【2023年10月施行】ステマ規制とは?
導入された背景・告示や運用基準の内容を
分かりやすく解説!

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弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
この記事のまとめ

ステルスマーケティングステマ)とは、消費者に広告・宣伝と気付かれないように行われる広告・宣伝行為のことをいいます。

今まで、日本ではステマは規制されていませんでしたが、2023年10月1日から、日本でもステマ規制が導入されることになりました。

ステマ規制に違反しないためには、事業者が行う表示(広告)に、
広告」「PR
等の広告であることが分かる表示を分かりやすく表示することが重要ですが、第三者が行う表示(広告)が、事業者が行う表示(広告)と判断されることもありますので、留意が必要です。

この記事では、2023年10月1日から導入されるステマ規制について、導入された背景や、規制の内容、実務上の留意点などを解説します。

ヒー

「新製品のターゲットは20代だから、インフルエンサーに紹介してもらいたい!」と事業部から連絡がありました。過去にも製品のプレゼントはしているようですし、これまで通りOKしてよいですか?

ムートン

その方法、今後はステマ規制に触れるかもしれません。適切にアドバイスできるよう、新しい規制の内容を確認していきましょう。

※この記事は、2023年5月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 景表法…不当景品類及び不当表示防止法
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ステマ規制とは

2023年3月28日、日本におけるステルスマーケティング(ステマ)に関する規制の内容が明らかにされ、2023年10月1日から適用されることとなりました。本記事では、ステマ規制が導入された背景や、ステマ規制の内容、実務上の留意点などについて詳しく見ていきます。

ステルスマーケティング(ステマ)とは

そもそも、ステルスマーケティング(ステマ)とは、一般的に、消費者に広告・宣伝と気付かれないように行われる広告・宣伝行為のことをいうとされています。

消費者心理としては、ある表示が事業者による広告だと分かっていれば、

「少し誇張した内容になっているのではないか」
「商品のいいところしか書いていないのではないか」

などと、警戒して広告の内容を確認することになると思います。一方、例えば、中立的な第三者の感想口コミなど、広告とは考えられない表示に対しては、そのような警戒をせず、表示の内容を信用してしまうこともあるのではないかと思います。ステマは、このような消費者心理を利用して、消費者の警戒を解きながら消費者を商品購入に誘引しようとする広告といえます。

【2023年10月施行】ステマ規制とは

このようなステマは、アメリカ・EUなどでは法令で直接的に規制されていましたが、日本では、今まで直接的に規制されてはいませんでした

そのような中、「ステマ規制が導入された背景」記載の経緯を踏まえ、2023年3月28日に、ステマを規制する「内閣府告示第19号」と、ステマ規制に関する実務上の指針となる「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」が公表され、2023年10月1日から、日本でもステマ規制が導入されることとなりました。

ステマ規制が導入された理由・背景

まず、日本でステマ規制が導入された背景を見ていきます。

ステマ規制の導入やその内容については、主に、消費者庁で開催された「ステルスマーケティングに関する検討会」(以下「本検討会」といいます)で議論されました。

本検討会では、日本では、優良誤認表示(景表法5条1号)や有利誤認表示(景表法5条2号)を伴わないステマを規制することができないという状況の中で、ステマに関する実態調査や関係事業者等からのヒアリングを踏まえ、ステマ規制の導入の適否や導入する場合の内容について議論が行われました。

そして、本検討会では、景表法の目的が、消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為を規制することにあるところ、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す行為(ステマ)は、事業者の表示であるにもかかわらず消費者が広告であると認識しない点で消費者に誤認を生じさせており、かつ、この誤認によって消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択を阻害するため、景表法で規制する必要があると整理し、ステマ規制の導入が決定されました。

告示の内容

それでは、今回創設されたステマ規制の全体像(「内閣府告示第19号」)を見てみましょう。

○内閣府告示第十九号
不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)第五条第三号の規定に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のように指定し、令和五年十月一日から施行する。

                  令和五年三月二十八日 内閣総理大臣 岸田 文雄

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

「内閣府告示第19号」

ステマ規制はこのように非常にシンプルな告示によって行われています。少し中身を見ると、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(すなわち、ステマ)を「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定義するものといえます。

ムートン

このステマ規制と景表法との関係については、「景表法とステマ規制」で、ステマ規制の具体的な内容については、「運用基準の内容」で見ていきましょう。

景品表示法(景表法)とステマ規制

景表法では、「商品及び役務の取引に関連する不当な……表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的」として(景表法1条)、事業者の消費者に対する表示(広告)行為を以下のとおり規制しています(景表法5条各号)。

① 優良誤認表示(景表法5条1号)
商品・サービスの品質その他の内容について実際よりも著しく優良であると誤認させる表示

② 有利誤認表示(景表法5条2号)
商品・サービスの価格その他の取引条件について実際のものよりも著しく有利であると誤認させる表示

③ 指定告示(景表法5条3号)
商品・サービスの取引に関する事項について消費者に誤認され、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある、内閣総理大臣が指定する表示

このうち、③指定告示は、①優良誤認表示や②有利誤認表示には当たらない不当な表示について、内閣総理大臣が指定することによって、景表法の規制を及ぼすことができるという規制です。
今回のステマ規制は、「告示の内容」のとおり告示によって行われており、まさに、この景表法5条3号に基づき、規制がされたということになります。

運用基準の内容

ステマ規制の内容は、「告示の内容」に記載のとおりですが、これだけですと、具体的にどのような行為が規制されるのか少し分かりにくいかと思います。そこで、消費者庁長官決定で、『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準(以下「運用基準」といいます)が公表されています。

運用基準は、シンプルなステマ規制の各要件の考え方や具体例を整理していますので、ステマ規制を理解するには、この運用基準を理解することが必要です。以下、運用基準について見ていきましょう。

ステマ規制(告示)は、

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」
「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であること」

の2つの要件で構成されているので、運用基準も、この2つの要件に沿って考え方や具体例を整理しています。

「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」の考え方

総論

まず、1つ目の要件が、
✅「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」
であること、すなわち、(事業者以外の第三者が行っているように見える表示なのに、)事業者が行う表示であると認められることです。

運用基準では、

・「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合」
⇔(逆にいうと、)「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」

を事業者が行う表示であると整理しています。

さらに、運用基準では、事業者が行う表示を、

  • 事業者が自ら行う表示
  • 事業者が第三者をして行わせる表示

に分類して整理していますので、以下この整理に従って見ていきます。

事業者が自ら行う表示

事業者がまさに自ら行う表示は基本的に第三者が表示するものと誤認されませんので、事業者が自ら行う表示として問題となるのは、

「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品又は役務に関する表示」

です。

このような表示も、以下の要素を考慮したうえ、事業者が自ら行う表示といえるかが総合的に判断され、その結果事業者が自ら行う表示と判断されれば、ステマ規制が適用されることになります。

  • 従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務
  • 表示目的 等

運用基準では、例えば、販売や開発に係るチームの従業員等が、商品の認知向上のために行う表示は事業者が自ら行う表示に該当すると整理されています。一方、事業者の従業員でも、販売等に関与していない従業員が販売促進等の目的なく行う表示は事業者が自ら行う表示には該当しないと整理されています(詳細は運用基準3頁も参照)。

事業者が第三者をして行わせる表示

次に、事業者が第三者をして行わせる表示が、事業者が行う表示に当たるかについて見ていきます。この類型がいわゆるステマとして最も問題となりやすい類型かと思います。
事業者が第三者をして行わせる表示をさらに類型化すると、

① 事業者が第三者に対して表示の内容について明示的に依頼・指示している場合
② 事業者が第三者に対して表示の内容について明示的に依頼・指示していない場合

に分けることができます。

①については、事業者が表示内容の決定に関与していることは明らかですので、当然、事業者が行う表示に当たります

一方、②については、事業者が第三者に対して明示的に依頼・指示していなければ、一見すれば、事業者が表示内容の決定に関与したといえないようにも思われますが、運用基準では、事業者と第三者との間に、

  • 事業者が第三者の表示内容を決定できる関係性
  • (客観的な状況に基づき)第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性

がある場合には、事業者が行う表示になると整理されています。
そして、「第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合」かどうかは

  • 事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容
  • 事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容
  • 対価の主な提供理由
  • 事業者と第三者の関係性の状況 等

の実態を踏まえて総合的に判断することとされています。

以上、事業者が第三者をして行わせる表示について抽象的な整理を見てきましたが、以下では具体的にどのような場合に、事業者が第三者をして行わせる表示が、事業者が行う表示と判断されるかについて、具体例を見ていきます(詳細は運用基準3~5頁も参照)。

明示的な依頼・指示がある場合

① 事業者が第三者に対してSNSや口コミサイト等に自らの商品等に関する表示をさせる場合
② ECサイトに出店する事業者が、ブローカーや商品の購入者に依頼して、ECサイトのレビューに表示させる場合
③ 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品等について表示させる場合
④ 事業者が他の事業者に依頼して、口コミ投稿を通じて、自らの競合事業者の商品等について、自らの商品等と比較した低い評価を表示させる場合

明示的な依頼・指示がない場合

① 事業者が第三者にSNSを通じた表示を依頼しつつ、自らの商品等について表示してもらうことを目的に、当該商品等を無償で提供し、その提供を受けた第三者が事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合
② 事業者が第三者に自らの商品等について表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり(遠回しに第三者に自らとの今後の取引の実現可能性を想起させるなど)、言動から推認させたりする(今後の取引の実現可能性に言及することなど)などの結果、第三者が事業者の商品等について表示を行うなど、客観的な状況に基づき、表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合

事業者が表示内容の決定に関与したとされないもの

一方、事業者が第三者の表示に関与していても、客観的な状況に基づき、ある表示が第三者の自主的な意思による表示と認められれば、事業者が行う表示には当たりません。この点については、以下の事情を考慮するものとされています。

  • 第三者と事業者との間で表示内容について情報のやり取りが直接・間接に一切行われていないか
  • 事業者から第三者に対し、表示内容に関する依頼や指示があるか
  • 第三者の表示の前後で事業者が第三者の表示内容に対して対価を提供しているか
  • 過去に対価を提供した関係性がどの程度続いていたか
  • 今後提供することが決まっているか
  • 今後対価を提供する関係性がどの程度続くか

第三者の自主的な意思による表示の具体例としては、例えば、以下のものが挙げられています(詳細は運用基準5~7頁参照)。

第三者の自主的な意思による表示

① 事業者が第三者に自らの商品等を無償で提供し、SNS等による表示を依頼するものの、第三者が自主的な意思に基づく表示を行う場合
② 事業者が自らの商品の購入者に対しECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼に、割引クーポン等を配布する場合で、事業者と購入者との間で購入者の投稿内容について情報のやり取りが一切行われておらず、客観的な状況に基づき、購入者が自主的な意思で投稿内容を決定したと認められる場合
③ 事業者がSNS上で行うキャンペーン等に応募するために、第三者が自主的な意思に基づく内容としてSNS等に表示を行う場合
④ 事業者が自社のウェブサイトの一部で、第三者の表示を利用する場合で、第三者の表示を恣意的に抽出することや、第三者の表示内容に変更を加えることなく、そのまま引用する場合
⑤ 事業者が表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に、表示を行わせることを目的とせず商品等を提供した結果、第三者が自主的な意思に基づき表示を行う場合

「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であること」の考え方

総論

次に、2つ目の要件が、
✅「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であること」
です。この要件は、消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているか、逆にいえば、第三者の表示であると消費者に誤認されないかを表示内容全体から判断します。

消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないもの

消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものの具体例としては、以下のような場合が挙げられています(詳細は運用基準8~9頁参照)。

消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものの具体例

① 冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかが分かりにくい表示をする場合
② 動画で表示を行う際に、消費者が認識できないほど短い時間だけ事業者の表示であることを示す場合(長時間の動画で、冒頭以外にのみ表示をする場合を含む)
③ 事業者の表示であることを消費者が視認しにくい表示の末尾に表示する場合
④ 事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示する場合
⑤ 事業者の表示である旨を文章で表示しているものの、消費者が認識しにくいような表示(長文による表示、周囲の文字よりも小さい表示、 他の文字より薄い色を使用した表示など)となる場合
⑥ 事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(SNSの投稿で、大量のハッシュタグを付した文章の記載の中に事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合など)

消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているもの

一方、消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているものの具体例としては、以下のような場合が挙げられています。「「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」の考え方」を踏まえて、事業者が行う表示に当たる表示には、このような表示をしなければならないということです。

① 「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合
② 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった表示を行う場合

なお、そもそも、ステマ規制は、消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を規制するものですので、事業者の表示であることが社会通念上明らかであるものはステマ規制の対象となりません。具体的には、以下のようなものが挙げられています(詳細は運用基準9~10頁参照)。

① 新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合
② 商品等の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物で表示を行う場合
③ 事業者自身のウェブサイトで表示を行う場合
④ 事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合

ステマ規制に違反しないための対応策

まずは、「「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」の考え方」を踏まえて、事業者が行う表示と判断される表示について、「消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているもの」に記載のとおり、広告」、「PR」などと広告であることが分かる表示を分かりやすく表示することが何よりも重要です。

もっとも、例えば、「事業者が自ら行う表示」に記載のとおり、一定の従業員等が行う表示が、事業者が自ら行う表示と判断され、ステマ規制が適用される可能性がありますが、このような表示は事業者の預かり知らないところで行われる可能性があります。そこで、従業員等のSNS利用のルールを策定し、事業者が関与しないところで従業員等が行う表示が、事業者が行う表示と判断されないよう予防することが考えられます。

また、事業者が第三者に明示的に依頼・指示していない場合でも、第三者が行う表示が、事業者が行う表示と判断され、ステマ規制が適用される可能性もあります。この点については、どのような場合に事業者が行う表示と判断されるかについては、困難な判断が伴うところですので、今後の実例の蓄積にも十分意識を向けつつ、必要に応じ専門家の意見も踏まえながら対応することが必要になります。

ステマ規制に違反した場合の罰則とは?

最後に、ステマ規制に違反した場合にどのような効果が生じるかについて見ていきます。

ステマ規制に違反するということは、景表法5条3号に違反するということになりますので、消費者庁等による、措置命令(景表法7条)や、措置命令に違反した場合の刑事罰(景表法36条等)の対象とされています。

ムートン

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参考文献

「ステルスマーケティングに関する検討会報告書」(2022年12月28日)

「内閣府告示第19号」

消費者庁長官「『消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(2023年3月28日)

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