カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?
関連する法令・クレームとの違い・
具体例・判断基準・対処法などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
-
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは、顧客が企業に対して理不尽なクレーム・言動をすることをいいます。具体的には、事実無根の要求や法的な根拠のない要求、暴力的・侮辱的な方法による要求などがカスハラに当たります。
企業は安全配慮義務に基づき、従業員をカスハラから守る責任があります。その一方で、正当なクレームとカスハラの見極めが難しい場合もあるため、あらかじめ対応マニュアルの策定などを行って対策を整えましょう。
実際に企業がカスハラを受けた場合には、策定したマニュアルに従って情報共有や責任者への引継ぎを行い、会社として一貫性のある対応をとる必要があります。また、カスハラを受けた従業員のケアや、事例を踏まえたマニュアルの見直しなどを行うことも大切です。
今回はカスタマーハラスメント(カスハラ)について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・労働施策総合推進法…労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
カスタマーハラスメント研修資料を無料配布中!
「研修でそのまま使う」「自社にあわせてカスタマイズしてから使う」などといった用途で自由にご活用ください。
目次
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは|事例も解説
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは、簡潔に言うと、顧客が企業に対して理不尽なクレーム・言動をすることをいいます。
パワハラやセクハラなどは、法令の中で定義がありますが、カスハラは、本記事執筆時点では法令中で定義されていません。しかし、厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策マニュアル」では、以下のとおり定義されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策マニュアル」7ページ
さまざまな種類のハラスメントが問題視されている中で、理不尽なクレーム・言動をする顧客の振る舞いが「カスハラ」と捉えられるようになりました。
カスハラに当たる行為の具体例
カスハラに当たる行為としては、以下の例が挙げられます。
〇脅迫罪に該当しうる行為
・机を叩いて、店員を怒鳴りつける
〇恐喝罪に該当しうる行為
・不手際のお詫びに、店舗の商品を無料で提供するようにしつこく要求する
〇強要罪に該当しうる行為
・店員に土下座を要求する
〇威力業務妨害罪または詐欺罪に該当しうる行為
・顧客自ら商品を壊した上で「商品が壊れていた」とクレームを入れる
など
カスハラが増加した背景
カスハラに当たる行為が増えた主要因は、SNSの普及による顧客側の発言力の増大です。
SNSを通じて顧客が企業を容易に批評できるようになったため、顧客側の発言力が増し、企業側がそれに屈してしまうという構図が生まれやすくなりました。こうした背景の下で、カスハラに当たる行為が増えたものと思われます。
さらに、カスハラが社会問題化したことには、ハラスメントを強く問題視する近年の潮流も寄与しています。
カスハラに相当する行為は以前から行われていましたが、さまざまな種類のハラスメントが問題視される流れの中で、新たなハラスメントの類型としてカスハラが取り上げられるようになったものと考えられます。
企業がカスハラを放置するリスク
カスハラに当たる不当な行為を抗議せずに受け入れてしまうと、企業は以下のリスクを負うことになってしまいます。
・生産性の低下
→従業員のモチベーションが低下し、企業としての生産性が低下するおそれがあります。
・離職者や休職者の増加
→カスハラによって精神的ダメージを負い、離職や休職に至ってしまう従業員が増えるおそれがあります。
・レピュテーションの悪化
→カスハラを拒絶できない弱腰な企業という評判が定着し、社会的なレピュテーションが悪化するおそれがあります。
など
このようなリスクを負わないためにも、企業はカスハラを許さず、毅然とした対応をとるべきです。
正当なクレームとカスハラの違い・判断基準
企業としては、正当なクレームには誠実に向き合う一方で、不当なクレーム(カスハラ)は断固拒絶するというかたちで、対応を使い分ける必要があります。
正当なクレームとカスハラの区別は、以下の2つの基準に照らして行いましょう。
- 顧客の要求内容に妥当性があるか
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か
顧客の要求内容に妥当性があるか
顧客からクレームを受けた場合には、まず事実関係を確認した上で、
- 自社に過失がないか
- 顧客の要求に妥当性はあるか
を検討する必要があります。
自社に何らかの過失があり、顧客の主張に一定の妥当性がある場合には、正当なクレームとして真摯に対応すべきでしょう。これに対して、自社に何らの過失がなく、顧客の主張が言いがかりに過ぎない場合などは、カスハラとして毅然とした対応をとるべきです。
要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か
顧客のクレームに一定の妥当性があるとしても、主張を訴えるための手段・態様が社会通念上不当な場合には、カスハラに該当する可能性があります。
例えばあまりにも長時間に及ぶ説教や、店員に対する暴力・暴言・土下座要求などが行われた場合には、クレームの内容にかかわらずカスハラとして取り扱い、顧客の出入り禁止などを含めた対応を検討すべきでしょう。
カスハラと関係の深い法令など|企業が負う義務・カスハラ行為者の法的責任も併せて解説!
カスハラとの関係では、以下の法令などが、関連が深いです。企業としては、カスハラ対応に関する自社の義務を意識した上で、カスハラ行為者の法的責任を追及することも視野に対応しましょう。
【企業側】
・労働契約法
・労働施策総合推進法、厚生労働省指針
【カスハラ行為者側】
・民法
・刑法、軽犯罪法
【企業】労働契約法|従業員への安全配慮義務
会社は従業員に対し、生命・身体などの安全を確保しつつ労働できるように必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。これを「安全配慮義務」といいます。
カスハラをする顧客が現れた際には、会社は安全配慮義務に基づき、従業員をカスハラから守らなければなりません。カスハラ対策を怠った結果、従業員が精神的ダメージを負った場合には、会社は従業員から損害賠償を請求されるおそれがあるので要注意です。
【企業】労働施策総合推進法・厚生労働省指針|カスハラ対応に必要な体制を整備する義務
会社は、職場におけるパワハラを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。これに基づき、厚生労働省は、事業主が講ずべきパワハラ防止措置の適切かつ有効な実施を図るための指針を公表しています(同条3項)。
同指針はパワハラ対策を主とした指針ではありますが、その中で、一部カスハラに言及している箇所があります。具体的には、カスハラを「顧客等からの著しい迷惑行為」と定義し、カスハラにより労働者の就業環境が害されることのないように、会社が行うことが望ましい取り組みとして以下が例示されています。
①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談先をあらかじめ定め、労働者に周知する
・相談を受けた者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにする
②被害者への配慮のための取り組み
・被害者のメンタルヘルス不調への相談対応
・著しい迷惑行為を行った者に、従業員一人で対応させない
【カスハラ行為者】民法|損害賠償責任
カスハラをした顧客は、その対応によって精神的ダメージを受けた従業員に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。
- 不法行為に基づく損害賠償責任とは
-
故意(わざと)または過失(うっかり)によって、
・ 他人の権利
・ 法律上保護される利益
を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うというものです。
また、会社がカスハラ対応にコストを要した場合や、会社の名誉が毀損された場合には、カスハラ顧客は会社に対しても損害賠償責任を負います。
【カスハラ行為者】刑法・軽犯罪法|刑事上の責任
カスハラは、その内容によっては以下の犯罪が成立する可能性があります。
・暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)
→対応した従業員などに暴力を振るった場合
・名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)
→対応した従業員や会社の名誉を傷つける発言をした場合
・脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法223条)
→対応した従業員や会社に対して脅迫を行った場合
・威力業務妨害罪(刑法234条)
→暴行や脅迫などによって会社の業務を妨害した場合
・軽犯罪法違反(同法1条5号)
→著しく粗野または乱暴な言動で他の客に迷惑をかけた場合
など
カスハラに備えて企業が講ずべき対策
カスハラをする顧客が現れた場合に備えて、企業はあらかじめ以下の対策を講じておきましょう。
- カスハラ対応マニュアルの策定
- カスハラ対応に関する従業員研修の実施
- カスハラに関する相談窓口の設置
カスハラ対応マニュアルの策定
カスハラ顧客に遭遇して戸惑うことがないように、事前に対応マニュアルを策定しておくことは非常に重要です。
例えば以下のような事項を整理して、カスハラ顧客への対応手順を明確化しましょう。
①現場対応の手順
・現場監督者などの責任者を呼ぶ(共同で対応する)
・顧客の主張を傾聴する
・対象となる事実や事象を明確化し、限定的に謝罪する
・顧客の名前や連絡先などを聞く
・ハラスメント相談窓口に情報共有をする
②本社(本部)との連携
・本社(本部)と連携して対応すべきケースを明確化する
・本社(本部)への連絡フローを整備する
など
カスハラ対応に関する従業員研修の実施
カスハラ顧客はいつ現れるかわからないので、全ての従業員が適切に対応できるように、日頃からカスハラ対応に関する教育を行うことが大切です。可能な限り従業員全員に対して、定期的にカスハラ対応の研修を実施しましょう。
- カスハラ対応の研修内容例
-
・カスハラの定義、該当行為の例、正当なクレームとの違い
・カスハラの判断基準、事例
・パターン別の対処法
・苦情対応の基本的な流れ
・顧客への接し方のポイント
・記録の作成方法
・その他注意点
・ケーススタディ
など
カスハラに関する相談窓口の設置
カスハラ対応をした従業員をケアするため・カスハラに適切に対応するためには、相談窓口を設置することが考えられます。
場合によっては、産業医や臨床心理士などの専門家と適切に連携して、従業員にトラウマが残らないようなケアを行うことが求められます。顧客からセクハラを受けた従業員には同性の相談員が対応するなど、カスハラの内容に応じたケアの方法を検討することも大切です。
カスハラが起こった場合の対応フロー
実際にカスハラをする顧客が現れた場合には、企業は以下の流れに従って対応を行いましょう。
①連絡フローに従って責任者への情報共有・引き継ぎを行う
②顧客の主張を聴き取って記録化する
③現場限りでの対応か持ち帰りかを判断する
④会社としての対応方針を決定し、顧客に通知する
⑤カスハラを受けた従業員のケアを行う
⑥カスハラ対応マニュアルを見直す
①連絡フローに従って責任者への情報共有・引き継ぎを行う
カスハラ顧客に対しては、一人で対応せずに応援を呼ぶことが大切です。
まずは対応マニュアルに定められた連絡フローに従い、現場対応の方法を判断できる責任者を呼んだうえで、情報共有や引き継ぎなどを行いましょう。
②顧客の主張を聴き取って記録化する
カスハラ顧客に会社として適切に対応するためには、顧客の主張を聴き取って、記録に残すことが必要不可欠です。
特にカスハラ顧客は、自分に都合の良い主張をする傾向にあるため、前言を翻して矛盾した言動をすることがよくあります。カスハラ顧客の主張に振り回されないように、聴き取った内容をきちんと記録として残しておきましょう。
③現場限りでの対応か持ち帰りかを判断する
カスハラが犯罪に当たる場合や深刻なトラブルに発展しそうな場合には、現場限りで対応を判断するのは危険です。クレームの内容によっては、持ち帰って本社(本部)と連携して対応する必要があります。
現場限りでの対応か持ち帰りかは、基本的には対応マニュアルに従って判断します。判断が難しい場合には、安全を期して持ち帰りを選択するのがよいでしょう。
④会社としての対応方針を決定し、顧客に通知する
その場で対応を決定せずに持ち帰った場合は、後日会社としての対応方針を決定し、その内容をカスハラをした顧客に通知します。
通知する内容は、揚げ足をとられないようによく推敲しなければなりません。顧問弁護士のアドバイスを受けるなどして、会社の公式見解を示すために十分な検討を行いましょう。
⑤カスハラを受けた従業員のケアを行う
カスハラ対応を行った従業員は、精神的に大きなダメージを受けている可能性があります。
会社としては、従業員のモチベーションを維持し、離職や休職に追い込まれないように、適切なケアを行うことが大切です。相談員が産業医や臨床心理士などと連携して、カスハラの内容に応じたケアを実施しましょう。
⑥カスハラ対応マニュアルを見直す
会社が経験したカスハラ事例からの学びは、今後のカスハラ対応に当たって大いに参考となります。
会社としての対応は適切だったかなどを検証した上で、改善すべきポイントがあれば対応マニュアルに反映し、カスハラ対応の体制をより強固なものにしていきましょう。
カスタマーハラスメント研修資料を無料配布中!
「研修でそのまま使う」「自社にあわせてカスタマイズしてから使う」などといった用途で自由にご活用ください。
参考文献
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号)