【2026年1月施行】下請法等改正とは?
「中小受託取引適正化法(中小受託法・取適法)」
のポイントを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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2025年5月16日に国会で下請法等の改正法が成立し、同月23日に公布されました。改正法は2026年1月1日から施行されます。
今回の下請法等改正による変更点として、「下請」等の用語の見直しや、価格据置取引への対応、手形払等の禁止、運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、面的執行の強化などが行われます。
いずれも対象となる企業に大きな影響を与える変更となりますので、事業者は自社への影響を確認して対応を検討しましょう。
この記事では、2025年5月16日に成立した下請法等改正による変更点を解説します。
※この記事は、2025年5月29日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 下請法…下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律(令和7年法律第41号)による改正前の下請代金支払遅延等防止法
- 中小受託法…下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律(令和7年法律第41号)による改正後の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
- 下請中小企業振興法…下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律(令和7年法律第41号)による改正前の下請中小企業振興法
- 受託中小企業振興法…下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律(令和7年法律第41号)による改正後の受託中小企業振興法
目次
【2026年1月施行】下請法等改正とは
2025年5月16日に国会で下請法等の改正法が成立し、同月23日に公布されました。法令の名称変更がなされたほか、内容面でも大幅な変更が行われています。
中小企業や個人事業者に対して業務を委託することがある場合や、自らが中小企業や個人事業者である場合には、下請法等改正の内容を正しく理解しておきましょう。
下請法等改正の目的
近年では、労務費・原材料費・エネルギーコストが急激に上昇しています。親事業者から業務を受注する下請事業者は、コスト増を下請代金へ十分反映することができず、苦しい経営状態に追い込まれる例が多数発生しています。
そこで今回の下請法等改正では、発注者・受注者の対等な関係に基づき、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させるための変更が行われました。
公布日・施行日
今回の下請法等改正の公布日および施行日は、以下のとおりです。
- 公布日・施行日
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公布日:2025年5月23日
施行日:2026年1月1日
下請法等改正による変更点一覧
今回の下請法等改正では、以下の変更が行われます。
- 2025年の下請法等改正による変更点
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(1) 「下請」等の用語の見直し
(2) 下請法(中小受託法)の改正点
① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(価格据え置き取引への対応)
② 手形払等の禁止
③ 運送委託の対象取引への追加(物流問題への対応)
④ 従業員基準の追加(適用基準の追加)
⑤ 面的執行の強化
など(3) 下請中小企業振興法(受託中小企業振興法)の改正点
① 多段階の事業者が連携した取組への支援
② 適用対象の追加
③ 地方公共団体との連携強化
④ 主務大臣による執行強化
など
「下請」等の用語の見直し
今回の下請法等改正では、発注者・受注者が対等な関係にあることを強調するため、「下請」などの用語の見直しが行われました。
具体的には、以下のような用語の変更がなされています。
・下請法 → 中小受託取引適正化法
・親事業者 → 委託事業者
・下請事業者 → 中小受託事業者
・下請代金 → 製造委託等代金
「下請法」は「中小受託取引適正化法(中小受託法・取適法)」に
従来の下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」ですが、今回の改正によって「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更されました。
新名称の略称としては「中小受託取引適正化法」「中小受託法」「取適法」などが想定されています。本記事では「中小受託法」を用います。
また、下請関係を改善して下請中小企業の振興を図ることを目的とする「下請中小企業振興法」についても、今回の改正によって「受託中小企業振興法」へと名称が変更されます。
「親事業者」は「委託事業者」に
下請法が適用される取引の発注者である「親事業者」は、今回の改正によって「委託事業者」に変更されました。
委託事業者の範囲については、従業員基準(後述)が追加されたことに伴い、従来の親事業者に比べて拡大しています。
「下請事業者」は「中小受託事業者」に
下請法が適用される取引の受注者である「下請事業者」は、今回の改正によって「中小受託事業者」に変更されました。
中小受託事業者の範囲についても、委託事業者と同様に従業員基準(後述)が追加されたため、従来の下請事業者に比べて拡大しています。
「下請代金」は「製造委託等代金」に
下請法が適用される取引の対価である「下請代金」は、今回の改正によって「製造委託等代金」に変更されました。
製造委託等代金に関しては、協議を適切に行わない代金額の決定の禁止や、手形払等の禁止に関する規定が新設されています(いずれも後述)。
下請法(中小受託法)の改正点
下請法(中小受託法)については、主に以下の変更が行われています。また、改正による条ずれ(条文番号の変更)に注意が必要です。
① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(価格据え置き取引への対応)
② 手形払等の禁止
③ 運送委託の対象取引への追加(物流問題への対応)
④ 従業員基準の追加(適用基準の追加)
⑤ 面的執行の強化
協議を適切に行わない代金額の決定の禁止|価格据え置き取引への対応
労務費・原材料費・エネルギーコストが上昇する中で、受注者側による価格転嫁が困難になりがちなことが問題視されていました。具体的には、発注者側が受注者側と協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりするケースが見られます。
こうした状況を改善し、適切な価格転嫁が行われる取引環境を整備するため、委託事業者に対して協議を適切に行わない代金額の決定を禁止する規定が新設されました(中小受託法5条2項4号)。
中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、委託事業者がその協議を拒否し、または求められた説明や情報提供を怠ったまま一方的に代金額を決定した場合は違法となります。

手形払等の禁止
従来の親事業者と下請事業者の取引においては、下請代金が手形によって支払われるケースがよく見られました。手形払には不渡りのリスクがあるほか、振出しから支払期日まで期間が空くため、下請事業者の資金繰りに悪影響を及ぼすことが懸念されます。
受注者を保護する観点から、中小受託法が適用される取引については、手形を交付する場合を含めて、製造委託等代金を支払期日までに支払わないことが厳格に禁止されました(中小受託法5条1項2号)。
支払期日は給付受領日(=納品日または役務提供日)から60日以内とする必要があり、それまでに中小受託事業者が現金を受け取れるような支払方法を採用しなければなりません。
手形払だけでなく、電子記録債権やファクタリングなどにも上記の規制が適用されます。
運送委託が新たに対象取引へ追加|物流問題への対応
従来の下請法は、発荷主から元請運送事業者への運送委託には適用されませんでした。しかし、立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行うことを強いられるなどの問題が生じていました。
そのため中小受託法では、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引(=特定運送委託)が新たに適用対象へ含まれました(中小受託法2条5項)。

従業員基準の追加(適用基準の追加)|適用対象となる事業者が拡大
従来の下請法では、適用対象となる取引を、当事者の資本金の額または出資の総額によって判定する仕組みとなっていました。
しかし、実質的な事業規模は大きいものの、当初の資本金が少額である事業者や、減資をした事業者も存在します。これらの事業者が発注者である取引については、下請法が適用されない点が実態にそぐわないと問題視されていました。
そのため中小受託法では、適用の有無を従業員数で判定する基準が新設されました(中小受託法2条8項5号・6号、9項5号・6号)。

委託取引の類型に応じて、常時使用する従業員の数が以下の基準に該当する場合には、中小受託法が適用されます。
(a) 製造委託、修理委託、特定運送委託
委託事業者:300人超
中小受託事業者:300人以下
(b) 情報成果物作成委託、役務提供委託
委託事業者:100人超
中小受託事業者:100人以下
面的執行の強化
従来の下請法では、事業を所管する省庁には調査権限のみが与えられていました。しかし、調査権限だけでは不十分なケースもあることから、公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁の連携した執行(=面的執行)をより拡充していく必要性が指摘されていました。
そのため中小受託法では、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与されました(中小受託法8条)。
また、委託事業者による違法行為を事業所管省庁の主務大臣に知らせたことを理由に、委託事業者が中小受託事業者を不利益に取り扱うことが禁止されました(同法5条1項7号)。
さらに、公正取引委員会・中小企業庁長官・事業所管省庁の主務大臣の間で、相互に情報提供等を行うことができる旨も明記されました(同法13条)。
改正による条ずれに注意|3条書面→4条明示義務、5条書類→7条書類など
今回の改正では、さまざまな条文の追加等が行われました。従来の下請法において「3条書面」「5条書類」と呼ばれていた書面等については、条文番号の変更によって呼称が以下のように変更されます。
✅ 3条書面 → 4条明示義務
※委託事業者(親事業者)は中小受託事業者(下請事業者)に対し、対象取引の条件を明示するために書面を交付し、または電子データを提供する義務を負います。
✅ 5条書類 → 7条書類
※委託事業者(親事業者)は、対象取引の条件を記載・記録した書類または電磁的記録を作成し、2年間保存する義務を負います。
下請中小企業振興法(受託中小企業振興法)の改正点
下請法(中小受託法)のほか、下請中小企業振興法(受託中小企業振興法)についても以下の変更が行われています。
① 多段階の事業者が連携した取組への支援
② 適用対象の追加
③ 地方公共団体との連携強化
④ 主務大臣による執行強化
多段階の事業者が連携した取組(サプライチェーン)への支援
下請関係が多段階に及ぶ場合(1次、2次、3次……)には、その段階が深くなるにつれて価格転嫁割合が低い傾向にあります。その背景には、価格交渉が行われるとしても、直接の取引先との間に限られる商習慣が存在すると考えられます。
そこで受託中小企業振興法では、多段階の取引からなるサプライチェーンにおいて、2以上の取引段階にある事業者による振興事業計画に対し、主務大臣が承認・支援できる規定が追加されました(受託中小企業振興法5条)。
主務大臣によって、直接の取引先との関係のみならず、サプライチェーン全体の取引適正化等の取り組みを促すメッセージを発することが期待されます。
適用対象の追加|下請法の対象外の取引も支援・指導などの対象に
サプライチェーン全体で円滑かつ迅速な価格転嫁を定着させるには、従来の下請中小企業振興法の対象に含まれていない取引についても、幅広く主務大臣の指導・助言・勧奨の対象とする必要性が指摘されていました。
そこで受託中小企業振興法では、発荷主と運送事業者の間の運送委託取引や、従業員数の大小関係がある取引の委託事業者が新たに適用対象とされました(受託中小企業振興法2条1項6号、同条4項・5項)。
上記の変更により、中小受託法(下請法)が適用されない取引も含めて、主務大臣による指導・助言・勧奨が可能となります。
地方公共団体との連携強化
各地域における価格転嫁を推進するためには、都道府県ごとに取引適正化に向けた取組を行うことが重要です。
そこで受託中小企業振興法では、国と地方公共団体の責務に関する規定が新設されました(受託中小企業振興法23条)。
国は受託中小企業の振興に必要な施策の総合的かつ効果的な推進、地方公共団体は受託中小企業の振興に必要な取組の推進に努めるとともに、両者が密接な相互連携の確保に努めることが明記されています。
主務大臣による執行強化|勧奨による価格転嫁・取引適正化の実効性の強化
従来の下請中小企業振興法に基づき、価格交渉や価格転嫁の状況が芳しくない事業者に対して、主務大臣が指導・助言を行っており、一定の効果が認められていました。
しかし、何度か指導・助言を受けても改善に取り組まない事業者も見られました。そうした事業者の中には、改善の意思があるものの、具体的な取組内容に関する検討が不十分なケースもあったようです。
そこで受託中小企業振興法では、指導・助言を行っても改善が不十分な事業者に対し、主務大臣がより具体的な措置を示し、その実施を促す(勧奨する)ことができるものとされました(受託中小企業振興法4条)。
事業者の対応のポイント|対象拡大・施行時期などに注意
今回の下請法等改正は、2026年1月1日から全面的に施行されます。
すでに下請法が適用される取引を行っている事業者は、「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」や「手形払等の禁止」など、中小受託法によって新設されたルールをあらかじめ把握し、必要に応じて取引方法の見直しを行いましょう。
また、運送委託が新たに適用対象となることや、従業員数による基準(300人・100人)が新設されることにも注意を要します。従来は下請法の適用を受けていなかった事業者も、中小受託法が新たに適用されるかどうかをチェックしておきましょう。
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参考文献
公正取引委員会ウェブサイト「(令和7年5月16日)「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について」