法務研修とは?
-法務部門が行う社内研修-
実施目的や具体的内容を解説!
- この記事のまとめ
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法務部は、経営・事業の阻害要因となりうる法令違反の防止などを主な目的として、企業研修を行うことがあります。
本記事では法務部が扱う研修のテーマとその概要についてまとめました
(※この記事は、2021年8月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)
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目次
なぜ法務部門が社内研修を行うのか
多くの企業が経営陣、管理職、その他従業員向けに各種の「社内研修」を行っており、中でも法務部門が行う社内研修は「法務研修」などと呼ばれることもあります。
法務部門が社内研修を行うのは、法令に関する知識などを啓蒙することで、企業の成長を阻害する可能性のある、法令違反などを防止するためです。
法務に期待される役割
法務部門は、法的な紛争(トラブル)を防ぐこと(守りの法務)、また、法的な視点から事業戦略をサポートして事業を成長させること(攻めの法務)を、役割として担う部署です。
したがって法務部門は、社内における法令遵守の要として期待されており、法令違反などを未然に防ぐことが期待されています。
法務部門は上記の期待に沿うべく、下記のような目的のために社内研修を行い、従業員などに対する啓蒙活動を行います。
- 紛争・不祥事・各種法令違反の予防
- 新法や法改正への対応(法令で求められる体制構築など)
- 事業戦略上重要な法的リスクの共有およびリスクへの対応
法務研修の種類
ひとくちに「法務研修」といっても、その範囲と種類は多岐にわたります。
法務研修の例としては、以下が挙げられます。
- ビジネスに関わる法律についての研修(ビジネス法務研修)
- コンプライアンス研修
- ハラスメント研修
- リスクマネジメント研修(主に管理職向け)
具体的な法務研修の内容
主要な法務研修について、その内容を紹介していきます。
なお、以下で解説するのはあくまで一例であり、このほかにも業界、業態、企業の規模などによって自社に必要な研修を考え、実施していくことが重要となります。
ビジネス法務研修
ビジネス法務研修は、ビジネスに関係する法律を学ぶ研修です。
各従業員が営業活動などの活動を行う際に、関連してくる法律についての知識を啓蒙することで、法令違反などを防止します。
ビジネス法務研修では、各従業員に対して、当事者意識を持たせることが重要なポイントです。
研修を行う範囲としては、次のような分野や法律が挙げられます。
契約(民法・商法)
契約書についての基礎知識や、その他契約書に関する重要事項について説明します。
具体的には次のような事項に関して説明を行います。
独占禁止法
独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進することを目的とする法律です。
私的独占の禁止、不当な取引制限(カルテル)の禁止、事業者団体の規制、不公正な取引方法の禁止などの規制を定めています。
独占禁止法については、以下の関連記事で解説しています。
独占禁止法は、カルテルや入札談合を規制していますので、とりわけ入札や価格決定に携わる部門にとっては独占禁止法の知識は必須となります。
インサイダー取引規制(金融商品取引法)
インサイダー取引は、上場会社の関係者など、内部情報を知りうる立場にある者が、立場上知った会社の内部情報を利用して自社の株式などの有価証券を売買することをいいます。インサイダー取引は、金融商品取引法で禁止されています。
インサイダー取引を行うと、懲役、罰金の対象となる、課徴金納付命令の対象となる、などの重い制裁を受け、関係者がインサイダー取引を行った企業の信用にもマイナスの影響を与えます。
上場企業・証券会社・コンサルティングファームなど、上場企業に関する株価を左右する情報や、株式取引に関する情報を多く取り扱う企業では、特に重要な研修分野の一つとされています。
一般的に、上記のような企業では、研修の対象は全従業員であり、最低年1回の受講が望ましいです。
不正競争防止法
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を実現することを目的とする法律です。
不正競争防止法では、「不正競争」行為として、著名な商品等表示の冒用などに加えて、営業秘密の侵害を禁止しています。
不正競争防止法については、以下の関連記事で解説しています。
また、不正競争防止法上の「営業秘密」については、以下の関連記事で解説しています。
企業にとって情報漏洩は、時に経営の根幹を揺るがすこともある重大なリスクです。
そこで、従業員による営業秘密の漏えいを防ぐため、秘密保持誓約書の締結などに加えて、不正競争防止法に関する研修を行うことが望ましいです。
研修では、何が営業秘密に当たるか、不正競争防止法などの法令と社内規則によってどういった行為が禁止されているのかなどを解説します。
企業の情報漏えいは、従業員誰もが関係する問題ですので、全従業員を対象とすることが一般的です。
個人情報保護法
個人情報保護法は、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする法律です。
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務を定めており、企業が個人情報を取得・利用するとき、保管するとき、他人に渡すときなどのルールを定めています。
研修では、個人情報保護法上、企業に求められる各種ルールなどについて解説します。
個人情報の漏えい・従業員による個人情報の不正利用などによる、個人情報法保護法違反が起こると、行政処分の対象となったり、罰則の対象となったりするのみならず、企業の信用・イメージを大きく損ねるおそれがあります。
そのため、全従業員対象とするのが望ましいですが、中でも特に、個人情報を取り扱う部門の従業員は必須参加者とし、部門別にも研修を開くなど、手厚い対応が安全です。
個人情報保護法は、2020年に改正がされており、2022年4月1日から施行が予定されています。
改正個人情報保護法については、以下の記事で解説しています。
著作権法
Webサイト・出版物・プレゼン資料などコンテンツの制作、ソフトウェアの開発や、コンテンツ・ソフトウェアのライセンスを受ける場面など、多くの業務で関係してくるのが著作権です。
著作権が関わる業務では著作権法の正しい知識が必要です。
研修では、他人の著作物の無断使用の禁止、他人の著作物の使用が「引用」として許容される場合など、主に、著作権侵害となる行為、ならない行為について解説します。
一般的には全従業員が対象になりますが、商品企画・営業・広報・マーケティングのほか、ソフトウェアの開発部門など、ソフトウェアも含む著作物を多く扱う部門では、受講を必須とするのが望ましいです。
景品表示法
景品表示法は、消費者が自主的かつ合理的に商品または役務の選択を行える意思決定環境の創出・確保を目的とする法律です。
企業にとって自社の商品・サービスを宣伝・広告することは欠かせませんので、商品を実際よりもよく見せかける不当な表示や、過大な景品類の提供を禁止する景品表示法も、重要なテーマの一つです。
研修では、どういった表現の広告が不当な表示として禁止されるのか、懸賞の対象・金額などについてどのような場合に過大な景品に当たると判断されるのか、を具体的に解説するのが望ましいです。
特に、広告・宣伝の重要性が高い、消費者へ商品・サービスを提供するBtoCビジネスを行っているでは、重要な研修の一つとなります。
特に、広報、マーケティングなどの部門の従業員は、受講を必須とするのが望ましいです。
下請法
下請法は、独占禁止法を補完する法律であり、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを規制する法律です。
不当に下請事業者に不利となる内容の下請取引を規制して、弱い立場に置かれがちな下請事業者の利益を保護するものです。
下請法については、以下の関連記事で解説しています。
親事業者が下請事業者に交付しなければならない、いわゆる「3条書面」については、以下の関連記事で解説しています。
研修では、下請法が適用される取引、下請代金の支払遅延・下請代金の減額・買いたたきなど下請法が禁止する各種行為などを解説します。
一般的に全従業員を対象とする研修であり、特にハイリスクグループと考えられる購買部門や開発部門のメンバーは、受講を必須とすることが望ましいです。
コンプライアンス研修
「コンプライアンス」とは、近年、 法令遵守だけでなく、企業が社会から期待される役割・企業倫理に沿った経営を行うことを意味するようになってきています。
そして、コンプライアンスへの取り組みは、上場企業を中心として、企業を評価する上で非常に重要な指標となっています。
そこで、コンプライアンス研修により、コンプライアンスに関する当事者意識・コンプライアンス上望ましい企業風土を育てる取り組みが行われています。
コンプライアンスは、法令遵守にとどまりませんが、コンプライアンスの中核となる法令遵守を扱う法務部門(法務・コンプライアンス部門)が担当することが多いです。
コンプライアンスの専門部門が存在すれば、当該部門が担当することになります。
一般的に全従業員を対象とする研修となります。また、管理職・役員向けの研修として別途管理職・役員向けのコンプライアンス研修を実施することも考えられます。
後述するハラスメント研修は、コンプライアンス研修の一種であるともいえます。
経営とコンプライアンス
コンプライアンスは企業の経営を評価する1つの基準・指標と考えられています。
実際に、株価・入札資格・ベンダー選定基準など多くの場面で経営はコンプライアンスの側面から評価されています。
そのため、法令違反などのコンプライアンスリスクは、非常に大きな経営リスクになりえます。
社会環境とコンプライアンス
コンプライアンスは社会環境とも密接に関連しており、SDGs、ESGとの関係は切っても切れないものになっています。
SDGsは国連のサミットで2015年に採択された 「Sustainable Development Goals」の略称で、「持続的な開発目標」を意味しており、17のゴール、169のターゲットから構成されています。現在、企業もこのSDGsの掲げる目標を意識した経営活動を求められています。
また、世界的に「ESG投資」が広がっています。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス・企業統治体制)を意味しており、ESG投資において、投資家などのステークホルダーは、企業がこれらESGにどれだけ配慮しているかを、投資における企業の評価基準とします。
このような状況において、現在、法務部が開催する研修には、SDGs 、ESGの考え方を取り入れることが求められています。
ハラスメント研修
パワハラ・セクハラ・マタハラなどのハラスメントを起こさない、また起きてしまった場合に適切に対応できる組織をつくるために、ハラスメント研修は重要な研修の一つです。
研修では、各種ハラスメントの定義、ハラスメントの具体的な事例、ハラスメントが疑われる場合に各従業員が取るべき対応、などを解説します。
ハラスメントは、労働法などの法令に関係し、またハラスメント相談窓口を法務部門が務めることが多いため、法務が研修を担当することが多いです。
リスクマネジメント研修
企業を取り巻くリスクの種類は、法的リスクのほか、レピュテーションリスク、財務的リスクなどがあり、多様なリスクが存在します。
これらのリスクを洗い出し、分析・対策する活動、つまりリスクマネジメントについての研修も、主に法的リスクの洗い出し、分析・対策を行う法務部門が担当することが考えられます。
リスクマネジメント体制の構築・運用は、内部統制にかかわることから、主に管理職以上に向けた研修となることが多いです。
この記事のまとめ
法務部の取り扱う研修には、ビジネス法務研修、コンプライアンス研修、ハラスメント研修、リスクマネジメント研修などがあります。
また経営の観点からみても、これらの研修は非常に重要であり、特に企業におけるコンプライアンス経営のためにも欠かせないものです。
そして、研修は、法改正などを反映させること、企業において変化する業態・規模に応じ毎年見直すことなども求められます。
研修の実施は法務部に求められる重要な役割といえるでしょう。
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参考文献
滝川宜信「リーダーを目指す人のための実践企業法務入門〔全訂版〕」民事法研究会