弁済とは?
読み方・意味・返済や履行との違い・
民法のルールなどを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

弁済(べんさい)」とは、債務を履行して債権を消滅させる法律行為のことです。債権者に対して弁済を提供した時点で債務者は履行遅滞の責任を免れ、実際に弁済した時点で債権(債務)が消滅します。

弁済は債務の本旨に従い、債務者が債権者に対して行うのが原則です。ただし、第三者による弁済も認められているほか、合意があれば代物弁済も認められます。

弁済すべき相手方が間違っていた場合の処理については、民法においてルールが定められています。民法では、外観を信頼して弁済した債務者と、本来の弁済を受けるべき債権者の利益を比較して、弁済を有効とするか否かを細かく定めています。

そのほか、弁済の充当順位や受取証書(領収書・レシートなど)の交付請求についても、民法に規定されています。

この記事では弁済について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

「弁済」って、文字からは内容がピンとこない用語です。どういう意味なのでしょうか?

ムートン

「弁」には「分ける・処理する」といった意味があります。義務を処理して済ませる(なくす)ようなイメージですね。弁済は民法の債権・債務関係における重要な法律行為です。詳しく解説していきましょう。

※この記事は、2023年8月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

弁済とは|返済・履行との違いを含め解説!

弁済(べんさい)」とは、債務を履行して債権を消滅させる法律行為のことです。

債務・債権とは

債務」とは債権者に対して何かをする義務、「債権」とは債務者に対して何かをすることを請求する権利をいいます。

例えば、AがBに100万円を貸したとします。この場合、債務者はB(Aに100万円を返さなければならない)、債権者はA(Bに100万円を返せと請求できる)です。

債務者が債権者に対して義務を果たすことを、債務の「弁済」といいます。

弁済と返済・履行の違い

弁済に関連する用語として「返済」と「履行」があります。

返済」は借りたお金を返すことを意味し、弁済の一種です。
履行」は弁済とほぼ同義ですが、弁済は債務の消滅に注目した用語であるのに対して、履行は債権の実現に注目した用語です。

ムートン

つまり、債務者から見て、借りたお金を返すことを「弁済」(返済)する、債権者から見て、貸したお金が返ってくることを「履行」される、といいます。

弁済の法的効果

債務者は、債権者に対して弁済を提供した時点で履行遅滞の責任を免れ、実際に弁済した時点で債権(債務)が消滅します。

債務の弁済を提供すると、履行遅滞の責任を免れる

債務を履行するために必要な準備をして、債権者に受領などの協力を求めることを「弁済の提供」といいます。

弁済の提供をした債務者は、その時点から履行遅滞の責任を免れます(民法492条)。具体的には、遅延損害金が発生しなくなるほか、債権者による債務不履行解除ができなくなります。

債務を弁済すると、債権が消滅する

債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権消滅します(民法473条)。

なお弁済は、債務の本旨(=目的)に従って行わなければなりません。

例えば家具を販売した売主が、買主に対して壊れた状態の家具や別の家具を引き渡しても、債務を弁済したことにはなりません。修補や仕入れなどを行い、完全な状態の家具を引き渡した場合に、はじめて債務が弁済されたことになります。

弁済の効力発生時期

弁済の効力が発生するのは、原則として債権者が弁済を受領した時です。

ただし、預貯金口座に対する払込みによって行われた弁済については、債権者が払戻請求権を取得した時(≒残高に反映された時)にその効力を生じます(民法477条)。

弁済の方法・費用負担

弁済の方法および費用負担について、民法では以下のルールを定めています。

弁済の提供の方法

弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければなりません。ただし、債権者があらかじめ弁済の受領を拒み、または債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知して、受領の催告をすれば足ります(民法493条)。

弁済の方法

弁済をすべき場所は、以下のルールに従って決まります(民法484条1項)。

① 当事者間の合意がある場合
合意に従った場所

② 当事者間の合意がない場合
(a) 特定物の引渡し
債権発生時にその物が存在した場所

(b) その他の弁済
債権者の現在の住所

弁済および弁済の請求はどの時間帯でもできるのが原則ですが、法令・慣習によって取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り弁済または弁済の請求ができます(同条2項)。

特定物債務の弁済内容

債務者が債権者に対して引き渡すべき物が特定されている場合、その物を「特定物」といいます。

特定物の引渡し債務の弁済内容は、以下のルールに従って決まります。

① 契約その他の債権の発生原因および取引上の社会通念に照らして、引渡しをすべき時の品質を定めることができる場合
→その品質の物を引き渡す必要があります。

② ①以外の場合
→引渡しをすべき時の現状の物を引き渡せば足ります(民法483条)。

弁済の費用の負担

弁済の費用は、当事者間において別段の合意がなければ債務者負担となります(民法485条)。
ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、増加額については債権者負担となります。

弁済の特殊な類型

民法では、弁済の特殊な類型として「第三者の弁済」と「代物弁済」を定めています。

第三者の弁済

債務の弁済は、弁済について正当な利益を有する第三者もすることができます(民法474条1項)。例えば借金の保証人や物上保証人などは、債務者に代わって債務の弁済が可能です。

これに対して、弁済について正当な利益を有しない第三者は、以下の要件をいずれも満たす場合に限り債務を弁済できます。

① 債務者の意思に反しないこと(同条2項)
※債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、弁済は有効

② 債権者の意思に反しないこと(同条3項)
※第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、弁済は有効

なお上記にかかわらず、債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、または当事者が第三者の弁済を禁止・制限する意思表示をしたときは、第三者の弁済は認められません(同条4項)。

代物弁済

弁済をすることができる者(=債務者または第三者)は、債権者との間で契約を締結すれば、その契約に従って代物弁済を行うことができます。

代物弁済とは、本来の債務の履行に代えて別の給付を行うことを意味します。契約に従った代物弁済は弁済と同一の効力を有するため(民法482条)、その時点で債権が消滅します。

弁済すべき相手方が間違っていた場合の処理

債務の弁済は、債権者または債権者から授権された者に対して行わなければなりません。しかし、弁済の受領権限がない者に対して、誤って弁済してしまうケースもあります。

弁済すべき相手方が間違っていた場合の処理について、民法では以下の事項を定めています。

① 準占有者に対する弁済
② 受領権者以外の者に対する弁済
③ 差押えを受けた債権の第三債務者の弁済

準占有者に対する弁済

受領権者以外の者であって、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者を「準占有者」といいます。つまり、一見して受領権者のように見える者が準占有者です。

準占有者の例

・債権者の代理人と称する者
・無効な債権譲渡の譲受人
・債権者の相続権を有しない表見相続人
・債権証書を持参した者
・預金証書と印鑑を持参した者
など

準占有者に対する弁済は、その弁済をした者が善意であり(=受領権者でないことを知らないこと)、かつ過失がなかった場合に限って有効となります(民法478条)。

受領権者以外の者に対する弁済

準占有者に対する弁済として有効となるものを除き、受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ有効となります(民法479条)。

例えば、AがBに対して100万円を返す債務を負っているとします。
仮に、Aが弁済の受領権限を持たないCに対して、Bに返すべき100万円を支払い、Cは「AがBに返すように言っていた」と称して、そのうち50万円だけをBに渡したとします。
この場合、AのCに対する弁済は、Bが利益を受けた50万円の限度でのみ有効であり、残り50万円の債権が存続することになります。

差押えを受けた債権の第三債務者の弁済

強制執行等によって差押えを受けた債権の債務者(=第三債務者)は、自己の債権者に対する当該債務の弁済を禁止されます。

弁済禁止に違反して、第三債務者が自己の債権者に対する弁済を行った場合には、差押債権者は受けた損害の限度において、さらに弁済すべき旨を第三債務者に請求できます(民法481条1項)。
差押債権者の請求を受けてさらに弁済を行った第三債務者は、自己の債権者に対する求償が可能です(同条2項)。

弁済の充当順位

同一当事者間で債務が複数存在する場合や、1個の債務として数個の給付をすべき場合には、弁済を充当する順序(充当順位)が問題になります。

弁済の充当順位について、民法では以下のルールを定めています。

① 同種・複数の債務がある場合の充当順位
② 元本・利息・費用の間の充当順位
③ 合意による弁済の充当
④ 1個の債務として数個の給付をすべき場合の充当順位

同種・複数の債務がある場合の充当順位

債務者が同一の債権者に対して、同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合(例:複数の金銭債務を負担している場合)は、以下の順位に従って弁済が充当されます(民法488条)。

① 弁済をする者の指定に従って充当する
② 弁済を受領する者の指定に従って充当する(弁済をする者が直ちに異議を述べた場合は、この限りでない)
③ 以下のルールに従って充当する
 (a) 弁済期にあるものと弁済期にないものの間では、弁済期にあるものから充当する
 (b) すべての債務が弁済期にあるとき、または弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものから充当する(例:利息や遅延損害金の利率が高い債務を優先する)
 (c) 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したものまたは先に到来すべきものから充当する
 (d) (b)(c)の事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する

元本・利息・費用の間の充当順位

債務者が債権者に対して、元本のほかに利息・費用を支払うべき場合には、

費用 → ②利息 → ③元本

の順に弁済を充当します(民法489条)。

合意による弁済の充当

上記の各規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間で、弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従って弁済を充当します(民法490条)。

1個の債務として数個の給付をすべき場合の充当順位

1個の債務として数個の給付をすべき場合は、上記の各規定(民法488条~490条)に準じて弁済の充当が行われます(民法491条)。

弁済に関するその他のルール

これまで解説した事項のほか、民法では弁済について以下のルールを定めています。

① 受取証書の交付請求
② 債権証書の返還請求
③ 弁済として引き渡した物の取戻し等

受取証書の交付請求

弁済をする者は、弁済と引き換えに、弁済を受領する者に対して受取証書(領収書・受領書・レシートなど)の交付を請求できます(民法486条1項)。

また、受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電子データの提供を請求することも可能です。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課すものであるときは、電子データの提供は請求できません(同条2項)。

債権証書の返還請求

債権に関する証書がある場合は、弁済をした者が全部の弁済をした際、その証書の返還を請求できます(民法487条)。
債権に関する証書の代表例は、金銭消費貸借契約書や借用書などです。

弁済として引き渡した物の取戻し等

弁済として引き渡された物が、弁済者ではなく他人の所有物であった場合、弁済者はさらに有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができません(民法475条)。

例えばAが、Bに対して限定品のスニーカーを売却する契約を締結した上で、父親のCが所有しているスニーカーを無断で持ち出してBに引き渡したとします。
この場合、Aは契約内容に沿った別のスニーカーをBに引き渡さない限り、C所有のスニーカーを取り戻すことができません。

なお上記のケースにおいて、BがAから弁済を受けたスニーカーを善意で第三者Dに譲渡した場合、AのBに対する弁済は確定的に有効となります。したがってこの場合、AはBに対して代わりのスニーカーを引き渡したとしても、もはやC所有のスニーカーを取り戻すことができません(民法476条)。

ムートン

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