譲渡担保とは?
抵当権や質権との違い・メリット・
設定方法・実行方法などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「譲渡担保」とは、債権者に対して所有権を形式的に譲渡する方式の担保権です。
不履行が発生した際には、譲渡担保権者は担保物の所有権を自ら取得するか、または換価処分することができます。その際、被担保債権よりも担保物の価値が高かった場合は、差額を清算金として担保設定者に返還しなければなりません。
譲渡担保には、競売などの裁判手続きを経ることなく、債権者が私的に実行できるなどのメリットがあります。
その反面、特に不動産の譲渡担保については、後順位の担保権を設定することが難しくなる点、債務不履行発生前に債権者が勝手に不動産を処分するリスクがある点、登録免許税が高くなる点などのデメリットがあります。譲渡担保権を設定する際には、担保権者と設定者の間で譲渡担保設定契約を締結した後、登記などの対抗要件を具備します。
債務不履行の発生後、譲渡担保権を実行する方法には、「帰属清算方式」と「処分清算方式」の2種類があります。
帰属清算方式では、担保物の価値を適正に評価した上で清算金額を計算します。これに対して処分清算方式では、原則として実際の処分価額を基準に清算金額を計算します。この記事では譲渡担保について、法的効果・メリットやデメリット・設定方法・実行方法などを解説します。
※この記事は、2024年10月11日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 動産・債権譲渡特例法…動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律
目次
譲渡担保とは
「譲渡担保」とは、債権者に対して所有権を形式的に譲渡する方式の担保権です。民法には定めがありませんが、慣習によって譲渡担保が認められています。
担保権とは
「担保権」とは、被担保債権が不履行となった場合に、担保物の売却などによって強制的に債権を回収することができる権利です。
例えば、A銀行がB社に対してお金を貸し、貸付債権を担保するため不動産Xに担保権が設定されたとします。
もしB社がA銀行への返済を怠ったら、A銀行は担保権を実行して不動産Xの競売などを行い、それによって得た金銭などの価値から残高を強制的に回収することができます。
担保権は、民法に明記されている「典型担保」と、民法に明記されていないものの慣習上認められている「非典型担保」の2つに大別されます。
典型担保に当たるのは、留置権・先取特権・質権・抵当権の4つです。
非典型担保の例としては、譲渡担保・所有権留保・仮登記担保などが挙げられます。譲渡担保は非典型担保の一種です。
譲渡担保の法的効果
譲渡担保権者は、被担保債権が不履行となった場合に、担保物の所有権を自ら取得するか、または担保物を換価処分することができます。
譲渡担保権者が自ら担保物の所有権を取得する場合は、担保物の価値相当額が被担保債権に充当されます。
担保物を換価処分する場合は、処分によって得た代金が被担保債権に充当されます。
上記の弁済充当により、譲渡担保権者は被担保債権を強制的に回収することができます。なお、弁済充当によって被担保債権が完済され、なお残額がある場合は、その残額を清算金として担保設定者に返還しなければなりません。
譲渡担保と通常の譲渡の違い
譲渡担保が設定されると、担保物の所有権は形式上、設定者から譲渡担保権者に移転します。
しかし通常の譲渡とは異なり、譲渡担保による所有権の移転は、あくまでも担保目的によるものに過ぎません。そのため、譲渡担保権者による所有権の行使は、担保目的に必要な範囲内に限定されます。
通常の譲渡の場合、譲受人は目的物の完全な所有権を取得し、目的物を自由に処分できるようになります。
これに対して譲渡担保では、被担保債権が期日どおりに支払われている限り、譲渡担保権者は担保物を処分することができません。被担保債権が不履行となって初めて、譲渡担保権者は担保物を処分できるようになります。
また、目的物を処分した後に残った金銭(利益)についても、通常の譲渡と譲渡担保の間には大きな違いがあります。
通常の譲渡では、譲受人が目的物を処分して利益を得た場合、その利益は全額譲受人のものです。
これに対して、譲渡担保権者が担保物の処分等を行い、その価値を被担保債権の弁済に充当した後で残額がある場合は、その残額を清算金として設定者に返還しなければなりません。譲渡担保権者が回収できる価値は、被担保債権の額に限定されています。
譲渡担保と抵当権の違い
不動産を担保にとる際には「抵当権」を設定するのが一般的ですが、不動産には譲渡担保を設定することもできます。
抵当権は、民法に定められた典型担保の一つです。被担保債権が不履行となった場合、抵当権者は抵当物の競売などによって、強制的に被担保債権を回収することができます。
抵当権の実行は、民事執行法に基づく競売か、または担保不動産収益執行(=不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法)によって行うものとされています。
上記の執行手続きによらず、抵当権者が勝手に抵当物を売却することはできません(抵当権者と抵当権設定者の合意により、抵当権者による任意売却を認めるケースはありますが、抵当権の内容として当然に認められるわけではありません)。
これに対して譲渡担保は、民事執行法上の執行手続きによらず、譲渡担保権者が私的に実行することが慣習上認められています。具体的には、譲渡担保権者が自ら担保物の所有権を取得したり、自分で売却先を探してきて売却したりすることが認められています。
譲渡担保と質権の違い
抵当権や譲渡担保と並んで、「質権」も活用される場面の多い担保権の一つです。
質権は、債権者が設定者から受け取った物を占有し、その物につき他の債権者に先立って被担保債権の弁済を受けることができる権利です。
質権は、主に動産を担保にとる際に活用されますが、不動産にも質権を設定することが認められています。譲渡担保は、動産・不動産のいずれに対しても設定できます。
質権の実行も、抵当権と同様に、民事執行法に基づく競売などによって行うものとされています。契約などの設定行為により、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させる旨を約することはできません(民法349条)。
これに対して、譲渡担保について私的実行が認められているのは前述のとおりです。
また、質権の設定は、設定者が債権者に対して目的物を引き渡すことによって初めて効力を生じます(民法344条)。したがって、設定者が目的物を占有したまま質権を設定することはできません。
これに対して譲渡担保では、設定者が譲渡担保権者に対して目的物を引き渡す必要がありません。設定者が目的物の使用を続けたい場合には、質権よりも譲渡担保の方が適しています。
譲渡担保のメリット・デメリット
譲渡担保には、競売などの裁判手続きを経ることなく、債権者が私的に実行できるなどのメリットがあります。
その反面、特に不動産の譲渡担保については、後順位の担保権を設定することが難しくなる点、債務不履行発生前に債権者が勝手に不動産を処分するリスクがある点、登録免許税が高くなる点などのデメリットがあります。
譲渡担保のメリット
譲渡担保の最大のメリットは、被担保債権の不履行が生じた場合に、債権者が私的に担保実行をすることができる点です。
抵当権や質権の実行は、民事執行法上の手続きによらなければならず、時間や費用がかかります。これに対して、譲渡担保権の実行は債権者が任意の方法で進められるため、実行完了までの時間短縮や費用負担の軽減が期待できます。
譲渡担保のデメリット
譲渡担保については、特に不動産を担保物とする際に以下のデメリットが生じます。
① 後順位の担保権を設定することが難しくなる
譲渡担保権の法的性質には不明確な部分があるため、譲渡担保に後れる順位の担保権設定の有効性について、学説上の見解が分かれています。
担保権が無効となるリスクを考慮すると、譲渡担保が設定されている不動産について後順位担保権を設定することは、基本的に避けるべきです。
② 債務不履行が発生する前に、債権者が勝手に不動産を処分するリスクがある
被担保債権の債務不履行がまだ生じていないにもかかわらず、譲渡担保権者が所有権登記を悪用して、第三者に対して担保物を勝手に処分してしまうケースがあります。
※登記原因を「譲渡担保」と明記しておけば、上記のリスクを抑えることができます。
③ 担保権設定時の登録免許税が高くなる
抵当権設定登記の登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。
これに対して、譲渡担保を設定する場合の所有権移転登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の2%であり、抵当権よりも割高となっています。
譲渡担保の設定方法
譲渡担保権を設定する際には、担保権者と設定者の間で譲渡担保設定契約を締結した後、登記などの対抗要件を具備します。
譲渡担保設定契約を締結する
まずは、譲渡担保権者と設定者の間で譲渡担保設定契約を締結します。
譲渡担保設定契約では、被担保債権を特定する情報(契約などの発生原因や金額など)、対抗要件具備の方法、譲渡担保の実行方法などを定めます。
対抗要件を具備する
譲渡担保設定契約の締結後、譲渡担保について対抗要件具備の手続きを行います。
不動産については、所有権移転登記手続きによって譲渡担保の対抗要件を具備します(民法177条)。
動産については、引渡しによって譲渡担保の対抗要件を具備するのが原則です(民法178条)。
ただし、動産譲渡登記ファイルへの登記による対抗要件具備が認められているほか(動産・債権譲渡特例法3条)、自動車については登録が対抗要件とされている(道路運送車両法5条)などの例外があります。
債権については、債務者との関係では、債務者に対する通知または債務者の承諾によって対抗要件を具備します(民法467条1項)。
第三者との関係では、上記の通知または承諾を確定日付のある証書によって行うことで対抗要件を具備するのが原則です(同条2項)。ただし、債権譲渡登記ファイルへの登記による対抗要件具備も認められています(動産・債権譲渡特例法4条)。
譲渡担保の実行方法
被担保債権が不履行となった後、譲渡担保を実行する方法には「帰属清算方式」と「処分清算方式」の2種類があります。どちらの方式を選択するかについては、譲渡担保設定契約であらかじめ合意しておきましょう。
方法1|帰属清算方式
帰属清算方式は、担保物の価値を適正に評価した上で、評価額と被担保債権額の差額を清算する方法です。
譲渡担保権者は、設定者に対して清算金の支払いまたは提供を行い、担保物の引渡しを請求することができます。引渡しを受けた担保物について、譲渡担保権者は完全な所有権を取得するため、その後自由に処分できるようになります。
方法2|処分清算方式
処分清算方式は、譲渡担保権者が担保物を処分した上で、処分代金と被担保債権額の差額を清算する方法です。
譲渡担保権者は、清算金の支払いまたは提供を行わずとも、担保物を処分することができます。処分が完了した後、処分代金と被担保債権額の差額に当たる清算金を設定者に交付します。
ただし、処分代金が不相当に低額な場合には、設定者は譲渡担保権者に対して、相当な価額との差額の返還を請求する余地があります。
特殊な方式の譲渡担保|集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保
譲渡担保は、一定の範囲に属する動産や債権の集合体に対して設定することもできます。
動産の集合体を目的物とするものは「集合動産譲渡担保」、債権の集合体を目的物とするものは「集合債権譲渡担保」といいます。
集合動産譲渡担保と集合債権譲渡担保の大きな特徴は、担保物の入れ替わりが生じる点です。
集合動産譲渡担保では所在場所、集合債権譲渡担保では債権の発生原因などによって担保物の範囲が定められます。動産や債権がその範囲に入ったり、その範囲から外れたりすることによって、担保物が入れ替わります。
集合動産譲渡担保または集合債権譲渡担保を設定する際には、設定契約において担保物の範囲を明確に定めておくことが大切です。