【2026年4月等施行】労働安全衛生法改正とは?
フリーランスの労災防止・
ストレスチェック義務化の拡大などの
ポイントを分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料配布中 ✅ 「2025年施行予定の法改正まとめ」をダウンロードする |
- この記事のまとめ
-
2025年5月14日に労働安全衛生法の改正法が公布されました。公布日以降、改正法が段階的に施行されます。
今回の労働安全衛生法改正による変更点の概要は、以下のとおりです。
① 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
② 職場のメンタルヘルス対策の推進
③ 化学物質による健康障害防止対策等の推進
④ 機械等による労働災害の防止の促進等
⑤ 高齢者の労働災害防止の推進この記事では、2025年の労働安全衛生法改正による変更点を解説します。
※この記事は、2025年5月23日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 改正法…労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)による改正後の労働安全衛生法
目次
【2026年4月等施行】労働安全衛生法改正とは
2025年5月14日に労働安全衛生法の改正法が公布されました。公布日以降、改正法が段階的に施行されます。
今回の労働安全衛生法改正の目的
今回の労働安全衛生法の目的は、多様な人材が安全に、かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進することです。
労働者に当たらない個人事業者等を対象とする安全衛生対策や、ストレスチェックの強化など、多角的な観点から労働災害を防止するための規制が盛り込まれています。
公布日・施行日
今回の労働安全衛生法改正の公布日および施行日は、以下のとおりです。
- 公布日・施行日
-
公布日:2025年5月14日
施行日:2026年4月1日など
労働安全衛生法改正による変更点一覧
今回の労働安全衛生法改正では、以下の変更が行われます。
① 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
② 職場のメンタルヘルス対策の推進
③ 化学物質による健康障害防止対策等の推進
④ 機械等による労働災害の防止の促進等
⑤ 高齢者の労働災害防止の推進
次の項目から、各変更点の概要を解説します。
変更点1|個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
労働安全衛生法改正による変更点の1つ目は「個人事業者等に対する安全衛生対策の推進」です。
労働災害防止対策への個人事業者(フリーランス)等の取り込み
従来の労働安全衛生法に基づく労働災害防止対策は、事業者と雇用関係にある労働者が主な対象とされていました。
※事業者=事業を行う者で、労働者を使用するもの(労働安全衛生法2条3号)
しかし実際の職場には労働者だけでなく、一人親方やフリーランスなどの業務委託で働く人も存在します。これらの人も労働者と同様に、業務に起因する事故のリスクに晒されています。
そこで今回の労働安全衛生法改正では、一人親方やフリーランスなどを「個人事業者」として労働安全衛生法に位置付ける変更が行われました(改正法31条の3第1項)。
「個人事業者」とは、事業を行う者で労働者を使用しないものをいいます。一人親方やフリーランスなど、業務委託で働く人が主に想定されています。
上記の改正は、2026年4月1日から施行される予定です。
建設工事の注文者等が講ずべき措置
今回の労働安全衛生法改正により、建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者は、以下の事項について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないものと定められました(改正法3条3項)。
・施工方法
・作業方法
・工期
・納期
など
施工方法と工期については従来から明記されていましたが、今回新たに作業方法と納期が明記されました。上記の改正は、公布日からすでに施行されています。
また、改正法によって個人事業者が労働安全衛生法に位置付けられることに伴い、事業者は個人事業者について、労働者に準じた各種の労働災害防止対策を行うことが求められます。
上記の改正は、2026年4月1日と2027年4月1日に分けて施行される予定です。
個人事業者等自身の講ずべき措置
事業者に個人事業者の労働災害防止対策を行う義務が課される反面、個人事業者にも安全衛生対策への協力に関し、以下のような努力義務や義務が課されます。
- 個人事業者等自身の義務・努力義務
-
・事業者が実施する労働災害防止措置に協力する努力義務(改正法4条)
・労働安全衛生対策に関して、事業者の定める事項を遵守する義務(改正法26条、27条1項)
・安全衛生教育を受ける努力義務(改正法59条4項)
など
上記の改正は、2026年4月1日と2027年4月1日に分けて施行される予定です。
個人事業者等による法令違反の申告
従来から、事業場において労働安全衛生法に違反する事実があるときは、労働者はその事実を労働局長や労働基準監督署長などに申告することが認められています。
改正法によって個人事業者が労働安全衛生法に位置付けられたことに伴い、個人事業者を含む作業従事者にも、労働安全衛生法違反に関する申告が認められるようになります(改正法97条1項・3項)。
※作業従事者=事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者
上記の改正は、2026年4月1日から施行される予定です。
変更点2|職場のメンタルヘルス対策(ストレスチェック)の推進
労働安全衛生法改正による変更点の2つ目は「職場のメンタルヘルス対策(ストレスチェック)の推進」です。
ストレスチェック義務化の対象拡大|労働者数50人未満の事業場も対象に
「ストレスチェック」とは、業務による心理的負担の程度を把握する目的で、事業者が労働者に対して行う検査です。
事業者には原則として、1年以内ごとに1回、定期的なストレスチェックの実施が義務付けられています(労働安全衛生法66条の10、労働安全衛生規則52条の9)。
ただし、常時使用する労働者の数が50人未満の事業場では、当分の間ストレスチェックの実施義務が免除され、努力義務にとどまるものとされていました(労働安全衛生法附則4条)。
今回の法改正により、上記の附則4条が削除され、常時使用する労働者の数が50人未満の事業場でも年1回のストレスチェックの実施が義務付けられるようになります。
施行は3年以内(2028年予定)|準備期間に対応を
ストレスチェックに関する上記の改正は、公布日から起算して3年以内の政令で定める日に施行される予定です。
ストレスチェックに関しては、厚生労働省が実施マニュアルを公表しています。中小規模の事業場においても、同マニュアルを参考にして、改正法の施行までにストレスチェックの実施体制を整えましょう。
参考:厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」 |
変更点3|化学物質による健康障害防止対策等の推進
労働安全衛生法改正による変更点の3つ目は「化学物質による健康障害防止対策等の推進」です。具体的には、以下の改正が行われます。
(a) 作業環境測定の対象拡大
(b) 危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保
(c) 営業秘密である成分に係る代替化学名等の通知
作業環境測定の対象拡大
「作業環境測定」とは、労働者の健康障害を防止する観点から行う、職場環境に存在する有害物質の測定や分析のことです。事業者には、政令で定める有害な業務を行う作業場において、作業環境測定の実施および結果の記録が義務付けられています(労働安全衛生法65条1項)。
今回の法改正では、作業環境における労働者の有害な因子へのばく露の程度を把握するための測定や分析(個人ばく露測定)が新たに作業環境測定に位置付けられました(改正法2条4号)。
また事業者は、健康障害の防止のための措置等を講ずる場合であって厚生労働省令で定めるときは、 作業環境測定を行わなければならないものとされました(改正法65条の3)。
従来の作業環境測定は有害な業務を行う作業場に限定されていましたが、法改正によってその対象が拡大されます。
上記の改正は、2026年10月1日から施行される予定です。
危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保|通知義務違反に罰則が追加
労働者に危険もしくは健康障害を生ずるおそれのある一定の物(=通知対象物)を譲渡・提供する者は、相手方に対して以下の事項を通知しなければなりません(労働安全衛生法57条の2第1項)。
(a) 名称
(b) 成分およびその含有量
(c) 物理的および化学的性質
(d) 人体に及ぼす作用
(e) 貯蔵または取扱い上の注意
(f) 流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
(g) 上記のほか、厚生労働省令で定める事項
従来は、上記の通知義務に違反した場合でも、刑事罰を受けることはありませんでした。
今回の法改正では、通知義務の履行を確保するため、違反者を「6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」に処する旨が定められました(改正法119条4号)。
また、上記の通知事項に変更が生じた場合には、相手方に対して変更内容を通知することが望ましいですが、従来は変更通知が努力義務にとどまっていました。
今回の法改正により、通知事項に変更が生じた場合には、速やかに相手方へ通知することが義務付けられます(改正法57条の2第2項)。
上記の改正は、公布日から起算して5年以内の政令で定める日に施行される予定です。
営業秘密である成分に係る代替化学名等の通知
通知対象物に関する成分の情報は、営業秘密に該当する場合もあります。
営業秘密を保護する観点から、今回の法改正により、通知対象物に関する成分の情報のうち一定の要件を満たすものについては、代替化学名等によって通知することが認められます(改正法57条の2第3項~6項・8項・9項、103条4項)。
上記の改正は、2026年4月1日に施行される予定です。
変更点4|機械等による労働災害の防止の促進等
労働安全衛生法改正による変更点の4つ目は「機械等による労働災害の防止の促進等」です。具体的には、以下の改正が行われます。
(a) 特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化
(b) 特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し
(c) 型式検定対象機械等、技能講習対象業務等の見直し
特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化
建設機械や荷役運搬機械などについては、定期自主検査の実施が義務付けられています。その中でも、油圧ショベルやフォークリフトなどの特定の機械については1年に1回、一定の資格を持つ検査者による「特定自主検査」を受けなければなりません(労働安全衛生法45条)。
今回の法改正では、特定自主検査の適正な実施を確保するため、検査の実施基準や基準違反等を犯した検査業者に対する行政処分などが定められました(改正法45条3項、54条の4第2項、54条の6、54条の7第2項3号)。
また、高圧室内作業やクレーンの運転などの危険な業務について義務付けられている技能講習についても、技能講習修了証の不正交付を禁止して行政処分の対象とするなど、不正防止対策に関する改正が行われます(改正法76条の2、77条3項・4項)。
上記の改正は、2026年1月1日に施行される予定です。
特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し
ボイラーやクレーンなど、特に危険な作業を必要とする機械等(=特定機械等)を製造しようとする者は、あらかじめ都道府県労働局長の許可を得なければなりません(労働安全衛生法37条1項)。都道府県労働局長は、特定機械等の構造等が厚生労働大臣の定める基準に適合しているかどうかを審査します(同条2項)。
今回の法改正により、特定機械等の製造許可を申請する際には、民間の登録機関(=登録設計審査等機関)による審査結果の書類を添付することが義務付けられました(改正法37条3項)。民間の登録機関が実施できる審査の範囲を拡大して、審査業務を効率化する狙いがあります。
また、実際に特定機械等の製造などを行う際に必要となる「製造時等検査」についても、登録設計審査等機関が実施できる検査の範囲が拡大されます(改正法37条3項、38条、39条)。
上記の改正は、2026年4月1日に施行される予定です。
型式検定対象機械等、技能講習対象業務等の見直し
特定機械等以外の機械等でも、使用上の危険性や有害性などの観点から、一定のものについては規格や安全装置に関して個別検定または型式検定を受けることが義務付けられています(労働安全衛生法42条、44条、44条の2)。
個別検定:1台ごとに行われる検定
型式検定:型式ごとに行われる検定
今回の法改正では、規格等を具備しなければ重大な労働災害を生ずるおそれがあるものであり、かつ個別検定によることが適当でない安全装置・保護具が新たに型式検定の対象とされます(改正法別表第4・第14)。
型式検定の対象となる安全装置・保護具は、政令で定められる予定です。
また、一定の危険な業務について義務付けられている技能講習のうち、車両系建設機械その他の政令で定める車両系機械の運転に係る技術を取得させるための講習を車両系機械運転技能講習として、登録教習機関の登録要件等を定める改正が盛り込まれています(改正法別表第18~第20)。
上記の改正は、2026年4月1日に施行される予定です。
変更点5|高齢者の労働災害防止の推進
労働安全衛生法改正による変更点の5つ目は「高齢者の労働災害防止の推進」です。
今回の法改正により、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の措置を講じる努力義務が事業者に課されます(改正法62条の2第1項)。
厚生労働大臣は、事業者が講ずべき高年齢者の労働災害防止措置に関する指針を公表することになっています(同条2項)。
上記の改正は、2026年4月1日に施行される予定です。
まとめ|施行日ごとの改正内容
以上の改正内容を施行日ごとにまとめると、以下のようになります。
施行日 | 改正の内容 |
---|---|
2025年5月14日 | ・建設工事の注文者等が講ずべき措置 |
2026年1月1日 | ・特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化 |
2026年4月1日 | ・労働災害防止対策への個人事業者(フリーランス)等の取り込み ・個人事業者について、労働者に準じた各種の労働災害防止対策 ・個人事業者等自身の講ずべき措置の追加 |
2026年10月1日 | ・作業環境測定の対象拡大 |
2027年4月1日 | ・個人事業者について、労働者に準じた各種の労働災害防止対策 ・個人事業者等自身の講ずべき措置の追加 |
2028年5月13日まで | ・ストレスチェック義務化の対象拡大 |
2030年5月13日まで | ・危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保 |
おすすめ資料を無料配布中 ✅ 2025年施行予定の法改正まとめ |
参考文献
厚生労働省ウェブサイト「第217回国会(令和7年常会)提出法律案 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」