人事から法務はメリットがいっぱい!
焦らず学び、なりたい法務を目指そう

この記事について

他職種から法務へ転身した方へ、転身したきっかけや苦労した点、過去の経験が活きた点などのお話を聞く「Drifters~法務へのキャリアチェンジ~」。

第2回は、竹田iPホールディングス株式会社の泉様に、人事から法務へ異動して気付いたこと、法務の学び方、社内コミュニケーションの方法などをお伺いします。

インタビュイー:
竹田iPホールディングス株式会社 内部監査室 泉 亮二
法学部を卒業後、総務・人事などの経験を積み、2014年に竹田iPホールディングス株式会社に入社。2022年に人事から内部監査室へ異動し、グループ全体の法務を担当するように。新たなテクノロジーを導入するなど、システムにも強い面も。好きなことはJリーグ観戦(主に動画)。

「法律も説明できる」がアドバンテージだった人事時代

――竹田iPホールディングス株式会社の概要と泉さんのご所属について教えてください。

泉 竹田iPホールディングス株式会社は1924年創業、今年で創業100周年の歴史を誇る会社です。上場しており、多くの事業会社を傘下に持って、印刷事業や関連事業、イベントプロモーション、事務局運営等の各種BPO受託、ネット通販、半導体関連マスク事業、不動産事業等、多様な事業を展開しています。

近年では、自社開発したSaaS商品のマーケティングを全て社内で内製化した知見を活かし、新規顧客の開拓などに課題を持つ企業様に向けてマーケティングを支援するサービスを開発しました。また、サステナビリティにも力を入れており、特に「障がい者アートの活用」を進め、障がいのある方の芸術・文化活動の応援を通じてダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。
私は内部統制、法務、知財等を取り扱う内部監査室に所属しており、契約審査・契約書作成・相談対応・知財管理などの法務全般を一人で担当しています。

――内部監査室に異動する前はどんな業務を担当されていましたか?

泉 前は人事部に所属していました。中途で入社して5~6年ほど、人事採用業務や、社会保険処理業務・給与計算・退職時の説明等を担当していましたね。人事システムの更新などもやって、これも結構大変でした。

社会保険関係では税扶養や社会保険の扶養の相談を受けることが多かったので、相談者がベストな選択をできるよう、各種制度の確認を慎重に行い、相談者に伝える際も工夫しました。役所や事務所に直接電話して、誰が答えたかをメモしながら聞いたり、図解資料を作成したりですね。

異動して半月で一人法務に。キャッチアップはどう進めた?

――そんな頼れる人事の泉さんが、なぜ法務を担当されることになったのでしょうか?

泉 法務となった理由は想像ですが、私が法学部出身で、税扶養や社会保険の扶養の相談業務や役員等への説明も日常的に行っていたことから、「法律に詳しい人」という印象が社内にあったのだと思います。異動してすぐに、周りも「これ聞いていい?」という感じでした。始めたばかりなのに…(笑)。

法務業務については、前任者から半月ほどで自社ひな形の条文の解説を受けたり、ヒアリングへの同席などをするなかで業務知識を引き継ぎつつ一人でも回せる仕組みを徐々に作っていった形です。

――全社的な法務を一人で担当することに不安はありませんでしたか?

泉 私は法学部出身なので、契約書にも抵抗感はなく、内容は割とすぐに理解できました。ただ、例えば「遅延利息は何%なら有利なのか」や「損害賠償条項はこの内容で適切か」という点は分からなくて、勉強や経験が必要になると感じましたね。

また、私は当社に中途で入社し、当社の営業を担当したことはなかったため、ビジネスについては詳しくなく、その点を不安に思っていました。この点は事業部にヒアリングして、直接聞き、話してキャッチアップをしていきました。

人事から法務は、意外と相性がいい!

――異動後、社内の対応やご自身に変化などはありましたか?

泉 人事では採用業務を行っていたこともあり、社内の若手とよく話す関係だったので、特に何も宣伝しなくても法律相談が持ち込まれることが多く、その点は人事業務で築いた財産だなあと思っています。

また、人事は、従業員と会話でのコミュニケーションが多いですが、法務では、契約書を通じたコミュニケーションが主となります。契約書修正とそのコメントを通じて、取引先とコミュニケーションを行うため、自分の意思が相手方に正確に伝わるように、言葉の選択をより慎重に行うようになりました。

テキストベースでは、表現を間違えるときつくなってしまいます。両者に利益になる取り決めとして、こじれさせないように丁寧にコミュニケーションをとることは、人事として培われた円満な進め方が役に立っています。

――人事と法務で業務の内容に近い部分はありましたか?

泉 人事労務の仕事は法律を確認しながら進める必要があるので、法律を調査する習慣がついていたことは、法務になっても活かされています。また、人事システムの更新作業を経験したため、LegalForceの導入や活用はスムーズに実施することができました。

――法務はこれもやった方がいいよ! ということはありますか?

泉 社内での教育・研修の機会があれば、積極的に講師をすることがおすすめです。とにかく社内に顔を売って、「何かあったら(なくても)法務担当者に相談して!」と啓発を行いましょう(笑)。

それが新人研修のようなものであれば、特にいいですね。私は人事業務でこのアドバンテージがありました。最初が肝心で、新人のうちから法務の存在を認識してもらえれば、気軽に相談する雰囲気が社内で醸成されていき、自然とスムーズな部署間の連携につながると思います。

法務になって感じた、業務のギャップやよいところ

――法務について興味を持っていた面はありますか?

泉 大学では会社法を中心に勉強していたため、機関法務などに期待と関心がありました。また、好奇心が強いので、法律の改正対応等で、法改正の背景にある最新の社会情勢に触れる機会を得られるかもしれないという点も楽しみにしていました。

――実際にやってみて、「法務のここが面白い」と感じた点は?

泉 経験して感じたのは、意外と自由だな、ということですね。契約の内容については当事者がほぼ全て自由に取り決められるので、自分たちで決めたものを基準にして、事業を作っていくことができるところはやりがいの一つと感じています。

他にも、当社の事業に幅広く関われることは法務の魅力で、法務にならなければ著作権やAIの勉強もしなかったでしょうし、さまざまな分野に接する機会を得られたことはとてもよかったと思います。

泉さんのおすすめ書籍

ニャタBE=花井裕也=谷直樹『画像生成AIと著作権について知っておきたい50の質問』(オーム社、2023年)
 
「生成AIと著作権法の関係や、トラブルの予防・対応の具体的な説明が分かりやすく、制作と深く関連する業界の方におすすめです」

――法務に異動してから感じたギャップなどはありますか?

泉 「営業はあまり契約書を読まない」ということは意外でしたね。契約書は難しいもので、専門家が読むものといった固定観念があるように思いました。全部は読まなくてもいいので、業務内容検収期間など、自分が実際に関わるところは最低限読んでほしいと伝えるようにしています。

また、法律のことは法務が考えることだというイメージを事業部門は持っており、実際に解釈が難しいことなどもあるので、ある程度仕方がないとは思いますが、法律や契約は法務担当者のものではなく、みんなのものだということを啓発する必要があると感じました。

必要なことについては、説明会をしたり、直接説明する機会を作って伝えていく、相談を受け付けていくということが大切だと考えています。

一人でも焦らず、着実に法務を学んでいこう

――法務の学習方法などは、どのようにされていますか?

泉 実務書自社ひな形を使用して、条文ごとに並べて読み込みました。自社ひな形には解説はついていないので、対応する解説を実務書から探して読み解くような形です。自社の取引基準を理解することで、契約審査の判断基準を自分の中に落とし込むことを目的としています。

他にもビジネス実務法務検定(2級)や知的財産管理技能検定(3級)を受けたり、必要になりそうな分野(下請法、著作権、システム関連の契約や法律等)の実務書を読んで、勉強を続けています。

――ご自身の業務についてはどのように習熟や効率化をされましたか?

泉 契約審査は経験を使い回せるところが多いので、契約書に慣れてきたらポイントを絞って読むといいですね。手元に書籍を置いて、条項ごとで見るようにしていますし、LegalForceなどのサービスも活用して、時間短縮を図っています。

――一人で法務を担当することについて、悩みなどはありませんか?

泉 やはり、迷ったときの相談先がほぼ顧問弁護士になってしまうことは悩みです。契約書作成などはポイントを絞って相談するようにしています。あとは社内調整が必要な場合に、上司や役員にどう説明するかというのは自分だけで考えないといけないので大変です。

――法務経験のない方が、法務に異動して初めにやるべきことは何でしょうか?

泉 まずは、自社ひな形を徹底して理解することだと思います。つまり、社内の契約に対する基準をしっかり身に付けることに注力するのが重要だと思います。また、他部署から法務に来てキャッチアップすることは、非常に大変なので、課題を設定してからも焦らず、少しずつ着実にこなしていくことが大事だと思います。

法務はどうしても基礎学習が必要な分野ですから、異動してすぐに活躍! というのは実際なかなか難しいです。最初から無理をして心の余裕をなくしてしまうと、自分を追い詰めてしまうので、焦らずに取り組んでいくことが将来に繋がるかなと思います。

AIもテクノロジーも戦略も、興味は尽きない!

――今後どのような法務を目指していきたいと思いますか?

泉 ビジネスの世界は日々進化を続けているため、学び続ける法務でありたいと考えています。

個人的にシステムや技術的な部分に昔から関心があるので、AI関係組織についても学んでいきたいし、携われるといいなと思っています。

――自分の強みみたいなところはどこにあると思いますか?

泉 たぶんですが、私はずっと法務をしている方とは少し視点が違っていて、いちビジネスマンとして、業務理解の土台の上に法務の知識を重ねていくことが重要だと思っています。新規の事業案件や、契約書をどうするかということも、ビジネス全体を見て、営業や事業部と企画立案を一緒にやっていきたいですね。

そのために、法律の勉強は大前提として重要なのですが、加えて、経営戦略事業戦略を深く理解し、社会情勢とつなげて考えて、会社に資する法務となることを目指していきたいと思っています。

(2024年6月11日収録)