システム(ソフトウェア)開発委託契約とは?
基本を解説!

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株式会社LegalOn Technologies弁護士
慶應義塾大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。都内法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、2019年から現職。社内で法務開発等の業務を担当する。LegalOn Technologiesのウェブメディア「契約ウォッチ」の企画・執筆にも携わる。
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この記事のまとめ

システム(ソフトウェア)開発委託契約の基本を解説!!

この記事では、様々な形態のシステム(ソフトウェア)開発があり、開発委託をめぐるトラブルも多い、 システム(ソフトウェア)開発委託契約の基本を分かりやすく解説します。

※この記事は、2020年10月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

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システム(ソフトウェア)開発委託契約とは?

システム(ソフトウェア)開発業務委託契約は、 委託者(ユーザ)が受託者(ベンダ)に対し、 システム(ソフトウェア)の開発に関する業務を委託する場合に締結します。
例えば、ユーザである企業が社内の企業基幹システムを構築するとき、 そのシステムの開発・運用・保守をベンダに委託するような場合が考えられます。
業務委託契約において、「事務を処理すること」を委託する場合には準委任契約 (民法656条)としての性質を有するのに対し、「成果物を完成させること」を委託する場合には請負契約 (民法632条)としての性質を有します。システム(ソフトウェア)開発委託契約でも、 委託する業務の内容に応じて、準委任契約としての性質を有する場合と、請負契約としての性質を有する場合があります。

経産省のモデル契約においては、システム開発の各フェーズ(段階)と契約類型について、 以下のように整理されています。

①企画・要件定義システム化の方向性準委任
システム化計画準委任
要件定義準委任
②開発システム設計(システム外部設計)準委任・請負
システム方式設計請負
ソフトウェア設計請負
プログラミング請負
ソフトウェアテスト請負
システム結合請負
システムテスト準委任・請負
受入・導入支援準委任
③運用運用テスト準委任
運用準委任・請負
④保守保守準委任・請負

請負契約と準委任契約の違い

システム(ソフトウェア)開発委託契約は、準委任契約、請負契約、または準委任契約と請負契約の複合型、に分類されます。
準委任契約と請負契約の違い、についてはこちらの記事をご覧ください。

ヒー

ソフトウェア開発って複雑そうで、あまり具体的なイメージがわかないです・・・。

ムートン

一言に「ソフトウェア開発」といっても、様々な種類の開発がありますよ。詳しくみてみましょう。

システム(ソフトウェア)開発とは?

システム(ソフトウェア)開発については、大きく分けて、アジャイル型のシステム(ソフトウェア)開発と、 ウォーターフォール型のシステム(ソフトウェア)開発に分類されます。

アジャイル型

アジャイル型のソフトウェア開発とは、 企画段階では厳密な仕様を決めずに開発を進める方法です。
開発途中で仕様の変更が想定される場合にこのような方法がとられます。

ウォーターフォール型

ウォーターフォール型のソフトウェア開発とは、 開発工程を「企画・要件定義」、「外部設計」、「内部設計」、「実装」、「テスト」といった細かい工程に分けて順に開発を進める方法です。
この開発方法では、「企画・要件定義」の段階で成果物の仕様を確定し、その後、確定した仕様通りに「外部設計」、内部設計」、「実装」を進めます。

ヒー

ソフトウェア開発の種類によって、契約の法的性質が変わってくるのですか?

ムートン

いいところに気が付きましたね。
そのとおり、ソフトウェア開発の種類と契約の法的性質は関連してきますよ。

アジャイル型のソフトウェア開発を委託する場合や、ウォーターフォール型のソフトウェア開発を委託する場合の、 「企画・要件定義」の段階における契約に関しては、成果物の内容を明確に定義することはできないため、準委任契約としての性質を有します。
一方で、ウォーターフォール型のソフトウェア開発を委託する場合の、「外部設計」、内部設計」、「実装」といった段階では、 完成させる成果物の内容を定義しやすいため、請負契約型となる場合が多いです。

システム(ソフトウェア)開発委託契約の条項

ヒー

実際にシステム(ソフトウェア)開発委託契約を作成したり、レビューする際には、どのような点に気を付ければいいのでしょうか?

ムートン

ここからは、システム(ソフトウェア)開発委託契約の各条項について、文例を見ながら解説していきます。

ここではアジャイル型、ウォーターフォール型を問わず、請負契約型のソフトウェア開発業務委託契約を締結する場合に、 契約書に定めるべきポイントを解説します。

再委託

準委任型のソフトウェア開発委託契約の場合は、民法上、受任者が再委託するためには、①委任者の承諾、②やむを得ない事由、 のいずれかの要件が必要です(民法656条、644条の2第1項)。
請負契約型のソフトウェア開発委託契約の場合は、民法上、特に再委託は禁止されていません。

特に請負型のソフトウェア開発委託契約の場合、又は準委任型か、請負型か明確でない場合は、 委託者としては、自らの知らないところで、受託者以外の他人にソフトウェア開発業務を遂行されたくないときは、 契約で「受託者は、委託者の事前の承諾なく、再委託してはならない」と定める必要があります

このとき、同意の有無をめぐる争いを防ぐため、委託者の同意方式を「書面」とする旨を確認的に定めるのが安全です。 更に、同意をした場合でも、再委託先に勝手に再々委託されることを防ぐために 「再委託先がさらに第三者に再々委託をすることはできない」と定めると安全です

記載例

(再委託)
1 受託者は、委託者から事前の書面による承諾を得ることなくして、本件業務の一部又は全部を第三者に再委託することはできない。
2 前項の承諾がある場合でも、再委託先がさらに第三者に再々委託をすることはできない。

他方で、受託者としては、 必要に応じて自由に再委託できるように、「受託者は、本委託業務の遂行に必要な範囲で、再委託できる」と定めると有利です

記載例

(再委託)
受託者は、受託者の責任において、委託者の承諾なく、本件業務の全部又は一部を第三者へ再委託することができる。

また、委託者としては、再委託を許容した場合には、再委託先が契約の定めに違反し、不利益をうける恐れがあります。これを防ぐために、 「受託者は、再委託先に対して本契約上の受託者の義務と同等の義務を負わせる」と定めると有利です
また、再委託先によって損害を被った場合に、受託者に民法上の債務不履行がなければ、損害賠償を請求できないおそれがあります。そこで、 「受託者は、再委託先の義務の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負う」と定めるのが望ましいです

記載例

(再委託)
1 受託者は、委託者から事前の書面による承諾を得ることなくして、本件業務の一部又は全部を第三者に再委託することはできない。
2 前項に基づき事前に委託者の書面による承諾を得て本件業務の全部又は一部を第三者に再委託する場合、受託者は、本契約に基づき受託者が負うのと同等の義務を当該第三者に課す。
3 受託者は、再委託先の義務の履行について、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負う。
4 第1項の承諾がある場合でも、再委託先がさらに第三者に再々委託をすることはできない。

システム(ソフトウェア)の仕様

ウォーターフォール型のシステム(ソフトウェア)開発委託では、「企画・要件定義」の段階で仕様を確定するため、 その後の「外部設計」以降の段階に関する契約においては、仕様を明確にしておく必要があります。
アジャイル型のシステム(ソフトウェア)開発委託においても、開発途中で仕様の変更が想定されますが、契約で一応仕様を明確にしておくことは重要です。

特に、請負契約型の契約では、納品物が仕様に合致しているか否かをめぐり争いとなることも多いため、仕様を具体的に定めておく必要があります。

契約作成時において、既に仕様書が定まっている場合は、「本ソフトウェアは、●●仕様書記載の要件を備える」と定めることになります。 一方、契約書作成時には仕様が定まっていない場合は、別途当事者間で仕様を定める手続きについて定めなければなりません。

記載例

(仕様書)
1 本件ソフトウェアの仕様書を受託者が作成するにあたり、受託者は委託者に要件の提示を求め、委託者は受託者の求めに応じて迅速に要件を提示しなければならない。
2 受託者が仕様書の作成を完了した場合、委託者は、仕様書の記載内容が本件ソフトウェアの仕様書として適合するか点検を行い、適合することを確認した証として委託者受託者双方の責任者が仕様書に記名押印する。
3 第2項の点検の結果、仕様書が本件ソフトウェアの仕様書として適合しないと判断された場合、受託者は、協議の上定めた期限内に修正した仕様書を作成し、委託者及び受託者は再度前項の点検及び確認手続を行う。
4 委託者受託者双方の責任者による記名押印をもって、仕様書は確定する。

仕様の変更

特にアジャイル型のシステム(ソフトウェア)開発委託においては、開発途中で仕様の変更が想定されますので、仕様の変更について契約で定めておく必要があります。

このとき、仕様が変更されたか否か、また仕様の変更内容について争いとなることを防ぐために、 「書面をもって変更する必要がある」と定めると安全です

記載例

(仕様の変更)
1 委託者又は受託者は、仕様書の確定後に、仕様書に記載された本件ソフトウェアの仕様等の変更を必要とする場合は、相手方に対して変更提案書を交付する。変更提案書には次の事項を記載する。
(1) 変更の名称
(2) 提案者
(3) 提案の年月日
(4) 変更の理由
(5) 変更に係る仕様を含む変更の詳細事項
(6) 変更のために費用を要する場合はその額
(7) 検討期間を定めた変更作業のスケジュール
2 委託者又は受託者が相手方に変更提案書を交付した場合、その交付日から●●日以内に変更の可否について委託者と受託者とで協議を行う。
3 前項の協議の結果、委託者及び受託者が変更を可とする場合は、委託者受託者双方の責任者が、変更提案書の記載事項(なお、協議の結果、変更がある場合は変更後の記載事項とする。以後同じ。)を承認の上、記名押印する。
4 前項による委託者受託者双方の承認をもって、仕様の変更が確定する。ただしし、当該変更が本契約に影響を及ぼす場合は、本契約を変更する契約を締結した時をもって仕様の変更が確定する。

受託者としては、仕様が変更された場合には、既に業務を行った分について委託料を請求できるように、 「仕様の変更が確定するまでに行った業務の履行割合に応じて、追加で委託料の支払いを請求できる」と定めると有利です

記載例

(仕様の変更)
1~4 略
5 本条により、仕様の変更が確定した場合には、受託者は、 委託者に対して、仕様の変更が確定するまでに受託者が行った本件業務の遂行割合に応じて、追加で委託料の支払いを請求することができる。

検収

特に、請負契約型のシステム(ソフトウェア)開発業務委託契約では、納品されたソフトウェアが仕様通りのものであるかを確認するために、納品後の検査手続きについて定めるの通常です。

受託者としては、受託者の検査に期限を定めなければ、いつまでに修補や交換を請求されるのかが明らかではなく、 不安定な立場におかれます。これを防ぐために、委託者が検査すべき期限を明確に定めると有利です

記載例

(検収)
1 委託者は、納品物を受領後[30]日以内に、納品された本件ソフトウェアが仕様書通りに稼働することを検査する。
2 委託者は、納品物が前項の検査に合格する場合、検査合格書に記名押印の上、受託者に交付する。また、委託者は、納品物が前項の検査に合格しないと判断する場合、受託者に対し不合格となった具体的な理由を示したうえで修正を求め、受託者は委託者と受託者とで協議の上定めた期限以内に無償で修正して委託者に納品する。
3 本条所定の検査合格をもって、納品物の検収が完了する。

また、受託者としては、検査結果が通知されない限り、検査に合格したのかどうかが分からず、不安定な立場におかれます。 これを防ぐために、委託者が検査結果を通知すべき期限を定め、期限内に何も通知がなければ、「検査に合格したものとみなす」と定めると有利です

記載例

(検収)
1~2 略
3 検査合格書が交付されない場合であっても、第1項の検査期間内に委託者が書面で具体的かつ合理的な理由を明示して異議を述べない場合は、納品物は、本条所定の検査に合格したものとみなされる。
4 本条所定の検査合格をもって、納品物の検収が完了する。

契約不適合責任

請負契約型のソフトウェア開発業務委託契約の場合、受託者は成果物の完成義務を負うため、納品されたソフトウェアに、 契約内容と異なる点があることが判明したときに、受託者にどのような責任があるかという「契約不適合責任」を定めておくことが通常です。

民法では、委託者の履行の追完請求権、代金の減額請求権、損害賠償請求権、及び解除権について定められています(民法559条、562条~564条)。

記載例

(契約不適合責任)
1 納品物に本契約の内容との不適合があったときは、受託者は自らの裁量により、当該納品物の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
2 委託者は、納品後[6]ヶ月以内に受託者に対して不適合がある旨を通知しなければ、履行の追完、代金の減額又は返還、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
3 委託者は、履行の追完又は代金の減額若しくは返還を請求した場合においては、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
4 委託者は、納品物に契約不適合があった場合でも、それによって契約目的を達成することができない場合に限り、本契約を解除することができる。
5 委託者の責めに帰すべき事由により契約不適合が生じたときは、委託者は、履行の追完、代金の減額又は返還、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

受託者としては、 「委託者は、修補及び代金の減額を請求できる」などと定め、委託者が追及できる契約不適合責任の内容を制限すると有利です

記載例

(契約不適合責任)
1 納品物に前条に定める検査では発見できない本契約の内容との不適合がある場合に、納品後[6]ヶ月以内に委託者がその不適合を発見し、受託者に対して通知をしたときは、委託者は、受託者に対し、修補の請求を行うことができる。
2 委託者は、前項の修補の請求に代えて、受託者に対し、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
3 納品物の本契約の内容との不適合が委託者の責めに帰すべき事由によるものである場合、委託者は、受託者に対し、前2項に基づく修補及び代金の減額を請求することができない。
4 納品物の本契約の内容との不適合に関して受託者が負う責任は本条に定めるものに限られる。

請負契約型のソフトウェア開発委託の場合、民法では、契約不適合のときは、委託者は、受託者に対し、「目的物の修補」、「代替物の引渡し」又は「不足分の引渡し」による履行の追完を請求できますが、委託者は受託者に不相当な負担を課さない限り、委託者が請求した方法とは異なる方法で履行の追完をすることができます(民法559条、562条1項ただし書)。
委託者としては、請求した追完方法と異なる方法を受託者が選択することを防ぐために、 「受託者は、委託者の指示に従って、履行の追完をしなければならない」と定めると有利です。 更に、「民法第559条において準用する民法第562条第1項ただし書の規定は本契約には適用されない」と定めておくと安全です

また、請負契約型のソフトウェア開発業務委託契約の場合、民法では、契約不適合のときは、委託者が受託者に対し、相当の期間を定めて履行の追完の催告をしたのにもかかわらず、その期間内に履行の追完がされないときは、委託者は、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(民法559条、563条1項)。
委託者としては、履行の追完を求めなくても、代金の減額を請求できるようにするため、 「契約不適合があったときは、直ちに代金の減額を請求できる」と定めるのが有利です

記載例

(契約不適合責任)
1 納品物に本契約の内容との不適合があったときは、受託者は、その不適合が受託者の責めに帰すべき事由によるものであるかを問わず、 委託者の選択に従い、当該納品物の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額 若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
2 前項に基づく請求は、損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げない。
3 受託者が本契約の内容との不適合のある納品物を委託者に引き渡した場合において、 委託者がその不適合を知った時から2年以内にその旨を受託者に通知しないときは、委託者は、その不適合を理由として、 第1項に規定する権利を行使することができない。ただしし、受託者が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りではない。
4 民法第559条において準用する民法第562条第1項ただし書は本契約には適用されない。

納品物の知的財産権

システム(ソフトウェア)開発の業務の過程で、発明、ノウハウ等が生じた場合に、 どちらに権利が帰属するか、又はソフトウェアの著作権がどちらに帰属するかをめぐって争いが生じることを防ぐため、 これらの特許権、著作権等の知的財産権の帰属を定めておく必要があります。

納品物の特許権など

特に契約で定めなかった場合、発明については発明者に特許を受ける権利が帰属します。
委託者としては、自社が委託料を支払っている以上、自社に特許権等を帰属させることができるように、 「特許権等は委託者に帰属する」と定めるのが有利です

また、 委託者としては、受託者が従前より保有する特許権等を納品物に適用した場合も、 ソフトウェアを使用できるように、 「委託者がソフトウェアを使用するのに必要な範囲について、受託者は委託者へ特許権等の通常実施権を許諾する」と定める必要があります

記載例

(納品物の特許権等)
1 本件業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含む。ただしし、著作権は除く。)、ノウハウ等に関する権利(以下これらの権利を総称して「特許権等」という。)は、委託者に帰属する。
2 委託者及び受託者は、委託者に帰属する特許権等について、必要となる職務発明の承継手続(職務発明規程の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続など)を履践する。
3 受託者は、従前より保有する特許権等を納品物に適用した場合、委託者に対し、委託者が本件ソフトウェアを使用するのに必要な範囲について、当該特許権等の通常実施権を許諾する。なお、かかる許諾の対価は、委託料に含まれる。

他方で、受託者としては「発明等を行った者が属する当事者に帰属する」と定め、委託者及と受託者が共同で行った発明等から生じた特許権等については、 「委託者と受託者が共有する」と定めるのが有利です
また、受託者としては、委託者と共有となった特許権等について、契約で定めない限り、 委託者の同意を得なければ第三者へ実施権を許諾することができません(特許法73条3項)。そこで、 「共有に係る特許権等につき、相手方の同意及び相手方への対価の支払いなしに自ら実施し、 又は第三者に対し通常実施権を実施許諾することができる」と定めるのが安全です

記載例

(納品物の特許権等)
1 本件業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含む。ただし、著作権は除く。)、ノウハウ等に関する権利(以下これらの権利を総称して「特許権等」という。)は、当該発明等を行った者が属する当事者に帰属する。
2 委託者及び受託者が共同で行った発明等から生じた特許権等については、委託者受託者共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、委託者及び受託者は、共有に係る特許権等につき、それぞれ相手方の同意及び相手方への対価の支払いなしに自ら実施し、又は第三者に対し通常実施権を実施許諾することができる。
3 受託者は、第1項に基づき特許権等を有することとなる場合、委託者に対し、委託者が本契約に基づき本件ソフトウェアを使用するのに必要な範囲について、当該特許権等の通常実施権を許諾する。なお、係る許諾の対価は、委託料に含まれる。
4 委託者及び受託者は、第2項、第3項に基づき相手方と共有し、又は相手方に通常実施権を許諾する特許権等について、必要となる職務発明の承継手続(職務発明規程の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続など)を履践する。
5 受託者は、従前より保有する特許権等を納品物に適用した場合、委託者に対し、委託者が本件ソフトウェアを使用するのに必要な範囲について、当該特許権等の通常実施権を許諾する。なお、かかる許諾の対価は、別途協議によって定める。

納品物の著作権

特に契約で定めなかった場合、著作権は、著作物を創作した著作者に帰属します。よって、ソフトウェア開発の委託業務中に創作された著作物であっても、その著作権は、受託者に帰属するのが原則です。

委託者としては、ソフトウェアに機能追加(著作物の「改変」など)を行いたい場合や、第三者にソフトウェアを利用させたい場合等には、受託者からソフトウェアの著作権を譲り受けるか、利用を許諾してもらう必要があります。
そこで、 委託者としては「納品物に関する著作権は、納品の完了と同時に受託者から委託者に移転する」と定めるのが有利です
更に、受託者が従前から保有していた著作権がソフトウェアに含まれていた場合には、「受託者は、委託者及び委託者が指定する者に対して当該著作物の利用を許諾する」と定める必要があります

なお、著作権を譲渡するときは、翻訳権・翻案権(著作権法27条)、二次的著作物の利用に関する権利(著作権法28条)については、 これが譲渡の対象に含まれることを明確に定めなければ、譲渡者にその権利が残ったままであると推定されます(著作権法61条2項)。そのため、 「移転する対象に著作権法第27条及び第28条の権利を含む」と明記する必要があります

記載例

(納品物の著作権)
1 納品物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、受託者又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、納品の完了と同時に、受託者から委託者へ移転する。なお、かかる受託者から委託者への著作権移転の対価は、委託料に含まれる。また、受託者は、自ら又は受託者に所属する者をして、委託者に対して著作者人格権を行使せず又は行使させない。
2 受託者は、前項により受託者に著作権が留保された著作物につき、本件ソフトウェアを委託者が利用するために必要な範囲で委託者及び委託者が指定する者に対して当該著作物の利用を許諾し、受託者は、かかる利用について自ら又は受託者に所属する者をして、委託者に対して著作者人格権を行使せず又は行使させない。

知的財産権侵害の責任

納品物について、第三者から、第三者の知的財産権を侵害しているなどの主張を受けることがあります。
このような場合の当事者の対応について定めるのが望ましいです。

受託者としては、このような場合は、直ちにこのような主張の正当性を判断する必要があります。そこで、 「委託者が納品物に関し第三者から著作権又は特許権等の侵害の申立を受けたときは、速やかに受託者に対し申立の事実及び内容を通知する」と定めるのが安全です

また、第三者との紛争の処理費用について、問題となりますが、 受託者としては、 ①受託者の帰責事由による場合に、②委託者が第三者との交渉又は訴訟の遂行に関し、 受託者に対して実質的な参加の機会及びすべてについての決定権限を与え、並びに必要な援助を行ったことを条件に、 損害を賠償する責任を負う、などと定めて、自社が責任を負う場合を限定するのが安全です

記載例

(知的財産権侵害の責任)
1 委託者が納品物に関し第三者から著作権又は特許権等の侵害の申立を受けたとき、速やかに受託者に対し申立の事実及び内容を通知する。
2 受託者は、前項の申立が受託者の帰責事由による場合には、委託者が第三者との交渉又は訴訟の遂行に関し、受託者に対して実質的な参加の機会及びすべてについての決定権限を与え、並びに必要な援助を行ったことを条件に、第25条2項(損害賠償)で定められた損害賠償の累積上限額内で、かかる申立によって委託者が支払うべきとされた損害賠償額を負担する。また、前項の申立が委託者の帰責事由による場合には、受託者は一切責任を負わない。
3 受託者の帰責事由によって第三者の知的財産権の侵害されたことを理由として、委託者が納品物を将来に向けての使用できなくなるおそれがある場合、受託者は、受託者の判断及び費用負担により、権利侵害のない他の納品物との交換、権利侵害している部分の変更、継続使用のための権利取得のいずれかの措置を講じることができる。

他方で、委託者としては、 第三者との紛争の処理費用を受託者の負担とすることが有利です

記載例

(知的財産権侵害の責任)
1 委託者が納品物に関し第三者から著作権又は特許権等の侵害の申立を受けたとき、速やかに受託者に対し申立の事実及び内容を通知する。
2 受託者は、前項の申立がなされた場合において、委託者が第三者との交渉又は訴訟の遂行に関し、受託者に対して実質的な参加の機会及びすべてについての決定権限を与え、並びに必要な援助を行ったときは、第25条(損害賠償)の規定にかかわらず、かかる申立によって委託者が支払うべきとされた損害賠償額(逸失利益に関する損害及び弁護士費用を含むが、これに限られない。)を負担する。
3 受託者の帰責事由によって第三者の知的財産権が侵害されたことを理由として、委託者が納品物を将来に向けて使用できなくなるおそれがある場合、受託者は、受託者の判断及び費用負担により、権利侵害のない他の納品物との交換、権利侵害している部分の変更、継続使用のための権利取得のいずれかの措置を講じる。

また、具体的事例に応じて、双方の負担割合を協議で決定する、と定めることも考えられます。

記載例

(知的財産権侵害の責任)
1 委託者が納品物に関し第三者から著作権又は特許権等の侵害の申立を受けたとき、速やかに受託者に対し申立の事実及び内容を通知する。
2 前項の通知があった場合、委託者及び受託者は、当該紛争の処理解決に係る費用の負担について、両者協議のうえ定める。

第三者ソフトウェアの利用

受託者が第三者ソフトウェアを利用して開発を行う場合に備えて、第三者ソフトウェアの利用に関して定めておく必要があります。

委託者としては、第三者ソフトウェアが委託者の想定しない内容のものであったり、 第三者ソフトウェアが別の第三者の権利を侵害しているリスクがあります。そこで、これらのリスクに備えて、 「受託者が第三者ソフトウェアの利用をする場合には、あらかじめ委託者の承諾を得なければならない」と定めるのが有利です

更に、第三者ソフトウェアを利用してソフトウェアを開発する場合、その第三者ソフトウェアが第三者の著作権を侵害しているときには、委託者が訴えられるリスクがあります。また、第三者ソフトウェアの性能が悪く、瑕疵があるときに、仕様書等で定められた性能のソフトウェアが開発できない、納期に遅延が生じる等のリスクがあります。
委託者としては、これらのリスクを防ぐために、 「受託者が第三者ソフトウェアの利用をする場合には、あらかじめ第三者ソフトウェアの性能、 及び第三者ソフトウェアが別の第三者の権利を侵害しないか等を調査すること」を定めるのが安全です

記載例

(第三者ソフトウェアの利用)
1 受託者は、本件業務遂行の過程において、システム機能の実現のために、第三者ソフトウェア(フリーソフトウェア及びオープンソースソフトウェアを含む。)を利用するには、委託者の承諾を得なければならない。
2 前項に基づき委託者が第三者ソフトウェアの利用を承諾した場合、受託者は、受託者の費用と責任において、受託者と当該第三者との間で当該第三者ソフトウェアのライセンス契約及び保守契約の締結等、必要な措置を講じる。
3 受託者は、第三者ソフトウェアの瑕疵、当該ソフトウェアが第三者の権利を侵害していないこと及び性能が十分であることについて調査を行う。

受託者としては、第三者ソフトウェアの性能、及び第三者ソフトウェアが別の第三者の権利を侵害しないかどうかを調査することにはコストを要するため、 「第三者ソフトウェアの瑕疵、権利侵害等については、権利侵害又は瑕疵の存在を知りながら、 若しくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、一切の責任を負わない」と定めるのが有利です

記載例

(第三者ソフトウェアの利用)
1 受託者は、本件業務遂行の過程において、システム機能の実現のために、第三者ソフトウェア(フリーソフトウェア及びオープンソースソフトウェアを含む)を利用するには、委託者の承諾を得なければならない。
2 前項に基づき委託者が第三者ソフトウェアの利用を承諾した場合、委託者は、委託者の費用と責任において、委託者と当該第三者との間で当該第三者ソフトウェアのライセンス契約及び保守契約の締結等、必要な措置を講じる。
3 受託者は、前項所定の第三者ソフトウェアの瑕疵、権利侵害等については、権利侵害又は瑕疵の存在を知りながら、若しくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、一切の責任を負わない。

システム(ソフトウェア)開発委託契約書のひな形

システム(ソフトウェア)開発委託契約のひな形については、以下のひな形が参考になります。

「情報システム・モデル取引・契約書(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)<第一版>」
*ウォーターフォールモデルによる重要インフラ・企業基幹システム構築を前提条件とする

・「情報システム・モデル取引・契約書~情報システム・モデル取引・契約書~(パッケージ、SaaS/ASP活用、保守・運用)<追補版>」
*「重要事項説明書」を活用した簡易・透明な取引モデルを前提条件とする

・JEITAソフトウェア開発モデル契約及び解説(2020年版)
 
・JISAソフトウェア開発委託基本モデル契約書2020

まとめ

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参考文献

経済産業省ウェブサイト

伊藤雅浩ほか「ITビジネスの契約実務」(商事法務)

鮫島正洋「技術法務のススメ」(日本加除出版)

吉田正夫「ソフトウェア取引の契約ハンドブック」(共立出版)