部署との連携など、全部です(笑)。

青木 私はいわゆる「一人法務」なので、普段は会社全体の契約書類の作成や契約審査、社内規程の整備、各種法的手続き業務などを行っています。「ココナラエージェント」のプロジェクトには法務責任者として、人材紹介に関する契約書や規約の作成、有料職業紹介事業の許可申請などに関わりました。

株式会社ココナラ・青木様

「ビジネスの背中を押す」法務が支える事業の根幹

――立ち上げを進める上で、特に苦労した点や気を付けたことなどはありますか?

村上 スキルを必要としている企業様とフリーランス人材とのマッチングは、準委任契約となります。トラブルを防ぐためには業務内容やその範囲、支払い条件などで細かいすり合わせが必要でした。

青木 準委任契約と一言で言っても決まった形式の契約書があるわけではなく、通常の準委託契約と異なる点もあるため、リスクをどこまで許容するのか検討しながら契約書を作成する必要があったので、苦労しました。もちろん、リスク判断には、現場での実態や意向も反映しながら検討する必要があったので、結構なやりとりをしました。

村上 ここはすごく大切で、取引先の状況を把握せずに作成してしまうと先方からの修正が多く、取引開始に時間がかかるどころか、そもそも契約締結に至らず、案件すら獲得できないおそれもあるので、あらかじめ双方に受け入れやすい妥当な内容で契約書を作成することや修正のボーダーラインの共有などには注意して取り組みました。

青木 法務としては、契約書に何の項目が必要か、どうしたらリスクを最小化できるのかというジャッジはできますが、実際の現場でどう委託しているのかといった動きや、業務上のニーズは把握しきれません。取引先の企業様にもそれぞれ考えがあると思いますし、規約や契約書を作成する際は事業部と意見をすり合わせて、バランスを見ながら調整しました。

村上 事業部としては新規事業で前例のないことばかりだったので、法務の青木さんの存在は本当に頼もしく感じましたね。

株式会社ココナラ・村上様

――準委任契約の内容を具体的に契約書に記載するのって大変そうです。

村上 もう本当に悩みました。委任者と受任者の双方を守るため、契約書を作成する際は業務内容や範囲を明文化した、詳細なものを作ることが必須でした。

青木 業務委託契約には法律上明示されていないような部分があり、非常に難しかったですね。適法であることはもちろん担保すべきですが、そこから先の判断に迷う部分で、会社として内部統制やコンプライアンス上、守るべきラインを決める際には、内部統制チームなど専門部署の意見も聞きながら、会社全体で案を練りました。
細かな調整が必要だったからこそ、現場を知っている事業部の声を聞きつつ、規約や契約書を作成できたのはありがたかったです。

――事業部と法務のやり取りは具体的にどうされていましたか?

村上 実は対面のミーティングは数える程度で、あとはSlackでのやり取りが中心でしたが、驚くほどコミュニケーションの面で困ることはなかったです。

青木 Slackはスレッドを使用して会話を整理したり、過去のやり取りを見直したりできるので便利ですよね。コミュニケーションの過程を文字で残しておくことは重要ですし、見返したときにその時の記憶が呼び起こされるので、理解の定着という面でもいいと思います。

村上 後はやっぱり、問題点を共有し、同じ目的意識を持てたことがよかったですね。同じ方向を向いている実感がありました。

法務は企業を守るセーフティーネットで、頼れるバディ

――協力されるなかで、お二人はお互いにどのような印象を持たれましたか?

青木 村上さんは以前、人材紹介企業で働かれていたこともあって、エージェント業務に関する知識が豊富でした。私にはまったくその知識がなかったので、コミュニケーションをとる中で業界特有のルールや慣習などを教えてもらい、契約書に落とし込むことができました。

規約や契約書類に関しては、お互いの専門性を駆使して作り上げていった感じです。ビジネスは法務だけでは回らないので、やはり現場を知る事業部門との連携が重要だと改めて感じました。

村上 そもそも新規事業は予期せぬイレギュラーが多く発生し、スケジュール通りに業務が進められないことが多々あります。通常業務もある中で、青木さんは「ココナラエージェント」の立ち上げを最優先に考えてくださったので感謝しかありません。

事業立ち上げ期だからこその少数精鋭チームの中で本当に親身になってサポートしてくれましたよね。事業部と法務という垣根を越えた“バディ”のような存在だったからこそ、協力し合いながら前に進めたのだと思います。

――新規事業のリリースに向けてお互いに協力できたポイントは?

青木 事業部の掲げる目標や実現したいことを、その都度しっかり共有してもらえたので、法務としては非常にやりやすかったです。具体的に「こういうことがしたい」と言ってもらえれば、こちらも「だったらこうしよう」と提案ができますので

村上 私たち事業部の人間にとって、法務はいわばセーフティーネットだと思います。特に新規事業を立ち上げるに当たっては、「これは法的に大丈夫?」とか、「上場企業として問題はない?」などの判断を委ねる場面が数多くありました。

青木 安全なラインを引くというよりは、一緒に考えるという感じですけれど。

村上 全体を見て、今後発生し得るリスクを未然に防ぐという意味で、法務は企業にとって欠かせない存在であり、法務がいるからこそ我々は安心して事業推進のアクセルを踏めるのだと実感しました。

青木 そう言っていただけると光栄です(笑)。法務に来るどのような依頼でも、法的に難しそうにみえるものを紋切り型に「できない」と突き返すのは簡単です。ただ、会社としてはミッションに向かって各事業を推進させているので、どうにかその案件を実現する方法を考え、提案できるのが法務の醍醐味です。

村上 確かに、青木さんとずっと仕事をしてきましたが、「できません」と言われたことは一度もないんです「現状ではこういう理由でできないから、できる方法を一緒に考えましょう」と背中を押してくれるので、本当にやりやすかったです。

メンバー間で情報を共有してベクトルを合わせよう

――事業部と法務担当者がビジネスを円滑に進めるためのポイントは?

青木 法務としては、事業部の信頼を得ることが大切です。そのために重要なのは、やはり日々のコミュニケーションです。相談をただ待つのではなく、「何か困っていることはないか」とこちらから積極的にアプローチする姿勢が必要だと思います。

村上 それについて、青木さんが使う言葉は、難しくないんですよね。法律の専門用語や難解な表現を使わずに、私たちでも理解できる言葉を使うので分かりやすいんです。ビジネスサイドに寄り添ってくれるというか、目線を合わせて話してくれます。当然相談もしやすくなりますし、信頼関係が築きやすかったのだと思います。

――法務として、どのようなことを意識すればよいですか?

青木 同じ組織に所属し、一つの目標に向かってビジネスをしている以上、メンバー間でベクトルを合わせることはとても大事だと思うんです。だからこそ法務には“共通言語”として平易な言葉を使うこと、そして密にコミュニケーションを取り、相手の立場に寄り添った対応をすることが求められると思います。

村上 青木さんは本当に相談しやすくて。思わず法務とは関係の無い質問や、財務周りの相談までしたこともありましたよね。

青木 財務はさすがに答えられない(笑)。私もこうやっていろいろと相談されるのは嬉しいです。そもそも法務部って敷居が高いと感じませんか。なんとなく近寄りがたく、声をかけづらい印象を持つ方もいらっしゃると思いますが、往々にして法務側に原因があることも多いのではないかと思っています。
相談されにくい環境を法務自らが作っている場合もあるので、社内での積極的なコミュニケーションを促したいのであれば、一度法務の位置付けや立場を見直すことも大切かもしれません。

(インタビュー日:2023年6月13日)

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