【施行日未定】フリーランス保護新法とは?
下請法との違い・フリーランス支援の
法整備に向けた動きを分かりやすく解説!

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三浦法律事務所弁護士
慶應義塾大学法科大学院法務研究科中退 2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2016年~18年三宅・今井・池田法律事務所において倒産・事業再生や一般企業法務の経験を積み、2019年1月より現職。
この記事のまとめ

フリーランスとは、特定の企業や組織などに所属せず、企業などから業務の委託を受けて働く事業者のことをいいます。フリーランスは、労働基準法が適用されないため、取引上弱い立場に置かれています。そのため、業務を委託する企業から一方的に契約内容を変更されたり、報酬の支払いが遅れたりする等トラブルに巻き込まれがちです。他方で、フリーランス人口は年々増加しており、政府も、フリーランスも含めて柔軟な労働移動の実現や、自己実現のできる働き方を求めています。

このような動きの中で、フリーランスが不当な不利益を受けることがなく、安定的に働くことができる環境を整えることが求められています。そのため、2023年2月24日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法案。いわゆる「フリーランス保護新法」)が国会に提出され、同年4月28日に成立しました。施行日は未定ですが、早ければ2023年中に、遅くとも2024年秋頃までには施行されると思われます。

そこで、この記事では、フリーランス保護新法について、制度背景や具体的な内容について分かりやすく解説します。フリーランスに業務を委託する事業者やフリーランスとして働いている方は、今後の動向を注視しましょう。

ヒー

これまで労働関係法令で保護されなかったフリーランスが保護されるようになるんですね。

ムートン

そうですね。ただ、事業者側としては、フリーランスとの業務委託の際に、守らねばならない義務が課されるので、施行までに体制を整備する必要がありますよ。

※この記事は、2023年5月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • フリーランス保護新法特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
  • フリーランスガイドライン…フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン
  • 下請法…下請代金支払遅延等防止法
  • 独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

フリーランス保護新法とは

フリーランス保護新法とは、働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備することを目的とした法律です。

下請法との違い

下請法とは、発注元企業が下請事業者に発注した商品やサービスについて、代金の支払遅延や代金の減額、返品等といった下請事業者に不利益を与える行為を禁止する法律です

同法は、取引の発注者の資本金が一定の金額以上になる場合に適用される法律です。しかしながら、フリーランスに取引を発注する委託事業者の多くは、資本金1,000万円以下であることが多く、フリーランスとの取引において同法の適用される場面は必ずしも多くありません。

フリーランス保護新法は、このような資本金要件の制限なく、フリーランスに対して取引を発注する委託事業者を規制し、フリーランスを保護するものです。詳細は、「フリーランス保護新法案の内容|企業がとるべき対策も含め解説!」にて解説します。

フリーランス保護新法の施行日

フリーランス保護新法は、2023年2月24日に通常国会に提出され、同年4月28日に成立しました。

本記事執筆時点(2023年5月1日)で、施行日は未定ですが、公布の日から1年6カ月を超えない時期、遅くとも2024年秋頃までに施行される予定です。

フリーランスとは

現状、フリーランスに関する法律上の定義はありませんし、統一的な定義も存在していません。

例えば、後述するフリーランスガイドライン・フリーランス保護新法では、「フリーランス」について、以下のとおり定義しています。

  • フリーランスガイドライン:実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者
  • フリーランス保護新法:業務委託の相手方である①個人の事業者であって、従業員を使用しないもの、②法人であって、代表者以外に他の法人がおらず、かつ、従業員を使用しないもの

概ね、従業員を雇用しておらず、一人で収入を得るために委託者との間で請負契約業務委託契約を締結して業務を受注している者をいい、原則として、労働基準法などの労働関係法令が適用されない者です。

フリーランス保護新法整備までの背景

厚生労働省が推進する働き方改革によって、フリーランスとして働く者の人口は年々増加しています。近年では、働く人の価値観が変化したことにより、仕事第一ではなくワークライフバランスを重視する傾向が見られています。また、新型コロナウイルス感染症の動向を踏まえて、リモートワークやテレワークといった自由な働き方に注目が集まっていることも考えられます。

しかしながら、フリーランスは、個人で収入を得るために事業をしているため、その性質上、原則として労働基準法「労働者」とは認められず、労働関係法令の適用がありません

そのため、取引先となる委託者との関係において、労働者と比べて弱い立場に置かれます。労働時間規制や最低賃金、解雇規制等が適用されないため、委託者から安価な報酬で契約解除が容易な外部労働力として酷使されてしまう可能性も否定できません。

また、委託者との取引条件が十分に明記されていなかったり、報酬の支払いが遅れたり、一方的な減額がなされたり等といったトラブルも増えてきました。

このような経緯から、2020年7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するために、ガイドラインを策定することが示されました。これに加えて、2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、フリーランスの取引適正化のための法制度について検討し、国会に提出することとされました。

フリーランスガイドラインとは

フリーランスガイドラインの概要

上述した成長戦略実行計画に基づき、2021年3月26日、関係省庁が連名にて、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「フリーランスガイドライン」といいます)を策定しました。

フリーランスガイドラインの概要は、事業者とフリーランスとの取引について、独占禁止法下請法労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、これらの法令に基づく問題行為を明確化するものです。

独禁法・下請法との関係

フリーランスが事業者と取引をする際には、その取引全般に独占禁止法が適用されます。また、取引の発注者となる事業者(法人)の資本金が一定の金額以上になる場合には、下請法も適用されます。

ガイドラインでは、これらの独占禁止法・下請法の適用関係が明記されており、
①フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項
②仲介事業者(フリーランスと発注事業者をマッチングさせる事業者)が遵守すべき事項
が明記されています。

特に、独占禁止法・下請法との関係で、フリーランスと取引を行う事業者が注意すべき事項は、

  • 優越的地位の濫用規制
  • 発注時の取引条件の明確化

です。これらの法令違反が問題となる行為類型は、フリーランスガイドラインにて具体的に記載されています。

労働関係法令との関係

フリーランスには、原則として、労働基準法などの労働関係法令が適用されません。

しかしながら、契約の形式や名称にかかわらず、個々の業務の実態などから判断して「労働者」と認められる場合は、労働関係法令が適用されることもあります。フリーランスガイドラインでは、「労働者」と認められる場合の判断基準やその具体的な考え方について、詳述されています

フリーランス保護新法案の内容|企業がとるべき対策も含め解説!

趣旨

フリーランス保護新法では、働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事できる環境を整備することを目的とし、委託事業者およびフリーランスの取引について、委託事業者において、

  • 書面等での契約内容の明示
  • 報酬の60日以内の支払い
  • 募集情報の的確な表示
  • ハラスメント対策

等の措置を講じることとされています。

同法では、罰則の規定も設けられており、これによってフリーランス保護の実効性を高めています。

対象となる当事者・取引の定義

フリーランス保護新法では、対象となる当事者・取引については、以下のとおり定義されています(フリーランス保護新法2条1項)。

定義
業務委託事業者がその事業のために他の事業者に
①物品の製造(加工を含む)又は情報成果物の作成を委託すること
②役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む)
特定受託事業者業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用しないもの
②法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しないもの
業務委託事業者特定受託事業者に業務委託をする事業者
特定業務委託事業者業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用するもの
報酬業務委託事業者が業務委託をした場合に特定受託事業者の給付(役務の提供をすること)に対し支払うべき代金

フリーランス保護新法で保護されているのは、あくまでも業務を受託する側の事業者(特定受託事業者)のみであって、業務を委託する側の事業者は保護されていません。また、個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には、対象となりません。他方で、法人であっても、他の役員や従業員がおらず、一人で事業を行っている場合には、対象となります。

なお、この記事では、便宜上、「特定受託事業者」のことを「フリーランス」、「業務委託事業者」や「特定業務委託事業者」のことを単に「委託事業者」といいます。

特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等

委託事業者は、フリーランスに対し業務を委託した場合、フリーランスの給付の内容、報酬の額等を明示しなければなりません(フリーランス保護新法3条1項)。具体的に明示しなければならない事項は、以下のとおりです。なお、④公正取引委員会規則が定めるその他の事項については、今後、規則の制定を待つ必要があります。

業務委託事業者が明示しなければならない事項

① 給付の内容
② 報酬の額
③ 支払期日
④ 公正取引委員会規則が定めるその他の事項

また、委託事業者は、上記事項を明示するにあたっては、書面または電磁的方法によらなければなりません

しかしながら、電磁的方法により明示を行った場合であっても、フリーランスから書面の交付を求められた場合には、原則として、遅滞なく書面で交付する必要があります(フリーランス保護新法3条2項)。法案上は、例外的に書面を交付しなくてもよい場合が想定されていますが、具体的な場合については、今後の公正取引委員会規則の制定を待つ必要があります。

報酬の支払期日等

フリーランス保護新法では、フリーランスが報酬の支払遅延を受けないように、報酬の支払期日につき、以下のとおり定められています(フリーランス保護新法4条)。そのため、委託事業者は、フリーランスから物品や成果物の給付を受けたり、役務提供を受けたりした場合には、この支払期日等の定めに従って、速やかに報酬を支払わなければなりません

報酬の支払期日等
原則(委託事業者の義務)フリーランスから給付を受領した日(フリーランスが役務を提供した日)から起算して60日以内で、かつ、できる限り短い期間内
支払期日が定められなかった場合給付を受領した日(役務を提供した日)
受領日から起算して60日より長い支払期限が定められた場合給付を受領した日(役務を提供した日)から60日を経過する日

なお、フリーランス保護新法では、業務の再委託がなされた場合についても、元委託者から委託事業者、委託事業者からフリーランスまで適時に報酬が支払われるように、支払期限を定める義務が設けられています(フリーランス保護新法4条3項)。これによって、再委託の場合にも、報酬の支払遅延を防止できます。

委託事業者の遵守事項

フリーランス保護新法では、長期間の業務委託がなされる場合に、フリーランスが不利益を受けないように、委託事業者が遵守すべき禁止事項を定めています(フリーランス保護新法5条1項・2項)。なお、具体的に、どの程度の期間、業務委託が継続した場合に同条の対象となるかについては、その期間を「政令で定める期間以上の期間」とされているため、今後の議論を待つ必要があります。

特定業務委託事業者が遵守すべき事項

① フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶すること
② フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付内容を変更させ、またはやり直させること

募集情報の的確な表示

委託事業者が、新聞や雑誌その他の刊行物に掲載する広告等において、フリーランスを募集する場合には、的確な表示を行わなければなりません(フリーランス保護新法12条1項)。具体的には、①広告などにより情報を提供するときには、当該情報について①虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、また②情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。

このような規制により、職業安定法における労働者募集を行う際の労働条件の明示等と同様の保護が図られています。

出産・育児・介護への配慮やハラスメント対策など、就業環境整備

フリーランス保護新法では、労働者と同様に、ハラスメント対策出産・育児・介護への配慮も図っています

まず、委託事業者が、フリーランスに対して長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません(フリーランス保護新法13条1項)。長期間の業務委託ではない場合にも、同様の配慮をする努力義務を負います(フリーランス保護新法13条2項)。

また、委託事業者は、フリーランスに対して、その言動によりセクハラマタハラパワハラ等の状況に至ることがないよう、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な措置を講じる義務を負っています(フリーランス保護新法14条1項)。当然、相談を行ったこと等を理由として、契約解除その他の不利益な取り扱いをすることは認められません。

解除等の予告

フリーランスとの契約解消では、労働契約における解雇予告解雇理由証明書の請求に準じた規律が設けられています。

具体的には、長期間にわたる継続的な業務委託の場合、委託事業者は、フリーランスとの契約を解除しようとする場合または契約不更新とする場合には、原則として少なくとも30日前までにその予告をしなければなりません(フリーランス保護新法16条1項)。

また、委託事業者は、フリーランスから契約解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なくこれを開示しなければなりません(フリーランス保護新法16条2項)。

フリーランス保護新法に違反した場合などの対応

一部の規定を除き、フリーランス保護新法に定める義務に違反した場合、国が、委託事業者に対して立ち入り検査や必要な措置を勧告、命令することができます

命令に違反した場合や検査を拒否した場合等には、50万円以下の罰金が科せられ(フリーランス保護新法24条)、委託事業者が法人の場合には行為者と法人両方が罰せられます(フリーランス保護新法25条)。

フリーランス・トラブル110番

フリーランスや個人事業主は、労働基準法や下請法との関係から、取引先より弱い立場にあり、契約上・仕事上のトラブルに巻き込まれがちです。

そのため、フリーランスガイドラインの策定と並行して、弁護士会が、関係省庁(内閣官房・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁)と連携して、フリーランス・個人事業主の方がトラブルについて弁護士に無料で相談できる相談窓口「フリーランス・トラブル110番」を設置しています。

フリーランスや個人事業主の方で、トラブルに悩んでいる場合には、この記事とともに参考にしましょう。

フリーランス保護新法に関する今後の動向

フリーランス保護新法は成立したものの、詳細な要件等については、公正取引委員会規則や厚生労働省令等を待つ必要もあります。

しかしながら、新法成立の動きによって、報酬の支払遅延や一方的な減額、ハラスメント等といったフリーランスのトラブル・紛争が防止され、働き方の多様化を促進するきっかけにもなるものと考えられます。

ムートン

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参考文献

厚生労働省ウェブサイト「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」

内閣官房ウェブサイト「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要(新規)」

厚生労働省ウェブサイト「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」