【2024年施行予定】景品表示法改正とは?
確約手続きの導入・課徴金制度の見直し・
罰則規定の拡充などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

2023年5月10日、「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」が国会で可決されました。
改正景品表示法(「不当景品類及び不当表示防止法」)は、公布の日(2023年5月17日)から1年半を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

今回の改正では、事業者の自主的な取り組みの促進、違反行為に対する抑止力の強化等を目的として、以下のような事項について整備されました。

✅ 確約手続きの導入
✅ 課徴金制度における返金措置の弾力化
✅ 課徴金制度の見直し
✅ 罰則規定の拡充
✅ 国際化の進展への対応
✅ 適格消費者団体による開示要請規定の導入

この記事では、2023年に成立した景品表示法改正の概要について、分かりやすく解説します。

ヒー

景品表示法の改正がありましたが、広告などの表示内容に気を付けていれば、関係のない法改正ですよね?

ムートン

そうとも言えません、意図的でなく違反行為をしてしまった場合に、会社としてどのような対応を取れるかという観点からは、幅広い事業者に影響のある改正といえます。内容を確認していきましょう。

※この記事は、2023年6月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 改正景品表示法・景表法…2023年5月17日公布の「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律」による改正後の不当景品類及び不当表示防止法
  • 景品表示法・景表法…2023年5月17日公布の「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律」による改正前の不当景品類及び不当表示防止法
  • 独禁法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

景品表示法(景表法)とは

景品表示法とは、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。
正式名称の通り、過大な景品類を提供することや、商品やサービスの品質、内容、価格などを偽って表示を行うことを規制することにより、消費者が自主的かつ合理的に商品やサービスの選択を行える環境を確保し、消費者の利益を保護することを目的としています。

2023年景品表示法改正の概要

2023年5月10日、「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」が国会で可決されました。
本改正は、商品またはサービスの取引に関する表示を巡る状況に鑑み、事業者の自主的な取り組みの促進、違反行為に対する抑止力の強化等を講ずることで、消費者の利益の一層の保護を図るものとされています。

主な改正事項は、

① 事業者の自主的な取り組みの促進
② 違反行為に対する抑止力の強化
③ 円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等

の三つの観点から整理することができます。

①事業者の自主的な取り組みの促進

優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで迅速に問題を改善する、確約手続きが導入されました。

また、課徴金制度における返金措置が弾力化され、特定の消費者へ一定の返金を行った場合に課徴金額から当該金額が減額される返金措置に関して、返金方法として金銭による返金に加えて第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)が許容されることとなりました。

②違反行為に対する抑止力の強化

課徴金制度が見直され、課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握することができない期間における売上額を推計することができる規定が整備されるとともに、違反行為から遡り10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、課徴金の額を加算(1.5倍する規定が新設されました。

また、罰則規定が拡充され、優良誤認表示有利誤認表示に対し、直罰(100万円以下の罰金)が新設されました。

③円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等

措置命令等における送達制度の整備・拡充、および外国執行当局に対する情報提供制度の創設がなされ、国際化の進展への対応が進められました。

また、適格消費者団体が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示要請することができるとともに、事業者は当該要請に応ずる努力義務を負う旨の規定が新設されました。

改正景品表示法の公布日・施行日

景品表示法改正の根拠となる法令は、「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律」(令和5年法律第29号)です。公布日・施行日は以下のとおりです。

公布日・施行日

公布日:2023年5月17日
施行日:公布日から1年6カ月以内
※公示事項の閲覧・掲示に関する内容は公布日から3年以内

以下では、改正事項について、個別に解説します。

①-1|確約手続きの導入

改正前の景品表示法においては、違反の疑いがあった場合に、調査の結果、違反行為が認められれば措置命令(景表法7条1項)・課徴金納付命令(景表法8条1項)を行うか、違反行為が認められないものの、違反のおそれがあれば行政指導を行うかの二つの方法しかありませんでした。

措置命令とは

景表法に違反行為するが行われた場合に
① 当該行為の差し止め
② 再発防止策の実施
③ 今後同様の違反行為を行わないこと
などを命ずる行政処分

課徴金納付命令とは

景表法に違反する行為が行われた場合、
課徴金を納付すること
を命ずる行政処分

例えば、意図せずに不当表示を行ってしまった事業者が、表示の改善等自主的な取り組みを積極的に行おうとするような場合であっても、違反行為が認められれば、措置命令等の対象となることが問題視されていました。

ヒー

自主的に申告したり、改善しようとしても、結果的に罰せられるだけなら、隠したくなりますよね…。

ムートン

罰するのではなく、事業者の自主的な取り組みを促すほうが、改善がより進むかもしれません。

このような状況の下で、措置命令・課徴金納付命令だけでなく、事業者の自主的な取り組みの促進を通じて不当表示事案の早期の是正に取り組んでいくために、独禁法において2016年の改正により導入された確約手続きを、景品表示法においても導入することとなりました。

確約手続きの流れ

① ある者の行為が景表法4条(景品類の制限および禁止)・5条(不当表示の禁止)に違反すると疑われる場合、内閣総理大臣は、当該行為者に対し、疑いの理由となった行為の概要、違反する疑いのある条項および是正措置計画の認定の申請をすることができる旨を通知できます(改正景表法26条)。

② 当該通知を受けた者は、疑いの理由となった行為およびその影響を是正するために必要な措置に関する計画(是正措置計画)を作成し、内閣総理大臣に対し、当該是正措置計画の認定を申請することができます(改正景表法27条1項)。

③ 当該是正措置計画が改正景表法27条3項各号所定の要件(疑いの理由となった行為およびその影響を是正するために十分なものであること等)に適合すると認められる場合、内閣総理大臣によってその旨が認定され(改正景表法27条3項)、疑いの理由となった行為について、措置命令や課徴金納付命令が発出されないことが確約されます(改正景表法28条)。

なお、計画に従って是正措置が実施されていない場合や、虚偽または不正な事実によって認定を受けたことが判明した場合には上記認定が取り消され(改正景表法29条)、疑いの理由となった行為について、措置命令や課徴金納付命令が発出される可能性がある点には注意が必要です(改正景表法28条ただし書き)。

①-2|課徴金制度における返金措置の弾力化

課徴金制度における返金措置とは

課徴金制度における返金措置とは、課徴金納付命令の対象となった商品またはサービスについて取引をした消費者から申し出があった場合に、当該消費者に対し、当該消費者の購入額の3%以上の金銭を交付する(返金する)措置です。
景表法10条および11条所定の手続に沿って、返金措置を実施することで、課徴金額から消費者へ返金した金額が減額されます

返金方法として電子マネー等を許容

従来、返金措置は、金銭を交付する方法でしか行うことができませんでした。しかし、令和5年1月13日時点における返金措置の利用件数は4件にとどまっており、活発に利用されているとはいい難い状況でした。
そこで、事業者の利用が促進されるよう、返金措置の仕組みを改善し、不当表示による消費者の被害回復を充実させるため、返金方法として電子マネー等を許容することとなりました。

しかし、商品券、ポイント、商品交換等の幅広い手段での返金を認めると、返金措置を行う事業者以外に対しては使えないポイントやクーポンで返金を行うことにより、当該事業者との取引関係が維持されることとなりかねず、消費者の自主的かつ合理的な選択の確保という景表法の目的が阻害されてしまいます。

そのため、改正景品表示法においては、金銭以外の支払方法について、

「…資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第3条第7項に規定する第三者型発行者が発行する同条第1項第1号の前払式支払手段その他内閣府令で定めるものであって、金銭と同等に通常使用することができるものとして内閣府令で定める基準に適合するもの…」(改正景表法10条)

との要件を課し、金銭と同程度の価値代替性を有する決済手段に限定しています。

②-1|課徴金制度の見直し

売上額を推計することができる規定の整備

従来、不当表示を行った事業者の中には、消費者庁の課徴金調査に対し、課徴金の対象となる商品の品目別に売上額データを整理しておらず、適切に売上額を報告できない者がいることが問題視されていました。

課徴金の額は、課徴金の対象となる商品やサービスの売上額の3%として算出されるため、適切に売上額が報告されない場合は、課徴金の計算の基礎となるべき事実を正確に把握することができず、課徴金納付命令までに要する期間が長期化してしまうためです。

そこで、適切に売上額を報告しない事業者に対しても迅速に課徴金納付命令を発出し、課徴金制度を有効かつ円滑に機能させるため、課徴金の計算の基礎となる売上額等を推計することができる規定を整備することとなりました。

具体的には、事業者が、課徴金の計算の基礎となる売上額等について、改正景表法25条1項による報告を求められたにもかかわらずその報告をしないときは、改正景表法8条4項所定の資料を用いて売上額等を合理的な方法により推計できることとされました(改正景表法8条4項)。

10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者に対し、課徴金の額を1.5倍にする規定の新設

従来、景表法違反行為を行った事業者の中には、一度措置命令課徴金納付命令を受けたにもかかわらず、繰り返し違反行為を行う事業者がいることが問題視されていました。
そこで、繰り返し違反行為を行う事業者に対する抑止力を強化するため、一定期間内に繰り返し違反行為を行う事業者に対しては、原則の算定率ではなく、割り増した算定率を適用した課徴金を課すこととなりました。

具体的には、基準日から10年以内に課徴金納付命令を受けたことがあり、かつ、当該命令の日以降に再度違反行為(課徴金納付命令の対象となる行為)をしていた場合、課徴金の額は課徴金の対象となる商品やサービスの売上額の4.5%(原則は3%)として算出することとされました(改正景表法8条5項)。

基準日とは

当該事業者が受けた、
・報告徴収等(改正景表法25条1項)
・資料提出の求め(景表法8条3項)
・弁明の機会の付与の通知(景表法15条)
のうち、最も早い日のこと(改正景表法8条6項)。

②-2|罰則規定の拡充

優良誤認表示・有利誤認表示に対する直罰(100万円以下の罰金)の新設

優良誤認表示(景表法5条1号)や有利誤認表示(景表法5条2号)を行った事業者には、意図せずに結果的に不当表示を行った事業者のみならず、表示と実際に乖離があり、当該表現が景表法に違反することを認識しつつ、これを認容して違反行為を行うような悪質な事業者が存在します。

このような悪質な行為を抑止するため、表示と実際が異なり、消費者を誤認させることを認識しながらした不当な表示については刑事罰による抑止の対象とすべきではないかと議論されてきました。

そこで、改正景品表示法において、優良誤認表示および有利誤認表示に対して、直罰(100万円以下の罰金)が新設されました(改正景表法48条)。

③-1|国際化の進展への対応

措置命令等における送達制度の整備・拡充

措置命令等における送達制度については、改正前の景表法においては明確に定めがありませんでした。
改正景品表示法においては、新たに42条~45条が設置され、措置命令等における送達制度が整備されました。

ヒー

そもそも、送達制度って何ですか?

ムートン

ざっくり言うと、措置命令などの行政処分を、どのような手段によって当事者に届けるかについてのルールです。
直接渡す・郵送する・公示するなどの手段が定められています。

外国執行当局に対する情報提供制度の創設

外国事業者が、日本国内の消費者を誤認させるような表示を行う場合などは、当該表現を排除するため、当該外国事業者が所在する国の当局に対して情報提供を行うなど協力体制を強化していく必要があります。

そのため、改正景品表示法においては、内閣総理大臣が、外国の当局に対し、当局の職務の遂行に資すると認める情報を提供することができることとされました(改正景表法41条)。

③-2|適格消費者団体による開示要請規定の導入

適格消費者団体とは、不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するため、消費者契約法12条所定の差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人をいいます。

景品表示法においても、事業者が、優良誤認表示有利誤認表示を行っているまたは行うおそれがある場合に、適格消費者団体が当該事業者に対して、当該行為の差止等を請求できることが定められています。

改正景品表示法においては、適格消費者団体が差止請求をより実効的に行えるようにするため、適格消費者団体が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示要請することができるとともに、事業者は当該要請に応ずる努力義務を負う旨の規定が新設されました(改正景表法35条)。

事業者の留意すべきポイント

本改正では、一定期間内に違反行為を繰り返した場合の課徴金額が増額され、また、優良誤認表示・有利誤認表示に対する直罰(100万円以下の罰金)が新設される等、景品表示法に違反する行為に対する規制が強化されました。

事業者においては、自らが行っている表現が景品表示法に違反していないかについて、より注意深く検討する必要があるでしょう。

一方で、確約手続きが導入され、景品表示法に違反してしまっても、その後に適切な対応を行えば、措置命令や課徴金納付命令の発出を回避することができるようになりました。

景品表示法に違反しないように留意することが最も重要ですが、景品表示法に違反してしまった場合の対応についても、事前に検討しておくことが必要です。

ムートン

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参考文献

消費者庁ウェブサイト「国会提出法案」のうち「第211回国会(常会)提出法案」

消費者庁ウェブサイト「適格消費者団体・特定適格消費者団体とは

景品表示法検討委員会「報告書」

西川康一著「景品表示法[第6版]」商事法務、2021年