【2025年6月施行】労働安全衛生規則改正とは?
熱中症対策の義務化・定義・対応方法・
罰則などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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2025年6月1日から、労働安全衛生規則改正が施行されます。
同改正では、事業者に対して熱中症対策が義務付けられます。具体的には、熱中症患者の報告体制の整備や、熱中症の悪化を防止する措置の準備を行い、それぞれ作業従事者に対して周知させなければなりません。
事業者が実施すべき措置の内容は、今後公表される通達で示される予定です。通達や「令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱」などを参考にして、効果的な熱中症対策を行いましょう。
この記事では、労働安全衛生規則改正による熱中症対策義務化について分かりやすく解説します。
※この記事は、2025年4月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
法…労働安全衛生法
規則…労働安全衛生規則
改正規則…労働安全衛生規則の一部を改正する省令(厚生労働省令第57号)による改正後の労働安全衛生規則
パブリックコメント…労働安全衛生規則の一部を改正する省令案(熱中症関係)に関する意見募集の結果について(令和7年4月15日)
実施要項…令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱
目次
【2025年6月施行】労働安全衛生規則改正とは
2025年6月1日から、労働安全衛生規則改正が施行されます。
同改正では、事業者に対して熱中症対策が義務付けられます。具体的には、熱中症患者の報告体制の整備や、熱中症の悪化を防止する措置の準備を行い、それぞれ作業従事者に対して周知させなければなりません。
公布日・施行日
労働安全衛生規則改正の公布日および施行日は、以下のとおりです。
- 公布日・施行日
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公布日|2025年4月15日
施行日|2025年6月1日
労働安全衛生規則改正により、事業者の熱中症対策が義務化される背景
近年では、熱中症による死亡対外が年間30人を超え、労働災害による死亡者数全体の約4%を占めていて、熱中症対策の重要性が高まっています。
熱中症による死亡の主な原因として、初期症状の放置や対応の遅れが挙げられます。しかし現行法令では、熱中症による健康障害の疑いがある人の早期発見や、重篤化を防ぐための対応についての定めがありません。
そこで今回の労働安全衛生規則改正により、事業者が講ずべき熱中症対策について法令上明記されました。
労働安全衛生法における熱中症対策義務化の根拠条文
労働安全衛生法
第22条 事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
① 略
② 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
③④ 略第27条 第20条から第25条まで及び第25条の2第1項の規定により事業者が講ずべき措置及び前条の規定により労働者が守らなければならない事項は、厚生労働省令で定める。
2 略
法22条2号では、高温による労働者の健康障害を防止するため、必要な措置を講じることを事業者に義務付けています。
また、法27条1項により、上記の措置については厚生労働省令(=労働安全衛生規則)で定めるものとされています。
労働安全衛生規則によって事業者が講ずべき熱中症対策が定められるのは、上記の規定を受けたものです。
改正後の労働安全衛生規則の内容は以下のとおりです。
労働安全衛生規則
(熱中症を生ずるおそれのある作業)
第612条の2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。
労働安全衛生規則改正による熱中症対策義務化の内容
今回の労働安全衛生規則改正では、事業者の熱中症対策について以下の2点が明記されました。
① 熱中症患者の報告体制の整備・周知
② 熱中症の悪化防止措置の準備・周知
熱中症対策の具体的な内容や実施方法などは、追って通達で示される予定です(パブリックコメント7~10番)。
ポイント1|熱中症患者の報告体制の整備・周知
事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業など「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行うときは、熱中症を生じた疑いがある作業従事者を発見した者に、その旨の報告をさせる体制を整備しなければなりません(改正規則612条の2第1項)。
また、事業者が整備した熱中症患者の報告体制は、作業従事者に対して周知させる必要があります。
ポイント2|熱中症の悪化防止措置の準備・周知
事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業など「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行うときは、あらかじめ作業場ごとに、以下の措置の内容および実施手順を定めなければなりません(改正規則612条の2第2項)。
- 事業者が定めるべき熱中症の悪化防止措置
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・当該作業からの離脱
・身体の冷却
・必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること
・その他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置
また、事業者が定めた熱中症の悪化防止措置の内容および実施手順は、作業従事者に対して周知させる必要があります。
「熱中症」とは
「熱中症」とは、体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称です。
今後発せられる通達でも、上記の内容を踏まえた熱中症の定義が示される予定となっています(パブリックコメント13番)。
「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは
事業者が規則に定める熱中症対策を行う必要があるのは、熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときです。
「熱中症を生ずるおそれのある作業」は、「WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間超の実施が見込まれる作業」であることが通達で示される予定となっています(パブリックコメント6番)。
また、上記に該当しない作業についても、作業強度や着衣の状況によりWBGT基準値を超える場合は熱中症のリスクが高まるため、同様の措置が通達等で推奨される予定です(同)。
WBGT基準値とは
「熱中症を生ずるおそれのある作業」の基準となる「WBGT基準値」とは、身体作業の強度などに応じて暑熱を許容できるラインを示した値です。
WBGT値(暑さ指数)がWBGT基準値以下であれば、熱中症を発症する危険はほとんどないと判断されます。反対に、WBGT値がWBGT基準値を超えてくると、熱中症のリスクが次第に高まります。
- WBGT値の計算方法
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<日射がない場合>
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度<日射がある場合>
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×気温(乾球温度)自然湿球温度:強制通風することなく、輻射(放射)熱を防ぐための球部の囲いをしない環境に置かれた濡れガーゼで覆った温度計が示す値
黒球温度:次の特性を持つ中空黒球の中心に位置する温度計が示す値
・直径が150mmであること
・平均放射率が0.95(つや消し黒色球)であること
・厚さができるだけ薄いこと気温(乾球温度):周囲の通風を妨げない状態で、輻射(放射)熱による影響を受けないように球部を囲って測定された乾球温度計が示す値
身体作業強度が低ければWBGT基準値は高くなり、反対に身体作業強度が高ければWBGT基準値は低くなります。大きな負担がかかる作業をしているときは、暑さを許容しにくくなるということです。
また、暑さに慣れていない人(=暑熱非順化者)は、暑さに慣れている人(=暑熱順化者)よりもWBGT基準値が低くなります。
区分 | 身体作業強度(代謝率レベル)の例 | WBGT基準値(暑熱順化者) | WBGT基準値(暑熱非順化者) | |
---|---|---|---|---|
0 安静 | 安静、楽な座位 | 33 | 32 | |
1 低代謝率 | 軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記) 手および腕の作業(小さいペンチツール、点検、組立てまたは軽い材料の区分け) 腕および脚の作業(通常の状態での乗り物の運転、フットスイッチ及びペダルの操作) 立位でドリル作業(小さい部品) フライス盤(小さい部品) コイル巻き 小さい電機子巻き 小さい力で駆動する機械 2.5 km/h以下での平坦な場所での歩き | 30 | 29 | |
2 中程度代謝率 | 継続的な手および腕の作業(釘打ち、盛土) 腕および脚の作業(トラックのオフロード運転、トラクターおよび建設車両) 腕と胴体の作業(空気圧ハンマーでの作業、トラクター組立て、しっくい塗り、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、除草、果物及び野菜の収穫) 軽量な荷車および手押し車を押したり引いたりする 2.5 km/h~5.5 km/hでの平坦な場所での歩き 鍛造 | 28 | 26 | |
3 高代謝率 | 強度の腕および胴体の作業 重量物の運搬 ショベル作業 ハンマー作業 のこぎり作業 硬い木へのかんな掛けまたはのみ作業 草刈り 掘る 5.5km/h~7km/hでの平坦な場所での歩き 重量物の荷車および手押し車を押したり引いたりする 鋳物を削る コンクリートブロックを積む | 26 | 23 | |
4 極高代謝率 | 最大速度の速さでのとても激しい活動 斧を振るう 激しくシャベルを使ったり掘ったりする 階段を昇る 平たんな場所で走る 7km/h以上で平坦な場所を歩く | 25 | 20 |
※暑熱順化者とは、評価期間の少なくとも1週間以前から同様の全労働期間、高温作業条件(または類似もしくはそれ以上の極端な条件)にばく露された人をいいます。
事業者が講ずべき熱中症対策の具体例
厚生労働省が公表している「令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱」では、事業者が講ずべき熱中症対策の内容がまとめられています。今回の労働安全衛生規則改正への対応に当たっても、一定の参考になるものです。
同要綱では、熱中対策の実施事項として以下の例などが挙げられています。
① 暑さ指数(WBGT)の把握・評価
② 作業環境の管理
③ 作業時間の短縮等
④ 暑熱順化への対応
⑤ 水分や塩分の摂取
⑥ 服装の調整
⑦ プレクーリング
⑧ 健康管理
⑨ 労働衛生教育
⑩ 異常時の措置
⑪ 熱中症予防管理者等の設置
暑さ指数(WBGT)の把握・評価
熱中症のリスクを測る上では、WBGT値(暑さ指数)を適切に把握・評価することが大切です。実施要綱では、日本産業規格 JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合したWBGT指数計を用いることが求められています。
その地域を代表する一般的なWBGT値を参考とすることは有効であるものの、個々の作業場所や作業ごとの状況は反映されていないことに留意しなければなりません。
作業環境の管理
以下に挙げるようなWBGT値(暑さ指数)を低減する対策を行い、熱中症のリスクを抑えることが求められます。
- WBGT値を低減する対策の例
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・簡易な屋根の設置
・通風または冷房設備の設置
・ミストシャワー等による散水設備の設置
など
また、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や、日陰などの涼しい休憩場所を確保することも大切です。休憩場所は、具合が悪くなった作業従事者が横になれる程度の広さを確保する必要があります。
作業時間の短縮等
WBGT値がWBGT基準値を大幅に超える場合は、熱中症のリスクを防ぐため、原則として作業を控えるべきです。
やむを得ずWBGT値がWBGT基準値を大幅に超える場所で作業を行う場合は、以下の各点に留意しましょう。
- 単独作業を控え、休憩時間を長めに設定する。
- 作業従事者の心拍数、体温および尿の回数や色などの身体状況、水分および塩分の摂取状況を、管理者が頻繁に確認する(ウェアラブルデバイスなどのIoT機器を活用することも有効)。
暑熱順化への対応
暑熱順化の有無が熱中症の発生リスクに大きく影響することから、7日以上かけて暑熱環境での身体的負荷を増やし、作業時間を調整し、次第に長くすることが望ましいとされています。
特に新規採用者に対しては、他の労働者と同様の暑熱作業を行わせないように、計画的な暑熱順化のプログラムを組みましょう。
また、夏季休暇などで熱へのばく露が中断すると、4日後には暑熱順化が顕著に失われます。必要に応じ、暑熱順化期間の延長や、追加の暑熱順化を行いましょう。
水分や塩分の摂取
のどの渇きを自覚しているか否かにかかわらず、水分と塩分を作業前後に摂取し、さらに作業中も定期的に摂取することが求められます。
管理者としては、労働者に水分と塩分の摂取を徹底させるため、以下の対応を行うことが考えられます。
・水分および塩分の摂取を確認するための表を作成する
・作業中に巡視して確認する
・水分を常備する
・休憩設備を工夫する
など
服装の調整
熱を吸収・保熱しやすい服装は避け、透湿性および通気性の良い服装を準備することが求められます。直射日光下における作業が予定されている場合には、通気性の良い帽子やヘルメットなどを準備しましょう。
プレクーリング
「プレクーリング」とは、作業の前に体を冷やして体温を下げ、熱中症のリスクを減らすことをいいます。
特に暑さ指数(WBGT)が高い暑熱環境の下で、作業強度を下げたり通気性の良い衣服を採用したりすることが困難な作業においては、作業開始前や休憩時間中のプレクーリングを検討しましょう。
健康管理
事業者は、熱中症リスクを抑えるための健康管理として、以下のような取り組みを行うことが求められます。
- 疾病を有する者に対する配慮
- 日常の健康管理に関する指導
- 作業開始前における健康状態および暑熱順化の状況の確認
- 作業中の健康状態の確認
労働衛生教育
管理者と労働者に対して、以下の内容の労働衛生教育を行うことが求められています。
労働衛生教育の実施に当たっては、厚生労働省や環境省が運営しているサイトに掲載された教育用教材の活用が推奨されています。
事業者が自ら当該教育を行うことが困難な場合には、関係団体が行う教育を活用しましょう。
異常時の措置
本人や周りが少しでも熱中症などの異変を感じた際には、必ずいったん作業から離脱させ、身体冷却・医療機関への搬送・救急隊の要請などを行いましょう。
本人が「大丈夫」などと申し出ても、躊躇わずに熱中症の悪化防止措置をとることが大切です。
医療機関への搬送や救急隊の到着を待っている間は、アイススラリー(流動性の氷状飲料)・水分・塩分の摂取や、服を脱がせて水をかける全身の急速冷却などを行い、効果的な身体冷却に努めましょう。その際には、本人を一人きりにすることなく、誰かが様子を観察しましょう。
熱中症予防管理者等の設置
事業場において熱中症予防対策をきちんと行うためには、責任体制を確立することが大切です。
労働衛生教育を受けた者など、熱中症について十分な知識を有する者のうちから、熱中症予防管理者を選任しましょう。熱中症予防管理者は、実際に現場で熱中症予防対策を行う作業管理者などに対し、実施すべき対策のポイントなどを指示します。
熱中症予防管理者と現場担当者が連携して対応することが、適正な熱中症予防対策につながります。
熱中症への対応はマニュアルを参考にしつつ、臨機応変に行うべき
熱中症の悪化防止措置の内容や実施手順については、改正規則に従ってあらかじめ定める必要がありますが、実際にはその手順等によって対応するのが適切でない場合もあります。
熱中症患者の状態など、実際の現場の状況を踏まえた上で、臨機応変に適切な措置を講じることが大切です。
熱中症対策を怠った事業者が受けるペナルティ
改正規則で定められた熱中症対策を怠った事業者は、都道府県労働局長または労働基準監督署長から、以下の使用停止命令等を受けるおそれがあります(法98条)。
- 作業の全部または一部の停止
- 建設物等の全部または一部の使用の停止または変更
- その他労働災害を防止するため必要な事項
また、熱中症対策の実施義務に違反した者は「6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」に処されるほか(法119条1号)、法人に対しても「50万円以下の罰金」が科されます(法122条)。
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参考文献
e-Gov「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案について(概要)」
厚生労働省ウェブサイト「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)」
e-Gov「労働安全衛生規則の一部を改正する省令案(熱中症関係)に関する意見募集の結果について」