第2回:業務委託契約のトラブル事例

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長谷川俊明法律事務所弁護士
国際金融、保険、海外直接投資、知的財産権などの渉外実務のほか、建設、不動産など国内会社法務を幅広く扱う。また、アメリカ合衆国、イギリスをはじめとして、東南アジア、中国、オーストラリアその他の国、地域に業務提携をしている法律事務所がある。
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長谷川俊明法律事務所弁護士
企業法務(会社法・コーポレートガバナンス・内部通報制度)、行政法全般、訴訟・紛争解決を中心として、広い分野を取り扱う。
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本特集は、昨今、さまざまな分野でこれまでなかった新しい取引に使うようになった業務委託契約を、類型ごと論点ごとに取り上げ、解説を試みようとするものです。

業務委託契約には、“光と影”があると言ってよいでしょう。便利にさまざまな分野で新しい使われ方をしている反面、契約内容の“詰め”が甘いと、落とし穴にはまってしまうおそれがあります。

そこで、第2回目の今回は、業務委託契約のトラブル事例について、裁判例を紹介しながら解説していきます。

※この記事は、2023年8月3日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名、ガイドライン名を次のように記載しています。

  • 個人情報保護法…個人情報の保護に関する法律
  • 通則編ガイドライン…個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)

業務委託契約のトラブル事例(総論)

今日、特に会社の経済活動においては、広くさまざまな目的で業務委託契約が締結されています。それに伴い、業務委託契約を巡る法的トラブルは多岐にわたります。

例えば、委託先や再委託先から顧客の個人情報が流出した事件は後を絶たず、企業が損害賠償義務を負ったり、不名誉な形でニュースに取り上げられたりといったことがあります(業務委託契約のトラブル事例とその教訓につき、長谷川俊明編著『業務委託契約の基本と書式〔第2版〕』中央経済社、2022年、13頁以下が詳しい)。

2014年7月に発生した、いわゆるベネッセ事件は、個人情報保護法通則編ガイドラインの改正に大きな影響を与えました(瓜生和久編著『一問一答 平成27年改正個人情報保護法』商事法務、2015年、2頁(注3)参照)。

業務委託契約の条項がトラブルになる事例も多くあります。例えば、

  • 委託者が受託者に対して行う技術指導の条項
  • 委託料を時間単位とする条項

などが偽装請負に該当するのではないかという問題が生じることがあります(これらの点については、厚生労働省「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する疑義応答集』を参照)。

また、システム開発委託契約において、

  • 委託業務の内容や仕様に関する認識のズレ
  • 報酬請求の前提となる成果物の納入時期

などを巡ってトラブルになることもあります。このような条項別のトラブルについては、第3回目以降に解説する予定です。

今回取り上げるのは、業務委託契約の法的性質に関して生じるトラブル事例です。たとえ契約書のタイトルが「業務委託契約」となっていても、その実質が業務委託契約以外の契約形態であれば、業務委託契約であるとは認められません。また、業務委託契約のうち、請負型であるのか(準)委任型であるのかが問題となることもあります。

業務委託契約と雇用契約のいずれであるか問題となるケース

第1回目において解説したとおり、雇用契約業務委託契約は、当事者の一方が相手方に労務を供給し、相手方がその対価を支払うという点で共通しますが、労働基準法などの労働法規が適用されるか否かという点で異なります

業務委託契約の場合、受託者に労働法規が適用されません。しかし、単に契約の名称を「業務委託契約」にしたからといって、直ちに労働法規の適用が排除されるわけではありません。会社と受託者との間に「使用従属性」が認められ、受託者が「労働者」(労働基準法9条、労働契約法2条1項)に該当すると判断されれば、労働法規が適用されます

受託者が「労働者」であると認められた事例-名古屋高判令和2年10月23日労判1237号18頁

事案の概要

日本全国で語学教室を展開するY社において約11カ月~1年8カ月の間、英会話講師として稼働していたXらが、形式上業務委託契約とされていたが実質的には雇用契約であり、Y社がXらの年次有給休暇請求権(年休権)の行使を違法に妨げた上、健康保険加入義務を怠ったとして損害賠償を求めた事案です。

原審(名古屋地判令和元年9月24日判例集未登載)は、Xらは、Y社との関係において、労働基準法上の労働者に当たるとし、以下のとおり、認容しました。

①年休権侵害の不法行為による慰謝料(X1につき20万円、その他のXらにつき各10万円)
②健康保険加入義務懈怠の不法行為による慰謝料(X4につき15万円、X2およびX5につき各10万円、X3およびX6について各3万円)
③不法行為による弁護士費用(X4につき2万5000円、X1、X2、X5につき各2万円、X3およびX6につき各1万3000円)ならびに各遅延損害金の限度

なお、原審が認定した事実によると、ⅩらとY社との契約においては、次のような条項が定められていました。

  • 委託講師は従業員ではない。
  • 1コマ当たり基本委託料と言語報酬の合計1200円、実績に応じた加算報酬等を支払う。
  • 週40コマを担当する講師に1万円の住宅費を支給する。
  • 委託講師は就労に当たり初回研修を受けるものし、その費用3万5000円をY社に支払う。
  • Y社は初回契約料として担当コマ数に応じて5万円または3万5000円を委託講師に支払う。
  • 委託講師は1レッスン当たり100円を施設利用料としてY社に支払う。
    Y社は実費として同額を委託講師に支払う。
  • Y社の講師資格を有する者にレッスンを再委託できる。

争点

①労働基準法上の労働者性(雇用契約or業務委託契約)
②年休権侵害の不法行為の成否および慰謝料額
③健康保険加入義務懈怠による債務不履行または不法行為の成否および経済的損害・慰謝料額

判旨

1 業務遂行上の指揮監督について
「Yは、新規の講師に対して初回研修を受講させ、オブザベーション及びフィードバックを通じて、レッスンにおいてテキストを使用してマニュアルに沿った教授法を行うことを義務づけており……、雇用講師と同程度の業務遂行上の指揮監督を及ぼしている」。「Yは、委託講師に対し、雇用講師と同様に、社内資格を取得、保持すること、そのための研修を受けることを契約内容として義務づけていた。」「服装の定めについては……、雇用講師と同等の指示がある。」
「委託講師は、契約事項として、清掃、販促活動、カウンセリング等に従事することが定められており、レッスンの空き時間に、このような語学レッスン以外の諸作業を行うことを義務付けられていること……は、YがXらに対して業務上の指揮監督を及ぼしていたことを示す。」
「レッスンの時間帯及び校舎は、契約により定められているところ……、校舎においてコマ毎に受講者にレッスンを行うという業務の性質上、個別の具体的なレッスンは当該校舎で定められた時間帯に行われる必要があるということができるが……、この時間的、場所的拘束性が純然たる業務の性質のみから導かれるものとはいえず、指揮監督関係を肯定する方向に働く。」
「再委託が制度上可能であったとしても、Xらにおいて事実上容易ではなかったというべきであるから、再委託制度があることをもって労働者性を否定する要素であると認めるには至らない。」

2 報酬の労務対償性について
「委託講師の報酬の定めは、コマ数を基準としており、一定時間労務を提供したことに対する対価であって、この基準は雇用講師と同様である」。「委託講師の報酬が雇用講師の給与より高額とは限らず、その差が労働者性の判断を左右するほど大きいとはいえない。」

3 その他の事情について
「雇用講師も兼業が可能であること、Xらが週5日、34コマ又は40コマを受け持っていたことからすれば、……Xらがコマ数を選択していたとしても実態として専属性があった。」
「本件契約書には、委託講師が従業員でないこと、経費を負担すること、社会保険や年次有給休暇が供与されないことが明確に記載されており……、Xらは、報酬につき源泉徴収されないことを含めて、この内容を理解していたことが推認される〔が、〕YがXら講師となろうとする者に対して、業務委託契約と雇用契約とを示して法形式を選択させたことを認めるに足りない。」

コメント

このように、裁判所は、ⅩらとY社との間には業務委託契約ではなく雇用契約が成立していると認定し、Xらの請求を一部認容しました。

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」も示すとおり、「使用従属性」については、

  1. 「指揮監督下の労働」であること
  2. 「報酬の労務対償性」があること

が判断基準となります。

XらとY社との間の契約を判断するにあたり一番のポイントとなったのは、Y社のXらに対する指揮監督の有無です。判旨のとおり、Xらは、

  • 初回研修が義務付けられていたこと
  • 空き時間に語学レッスン以外の作業を義務付けられていたこと
  • レッスンの時間帯や校舎が契約上定められていたこと

などに照らし、雇用講師と同様の指揮監督下に服していたと認定されたのです。

XらとY社との間の契約には、再委託を認める旨の条項が定められていました。再委託は委託を前提としますから、かかる条項は、契約の性質を業務委託契約であると判断するファクターの一つとなり得ます。この点について裁判所は、再委託が事実上容易ではなかったという実態面を重視して、再委託制度があることをもってXらの労働者性が否定されるわけではないとしました。

報酬の労務対償性について、Y社は、Xら委託講師の報酬が雇用講師の給与と比較して高額であると主張していました。しかし、裁判所は、Xらの報酬が雇用講師の給与よりも高額とは限らないとして、労働者性の判断を左右するほど大きいとはいえないとしました。

Xら委託講師の報酬は、基本委託料+言語報酬+成功報酬で1,350円、これに成績・社内資格保持による加算が100~200円とされていました。一方の雇用講師の給与は、職務手当+精勤手当で1150円、これに能力査定にスキルスキル手当が0~800円とされていました。

すなわち、雇用講師の中には、Xら委託講師よりも高額の給与を受けていた者がいることも考えられます。この点を踏まえて、裁判所は、Xらが雇用講師よりも高額の報酬を得ているという主張を退けたのです。

業務委託契約の契約類型が問題となるケース

第1回目において解説したとおり、業務委託契約は、法的性質に応じて、請負型(成果物あり)委任・準委任型(成果物なし)に分けられます。

請負型の場合、請負人は「仕事を完成する」義務を負っており、仕事を完成することができなかった場合には報酬を受け取ることができません。

これに対し、委任・準委任型の場合、受任者は委託された仕事を完成させることや仕事の成果を出す義務まで負っているわけではなく、「善良な管理者の注意」(民法644条)をもって委任事務を処理することだけが義務付けられています(請負と(準)委任の区別につき、山本敬三監修『民法5 契約』有斐閣、2022年、254頁)。

ムートン

もっとも、全ての業務委託契約を請負型(成果物あり)と委任・準委任型(成果物なし)のいずれかに峻別できるわけではなく、契約実務においても、その法的性質を巡って紛争になった事例が多くあります。

成果物完成の実現可能性も考慮して請負型と認定した事例-東京地判平成3年2月22日判タ770号218頁

事案の概要

本件の事案を簡略化して時系列順に並べると、以下のようになります。

S社・Y社本件プログラム開発委託契約の締結
②S60.11.18Y社・X社本件プログラム開発再委託契約の締結
③S61.03.05Y社⇒X社425万円の支払い
④S61.03.27X社納期に本件プログラムを開発できず
⑤S61.06Y社⇒X社再委託契約を解除
X社⇒Y社
Y社⇒X社
再委託契約に基づき開発費用等を請求(本訴)
解除に基づく原状回復請求権として425万円の返還請求(反訴)
ムートン

再委託契約が「準委任型」であれば、民法648条3項に基づき、X社はY社に対して、制作した部分にかかる開発費用等を支払わなければなりません。

争点

①本件プログラム開発再委託契約の法的性質(請負型or(準)委任型)
②X社の本件システムのプログラム完成義務の存否

判旨

「X社は、当初は、むしろX社が右プログラムの完成義務を負っており、ただ、S社の仕様書類の提出が遅れたり、そのシステムについての指示が何度も変更されたりしたため、X社がプログラムを作成できなくなったに過ぎないと主張していたが、後に、もともとX社は、本件プログラムの完成義務を負っておらず、右契約は準委任契約に類すると主張しだした。
そこで、証拠をみると、X社が、右契約において、本件プログラムの完成義務を負っていないことを認めることのできる証拠を見出すことはできないのである。Y社は、昭和61年3月5日にキャプテンシステム開発費第一期分と称するX社の請求に応じ、その要求額である425万円を支払っている〔が〕、この支払の性格は、約定によるものと見ることもできるが、Y社主張のように前渡金と見ることも充分可能であ〔る〕。そして、X社代表者もその尋問の結果においては、右契約は、一括受注であって、X社社内でプログラムを開発するものであるとし、X社が、右プログラムの完成義務を負ったことを前提として供述しており、その義務を負っていたことを否定したことは一度もない」。「X社は、キャプテンシステムは、大企業が莫大な資金と労力をかけてようやく完成しうるものであり、X社程度の規模の会社がその完成を約束することなどありえないとの趣旨の主張をする。しかし、……本件システムはキャプテンシステムのホストコンピュータにデータを入力するための入力装置に関するシステムであるに過ぎず、キャプテンシステムそのものではないうえに、当時X社に求められていたのは、そのうちの更に一部である3月版システムすなわち文字情報及び図形情報を画面上に作成表示する基本的機能を有するシステムであつたことが認められるのであり、……その後、Y社において、更に高次のシステムをも含めてその開発を完成させたことが認められるのであるから、X社にその完成が期待できないようなものではなかった」。
「X社代表者は、その尋問の結果において、プログラムが完成していなくとも、発注者の指示に従って作業をしていれば、期限内に一応指示された範囲内の作業は約束を守って行ったのであるから、作業をした分についてコンピュータソフトウエア代金を請求できると考える旨供述するが、請負契約に関する一般の常識に反する発言であり、ソフトウェアの開発を行うX社やY社の業界においては、一般の常識と異なり、請負契約であり、仕事の完成がなくとも、報酬を支払う慣行があるような事実は……およそ認めることができない」。

コメント

このように、裁判所は、本件プログラム開発再委託契約の法的性質を請負型であるとして、Ⅹ社の本訴請求を棄却し、Y社の反訴請求を認容しました。

本件は、Ⅹ社が納期までに本件システムのプログラムを完成させることができなかったケースです。もし、本件プログラム開発再委託契約の法的性質が(準)委任型であるならば、Ⅹ社は、既履行の割合に応じて、Y社に対して報酬を請求することができます(民法648条3項)。 

X社は、本件システムのプログラム完成義務を負っていなかった(=準委任契約である)と主張して、Y社に対して、本件プログラム開発再委託契約に基づき開発費用等を請求しました。すなわち、X社は、「キャプテンシステムは、大企業が莫大な資金と労力をかけてようやく完成しうるものであり、X社程度の規模の会社がその完成を約束することなどありえない」ことなどを根拠として、本件システムのプログラムを完成させることは実現不能であると主張していました。

結局、裁判所は、「(本件システムは、キャプテンシステムのごく一部であり、)X社にその完成が期待できないようなものではなかった」として、かかるⅩ社の主張を排斥し、Ⅹ社に本件システムのプログラム完成義務がある(=請負契約である)と認定しました。

しかし、業務委託契約の法的性質を判断する上で、成果物完成の実現可能性を考慮したという点は大きなポイントです。

「法は不可能を強いない」という法諺に照らすと当然のことではありますが、業務委託契約において何らかの成果物が予定されていても、受託者の企業規模に照らして成果物を完成させることが不合理であれば、当該業務委託契約の法的性質が(準)委任型と判断される可能性も大いにあるでしょう。

契約書の文言及びその背景を考慮して(準)委任型と認定した事例-東京地判令和2年9月24日判例集未搭載

事案の概要

本件の事案を簡略化して時系列順に並べると、以下のようになります。

①H28.03.07Ⅹ社本件システムの開発業務に着手
②H28.04.08Y社・X社本件システムの開発に関し業務委託契約書を作成(H28.03.01付)
Y社⇒X社
X社⇒Y社
3月分の発注書(367万2,000円)送付
3月分請求書を送付
Y社⇒X社
X社⇒Y社
4月分の発注書(291万2,000円)送付
4月分請求書を送付
Y社⇒X社
X社⇒Y社
5月分の発注書(933万1,200円)送付
5月分請求書を送付
⑥H28.05.25Y社⇒X社本件システムの開発につき債務不履行があった旨の通知
X社はH28.05.31まで本件システムの開発業務を行った
X社⇒Y社
Y社⇒X社
本件契約に基づき報酬1,766万8,800円を請求(本訴)
債務不履行に基づく損害賠償(6,922万5,800円)を請求(反訴)

なお、裁判所が認定した事実によると、X社とY社が締結した業務委託契約には、次のような条項が定められていました。

第1条
1 本件契約は、Y社がX社に対して、システム開発(中略)を委託するに当たり、その条件を定めることを目的とする。
2 本件契約は、X社が(中略)業務に従事する技術者の労働を被告に対し提供することを主な目的とし、民法上の準委任契約として締結されるものとする。したがってX社は、善良なる管理者の注意義務をもって(中略)業務を実施する義務を負うものとし、原則として成果物の完成についての義務を負うものではないものとする。

第2条
Y社がX社に委託する業務(以下「本件サービス」という。)は以下の通りとする。
 システムの構築及びプログラム業務
 前各項に付随する業務

第3条
1 Y社は、本件サービスの対価として、以下の通りサービス料を支払うものとする。
2 Y社は、本件サービスの業務遂行が完了した後にX社から提出を受けた有効な請求書に関し、本件サービス遂行月の翌々月末日までにX社の指定する銀行口座に振り込み送金して支払うものとする。なお振込手数料はY社の負担とする。
3 前各項にかかわらず,被告は,原告の本件サービスの業務遂行義務が果たされていないと判断した場合はその時点で原告に改善通達を行い,尚も改善されない場合はその通達以降のサービス料の支払義務を負わない。

第12条
Y社およびX社は、相手方が本件契約又は個別契約の条項に違反した場合において、相当期間を定めて催告したにもかかわらずこれが是正されなかったときは,本件契約を解除することができる。

争点

①本件契約の法的性質(請負or準委任)
②X社の債務不履行の有無
③Y社の損害

判旨

1 本件契約の法的性質等
「本件契約は、本件システムの開発を目的としたものであるが、本件契約書1条には、本件契約が民法上の準委任契約として締結されるものであり、X社は、原則として成果物の完成についての義務を負うものではない旨の定めがあり、本件契約書2条には、システムの構築及びプログラム業務並びにこれに付随する業務をX社に委託するとの定めがある……。そして、X社が開発に着手した時点で本件システムの仕様が明確でなかったことから、X社は、Y社に対し、請負契約ではなく準委任契約の形式で契約を締結することを再三要求し、その結果、契約書に準委任契約とする旨が明記され、これに当事者双方が署名押印するに至っている……。これらの事情によれば、Y社においても、準委任契約の形式で本件契約を締結するというX社の要求を最終的に承諾したとみるのが自然である。」
「本件契約は、X社が本件システムの完成義務を負わず、準委任契約としての性質を有するものとして締結されたものと認められ」る。

2 準委任契約上の善管注意義務違反の債務不履行の有無
「X社の善管注意義務について具体的に検討すると、本件システムの開発においては、①システム企画、②要件定義、③概要設計(基本設計、ユーザーインターフェイス設計)、④詳細設計、⑤プログラム設計、⑥プログラミング及び⑦各種テストの各工程を経る必要があるところ、少なくとも、本件契約上、①システム企画、②要件定義及び③概要設計についてはY社及びE社が担う一方で、⑤プログラム設計及び⑥プログラミングについてはX社が担当し、⑦各種テストについてはX社及びE社が行うものとされていた。」
「X社は、コンピューターシステムのプログラミング等を事業とする株式会社であり、開発業務を担当することが可能な企業として本件システムの開発に参画しているところ……、開発の着手から間もない時期に開発に必要となる作業項目及び作業期間を示したスケジュール表を作成し……ている」。「X社は、その後も、本件システムの開発に必要となる作業項目や作業期間を明らかにしたタスク一覧やスケジュール表といった文書を作成し、これをY社に示している」。「X社は、本件契約上、本件システムの開発に向けて必要となる作業項目及び作業期間を明らかにした工程表を策定すべき立場にあり、また、④詳細設計においても、相当程度関与することが予定されていた」。
「X社の立場や役割に照らせば、X社は、……本件契約上の善管注意義務として、本件システムの開発において必要となる作業の内容ならびにその作業に必要となる期間及び人員を把握し、適切な工程を示す義務を負っており、相手方から示された仕様の内容が十分でなく、適切な工程を示すことが困難である場合には、仕様を確定する期限を定めるなどの具体的方策を講ずる義務を負っていた」。

コメント

このように、裁判所は、本件契約の法的性質を(準)委任型であるとして、Ⅹ社の本訴請求を全額認容しました(なお、Y社の反訴請求は、X社の準委任契約上の注意義務違反を認め、235万5,480円の限度で一部認容されました)。

本件において、Y社は、

  • X社が本件システムの完成時期を明示したスケジュール表を作成してY社に交付したこと
  • Y社が当初から請負契約の形式で締結すべきであることを主張していたこと
  • 本件契約の成果物である本件システムの仕様が明確に確定していたこと

を根拠に、本件契約の法的性質は請負型であると主張していました。

しかし、裁判所は、本件契約の契約書において準委任として締結する旨の記載があったことに加え、そのような形式で締結した背景(開発着手時点で本件システムの仕様が明確でなかったため、準委任とする旨の明記をX社が要求したこと)を考慮して、「Y社においても、準委任契約の形式で本件契約を締結するというX社の要求を最終的に承諾したとみるのが自然である」と認定しました。

前述のとおり、契約書のタイトルや文言のみから直ちに法的性質が決まるわけではありません。しかし、契約書の記載に加えて、契約書に法的性質を明記した背景を記録しておくことで、業務委託契約の法的性質を明らかにできる場合があるでしょう。

ムートン

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