労働災害(労災)とは?
発生しやすい業種のランキング・事例・
認定基準などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

労働災害とは、労働者が、労働環境仕事通勤)が原因で怪我を負ったり病気にかかったりすることをいいます。

労働災害が発生した場合、使用者(会社)は、療養費休業手当などを補償する必要があるほか、安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うこともあります。

本記事では、労働災害の種類や労働災害により使用者が負う責任、労災保険の内容や認定基準などについて分かりやすく解説します。

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工場で働く友達の羊から、「羊毛」が危うく機械に巻き込まれて大怪我するところだった、という話を聞いたことがあります。

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労働災害は、いつ何が原因で発生するか分かりませんから、会社が安全を確保するのはもちろん、働く個人も気を付けていく必要がありますね。

※この記事は、2024年5月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 労災保険法…労働者災害補償保険法
  • 労災保険法施行規則…労働者災害補償保険法施行規則

労働災害(労災)とは

労働災害とは、労働者が、労働環境(仕事通勤)が原因となって被った、負傷・疾病・傷害または死亡(以下「傷病等」)をいいます。

労働災害は、

  • 仕事(業務)により生じたか
  • 通勤中に生じたか

で大別され、業務上生じたものを業務災害、通勤中に生じたものを通勤災害といいます。

また、労働災害のうち、政府や会社、労働災害にあった労働者(以下「被災労働者」)以外の第三者が原因となって発生した労働災害を第三者行為災害といいます。

ムートン

第三者行為災害の例としては、以下のようなものがあります。

  • 警備員が窃盗犯を捕まえようとして反撃され、打撲した
  • 自家用車で通勤途中に他の車に追突された

労働災害が発生しやすい業種のランキング

厚生労働省発表の令和4年度業種別労働災害発生状況によれば、令和4年度の労災事故による死亡者数は774人、休業4日以上の死傷者数は132,355人です。

これを、業種別にランキングすると以下のとおりです。

順位死亡者数休業4日以上の死傷者数
1建築業(281人)製造業(26,694人)
2第三次産業(198人)小売、社会福祉施設、清掃・と畜、飲食店を除いた第三次産業(25,362人)
3製造業(140人)陸上貨物運送事業(16,580人)
4陸上貨物運送事業(90人)小売業(16,414人)
5林業(28人)建設業(14,539人)
6社会福祉施設(12,780人)
7清掃・と畜業(6,889人)
8飲食店(5,304人)
その他その他(37人)その他(林業等)(7,793人)

また、事故の型別ランキングは、以下のとおりです。

順位死亡者数休業4日以上の死傷者数
1墜落・転落(234人)転倒(35,295人)
2交通事故(道路)(129人)動作の反動・無理な動作(20,879人)
3はさまれ・巻き込まれ(115人)墜落・転落(20,620人)
4激突され(59人)はさまれ・巻き込まれ(14,099人)
5崩壊・倒壊(52人)切れ・こすれ(7,500人)
6飛来・落下(42人)激突(7,047人)
その他その他(143人)その他(26,915人)

労働災害の種類と事例(具体例)

上記のとおり、労働災害は、以下の2種類に大別されます。

  • 業務災害
  • 通勤災害

種類1|業務災害

業務災害とは、労働者が業務上で被った傷病等をいいます。

業務災害のうち、

  • ケガが生じるものを「業務上の負傷
  • 病気が生じるものを「業務上疾病

といいます。

業務上の負傷

上記記載の事故の型別ランキングのとおり、労災の多くは、業務上の負傷です。

業務上の負傷と認められるためには、業務と負傷との間に一定の因果関係があることが必要です。

業務上の負傷には、具体的に、以下のようなものがあります。

  • 会社の商品を運んでいる途中に転倒して捻挫した。
  • 建築作業中に足場から転落して足を骨折した。
  • 製品を製造中に製造用機械に巻き込まれ、切り傷を負った。

業務上疾病

業務上疾病とは、労働者が使用者の支配下にある状態において有害因子にさらされたことを原因として発症した疾病をいいます。

この点、例えば、労働者が就業時間中に脳出血を発症した場合、その発症原因が生来の持病など、業務とは関係なかった場合には、「使用者の支配下にある状態において有害因子にさらされた」ことが原因とはいえず、業務上の疾病にはあたりません。

他方で、就業時間外に脳出血を発症した場合であっても、「業務による過度なストレス」など、業務による有害因子にさらされたことによって発症したものと認められれば、業務と疾病との間に相当因果関係が成立し、業務上疾病と認められます

業務上疾病の具体例としては、以下のようなものがあります。

  • 石綿を製造するなどの石綿暴露作業に従事していた労働者が中皮腫を発症した。
  • トンネル開通工事中に事故により一酸化炭素中毒となった。
  • 業務過多による過度のストレスでうつ病になった。

種類2|通勤災害

通勤災害とは、通勤中に労働者が被った傷病等をいいます。

具体的には、

  • 通勤途中の階段で転んで捻挫をした
  • 会社から帰宅中に乗っていたタクシーが事故を起こし、むち打ちになった

などがこれに該当します。

労働災害の原因

労働災害の原因の多くは、労働者の不安全行動と、機械や物の不安全状態です。

・労働者の不安全行動
労働者が、労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行う行為

・機械や物の不安全状態
機械や物について、事故が発生しうる状態、または、事故の発生原因を作り出されている状態

厚生労働省の「労働災害原因要素の分析(平成22年)」によれば、
①不安全な行動及び不安全な状態に起因する労働災害:94.7%
② 不安全な行動のみに起因する労働災害:1.7%
③不安全な状態のみに起因する労働災害:2.9%
④不安全な行動もなく、不安全な状態でもなかった労働災害:0.6%
となっており、労働災害発生原因全体のうち99.4%が、両方またはいずれかを原因として発生しています。

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労働者の不安全行動の類型としては以下の12項目、機械や物の不安全状態としては以下の8項目が挙げられます。

労働者の不安全行動

①防護・安全装置を無効にする
②安全措置の不履行
③不安全な状態を放置
④危険な状態を作る
⑤機械・装置等の指定外の使用
⑥運転中の機械・装置等の掃除、注油、修理、点検等
⑦保護具、服装の欠陥
⑧危険場所への接近
⑨その他の不安全な行為
⑩運転の失敗(乗物)
⑪誤った動作
⑫その他

機械や物の不安全状態

①物自体の欠陥
②防護措置・安全装置の欠陥
③物の置き方、作業場所の欠陥
④保護具・服装等の欠陥
⑤作業環境の欠陥
⑥部外的・自然的不安全な状態
⑦作業方法の欠陥
⑧その他

労働災害が生じた場合の使用者の責任

民事上の責任

労働災害が生じた場合に使用者が民事上負う責任は、以下の2つです。

  • 労災補償責任
  • 民事賠償責任

労災補償責任

労災が生じた場合、使用者は、被災労働者またはその遺族(以下「被災労働者等」)に対し、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償等の補償を行わなければなりません。(労働基準法第8章)

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これを労災補償責任といいます。

使用者は、労働災害の原因について無過失であったとしても労災補償責任を負います

しかしながら、使用者に労災補償を行う資力がない場合には十分な支払いを行えず、被災労働者等が不利益を被る恐れがあります。

そのため、国は、被災労働者等が確実に補償を受けられるように労災補償を保険制度として運用し、使用者に保険加入させ、保険料を納める義務を課し、被災労働者等に対しては、この保険によって支払いを行っています。これが、労働災害保険(労災保険)です。

民事賠償責任

使用者は、労働者に対し、安全配慮義務(労働者の生命・身体・健康が害されることがないように配慮する義務)を負っています。(民法1条2項、労働契約法5条)

そこで、使用者が安全配慮義務に違反した結果、労働災害が発生した場合、使用者は、以下の条文を根拠に損害賠償義務を負います。

  • 債務不履行責任(労働契約違反)|民法415条
  • 不法行為責任|民法709条・民法715条
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請求される損害賠償の範囲は、以下のとおりです。

積極的損害(安全配慮義務違反により現実に生じた損害)
治療関係費、通院交通費、装具・器具等購入費など

消極的損害(安全配慮義務違反がなければ得たであろう利益)
休業損害、逸失利益など

慰謝料

刑事上の責任

前述のとおり、使用者は安全配慮義務を負っていますので、安全配慮義務違反により、労働災害が生じた場合、職務上安全配慮すべきことを義務付けられている者(経営者や安全管理者)が、業務上過失致死(致傷)罪に問われる可能性があります。(刑法211条)

また、労働安全衛生法では、事業者に対して労働災害防止の事前予防のための安全衛生管理措置を定め、罰則をもって遵守を義務づけています。

そこで、労働災害の発生の有無を問わず、安全衛生管理措置を怠ると、職務上安全配慮すべきことを義務付けられている者に、刑事責任が科せられます。(労働安全衛生法116条、117条、119条、120条)

なお、同法違反には両罰規定があり、同法に違反した場合、会社自体にも罰金が科されます。(労働安全衛生法122条)

行政上の責任

事業者は、労働災害等により労働者が死亡または休業した場合には、労働基準監督署長に報告書を提出しなければなりません。(労働基準法施行規則57条、労働安全衛生規則96条、97条)

また、労働安全衛生法では、労働災害発生の急迫した危険がある場合などには、監督官庁は、次のような事項を行うことができます。(労働安全衛生法88条、89条、98条、99条など)

  • 是正勧告
  • 改善指導
  • 機械設備の使用停止処分
  • 作業停止処分

そのため、労働災害が発生した場合、このような行政上の処分がなされる可能性があります。

その他、労働災害が発生したような場合には、安全配慮義務違反を理由として行政機関から取引停止(指名停止)を受けることもあります。

社会的責任

労働災害を起こした企業は、社会からの信頼性が低下します。
また、上記のとおり、行政期間からの取引停止などによる売上減少も起こりえます。

その一方で、工場での火災発生など、重大な労働災害が生じた場合、労働災害による損害賠償や罰金だけでなく、会社の設備復旧のための費用もかかります。

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このように、労働災害を起因として売上が低下する一方、さまざまな費用は増大することとなり、企業としての基盤が危ぶまれる可能性があります。

労災保険給付とは

労災保険給付とは、労働災害保険により労働者に行われる給付をいいます。労災給付の対象や範囲、支払われる金額は、労災保険法などの法律で定められています。

労災保険給付の種類

労災保険給付の種類は、以下のとおりです。

給付の種類給付される場合
療養(補償)等給付労働災害による傷病により療養するとき
休業(補償)等給付労働災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき
障害(補償)等給付労働災害による傷病が治ゆ(症状固定)した後に障害等級第1級から第14級までに該当する障害が残ったとき
遺族(補償)等給付労働災害により死亡したとき
葬祭料等(葬祭給付)労働災害により死亡した人の葬祭を行うとき
傷病(補償)等年金療養開始後1年6か月を経過しても治ゆ(症状固定)せず、傷病等級(第1級~第3級)に該当するとき
介護(補償)等給付障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているとき
二次健康診断等給付使用者が行った直近の定期健康診断等(一次健康診断)において、次の(1)(2)のいずれにも該当するとき
(1)血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、腹囲またはBMI(肥満度)の測定のすべての検査において異常の所見があると診断されていること
(2)脳血管疾患または心臓疾患の症状を有していないと認められること

保険給付手続きの流れ

保険給付を受けるためには、以下の手順を踏む必要があります。

①労働者が被災
   ↓
②被災労働者等が、保険給付請求書を作成
 ・使用者から証明を取得
 ・医療機関から証明・診断書等を取得
   ↓
③労働基準監督署(都道府県労働局)へ保険給付請求書を提出
   ↓
④労働基準監督署による調査
   ↓
⑤厚生労働省または労働基準監督署から、被災労働者へ支払決定通知・支払い

保険給付請求は、被災労働者等が行うのが原則ですが、労災請求の手続きを自力で行うことが困難な被災労働者等については、使用者が助力しなければならないとされており、実務上は、会社が労災労働者に代わって労災申請することも多くあります。(労災保険法施行規則13条、23条1項)

なお、指定病院等で診療した場合の療養給付や二次健康診断等給付については、病院等から都道府県労働局へ請求され、診療費や検査費が厚生労働省から直接病院等に直接支払われます。

労災保険を受けることができない場合

労災保険では、労災の原因となる行為等について、被災労働者自身に責任がある場合には、保険給付の支給を制限されたり、その支払いを一時差し止めたりされることがあります。

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具体的には、以下のとおりです。

絶対的支給制限(労災保険法12条の2の2第1項)
労働者が故意に傷病等の直接の原因となった事故を生じさせたときには、保険給付を行わない
※業務によって精神障害を発生し、正常な判断ができない状態で自殺した場合は、「故意」に該当しません。

相対的支給制限(労災保険法12条の2の2第2項)
労働者が故意の犯罪行為や重大な過失、正当な理由なく療養に関する指示に従わないことにより、傷病等やこれらの原因となった事故を生じさせたり、傷病等の程度を増進させたり、その回復を妨げたときには、保険給付の全部または一部を行わないことができる

一時差止め(労災保険法47条の3)
保険給付を受ける権利を有する者が、正当な理由なく届出、書類等や必要な報告を提出しなかったり、出頭や受診等の命令に従わないときには保険給付を一時差し止めることができる

労働災害の認定基準

業務災害の認定基準

業務災害といえるためには、業務上被った傷病等である必要があります。

「業務上」といえるためには、以下の二つの要件を満たす必要があります。

業務遂行性
 労働者が労働契約を基礎として形成される使用者の支配ないし管理下にあること

業務起因性
 業務または業務行為に伴う危険が現実化したものと経験則上認められること

業務上の負傷の認定基準

労働者が事業場施設内において業務に従事している際に負傷した場合には、使用者の支配下で(業務遂行性)、労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するもの(業務起因性)と考えられるので、通常、業務災害と認められます。

ただし、次のような場合には、業務とケガとの間に因果関係がないため業務起因性がなく、業務災害とは認められません。

①労働者が就業中に私用を行い、それが原因となって災害を被った場合
②労働者が故意に災害を発生させた場合
③労働者が個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合
④地震、台風など天災地変によって被災した場合

事業場施設内であっても、昼休み就業時間前後など、業務に従事していないときに負傷した場合には、原則として業務との因果関係がなく、業務起因性が認められないため、業務災害とは認められません

ただし、手すりが壊れていた職場の階段を休憩時間に使用したら落下してケガをしたなど、職場の施設や設備等の管理に欠陥があり、それが原因として負傷したような場合には、業務災害が認められる場合があります。

出張や社用での外出先で業務中に負傷した場合については、使用者の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づき使用者の命令を受けて業務をしているため、使用者の支配下にあるとして業務遂行性が認められ、通常、業務災害となります。

会社主催の宴会や運動会などの社外行事については、原則として「業務上」とは認められませんが、社外行事の目的と業務との関連性が極めて強く、社外行事への参加が強制されるなどの事情がある場合、例外的に「業務上」と認められる場合があります。

業務上の疾病の認定基準

以下の三つの要件を満たす場合、業務遂行性と業務起因性があり、「業務上疾病」と認められます。

要件①労働の場に有害因子が存在していること

有害因子とは、業務に内在する有害な物理的因子、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業、病原体などの諸因子を指します。

要件②健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと

健康障害は、有害因子にさらされることによって起こりますが、その健康障害を起こすに足りる有害因子の量、期間にさらされている必要があります。

要件③発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること

業務上疾病は、労働者が業務に内在する有害因子に接触することによって起こるものですから、少なくともその有害因子にさらされた後に発症する必要があります
しかし、業務上疾病の中には、有害因子にさらされた後、短期間で発症するものもあれば、相当長期間の潜伏期間を経て発症するものもあり、発症の時期は有害因子の性質や接触条件などによって異なります。
したがって、発症の時期は、有害因子にさらされている間またはその直後のみに限定されません。

通勤災害の認定基準

通勤災害が認められる「通勤」とは、就業に関し行う、以下のいずれかの移動をいいます。

①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法で行うこと

ただし、通勤の途中で経路をそれる、飲酒するなど、通勤の途中で「逸脱」、または「中断」した場合には、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」とはなりません

「逸脱」…通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれること
「中断」…通勤の経路上で通勤と関係のない行為を行うこと

労災保険と損害賠償請求との関係

前述したとおり、労災保険による給付は、使用者による労災補償責任を保険の形で実現するものです。そして、損害賠償は、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任または不法行為責任に基づき認められるものです。そのため、両者は法的な性質が異なるものとして、併存します。

この点、労災保険は、使用者が無過失でも請求できますが、労災保険給付の範囲や金額は法律で定められており、労災による損害すべてが補償されるわけではありません。
そこで、使用者に安全配慮義務違反や不法行為責任があるときには、被災労働者等は、労災保険に加え、使用者に対し損害賠償を請求できます

ただし、使用者が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償を行う場合、被災労働者等が労災保険により支給された分については支払い義務がなくなりますから、被災労働者等は、実際の損害額以上に受け取ることはできません。(労働基準法84条2項)

また、労災が第三者行為災害の場合、被災労働者等は、危害を加えた第三者に対しても損害賠償請求をすることができますが、労災給付と重複する部分については、以下のとおり調整され、被災労働者等は、実際の損害額以上に受け取ることはできません。(労災保険法12条の4)

①先に国が労災保険給付をしたときは、政府は、被災労働者等が第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険給付の価額の限度で取得する
②被災労働者等が第三者から先に損害賠償を受けたときは、国は、その価額の限度で労災保険給付をしないことができる

労働災害が発生した際の対応

労働災害発生時の対応

労働災害が発生したときには、まずは、以下の対応が必要です。

  • 被災労働者の救護
  • 被災労働者の病院への搬送
  • 被災労働者の家族への連絡
  • 警察署・労働基準監督署への連絡(重大な労働災害の場合)

このような対応がスムーズに行えるよう、あらかじめ、以下のような準備をしておくとよいでしょう。

  • 応急手当、介護のための設備、道具の置き場所の確認
  • 消防・救急、警察署、労働基準監督署の連絡先、対応担当者の一覧作成
  • 労働者の家族などの連絡先の確認
  • その他、会社独自の対応手順の決定

労働災害発生後の対応

労働災害発生後には、以下のような対応が必要です。

事故の状況把握と原因調査
・ 警察署・労働基準監督署の現場検証立会い
・ 警察署・労働基準監督署の事情聴取への対応

労働基準監督署への届出
・ 休業4日以上:すみやかに労働基準監督署へ報告
・ 休業1~3日 :4 半期に1度、労働基準監督署へ報告

労災保険手続き
・保険給付請求(被災労働者等に代わって行う場合)
・保険給付請求に必要な証明(被災労働者等本人や指定病院が請求する場合)

被災労働者等への対応
・被災労働者やその家族への状況報告、陳謝等(必要に応じ)
・被災労働者等への損害賠償の要否の検討
・被災労働者に対するカウンセリング、配置転換の希望徴取などのアフターケアー

再発防止策の検討と実施
・被災労働者への聞き取り
・ 設備や道具の改善
・ 作業手順書の改訂
・ 社内安全衛生教育の実施

特に労働基準監督署への届け出や労災保険給付申請の方法は、傷病等の程度や治療機関が指定病院か否かなどで異なってきますので、予め、報告についての決まりや請求手順を確認しておくとよいでしょう。

おわりに

労働災害が生じた場合、使用者は、労災補償や損害賠償責任を負うほか、場合によっては刑事罰や行政処分を受ける可能性があります。

また、労働災害が生じた場合には、被災労働者への対応や労災保険手続き、再発防止の実施などを早急に行わなければなりません。

本記事を参考に、労働災害と労災保険、使用者の責任などについての基本的な事項を確認するとともに、労災が生じた場合に会社が行うべき対応について、会社の実情に合わせ整理するとよいでしょう。

ムートン

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参考文献

厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「労災保険給付の概要」

厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「脳・心臓疾患の労災認定(過労死等の労災補償Ⅰ)」

厚生労働省ウェブサイト「職場のあんぜんサイト」

ロア・ユナイテッド法律事務所編『労災の法律相談(改訂版)』青林書院、2022年