判例・裁判例の調べ方とは?
基本知識・判例集・最新の情報・
注意点などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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判例・裁判例は、法務担当者にとって法令の条文に次ぐ重要性を持っています。
法律トラブルが訴訟へ持ち込まれた際には、原則として過去の判例・裁判例に沿った判決がなされます。法務担当者としては、契約書のレビュー・法務研修などの予防法務や、実際に発生したトラブルへの対応を行うに当たり、関係する判例・裁判例の情報収集に努めなければなりません。
判例・裁判例を調べる方法としては、インターネット上での検索・書籍の調査・データベースの利用などが挙げられます。各方法の特徴を踏まえて、効率的に判例・裁判例を収集しましょう。
この記事では判例・裁判例の調べ方について、有力な参照先や注意点などを解説します。
※この記事は、2024年7月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
判例・裁判例とは
「判例」「裁判例」とは、過去に裁判所が示した具体的事件に対する法律的判断です。判例・裁判例は、法務担当者にとって法令の条文に次ぐ重要性を持っています。
判例と裁判例の違い
「判例」と「裁判例」は、いずれも過去に裁判所が示した具体的事件に対する法律的判断を意味します。主に「判決」が想定されますが、ほかにも「決定」などを指す場合があります。
「判例」と「裁判例」の間に明確な違いはありませんが、実務上は最高裁判所の判断を「判例」、その他の裁判所の判断を「裁判例」と呼んで区別されています。特に最高裁判所の「判例」は、先例として以降の判決を拘束すると解されています。
判例・裁判例が重要である理由
最高裁判所の判例は下級裁判所を拘束するほか、大法廷において判例変更がなされない限り、最高裁判所自身をも拘束すると解されています。裁判所間での判断基準を統一し、裁判手続きの公平性を確保するためです。
また、最高裁判所の判例が存在しない事項については、下級裁判所によって示された裁判例が実務上の先例として影響力を持つこともよくあります。
そのため、判例・裁判例は法令の条文に次ぐ重要な規範として機能しています。法務担当者は、自社の事業に関係する主要な判例・裁判例を把握しておくべきです。
判例・裁判例を特定するための情報
判例・裁判例は、以下の情報によって特定します。
① 裁判所・裁判年月日・裁判種類
② 書誌情報
③ 事件番号
裁判所・裁判年月日・裁判種類
判例・裁判例を検索する際には通常、「裁判所」「裁判年月日」「裁判種類」の3つの情報を参照します。
例えば「最高裁判所平成21年4月28日判決」であれば、「最高裁判所が平成21年4月28日に言い渡した判決」を意味します。
裁判種類は「決定」の場合もあり、「最高裁判所平成21年9月28日決定」などと表示します。
書誌情報
重要度の高い判例・裁判例については、民集・刑集・判例時報・判例タイムズなどの書誌に掲載されることがあります。この場合は、裁判所・裁判年月日・裁判種類と併せて書誌情報も参照することができます。
(例)
「最高裁判所平成21年4月28日判決・民集63巻4号853頁」
「最高裁判所平成21年9月28日決定・刑集63巻7号868頁」
※判例時報については「判時」、判例タイムズについては「判タ」と表記されるのが一般的です。
事件番号
裁判所に係属する事件には、裁判所が受理した時点で「事件番号」が付されます。
事件番号は、「裁判所名」「受理年月日」「符号」「番号」によって構成されます。符号は事件の種類に応じて、番号は同一年度内に受理した順番に従って付されます。
例えば「東京地方裁判所令和6年(ワ)第1号」であれば、「東京地方裁判所において令和6年に受理した第1審訴訟事件の1番目」を指します。
なお事件番号は、主に事件係属中の段階で参照されます。裁判所によってすでに示された判例・裁判例を検索する際には、以下で解説する裁判年月日・裁判所・裁判種類や書誌情報を参照するのが一般的です。
判例・裁判例の調べ方
判例・裁判例を調べる際には、以下の方法などを用います。
① 検索エンジンを利用する
② 裁判所ウェブサイト上で検索する
③ 書籍を調べる|分野・法令・条文等から判例を絞り込む
④ 判例集・判例雑誌を利用する|原文・下級審・解説などを調べる
⑤ 判例データベースを利用する
検索エンジンを利用する
簡易的に判例・裁判例の情報を調べたい場合は、インターネット上の検索エンジン(Google検索など)を利用するのが便利です。
法律事務所やポータルサイトの解説記事などがヒットし、関心事項についての判例・裁判例の情報を得られる場合があります。
裁判所ウェブサイト上で検索する
裁判所のウェブサイトにアクセスすれば、主要な判例・裁判例を検索できます。裁判年月日・事件番号・裁判所名による検索のほか、キーワードを入力して全文検索をすることも可能です。
ただし、裁判所ウェブサイトに掲載されている裁判例の数は限られているので、網羅的なリサーチが必要な場合には、後述するデータベース検索などを併用しましょう。
書籍を調べる|分野・法令・条文等から判例を絞り込む
把握すべき判例・裁判例の手がかりを得るためには、以下の書籍を調べるのが効果的な方法の一つです。
(a) 逐条解説・基本書・実務書
(b) 判例六法Professional
(c) 判例百選
逐条解説・基本書・実務書
法律の条文を一つずつ解説した書籍を「逐条解説」といいます。逐条解説には、各条文に関連する主要な判例・裁判例が網羅されているケースが多いです。
また、特定の法律について網羅的に解説した「基本書」や、特定の実務分野における留意点などを解説した「実務書」にも、関連する判例・裁判例が挙げられていることが多く、参考になります。
判例六法Professional
有斐閣が毎年出版している「判例六法Professional」には、基本的な法律や話題性の高い法律について、条文と関連する判例・裁判例の要旨がまとめられています。
判例百選
有斐閣が雑誌「ジュリスト」の別冊として発行している「判例百選」には、法律学の分野別におおむね100個の判例・裁判例が収録されています。
判例・裁判例の要旨とともに、法学者や実務家の解説も併せて掲載されており、理解の助けとなるでしょう。
判例集・判例雑誌を利用する|原文を確認しながら解説を読む
判例・裁判例の原文を確認しつつ、その内容に関する解説も併せて読みたい場合には、以下の判例集・判例雑誌を調べましょう。
(a) 民集・刑集・調査官解説
(b) 判例時報・判例タイムズ
民集・刑集・調査官解説
「最高裁判所民事判例集(=民集)」と「最高裁判所刑事判例集(=刑集)」は、最高裁判所が毎年公式に発行している判例集です。
民集・刑集には重要な最高裁判例の原文が収録されており、国内において最も権威ある判例集と認識されています。
民集・刑集に収録されている判例については、すべて最高裁判所調査官による解説が公表されています(=調査官解説)。
調査官解説は「最高裁判所判例解説」および「法曹時報」に掲載されているほか、後述する「判例秘書INTERNET」などでも確認できます。
民集・刑集と調査官解説を併せて確認すれば、重要な最高裁判例に対する理解が深まるでしょう。
判例時報・判例タイムズ
時事性の高い判例・裁判例については、民集・刑集に収録されないものを含めて「判例時報」や「判例タイムズ」という雑誌に掲載されることがあります。
原文と解説を速やかに確認できるので、近時の重要判例・裁判例を調べたい場合には「判例時報」や「判例タイムズ」をチェックするとよいでしょう。
判例データベースを利用する
近年では、web上で閲覧できる判例データベースが充実しています。実務家の間でよく用いられている判例データベースとしては、以下の例が挙げられます。
(a) TKCローライブラリー
(b) 判例秘書INTERNET
(c) Westlaw Japan
(d) D1-Law.com
TKCローライブラリー
「TKCローライブラリー」は、株式会社TKCが提供する総合法律データベースです。
裁判例・判例のデータをPDFで取得できるほか、オプションサービスを契約すれば判例タイムズや判例百選などの雑誌についても参照できます。
判例秘書INTERNET
「判例秘書INTERNET」は、株式会社LICが提供する判例・雑誌のデータベースです。
裁判例・判例のデータをPDFで取得できるほか、オプションサービスにより各種雑誌も閲覧できます。調査官解説も閲覧できる点が大きな特徴です。
Westlaw Japan
「Westlaw Japan」は、トムソン・ロイター株式会社が提供する法律データベースです。
更新スピードが速いのが大きな特徴です。また、オプションサービスにより調査官解説も閲覧できます。
D1-Law.com
「D1-Law.com」は、第一法規株式会社が提供する法律データベースです。視覚的に読みやすい条文表示が特徴的です。
最新の判例・裁判例のチェック方法
重要な判例・裁判例が報道された場合は、いち早くその内容を確認したいところです。
最新の判例・裁判例は、以下の方法によってチェックしましょう。
① 裁判所ウェブサイトでチェック
② 雑誌・DBの判例解説をチェック
裁判所ウェブサイトでチェック
裁判所のウェブサイトには、直近で示された重要な判例・裁判例が速やかに掲載される傾向にあります。
ニュースなどで報道された判例・裁判例の原文をいち早く入手したい場合は、裁判所のウェブサイトにアクセスしてみましょう。判例検索を通じて検索すれば、掲載された判例・裁判例が時系列順に表示されます。
参考: 裁判所ウェブサイト「最高裁判所 判例集 検索結果」(「裁判例情報」「最近の最高裁判例」から閲覧可能) 裁判所ウェブサイト「知的財産 裁判例集 検索結果」(「裁判例情報」「最近の知財裁判例」から閲覧可能) |
雑誌・DBの判例解説をチェック
「判例時報」や「判例タイムズ」などの雑誌では、重要な判例・裁判例について、原文と解説が比較的スピーディに掲載されます。近時の判例・裁判例について詳しい解説を参照したい場合は、これらの雑誌をチェックするとよいでしょう。
なお、判例時報・判例タイムズはデータベース版もリリースされているほか、判例タイムズについては「TKCローライブラリー」や「判例秘書INTERNET」でもオプションサービスにより閲覧できます。
判例・裁判例を調べる際の注意点
判例・裁判例についてリサーチを行う際には、特に以下の2点に注意しましょう。
① 判例・裁判例の「射程」に注意する
② 下級審裁判例は絶対ではない|最高裁判例を重視する
判例・裁判例の「射程」に注意する
判例・裁判例を確認する際には、常にその「射程」を意識する必要があります。
「射程」とは、その判例・裁判例で示された規範が妥当する範囲です。
幅広い事案に適用できる判例・裁判例は「射程が広い」のに対して、限られた事案にしか適用できない「射程が狭い」判例・裁判例もあります。
判例・裁判例の「射程」を正確に把握することは、決して容易ではありません。原文に当たって判決理由を詳しく読み込むことに加えて、判例解説も確認しつつ理解を深める必要があります。
判例・裁判例の「射程」を誤って捉えてしまうと、法律的な判断にも狂いが生じてしまうので要注意です。
下級審裁判例は絶対ではない|最高裁判例を重視する
最高裁判例は基本的に信用してよいですが、下級審裁判例が規範としてどの程度信用できるかはケースバイケースです。
特に裁判所の間で判断が分かれている問題については、自社にとって有利な結論を示す下級審裁判例に依拠し過ぎるのは危険と言えます。
また、下級審裁判例の結論がおおむね一致している問題についても、後に最高裁が異なる判断を示すケースがあるので、下級審裁判例を絶対視するのはリスクが高いと思われます。
下級審裁判例は規範として絶対ではないことに十分留意しつつ、最高裁判例がない事柄についての判断は慎重に行いましょう。