【2025年4月施行】
東京都カスハラ防止条例とは?
基本的な考え方・内容・企業の対応を
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

東京都議会は2024年10月4日、顧客による著しい迷惑行為の防止を目的とした「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下、東京都カスハラ防止条例)を、全国で初めて可決・成立させました。東京都カスハラ防止条例は、2025年4月1日から施行される予定です。

東京都カスハラ防止条例では、カスハラの一律禁止を掲げているほか、
カスハラ防止に関する基本理念
各主体(都・顧客等・就業者・事業者)の責務
カスハラ防止指針の作成・公表
などを定めています。

罰則規定は設けられていませんが、カスハラは違法である旨が条例上明記されたことにより、カスハラ被害の減少・緩和が期待されます。

この記事では東京都カスハラ防止条例について、基本的な考え方や具体的な内容を詳しく解説します。

ヒー

全国で初めてカスハラを違法とする条例ができたと聞きました。どんな内容なのでしょうか?

ムートン

2024年10月に東京都カスハラ防止条例が成立しました。他の自治体も続くかもしれませんね。罰則規定はありませんが、企業の対応にも役立つでしょう。詳細を解説します!

※この記事は、2024年10月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
東京都カスハラ防止条例、条例…東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
労働施策総合推進法…労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(東京都カスハラ防止条例)とは

東京都議会は2024年10月4日、顧客による著しい迷惑行為の防止を目的とした「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下「東京都カスハラ防止条例」といいます。)を可決・成立させました。カスタマーハラスメント(カスハラ)を禁止する条例の制定は、全都道府県で初となります。

参考:東京都産業労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(新設)議案」

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは、顧客が企業に対して理不尽なクレームや言動をすることをいいます。正当なクレームとカスハラの違いは、要求内容の妥当性や、要求を実現するための手段・態様の相当性に照らして判断されます。

例えば以下のような行為は、カスハラに当たります。

・店員を怒鳴りつける
・店員に土下座を要求する
・不手際のお詫びに、店舗の商品を無料で提供するようにしつこく要求する
・顧客自ら商品を壊した上で「商品が壊れていた」とクレームを入れる
など

ムートン

カスハラを理由とする離職や休職などの増加は、社会問題にもなっています。

カスハラに関する法規制の現状

カスハラに対しては、法律レベルで以下のような規制が適用されることがあります。

カスハラをした者に対する規制

① 損害賠償責任
カスハラをした者は、被害を受けた事業者やその従業員に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。

② 刑事上の責任
カスハラをした者には、以下のような犯罪が成立することがあります。
(a) 対応した従業員などに暴力を振るった場合
暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)

(b) 対応した従業員や事業者の名誉を傷つける発言をした場合
名誉毀損罪(刑法230条1項)、侮辱罪(刑法231条)

(c) 対応した従業員や事業者に対して脅迫を行った場合
脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法223条)

(d) 暴行や脅迫などによって事業者の業務を妨害した場合
威力業務妨害罪(刑法234条)

(e) 著しく粗野または乱暴な言動で他の客に迷惑をかけた場合
軽犯罪法違反(同法1条5号)

事業者に対する規制

① 従業員に対する安全配慮義務
事業者が従業員をカスハラから守るための対策を怠った場合には、従業員に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(労働契約法5条)。

② カスハラ対応に必要な体制を整備する義務
事業者は、職場におけるパワハラを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
事業主が講ずべきパワハラ防止措置のあり方を示した厚生労働省指針において、顧客等からの著しい迷惑行為(=カスハラ)によって労働者の就業環境が害されることのないように、以下の取り組みを行うことが望ましいとされています。

(a) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談先をあらかじめ定め、労働者に周知する
・相談を受けた者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにする

(b) 被害者への配慮のための取り組み
・被害者のメンタルヘルス不調への相談対応
・著しい迷惑行為を行った者に、従業員一人で対応させない

しかし、これらの規制はいずれも、カスハラ防止に焦点を当てたものではありません。今回制定された東京都カスハラ防止条例は、カスハラをピンポイントで規制するものである点が画期的であり、注目されます。

東京都カスハラ防止条例の制定日・施行日

東京都カスハラ防止条例の制定日および施行日は、以下のとおりです。

制定日・施行日

制定日|2024年10月4日
施行日|2025年4月1日

東京都カスハラ防止条例の3つの基本的な考え方

東京都カスハラ防止条例では、以下の3つの基本的な考え方を柱とした規制が定められています。

① 何人もあらゆる場においてカスタマーハラスメントを行ってはならないとして、カスタマーハラスメントの一律禁止を定めています。

② カスタマーハラスメントの防止に関する基本理念を定め、各主体(都・顧客等・就業者・事業者)の責務を定めています。

③ カスタマーハラスメントの防止に関する指針の作成・公表や、都が実施する施策の推進、および事業者による措置等を定めています。

東京都カスハラ防止条例の内容

東京都カスハラ防止条例の主な内容を、以下の項目に沿って解説します。

① カスハラの定義
② カスハラ防止に関する基本理念
③ カスハラの一律禁止
④ 適用上の注意|顧客等の権利を不当に侵害しないこと
⑤ カスハラ防止に関する都・顧客等・就業者・事業者の責務
⑥ カスハラ防止に関する都と区市町村の連携
⑦ カスハラ防止指針の作成・公表
⑧ カスハラ防止指針に基づく施策の推進・財政上の措置

カスハラの定義

東京都カスハラ防止条例において、「カスタマー・ハラスメント」は「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義されています(条例2条5号)。

上記の定義に関連する用語の定義も、以下のとおり示されています(同条1号~4号)。

(a) 事業者
都の区域内(=都内)で事業(非営利目的の活動を含む)を行う法人その他の団体(国の機関を含む)、または事業を行う場合における個人

(b) 就業者
都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む)

(c) 顧客等
就業者から商品またはサービスの提供を受ける者(=顧客)、または就業者の業務に密接に関係する者

(d) 著しい迷惑行為
暴行、脅迫その他の違法な行為または正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為

カスハラ防止に関する基本理念

カスハラの防止に関して、以下の2つの基本理念が示されています(条例3条)。

カスハラ防止に関する2つの基本理念

(a) カスタマー・ハラスメントは、就業者の人格や尊厳を侵害するなど就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすものであるとの認識の下、社会全体でその防止が図られなければならないこと

(b) カスタマー・ハラスメントの防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならないこと

カスハラの一律禁止

「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と定め、カスハラの一律禁止を明記しています(条例4条)。

ただし、カスハラをした者に対する具体的な罰則定められていません。都民に対して、カスハラは違法であるという意識づけをすることを目的とした規定と考えられます。

適用上の注意|顧客等の権利を不当に侵害しないこと

東京都カスハラ防止条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないとされています(条例5条)。
顧客の要求やクレームが正当なものであるにもかかわらず、それをカスハラだと不当に非難して対応を拒否することは認められません。

カスハラ防止に関する都・顧客等・就業者・事業者の責務

カスハラ防止に関して、都・顧客等・就業者・事業者がそれぞれ果たすべき責務を定めています(条例6条~9条)。

都の責務

は、カスハラ防止に関する基本理念にのっとり、顧客等・就業者・事業者に対して以下の施策を行うものとされています(条例6条)。

カスハラ防止に関して都が行うべき施策

(a) カスタマー・ハラスメントの防止に関する情報の提供
(b) カスタマー・ハラスメントの防止に関する啓発および教育
(c) カスタマー・ハラスメントの防止に関する相談および助言
(d) その他必要な施策

顧客等の責務

顧客等には、カスハラ防止に関して以下の努力義務が課されています(条例7条)。

カスハラ防止に関する顧客等の努力義務

(a) 基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、就業者に対する言動に必要な注意を払うこと

(b) 都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力すること

就業者の責務

就業者には、カスハラ防止に関して以下の努力義務が課されています(条例8条・14条2項)。

カスハラ防止に関する就業者の努力義務

(a) 基本理念にのっとり、顧客等の権利を尊重し、カスタマー・ハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動をとること

(b) 自らの業務に関して事業者が実施する、カスタマー・ハラスメントの防止に関する取り組みに協力すること

(c) 事業者がカスタマー・ハラスメント防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守すること

事業者の責務

事業者には、カスハラ防止に関して以下の努力義務が課されています(条例9条・14条1項)。

カスハラ防止に関する事業者の努力義務

(a) 基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力すること

(b) 自らの事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずること

(c) 自らの事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずること

(d) カスハラ防止指針(後述)に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずること

カスハラ防止に関する都と区市町村の連携

都は、カスタマー・ハラスメント防止施策の実施に当たり、特別区および市町村との連携を図るよう努めるものとされています(条例10条)。
具体的な連携の内容は、各区市町村におけるカスハラの実情を踏まえて、都と区市町村が密接にコミュニケーションをとりつつ判断することが期待されます。

カスハラ防止指針の作成・公表

都は、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(=カスハラ防止指針)を定め、公表するものとされています(条例11条1項・3項)。

カスハラ防止指針には、以下の事項が定められます(同条2項)。

カスハラ防止指針に定めるべき事項

(a) カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項
(b) 顧客等、就業者および事業者の責務に関する事項
(c) 都の施策に関する事項
(d) 事業者の取組に関する事項
(e) 上記のほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な事項

ヒー

「カスハラ防止指針(ガイドライン)」の内容も気になります。

ムートン

ガイドラインは、こちらで公開されています。ポイントを以下にまとめました。

カスハラ防止指針(ガイドライン)のポイント(案)

(a) カスタマーハラスメントの内容に関する事項
(b) 顧客等、就業者、事業者の責務に関する事項
(c) 都の施策
・都の責務
・カスタマーハラスメント防止施策の推進
(d) 事業者の取組
・必要な体制の整備
・カスタマーハラスメントを受けた者への配慮
・カスタマーハラスメント防止のための手引(マニュアル)の作成
・その他の措置
(e) その他カスタマーハラスメントを防止するために必要な事項

参考:東京都TOKYOはたらくネット「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」

カスハラ防止指針に基づく施策の推進・財政上の措置

都はカスハラ防止指針に基づき、以下のカスタマー・ハラスメント防止施策を実施するものとされています(条例13条1項)。

都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策

(a) 都の支援事業等に関する情報の提供
(b) カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動に関する啓発および教育
(c) 就業環境に関する相談および助言
(d) 消費生活に関する相談および助言
(e) 就業者の安全及び健康の確保に関する相談および助言
(f) 上記のほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な施策

カスタマー・ハラスメント防止施策の実施および実施状況の検証に当たっては、都が関係機関等の意見を聴いた上で、施策に反映するよう努めるものとされています(同条2項)。

また、都はカスタマー・ハラスメント防止施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとされています(条例12条)。

東京都カスハラ防止条例に関する企業の対応

東京都カスハラ防止条例は主に努力義務規定で構成されており、企業に対して具体的な罰則を科すものではありません

しかし、カスハラは従業員に精神的ダメージを与え、事業場の就業環境を害するおそれがあります。このようなリスクを防ぐため、都内で事業を行う企業は、東京都カスハラ防止条例や今後制定される指針を踏まえたカスハラ防止の取り組みをすることが望ましいでしょう。

「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考に

カスハラ防止対策への取り組みに当たっては、厚生労働省が策定・公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアルが参考になります。

企業が具体的に取り組むべきカスハラ防止対策が例示されているので、参考にしつつ自社の状況に合わせた対策を検討しましょう。

参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
ムートン

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参考文献

東京都産業労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(新設)議案」

東京都産業労働局「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」