質権とは?
抵当権や担保権との違い・発生要件・
対抗要件などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

質権(しちけん)とは、債権者債権担保として、債務者または第三者から受け取った物を占有し、債務不履行時にその物を処分して弁済を受ける権利です。以下の3つに分類されます。
動産質(どうさんしち)
不動産質(ふどうさんしち)
権利質(けんりしち)

質権については、設定・質権者による占有・実行・消滅などにつき、民法で詳細に規定されています。質権を利用した担保取引を行う事業者は、質権に関するルールを正しく理解しておきましょう。 この記事では、質権について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

江戸時代のことわざに「初鰹は女房を質に入れてでも食え」っていうのがありますよね?

ムートン

ずいぶん古いことわざを知っていますね。そのことわざに出てくる「質(権)」がまさにこの記事のテーマです。

※この記事は、2023年8月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

質権とは

質権(しちけん)とは、債権者債権担保として、債務者または第三者から受け取った物を占有し、債務不履行時にその物を処分して弁済を受ける権利です。

ムートン

質権は、借金で例えるとイメージしやすいです。
お金を貸すとき、貸す側は「お金が返済されないリスク」を負います。しかし、質権があるおかげで、お金を貸す側は、借りる側から価値のある物をあらかじめ預かっておき、返済がされなかった場合には、その預かった物を処分して返済に充てることができます。

【質権のイメージ】

質権は担保権の一種

質権は、担保権(担保物権)と呼ばれる権利の一種です。

担保権(担保物権)とは、債務不履行が発生した場合に、担保として預かった物を処分し、その代金から債権を回収できる権利です。

質権と抵当権の違い

質権と並んで、代表的な担保権(担保物権)であるのが「抵当権」です。

質権は動産・不動産・権利に設定できるのに対して、抵当権を設定できるのは不動産・地上権・永小作権のみです(民法369条)。

また、質権の場合は質物を質権者が保管するのに対して、抵当権の場合は抵当物を所有者が管理し、使用収益を継続するという違いがあります。

質権の種類

質権には、「動産質」「不動産質」「権利質」の3種類があります。

動産質

動産質(どうさんしち)」とは、動産(不動産以外の物)に設定される質権です。

例えば質屋は、客からブランド品などを預かる際、客に対して金銭を交付します。

この段階では、まだ質屋がブランド品を買い取ったわけではなく、質権が設定されただけです。期日までに客から金銭が返されなかった場合に、質屋は初めてブランド品を処分できます。

上記のような質屋のケースは、動産質の典型例です。

不動産質

不動産質(ふどうさんしち)とは、不動産(動かすことのできない物。例えば土地や建物)に設定される質権です。不動産を担保にとる際には抵当権が設定されることが多いですが、質権も設定できます。

抵当権の場合、不動産は抵当権設定者(=債務者または第三者)が引き続き使用収益できます。これに対して質権の場合は、質権者が不動産を管理し、使用収益も質権者が行います。

権利質

権利質(けんりしち)とは、財産権に設定される質権です。

例えば貸金債権(お金を返済してもらえる権利)に質権を設定した場合において、被担保債権に債務不履行が発生したときは、質権者は貸金債権の債権者に代わって取り立てを行うことができます。

【イメージ】

質権の発生要件|質権設定契約の締結・質物の引渡し

質権を発生させるには、質権設定者(=質物の所有者)と質権者の間で質権設定契約を締結し、その契約に基づいて、質権設定者が質権者に質物を引き渡すことが必要です(民法344条)。

ただし、電子記録債権(=企業が保有する手形や売掛債権を電子化したもの)については、質権設定記録が効力発生の要件とされています(電子記録債権法36条1項)。

流質契約の禁止

流質契約(りゅうしちけいやく)とは、債務者(質権設定者)が弁済できない場合には、預かった質物を、法律に定める方法(=民事執行法に基づく競売)によらないで質物を処分するという契約です。

質権設定契約内で、流質契約を定めることは禁止されています。また、質権設定後であっても、弁済期前の段階では同様に、流質契約は禁止です(民法349条)。

流質契約が禁止されているのは、債務者(質権設定者)は融資を受けようとする弱い立場であるが故に、債務額に比べてかなり高価な物に質権を設定するなど、不利な内容の契約を締結することが多いからです。このような事情を踏まえて、債務者を保護するために流質契約が禁止されています。

なお、被担保債権の弁済期到来後に流質契約を締結することは妨げられません。

質権設定者による代理占有は禁止

質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができません(民法345条)。質権者に質物を保管させるという、質権の本質に反する行為だからです。

質権の対抗要件

質権の存在を第三者に対して主張するためには、対抗要件を備える必要があります。
質権の対抗要件は、その種類によって以下のとおり異なります。

①動産質の対抗要件
継続して質物を占有することが対抗要件とされています(民法352条)。

②不動産質の対抗要件
質権の登記が対抗要件とされています(民法177条)。

③権利質の対抗要件
第三債務者(=質物である債権の債務者)にその質権の設定を通知し、または第三債務者が承諾することが対抗要件とされています。上記の通知または承諾は、確定日付のある証書によってすることが必要です(民法364条、467条)。

質権の効力の内容・範囲

質権者は、質権に基づいて以下の権利を有します(民法342条)。

①質物を占有する権利
②債務不履行が発生した際、質物について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利

なお、上記の質権の効力は、質物そのものに加えて、その付合物・従物にも及ぶとされています(民法242条、243条、87条2項)。

物上代位について

質物が売却・賃貸された場合、または滅失・損傷した場合には、それによって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、質権者は質権を行使できます(民法350条、304条)。これを物上代位といいます。

例えば、質権が設定されている不動産が火災により滅失し、債務者は火災保険金を受け取れることになったとします。この場合、質権者は火災保険金に対して質権を行使できます。

ただし、質権の物上代位をする際には、払い渡しまたは引き渡しの前に差し押えをしなければなりません。

ムートン

上記のケースでは、火災保険金が債務者に支払われる前に、質権者は保険金請求権を差し押さえる必要があります。

質権により担保される債権(=被担保債権)の範囲

質権は、以下の費用および損害を担保します。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、その定めに従います(民法346条)。

  • 元本
  • 利息
  • 違約金
  • 質権の実行の費用
  • 質物の保存の費用
  • 債務不履行または質物の隠れた瑕疵によって生じた損害

質権者が占有する質物の取り扱い

質権者は質物を占有している間、民法のルールに従って管理等を行う必要があります。

質権者は占有について善管注意義務を負う

質権者は、善良な管理者の注意をもって、質物を占有しなければなりません(民法350条、298条1項)。

質権者が故意(わざと)または過失(うっかり)によって質物を滅失・損傷させた場合には、質権設定者に対して損害賠償責任を負います。

無断使用・収益・担保提供は原則禁止|ただし不動産は使用収益可能

質権者は、債務者(質権設定者)の承諾を得なければ、質物を使用・賃貸すること、または担保に供することができません(ただし、保存行為は可能。民法350条、298条2項)。

ただし、例外的に不動産質については、質権者による使用収益が認められています(民法356条)。

質権者は質物から生ずる果実を収受できる|弁済に充当可能

質権者は、質物から生ずる果実(質物から生まれた利益など)を収受し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充当できます(民法350条、297条)。

例えば、質権が設定された不動産の賃貸によって得られる賃料収入は、質権者が収受した上で随時弁済に充てることができます

質物の保管に必要な費用の負担について

質物の保管に必要な費用は、質権設定者が負担するのが原則です。質権者が質物について必要費を支出したときは、質権設定者に償還を請求できます(民法350条、299条1項)。

ただし、例外的に不動産質については、質権者が管理の費用等を負担します(民法357条)。

転質について

転質(てんしち)とは、質物に対して、質権者がさらに質権を設定することをいいます。

【転質のイメージ】

質権者は、自己の責任で転質をすることができます。この場合、転質によって生じた損失については、不可抗力によるものであっても質権者が責任を負わなければなりません(民法348条)。

質権の実行方法

質権の実行方法は、質権の種類(動産質・不動産質・権利質)によって異なります。

動産質の実行方法

動産質は、動産競売(民事執行法190条)によって実行するのが原則です。動産競売は、動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室に申し立てます。

ただし正当な理由がある場合には、鑑定人の評価に従い、質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求できます。この場合、動産質権者はあらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければなりません(民法354条)。

不動産質の実行方法

不動産質は、担保不動産競売(民事執行法180条1号)によって実行する必要があります。担保不動産競売は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます。

権利質の実行方法

権利質を実行する際には、質権の目的である債権を直接取り立てることができます(民法366条1項)。

債権の目的物が金銭であるときは、質権者の債権額に対応する部分に限って取り立てが可能です(同条2項)。例えば200万円の債権に質権が設定されており、100万円の被担保債権が不払いとなった場合、質権者は100万円に限って取り立てができます。

なお、権利質の目的である債権の弁済期が、被担保債権の弁済期より前に到来したときは、質権者は第三債務者(=権利質の目的である債権の債務者)に対して、被担保債権の金額を供託させることができます(民法366条3項)。この場合、質権者は供託金に対して質権を行使可能です。

質権が消滅するケース

質権は、以下のいずれかの事由が発生した場合に消滅します。

①被担保債権の弁済
②目的物の滅失・混同
③質権の放棄
④質権者による消滅請求
⑤不動産の第三取得者による消滅請求
⑥期間の満了
⑦不動産質の代価弁済

被担保債権の弁済

質権によって担保されている債権(=被担保債権)が弁済により消滅した場合は、質権も消滅します。

ムートン

つまり、お金を貸して、きちんとお金が返ってきた場合のことですね。

被担保債権の消滅に伴って消滅するのは、「付従性」と呼ばれる担保権に共通する性質です。他の担保権(抵当権など)と同様に、質権も被担保債権が弁済されれば消滅します。

目的物の滅失・混同

目的物(質物)が滅失した場合には、その物に対する質権は消滅します。ただし質権者は、滅失により債務者が受けるべき金銭等について、物上代位により質権の行使が可能です(民法305条、304条)。

また、質権者が質物の所有者となった場合には、混同により質権が消滅します(民法179条)。混同が発生するのは、例えば質権者が質権設定者から質物を購入した場合などです。

ただし例外的に、質物または質権が第三者の権利の目的である場合には、質権者が質物の所有者となったとしても質権は消滅しません(例:転質がなされている場合)。

質権の放棄

質権者は、質権を放棄できます。質権が放棄された場合、質権は消滅します。

質権者による消滅請求

前述のとおり、質権者には質物の保管等に関して、以下の事項を遵守する義務を負います(民法350条、298条1項・2項)。

  • 質権者は、善良な管理者の注意をもって、質物を占有しなければなりません。
  • 質権者は、質権設定者の承諾を得なければ、質物を使用・賃貸し、または担保に供することができません。

質権者が上記の義務に違反したときは、質権設定者は質権の消滅を請求できます(民法350条、298条3項)。

不動産の第三取得者による消滅請求

質権が設定された不動産の所有権を取得した者は、登記をした各債権者(質権者)に対して以下の書面を送付し、質権の消滅を請求できます(民法361条、379条、383条)。

①以下の事項を記載した書面
・取得の原因(売買など)
・取得年月日
・譲渡人および取得者の氏名、住所
・抵当不動産の性質、所在および代価その他取得者の負担を記載した書面

②抵当不動産に関する全部事項証明書

③債権者が2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が①の代価または特に指定した金額を、債権の順位に従って弁済しまたは供託すべき旨を記載した書面

ただし、主たる債務者・保証人およびこれらの者の承継人は、質物である不動産の所有権を取得しても、質権消滅請求ができません(民法380条)。

また質権消滅請求は、質権の実行としての競売による差し押えの効力が発生する前に行う必要があります(民法382条)。

期間の満了

質権設定契約で定められた期間が満了した場合には、質権は消滅します。

なお不動産質については、存続期間が最長10年とされています(民法360条1項)。更新は可能ですが、その場合も更新後の存続期間は10年が上限です(同条2項)。

不動産質の代価弁済

質権が設定された不動産の所有権または地上権を買い受けた第三者が、質権者の請求に応じてその代価を弁済したときは、質権は消滅します(=代価弁済。民法361条、377条)。

代価弁済は、質物である不動産を取得する対価(売却代金)を、売主ではなく質権者に支払うケースを想定したものです。ただし、買主の判断で勝手に質権者へ支払うことはできず、あくまでも質権者から請求を受けた場合に限って代価弁済が認められます。

ムートン

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