自ら手を上げて法務へ転身!元プラントエンジニアが起こす業務改革!

この記事について

他職種から法務へ転身した方へ、転身したきっかけや苦労した点、過去の経験が活きた点などのお話を聞く「Drifters~法務へのキャリアチェンジ~」。

第1回は、ネスレ日本株式会社の桝本様に、法務部へ異動した理由、業務フローの改善方法、オフラインでの研修にこだわっている理由など、法務業務への取り組み方をお伺いします。

インタビュイー:
ネスレ日本株式会社 法務部 桝本 啓介(弁理士)
理系大学院を修了後、2012年、ネスレ日本株式会社に入社。工務課のプラントエンジニアを経て、2016年に法務部へ。電子契約や「LegalForce」の導入など、リーガルテックの導入を主導。2021年には弁理士試験に合格し、知的財産の業務も手がけている。弁理士・グラフィックレコーダーとして、法務・知財に関するセミナーや動画などのグラレコを作成する副業をしている。好きな書籍は「嫌われる勇気」、漫画はブルーロック。

「会社全体の動きが見える仕事がしたい」と法務へのチャレンジを決意

――桝本さんは、法務部に異動する前、どんな業務を担当されていましたか?

桝本 入社後は生産本部工務課で、プラントエンジニアとして勤務していました。例えば新しい製品を作るときは、そのための機械を発注したり、設備に手を加えたりする必要があります。それら全般を、プロジェクトとして一つひとつ進めていく仕事でした。

――法務部への異動は、ご自身で希望されたとか。なぜ法務キャリアに進もうと思ったんですか?

桝本 プラントエンジニアは楽しかったんですが、会社全体の動きが見えるような部署に行って、自分の仕事がどういうふうに役に立っているのか見てみたいという思いがあったのが一つですね。

勉強が好きだったことも、法務を目指すきっかけになったと思います。プラントエンジニア時代も積極的に資格を取得していましたけれど、資格が目的ではなくて、勉強したことがダイレクトに活かせる仕事をしたいと考えていました。当時あった社内公募制度で、法務部がリストアップされていたのを見て、「これかもしれない」とチャレンジしたんです。

書籍で法務の知識を養い、プロジェクトを進めた経験を活かす

――異動後は、どうやって法務についての知識をつけましたか?

桝本 全般的にOJTで学びましたが、特に「消費者コミュニケーション」(広告審査)については、当社がスタンダードとして厳格に定めている部分があるので、当時の担当者からマンツーマンでみっちり指導を受けましたそれ以外の一般的な法務の知識は、ほとんど書籍から学びました。基礎力の底上げのために民法の本を読みつつ、実務に取り組みながらそれに関わる本を読むということを繰り返しました。

――プラントエンジニアとしての経験が、法務に活きる部分はありましたか?

桝本 プロジェクトベースで仕事をしていたことですね。プロジェクトは、さまざまなことに対して段取りを整える力がとても重要です。新しいテクノロジーの導入など、改善のためのプロジェクトを進める機会も多いので、役に立っているんじゃないかなと思います。

また、理系出身なので、論理的な思考が得意という点も役に立っています。法律は言葉で表した数学みたいなところがあると思います。契約書には、当事者を指す「甲」と「乙」という言葉が出てきますよね。それが数学の「X」と「Y」に似ていて、考え方も近く、自分に合っているなと感じました(笑)。

――異動後に感じたギャップなどはありましたか?

桝本 異動した2016年当時は、法務の業務にテクノロジーが何も入っていなかったので、「もったいない作業が多いな」というのはすごく感じましたね。工場は改善が当然のカルチャーだったこともあり、気になることは多く見つかりました。例えば、新しい契約を結ぶに当たって原契約を確認する際、管理表でその契約書の番号を確認して、キャビネットから原本を引っ張り出すという時間のかかる作業をしていました。

また、社員にとっての法務部への相談ハードルも高いと感じました。想像以上にみんな法務に声をかけてくれない。法務部のメンバーは取っ付きやすい人ですし、すごく良い組織なのに、それはすごくもったいないなと思いました。

ルールをゼロベースで捉え直し、テクノロジー導入や業務改善を進めた

――他部署出身ならではの視点で、俯瞰して法務部の現状を見ることができたんですね。異動後、桝本さんが主導してさまざまな改善に着手したそうですね。

桝本 部長も私が法務に異動する前年に入社したばかりで、仕組みを改善したいという意識を持っていたので、順次取り組みを進めていきました。テクノロジーに関しては、電子契約のほか、「LegalForce」をはじめとしたクラウドツールの導入について、既存の仕組みを一度ゼロベースで捉え直して、理想的な姿を部長と話し合いながら、必要なツールを採用していきました。

――社内のルールを変えるのは、手間も時間もかかることですよね。

桝本 そうなんです。例えば電子契約は、社内での本格運用が始まった2018年当時、一般的にはまだ普及の途上でした。このため弊社でも一気に導入するのではなく、10人ほどの少人数での説明会を全国の事業所で実施しました。直接社員と話をしながら「電子契約で社員の利便性を高めたい」という熱意を伝え、意見を聞きながら1年がかりで導入を進めました。

新しいツールに対しては、誰しも少なからず抵抗を感じてしまうものですよね。電子契約も大変でしたが、丁寧に説明することで「ワクワクするツールの話が聞けた」と社員にも喜んでもらえたことは嬉しかったです。

――その他にも取り組んだことがあれば教えてください。

桝本 本当に細かいことばかりですが、今ある仕組みの無駄を一つずつ解消していきました。契約書の押印フローを再検討して印鑑の保管場所を変更したほか、印鑑証明書を取るための「印鑑カード」の電子化にも着手したり。かつては地下金庫にある印鑑カードを取りに行って、申請書を書いて郵送…という30分ほどかかる作業をしていたんですが、電子申請ツールを導入して、2分に短縮しました。

――社員が法務に相談しやすい環境作りも進めているんだとか。

桝本 つい最近ですが、「法務ルーム」という研修を始めました。私は普段神戸にいるんですが、担当している子会社は東京・五反田にあります。物理的に離れていてなかなか顔を合わせにくいので、毎月五反田に出向いてオフラインでコミュニケーションを取ることにしました。1回5名以下の少人数制で、希望する社員に30分程度の研修を実施。今のところは、「内容がわかりやすかった」「法務の人から積極的に歩み寄ってくれて嬉しい」など好評をいただいています。

異なる経験を持ったメンバーが集結 「想像力」が法務部の強みに

――現在の法務部の構成を教えてください。

桝本 今は7人のメンバーが在籍していて、概ね事業部ごとに担当を分けています。私は、子会社のネスレネスプレッソ株式会社を主に担当しています。「消費者コミュニケーション」(広告審査)の業務が、量としては多いですね。

――多彩なバックグラウンドを持った方々が在籍しているそうですね。

桝本 そうですね。部長は社会人として働いた後にロースクールに入り直して弁護士になった人物です。他のほとんどのメンバーも、会計や営業、品質保証など、それぞれ異なる経験を積んできています

だからこそ、当社法務部は「想像力」が大きな強みになっています。契約や法律相談の際、実際の業務が想像できると、「この点で何かトラブルが起きるかもしれないから、注意を払おう」「逆にこういうケースはありえないから、こちらが不利な条項でも問題ない」など、契約書レビューの際の判断がしやすくなります。

――「外からの目線」がマイノリティにならず、活かせる環境なんですね。

桝本 それはあると思います。昨年異動してきたメンバーは、もともとマーケティング関係の業務に携わっていたんですが、法務部からリリースする固い文章を、人を惹きつけるような表現に変えてくれたことがありました。「法務はもっとプレゼンスを高めるべき」と、発信の方法を考えてくれます。元々いたメンバーでは、そこに課題があったことすら気づけませんでした。改善を進めるためには、やはり外からの目線は必要だと思います。

相談しやすい開かれた法務を目指して、チャレンジは続く

―― 今後、どんな法務を目指していきたいですか?

桝本 個人的に思うのは、やはり「法務は相談されてなんぼ」ということです。相談のハードルを下げて、話しやすい開かれた法務になるべきだと考えています。

毎月子会社を訪問して実施している「法務ルーム」もそのための取り組みです。フェイストゥフェイスで一度でも会っていると、相談のときの温度感が全然違う。オンラインの時代に何を言っているんだという意見もあるとは思いますが、直接顔を合わせるのはすごく重要だと思います。

また、「リーガルTV」というフランクな内容の動画も社内向けに配信しています。社員の知識を増やすという側面もありますが、法務のプレゼンス向上を目指した取り組みです。こうした取り組みを続けて、さらにオープンな法務部にしていきたいと考えています。