パタニティハラスメント(パタハラ)とは? 定義と事例を解説!

この記事のまとめ

パタニティハラスメント(パタハラ)とは、男性労働者が、育児のために
●育児休業・子の看護休暇・時短勤務などの制度利用を希望したこと
●これらの制度を利用したこと
を理由として、同僚や上司等から嫌がらせなどを受け、就業環境を害されること
を言います。

なお、法令や国の指針等では、パタニティハラスメントといった言葉は使用されず、パタニティハラスメント、マタニティハラスメント、ケアハラスメントの3つをまとめて、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。

この記事では、パタハラの定義・パタハラの具体例・パタハラを防止する方法などについて、分かりやすく解説します。

「パワハラ」はよく聞きますが、「パタハラ」は聞いたことがないです…。

一般的には「パワハラ」のほうが有名かもしれません。でも、実は「パタハラ」も「パワハラ」同様、法律により対応することが義務付けられています。パワハラと同じくらい重要な言葉なので、きちんと把握しておきましょう。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
育児・介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)

(※この記事は、2022年1月17日時点の法令等に基づいて作成されています。)

パタニティハラスメント(パタハラ)の定義

パタニティハラスメント(以下「パタハラ」)とは、主に男性労働者が、育児のために
●育児休業・子の看護休暇・時短勤務などの制度利用を希望したこと
●これらの制度を利用したこと
を理由として、同僚や上司等から嫌がらせなどを受け、就業環境を害されること
を言います。(育児・介護休業法25条)

第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」– e-Gov法令検索 –電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

それぞれの単語の意味は、以下のとおりです。

なお、法令や国の指針等では、パタニティハラスメント、マタニティハラスメント(以下「マタハラ」)といった言葉は使用されず、パタニティハラスメント、マタニティハラスメント、ケアハラスメントの3つをまとめて、「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼んでいます。

マタハラとの違い

マタハラ・パタハラは、法令や国の指針上使われる用語や学術的に定義されている用語ではなく、妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメントを分かりやすく説明するための造語です。

妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメントについては、当初、女性が妊娠・出産時に受けるものが注目され、「母性」や「妊娠している状態」をあらわす「マタニティ」を使用した「マタニティハラスメント」という造語がこの領域でのハラスメントを説明する用語として一般的に認知されるようになりました。

その後、父親が育児休業制度等を利用することに対する嫌がらせが社会的に注目されたことから、男性の育児に対して行われるハラスメントが「パタニティ(父性)ハラスメント」という造語で説明されるようになり、女性に対するものが「マタハラ」、男性に対するものが「パタハラ」と呼ばれるようになりました。

なお、このような造語の経緯から、「パタハラ」も含めた妊娠・出産・育児の領域で行われるハラスメント全体を「マタハラ」と呼ぶこともあります。

“妊娠・出産”自体は女性が行うことから、一般的には「マタハラ」は女性に対する“妊娠・出産・育児”に関連するハラスメント、「パタハラ」は男性に対する“育児”に関連するハラスメントであると解されています

妊娠・出産・育児の領域でのハラスメントに関する法令は、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の2種類ですが、

となります。

マタハラに関する法律

・男女雇用機会均等法
・育児・介護休業法

パタハラに関する法律

・育児・介護休業法

パタハラが注目される理由・時代背景

パタハラが注目される理由の一つとして、「子育てに関する社会の価値観が変わってきている」ことがあげられます。昔は「男性は外で働き、女性が子育てをする」という価値観が主流でした。しかし、現代は「男女ともに働き、ともに子育てをする」という価値観が主流になってきています。

また、「女性活躍推進のため・少子高齢化解消のために、男性の育児参加に期待がかかっていること」も理由です。男性が育児に参加できるようになれば、女性側の子育ての負担が軽減され、出産へのハードルが下がります。出産・育児のために女性が仕事を辞めなければならないといったケースも減少します。その結果、少子高齢化の解消や女性活躍の推進につながることが期待されています。

こうした理由から、“男性の育児参加”に注目が集まり、パタハラという言葉も注目を浴びるようになりました。

パタハラの事例

パタハラの代表的な例は、次のとおりです。

不利益な取扱いをほのめかす行為

✅ 「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休むなら辞めてもらうしかない」などと言う

✅ 時間外労働の免除を希望した部下に対して、「昇進はなくなるぞ」などと言う

「制度の利用を希望すること・利用すること」を妨害する行為

✅ 「育児休業を取得したい」という相談を受けた際、「休まれると困るから」などと言い取得を認めない

✅ 「育児休業を取得する」と聞いた後、「仕事が大変になるから育児休業は取得しないでほしい」などと迫る

✅ 「うちの部署は忙しいから、育児休業は利用しないように」などと日頃から発言している

制度を利用したことを理由に、嫌がらせをする行為

✅ 制度を利用した人に対して、嫌がらせの発言(例:「自分だけ育児休業を利用して休むなんて、周りの迷惑を考えていないよな」)を繰り返す

✅ 育児休業等の制度を利用したことを理由に、本人の意思に沿わない配置転換を命ずる

✅ 「育休をとる人には責任のある仕事を任せられない」などと言い、簡単な業務しか担当させない

日本におけるパタハラの現状

日本におけるパタハラの現状については「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(厚生労働省、2021年3月)によると、以下のとおり報告がなされています。

過去5年間にパタハラを経験した者の割合26.2%
受けたパタハラの内容1位:上司による、制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動 【53.4%】
2位:同僚による、繰り返しまたは継続的に制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動 【33.6%】
3位:繰り返しまたは継続的な嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させない、もっぱら雑務に従事させる) 【26.7%】
パタハラの行為者1位:上司(役員以外) 【66.4%】
2位:会社の幹部(役員) 【34.4%】
3位:同僚 【23.7%】
パタハラを受けて利用をあきらめた制度1位:育児休業 【42.7%】
2位:育児のための残業免除、時間外労働の制限、深夜業の制限 【34.4%】
3位:育児のための所定労働時間の短縮(いわゆる短時間勤務制度)、始業時刻変更等の措置 【31.3%】
パタハラを受けるきっかけとなった理由1位:育児休業 【49.6%】
2位:育児のための残業免除、時間外労働の制限、深夜業の制限 【38.9%】
3位:育児のための所定労働時間の短縮(いわゆる短時間勤務制度)、始業時刻変更等の措置 【29.8%】

この調査から分かるとおり、パタハラは、上司や役員などの上位の立場にあるものから行われる傾向があります。また、約5人に1人がパタハラを経験しており、男性が育児休業等の制度を活用しやすい環境になっているとは言い難い状況です。

パタハラが発生する原因

パタハラが発生する原因は、主に3つあります。

1つ目は、「職場風土の問題」です。

といった風土があると、パタハラが起きやすくなります。特に、忙しい職場・人手不足の職場では、上記のような職場風土になる可能性が高いです。

2つ目は、「育児休業等に関する制度の周知不足」です。「育児休業等に関する制度があること・制度を利用できること」を知らない社員が多いなかで、育児休業等を取得しようとすると、「忙しいのに、あの人だけずるい」といった意識などを生む可能性があります。

3つ目は、「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス:自分自身が気づいていない、偏った思考パターン)」です。パタハラに関して例をあげると、「育児は女性が行うもの。男性は子どもが産まれても休まず仕事をすべき」という無意識の偏見を持っているとします。そうすると、そうした偏った思考パターンに言動が影響を受けます。その結果、育休を申請してきた部下に「男なんだから、仕事を休む必要はないだろう」などと発言し、無意識にパタハラを行ってしまう可能性があります。

これら3つの原因を解消していくことが、パタハラの防止につながります。具体的には、

など、様々な取組みを行うのが良いでしょう。

事業主による不利益取扱いの禁止

育児・介護休業法は、パタハラ防止のため様々な規定を置いていますが、最も古くから規定があり、パタハラ防止の中核となるのが、事業主による不利益取扱いの禁止です。

事業主は、育児・介護休業法10条等により「育児休業の申出・取得等を理由として、不利益取扱いを行うこと」を禁止されています。

(不利益取扱いの禁止)
第10条 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

不利益取扱いとは、育児休業等を申請・利用する労働者に対して、以下のような行為を行うことを指します。

不利益取扱いの例

①解雇
②契約更新の拒否
③雇用形態を、正社員からパートタイム労働者へと強制的に変更
④降格
⑤減給
⑥昇進等において、不利益な評価を行うこと
⑦不利益な配置転換をすること
⑧一方的に自宅待機を命じること

なお以下の場合には、不利益取扱いを行ったとしても例外的に法律違反にはなりません。

業務上の必要性から不利益取扱いをせざるを得ず、かつ、業務上の必要性がその不利益取扱いにより受ける影響を上回ると認められる特段の事情がある場合
労働者がその取扱いに同意している場合で、かつ、有利な影響が不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者なら同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

パタハラに対する責務

2019年の育児・介護休業法改正により、パタハラ防止のための国・事業主・従業員の責務に関する規定が追加されました。(育児・介護休業法25条の2)

追加された条項により、「パタハラ防止のため、事業主・従業員にはそれぞれどのような責務が生じているのか」について説明します。

事業主の責務

事業主には、育児・介護休業法25条の2第2項、第3項により、以下の責務が課せられています。

(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)
第25条の2
1 (略)
2 事業主は、育児休業等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 (略)

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

労働者の責務

労働者には、育児・介護休業法25条の2第4項により、以下の責務が課せられています。

(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)
第25条の2
1~3 (略)
4 労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。

「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

パタハラを防止するために講ずべき措置

事業主には、育児・介護休業法により、「育児休業に関わる言動で労働者の就業環境が害されないよう、防止措置を講じる義務」が課されています(育児・介護休業法25条)。

企業は、以下のとおりパタハラ防止のための措置を講じる必要があります。

事業主がパタハラを防止するために講ずべき措置

①パタハラ(マタハラ・ケアハラ等含む。以下同じ)を防止するための方針を明確化し、それらを周知・啓発すること
②パタハラに関する相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
③パタハラが発生した後に、迅速かつ適切な対応をとること
④“パタハラの原因や背景となる要因”を解消するための措置を講じること
⑤その他、①~④と併せて措置を講じること

①~⑤について、具体的に何をすべきなのかを解説します。

①パタハラを防止するための方針を明確化し、それらを周知・啓発すること

事業主は、就業規則や行動規範などに以下の内容を明記し、労働者(管理職・役員含む)に周知・啓発していく必要があります。

周知・啓発は、メールの送付・ポスターの掲示・研修などにより行います。

②パタハラに関する相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること

事業主は、パタハラに関する相談に適切に対応するべく、以下の義務を負っています。

窓口の設置に当たっては、「相談のための手段を複数用意する」「ハラスメントに関する相談窓口は、1つの窓口に統一する」など、利用されやすい窓口とすることがポイントです。

③パタハラが発生した後に、迅速かつ適切な対応をとること

パタハラに限らずハラスメントは放置すればするほど、事態が悪化する可能性が高いです。
パタハラが発生したら、以下のとおり対応する必要があります。

④“パタハラの原因や背景となる要因”を解消するための措置を講じること

事業主は、パタハラが発生したら、その原因や背景となる要因を解消するための措置を講じなければなりません
パタハラが発生する原因」でも一部解説したとおり、パタハラの発生には様々な原因が関係していますが、こうした原因を放置したままでいると、またパタハラが発生する可能性が高くなります。

パタハラが発生してしまった場合は、「育児休業等の制度について、誰もが取得できる権利であり利用するのは良いことといった意識を醸成する」「誰かが休業しても業務の負担が重くならないよう業務改善や業務分担の変更・コミュニケーションの改善を行う」など、原因を取り除く措置を考え実行しましょう。

なお、厚生労働省の指針では、事業主は以下の措置をとる必要があるとされています。

⑤その他、①~④と併せて措置を講じること

その他の措置として、企業は以下2つの措置も講じる必要があります。

この記事のまとめ

パタハラの記事は以上です。

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参考文献

石嵜信憲編著、豊岡啓人・松井健祐・藤森貴大・山崎佑輔著『ハラスメント防止の基本と実務』中央経済社、2020年

厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!」

厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」