労働安全衛生法(安衛法)とは?
目的・健康診断やストレスチェックの実施義務・
成立の背景などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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労働安全衛生法(安衛法)とは、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。
昔は労働基準法において労働安全衛生関連の規定が定められていましたが、高度経済成長期に労働災害が急増したことを受けて、1972年に独立した法律として労働安全衛生法が成立しました。
労働安全衛生法には、労働者の安全および衛生に関して、事業者が遵守すべき各種規制が定められています。違反事業者は労働基準監督署による行政指導などの対象となるので、労働安全衛生法の遵守を徹底しましょう。
この記事では労働安全衛生法について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 法…労働安全衛生法
目次
労働安全衛生法(安衛法)とは
労働安全衛生法(安衛法)とは、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的とした法律です。
- 労働災害とは
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労働災害とは、労働者の就業に係る建設物や設備・業務に起因して、労働者が負傷する・疾病にかかる・死亡することをいいます(法2条1項)。
労働安全衛生法の目的
労働安全衛生法の目的は、
- 労働者の安全と健康の確保
- 快適な職場環境の形成促進
にあります。
本目的を達成するため、労働安全衛生法は、
- 事業場における安全衛生管理体制の確立
- 事業場における労働災害防止のための具体的措置
- 国による労働災害防止計画の策定
などを定めています。
労働安全衛生法が成立した背景
労働安全衛生に関する法規制(例えば、工場法や鉱業法など)は、戦前から存在していましたが、これらの法規制は、労働災害が起こりやすい業種などに特化して定められていたにすぎませんでした。
その後、1947年に労働基準法が制定され、その中で、業種などを問わず広く、労働安全衛生に関する法規制が定められるに至りました。
しかし、高度経済成長期に労働災害が急増し、労働者の安全や健康を確保する緊急性が高まりました。そこで、労働基準法の内容をさらに充実させた上で独立させ、1972年に労働安全衛生法が成立しました。
独立行政法人労働政策研究・研修機構ウェブサイト「図1 労働災害による死傷者数、死亡者数」
労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則とは
労働安全衛生法による規制の具体的な内容は、その大部分が、政令や省令に委任されています。
具体的には、政令として「労働安全衛生法施行令」が、厚生労働省令として「労働安全衛生規則」が定められています。
【労働安全衛生法に関する政令や省令の例】
・ボイラー及び圧力容器安全規則
・クレーン等安全規則
・ゴンドラ安全規則
・石綿障害予防規則
など
労働安全衛生法と労働基準法の違い
労働安全衛生法と労働基準法は、どちらも労働者の保護を目的としているという点では共通しています。
しかし、労働安全衛生法が労働者の安全や健康を確保するための規制を定めているのに対し、労働基準法は労働条件の最低ラインを定めている、という違いがあります。
かつては労働安全衛生に関する規定も労働基準法に定められていましたが、現在では上記のとおり、棲み分けが行われています。
労働安全衛生法の全体像
労働安全衛生法は、以下の全12章から成り立っています。
第1章 総則
第2章 労働災害防止計画
第3章 安全衛生管理体制
第4章 労働者の危険または健康障害を防止するための措置
第5章 機械等ならびに危険物および有害物に関する規制
第6章 労働者の就業に当たっての措置
第7章 健康の保持増進のための措置
第7章の2 快適な職場環境の形成のための措置
第8章 免許等
第9章 事業場の安全または衛生に関する改善措置
第10章 監督等
第11章 雑則
第12章 罰則
労働安全衛生法のポイント1|総則(事業者等の責務)
「第1章 総則」では、労働安全衛生法全体に通じる基本的な事項が定められています。
事業者には、単に労働安全衛生法で定められた労働災害防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、職場における労働者の安全と健康を確保することが求められています。
さらに事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力しなければなりません(法3条1項)。
労働安全衛生法のポイント2|安全衛生管理体制(衛生委員会の設置など)
「第3章 安全衛生管理体制」では、事業場における安全衛生を確保するための責任体制を明確化する観点から、事業者に以下の管理者や委員会を定めることを義務付けています。
管理者等の種類 | 選任を要する事業者・事業場・作業 |
---|---|
統括安全衛生管理者(法10条) | 原則として常時1,000人以上の労働者を雇用する事業場 ※林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業は100人以上 ※製造業等は300人以上 |
安全管理者(法11条) | 林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業等を営む、常時50人以上の労働者を雇用する事業場 |
衛生管理者(法12条) | 常時50人以上の労働者を雇用する事業場 |
安全衛生推進者(または衛生推進者、法12条の2) | 常時10人以上50人未満の労働者を雇用する事業場 |
産業医(法13条) | 常時50人以上の労働者を雇用する事業場 |
作業主任者(法14条) | 高圧室内作業など、労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるもの |
統括安全衛生責任者(法15条) | 建設業・造船業を営む、仕事の一部を請負人に請け負わせている事業者 |
元方安全衛生管理者(法15条の2) | 建設業を営む、統括安全衛生責任者を選任した事業者 |
店社安全衛生管理者(法15条の3) | 建設業の元方事業者 |
安全衛生責任者(法16条) | 統括安全衛生責任者を選任すべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うもの |
また、一部の事業者には以下の各委員会の設置が義務付けられています。
委員会の種類 | 設置を要する事業者・事業場 |
---|---|
安全委員会(法17条) | 林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業等を営む事業者 ※50人以上または100人以上の労働者を使用する事業場ごとに設置 |
衛生委員会(法18条) | 常時50人以上の労働者を雇用する事業場 |
安全衛生委員会(法19条) | 安全委員会または衛生委員会に代えて設置可能 |
労働安全衛生法のポイント3|危険・健康障害の防止措置
「第4章 労働者の危険または健康障害を防止するための措置」では、事業者に対し、労働者の危険および健康障害を防止するため、以下の措置を講じることを義務付けています。
①危険防止措置(法20条)
・機械、器具その他の設備による危険
・爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
・電気、熱その他のエネルギーによる危険
②健康障害防止措置(法22条)
・原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
・放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
・計器監視、精密工作等の作業による健康障害
・排気、排液または残さい物による健康障害
労働安全衛生法のポイント4|機械等・危険物・有害物の規制
「第5章 機械等ならびに危険物および有害物に関する規制」では、機械等・危険物・有害物の取り扱いに関する規制が定められています。
機械等に関する規制
以下のいずれかに該当する機械は「特定機械等」に当たり、製造の許可制や製造時の検査義務などの規制が適用されます(法37条~42条)。
- ボイラー(小型ボイラー、船舶に用いられるもの、電気事業法の適用を受けるものを除く)
- 第一種圧力容器(小型圧力容器、船舶に用いられるもの、電気事業法等の適用を受けるものを除く)
- つり上げ荷重が3トン以上(スタッカー式クレーンの場合は1トン以上)のクレーン
- つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーン
- つり上げ荷重が2トン以上のデリック
- 積載荷重が1トン以上のエレベーター
- ガイドレールの高さが18メートル以上の建設用リフト(積載荷重が0.25トン未満のものを除く)
- ゴンドラ
特定機械等に該当しない機械等のうち一部についても、危険防止および健康障害防止の観点から、設置等に当たって規格・安全装置の具備が義務付けられています(法42条)。
また、ボイラーなど事故の危険がある機械等については、定期に自主検査を行った上で記録を残すことが義務付けられています(法45条)。
危険物・有害物に関する規制
労働者に重度の健康障害を生じ得る一部の製剤については、製造等が禁止または許可制とされています(法55条、56条)。
また、爆発性・発火性・引火性など労働者に危険を生ずるおそれのある物や、労働者に健康障害を生じ得る一部の製剤については、容器または包装に所定の事項を表示しなければなりません(法57条)。
労働安全衛生法のポイント5|労働者の就業に当たっての措置(安全衛生教育など)
「第6章 労働者の就業に当たっての措置」では、労働安全衛生に関して、労働者を就業させる際に事業者が講ずべき措置を定めています。
事業者が労働者を雇い入れたときは、その従事する業務に関する安全・衛生のための教育を行わなければなりません(法59条1項)。また、建設業や製造業等については、作業中の労働者を直接指導・監督する者に対しても、安全・衛生のための教育を行うことが義務付けられています(法60条)。
クレーンの運転など、危険性が伴う一定の業務については、免許や技能講習の終了などの資格を有することが就業の要件とされています(法61条)。
労働安全衛生法のポイント6|健康保持増進措置
「第7章 健康の保持増進のための措置」では、労働者の健康を保持・増進するための措置として、健康診断やストレスチェックの実施などを定めています。
健康診断
事業者は、労働者に対して医師による健康診断を行わなければなりません(=一般健康診断。法66条1項)。
また、
- 一定の有害な業務に従事する労働者
- 過去に当該業務に従事したことがある労働者
に対しては、医師による特別の項目についての健康診断を行うことが義務付けられています(=特殊健康診断。法66条2項)。
ストレスチェック
事業者は、労働者に対して、医師・保健師などによる心理的な負担の程度を把握するための検査(=ストレスチェック)を行わなければなりません(法66条の10第1項)。
ストレスチェックの結果は、医師・保健師などから労働者へ直接通知されます。医師・保健師などは、労働者の同意を得ない限り、ストレスチェックの結果を事業者に提供してはいけません(同条2項)。
ストレスチェックを受けた労働者は、希望すれば医師の面接指導を受けることができます(同条3項)。この場合、事業者は面接指導の結果を記録した上で、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴き、その内容を勘案して適切な措置を講じなければなりません(同条4項~6項)。
労働安全衛生法のポイント7|快適な職場環境の形成のための措置
「第7章の2 快適な職場環境の形成のための措置」では、事業者に対して求められる快適な職場環境を形成するための措置について定めています。
事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、以下の措置を継続的かつ計画的に講じ、快適な職場環境を形成するように努めなければなりません(法71条の2)。
①作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
②労働者の従事する作業の方法を改善するための措置
③作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設・設備の設置・整備
④①~③のほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置
厚生労働大臣は、上記の措置の適切かつ有効な実施を図るための指針を公表しています(法71条の3第1項)。
労働安全衛生法のポイント8|労働基準監督署などによる監督
労働基準監督官は、労働安全衛生法の施行に必要と認めるときは、事業場へ立ち入って検査・作業環境測定・製品等の収去を行うことができます(法91条1項)。
検査等の結果、労働安全衛生法に違反している状態が発見された場合、都道府県労働局長または労働基準監督署長は違反事業者等に対して、作業停止・建設物等の使用停止等を命ずることができます(法98条1項)。
また、違反の事実が明確でない場合にも、労働災害発生の急迫した危険があり、緊急の必要があるときは、応急的にこれらの命令を行うことが認められています(法99条1項)。
なお労働者は、事業場において労働安全衛生法違反の事実があるときは、その事実を
- 都道府県労働局長
- 労働基準監督署長
- 労働基準監督官
に申告して、是正のため適当な措置をとるように求めることができます(法97条1項)。
労働安全衛生法のポイント9|雑則
事業者は、労働安全衛生法・労働安全衛生施行令・労働安全衛生規則の要旨を、以下のいずれかの方法により労働者に周知させなければなりません(法101条)。
①常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付けること
②書面を労働者に交付すること
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
また、事業者は労働安全衛生法等に基づき作成した書類を保存する義務を負います(法103条1項)。
労働安全衛生法のポイント10|罰則
労働安全衛生法に違反する行為の一部は、罰則の対象とされています。
主な違反行為 | 罰則(法定刑) |
---|---|
・特別の安全衛生教育の不実施(法59条3項) ・健康診断等に関する秘密漏えい(法104条) | 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(法119条) ※法人にも50万円以下の罰金(法122条) |
・衛生管理者の不選任(法12条1項) ・産業医の不選任(法13条1項) ・衛生委員会の不設置(法18条1項) ・労働災害防止措置の不実施(法30条の2第1項) ・安全衛生教育の不実施(法59条1項) ・健康診断の不実施(法66条) ・書類保存義務違反(法103条) | 50万円以下の罰金(法120条) ※法人にも50万円以下の罰金(法122条) |
【2023年4月施行】労働安全衛生法改正とは
2023年4月1日から、一定の危険有害な作業を行う事業者には、以下の者に対する保護措置が義務付けられました。
①作業を請け負わせる一人親方等
②同じ場所で作業を行う労働者以外の人(一人親方や他社の労働者、資材搬入業者、警備員など、契約関係は問わない)
※労働者に対しては、労働安全衛生法の規定に従った保護措置等が従来から義務付けられています。
労働安全衛生法改正の詳細については、厚生労働省のリーフレットなどをご参照ください。
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