独占禁止法で規制される
私的独占とは?
基本を分かりやすく解説!

この記事のまとめ

独占禁止法で禁止される「私的独占」を解説!!

独占禁止法は、「私的独占」行為を禁止しています。独占禁止法は、公正・自由な競争の実現を目指す法律ですが、 「私的独占」は公正・自由な競争を阻害すると考えられています。独占禁止法で禁止されている「私的独占」とはどのような行為か、 理解しておきましょう。

この記事では、独占禁止法の知識がない方にも基本から分かりやすく解説します。

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私的独占ってどのような行為を指すのでしょうか?

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例えば、低価格で商品を販売して競争を阻害するような場合が考えられます。具体的にどのような行為が私的独占とされるのか、見ていきましょう。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 独禁法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)

(※この記事は、2020年11月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

独占禁止法とは?

独占禁止法の目的

独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は、自らの創意工夫によって、より安くて優れた商品を提供して売上高を伸ばそうとしますし、 消費者は、ニーズに合った商品を選択することができ、事業者間の競争によって、消費者の利益が確保されることになります。 このような考え方に基づいて競争を維持・促進する政策は「競争政策」と呼ばれています。
また、独占禁止法の補完法として、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを規制する「下請法」があります。

引用元│公正取引委員会「独占禁止法の概要」

独占禁止法の概要については、以下の記事で解説しています。

私的独占とは?

私的独占とは、事業者が、他の事業者の事業活動を排除、支配することによって、競争を実質的に制限することをいいます(独禁法2条5項)。

第2条
1~4 略
5 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、 その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、 一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
6~9 略

第3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

条文によると、私的独占にあたる場合は以下となります。

私的独占にあたる場合

(1)事業者が
(2)他の事業者の事業活動を排除・支配する行為により
(3)公共の利益に反して
(4)一定の取引分野における競争を実質的に制限する

私的独占には、「排除型私的独占」「支配型私的独占」があります。

「排除型私的独占」は、事業者が単独で、または他の事業者と共同で、不当な低価格販売などの手段により、競争相手を市場から排除したり、 新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為です。

「支配型私的独占」は、事業者が単独で、または他の事業者と共同で、株式取得などにより、他の事業者の事業活動に制約を与え、市場を支配しようとする行為です。

以下、それぞれについて解説します。

排除型私的独占とは?

排除型私的独占とは、事業者が他の事業者の事業活動を排除する行為(以下「排除行為」といいます。)により、 公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限するものです。

公正取引委員会において 「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」が公開されています。

この指針によると、「排除型私的独占」にあたる行為の類型として、以下の4つがあります。

「排除型私的独占」の4類型

①低価格販売 
②排他的取引
③抱き合わせ
④取引拒絶・差別的取扱い

①低価格販売

「商品を供給しなければ発生しない費用」を下回る対価を設定する行為により、 自らと同等またはそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせる場合、排除行為にあたります。

低価格販売にあたる場合

⑴「商品を供給しなければ発生しない費用」を下回る対価を設定する行為
⑵⑴の行為により、自らと同等又はそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせる

事業者が採算を度外視した低価格により顧客を獲得しようとする場合、自らと同等またはそれ以上に効率的な競争者が排除されるおそれが生じるため、規制の必要が生じます。

採算度外視の低価格とは、「商品を供給しなければ発生しない費用」を下回る対価を指します。このような価格を設定すれば、その商品の供給が増大するにつれ損失が拡大することになります(=経済合理性がない)。

「商品を供給しなければ発生しない費用」にあたるか否かは、 実情に即して合理的と考えられる期間において、商品の供給量の変化に応じて増減する費用であるか否か、 商品の供給と密接な関連性を有する費用項目であるか否かという観点から判断されます。

また、「自らと同等またはそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせる」か否かは、以下の判断要素を総合的に考慮して判断します。

「自らと同等またはそれ以上に効率的な事業者の事業活動を困難にさせる」か否か、 の判断基準

⑴商品にかかる市場全体の状況
⑵行為者および競争者の市場における地位
⑶行為の期間および商品の取引額・数量
⑷行為の態様

事例

【勧告審決決平16年10月13日】 
有線電気通信設備を利用した業務用の音楽配信サービスの取引分野で68%のシェアを占めるY1社、 および、当該サービス提供に係る営業、受信契約の取り次ぎ等の事業を行うY2社が、競争者Aの音楽放送事業の運営を困難にし、 同事業を買収・統合する企図の下に、Aの顧客を狙って低い料金または長期の無料期間を提示したことは、通謀してAの音楽放送に係る事業活動を排除することに当たる。

※本件では、「商品を供給しなければ発生しない費用」を下回っていたという事実認定はない。このような場合にまで私的独占に係る排除とすることには批判もある。

②排他的取引

事業者が、相手方に対し、自己の競争者との取引を禁止または制限することを取引条件としても、それ自体で直ちに問題とはなりません。 しかし、競争者が相手方に代わる取引先を見つけることが難しく、これによって、競争者の事業活動を困難にさせ、市場競争に悪影響を及ぼす場合、 これは排除行為となりえます。

また、同様に、事業者が、相手方に対し、事業者からの購入額や購入量、購入額(購入量)全体に占める事業者からの購入額 (購入量)の割合などが一定期間において一定以上に達することを条件としてリベートを供与する行為(排他的リベート)も、排除行為となることがあります。

競争者が相手方に代わりうる取引先を容易に見つけることができず、「競争者の事業活動を困難にする」か否かは、以下の判断要素を総合的に考慮して判断します。

「競争者の事業活動を困難にする」か否か、の判断基準

⑴商品にかかる市場全体の状況
⑵行為者の市場における地位
⑶競争者の市場における地位
⑷行為の期間および相手方の数・シェア
⑸行為の態様

事例

【勧告審決決平10年9月3日】 
カナダ所在のY社は、日本の取引先2社に対し、放射性医薬品の原材料であるモリブデン99を10年間に渡って全量購入する義務を課す契約を締結させた。 これにより、他のモリブデン99の製造販売業者の事業活動が排除された。

【勧告審決決昭31年7月28日】 
Y1社とY2社は、北海道地域の集乳量の約80%を占める。両社は共同して、酪農家に乳牛の導入資金を提供する道内唯一の金融機関のAと酪農家のために融資保証を行う協同組合連合会であるBの了解の下に、専ら両社にだけ生乳を供給する酪農家に対してのみ乳牛導入資金を提供するとの計画を実施した。
また、AとBは、この計画に沿った形で、融資の条件として両社に生乳を供給するよう酪農家を拘束し、他の乳業者と取引する単位農協や組合員には融資を拒絶するとともに、他の営農資金の融通についての不利な取扱いを示唆した。これらの行為の結果、他の乳業者の集乳活動が排除された。

【勧告審決決平17年4月13日】
Y社は、パソコン向けCPUの製造販売分野において支配的なシェア(約89%)を占め、強いブランド力を持つ。Y社が、顧客であるパソコン製造販売業者5社(合計でパソコンの国内総販売数量の約77%)に対し、パソコンに搭載する同社製CPUの比率を99%ないし100%とし、競合品を採用しないこと等を条件としてリベートを供与すると約束し、競争者のシェアを大幅に減少させたことは排除に当たる。

【最判平27年4月28日】 
音楽著作物の放送等に係る管理楽曲の利用許諾分野においてほぼ唯一の管理事業者であり、ほとんどすべての放送事業者との間で管理楽曲の利用許諾契約を締結するY協会が、その管理楽曲の利用の有無や回数と無関係に、各放送事業者の事業収入等に一定率を乗ずる等の方法で管理楽曲の放送使用料を包括的に徴収する一方で、個別徴収に係る単位使用料を著しく高額に定めることにより、放送事業者が他の管理事業者(競争者)の管理楽曲の利用に伴う利用料の追加的負担を避けるため、競争者の管理楽曲の利用を抑制するものであり、排除効果を有する。

③抱き合わせ

抱き合わせとは、ある商品(主たる商品)の供給に併せて、他の商品(従たる商品)を購入させる行為をいいます。
抱き合わせ行為により、従たる商品について、他に代わりうる取引先を容易に見つけることができない競争者の事業活動を困難にさせる場合、当該行為は排除行為となります。

競争者が相手方に代わりうる取引先を容易に見つけることができず、「競争者の事業活動を困難にする」か否かは、以下の判断要素を総合的に考慮して判断します。

「競争者の事業活動を困難にする」か否か、の判断基準

⑴主たる商品および従たる商品にかかる市場全体の状況
⑵主たる商品の市場における行為者の地位
⑶従たる商品の市場における行為者および競争者の地位
⑷行為の期間および相手方の数・取引数量
⑸行為の態様

なお、抱き合わせ行為に対しては、専ら「不公正な取引方法」が適用されてきました。

④取引拒絶・差別的取扱い

原則として、事業者が誰とどのような条件で取引するかは当該事業者の自由です。

しかし、 ある事業者が、供給先事業者が市場(川下市場)で事業活動を行うために必要な商品を供給する市場(川上市場)において、 合理的な範囲を超えて、供給の拒絶、供給に係る商品の数量・内容の制限または供給の条件・実施についての差別的な取扱いをして、 川上市場においてその事業者に代わりうる他の供給者を容易に見つけることができない供給先事業者の川下市場における事業活動を困難にさせる場合、 当該行為は排除行為となり得ます。

「供給先事業者が市場(川下市場)で事業活動を行うために必要な商品」にあたるか否かは、⑴ 供給先事業者が川下市場で事業活動を行うに当たって他の商品では代替できない必須となる商品であって、⑵ 自ら投資、技術開発などにより同種の商品を新たに製造することが現実的に困難であるか否か、の観点から判断されます。

また、供給拒絶・差別的取り扱いが「合理的な範囲」を超えているか否かは、供給にかかる取引の内容及び実績、地域による需給関係などの相違を考慮して判断されます。

川上市場においてその事業者に代わりうる他の供給者を容易に見つけることができず、「供給先事業者の川下市場における事業活動を困難にさせる」か否かは、 以下の判断要素を総合的に考慮して判断します。

「川下市場における事業活動を困難にする」か否か、の判断基準

⑴川上市場および川下市場全体の状況
⑵川上市場における行為者およびその競争者の地位
⑶川下市場における供給先事業者の地位
⑷行為の期間
⑸行為の態様

事例

【最判平22年12月17日】 
光ファイバー通信サービスを提供するためには加入者光ファイバー設備に接続する必要があるところ、東日本地区において、加入者光ファイバーの保有量、 戸建て住宅向け光ファイバー通信サービス共に極めて大きなシェアを占めるYが、自ら光ファイバー通信サービスを提供するにあたり、 競争者が支払う接続料金を下回るユーザー料金を設定したため、競争者がこれに対抗しようとすると逆ザヤによる大幅な赤字の負担を強いられ、 戸建て住宅向け光ファイバー通信サービス事業に参入することが事実上著しく困難となったことは排除に当たる。

支配型私的独占とは?

支配型私的独占の、「支配」とは、他の事業者の事業活動における自由な意思決定を制約または拘束することによって、 その事業活動を自己の意思に従わせること、を意味します(東京高判昭和32年12月25日)。

事例

【排除措置命令平27年1月16日】 
福井県所在の農協が行う経済事業に係る上部組織であるYが、各農協の発注する穀物の乾燥施設等の製造請負工事に関する施主代行者として、 当該工事の入札における受注予定者を指定し、入札参加者に入札価格を指示していたことは、施工業者の事業活動の支配に当たる。

【審判審決昭30.12.27、東京高判昭32年12月25日】 
醤油の製造販売において圧倒的な地位を占めるYが、醤油の格付け、品質と価格の一体関係という客観的条件から、 自己の商品の価格を引き上げると競争者がこれに追随せざるを得ない状況の下で、商品の再販売価格維持を維持し、これに対応して他の主要な醤油生産者3社も同様の再販売価格維持を行った。Yによる再販売価格維持行為は、他の醤油生産者の価格決定の支配に当たる。

「一定の取引分野における競争の実質的な制限」とは?

独占禁止法2条5項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」か否かはどのように判断するのか、以下解説します。

一定の取引分野

一定の取引分野とは,排除行為によって競争の実質的制限がもたらされる範囲をいいます。その範囲は、 具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じてケースバイケースで決定されることになります。

競争の実質的制限

独占禁止法2条5項の「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、裁判例上、「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、 ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、 市場を支配することができる状態を形成・維持・強化すること」と解されています(東京高判平成21年5月29日)

競争が実質的に制限されるか否かは、以下の判断要素を総合的に考慮して判断します。

「競争が実質的に制限される」か否か、の判断基準

⑴行為者の地位および競争者の状況
⑵潜在的競争圧力
⑶需要者の対抗的な交渉力
⑷効率性
⑸消費者利益の確保に関する特段の事情

独占禁止法に違反した場合の罰則

独占禁止法に違反した場合、刑事処分・民事上の損害賠償・行政処分の対象となります。

刑事処分

独占禁止法違反に当たる行為は、その多くが刑事罰の対象とされています。主な違反行為と、対応する法定刑は以下のとおりです。

・私的独占
・不当な取引制限(カルテル、入札談合)
・事業者団体による競争制限行為
※いずれも未遂を含む
5年以下の懲役または500万円以下の罰金(独占禁止法89条)
※法人・団体については、両罰規定により5億円以下の罰金(同法95条1項1号、2項1号)
・確定した排除措置命令、競争回復措置命令に従わない行為2年以下の懲役または300万円以下の罰金(同法90条)
※法人・団体については、両罰規定により3億円以下の罰金(同法95条1項2号、2項2号)
・不当な取引制限に相当する国際的協定や契約の締結
・事業者団体による事業者数の制限、厚生事業者の活動に対する不当な制限
2年以下の懲役または300万円以下の罰金(同法90条 )
※法人・団体については、両罰規定により300万円以下の罰金(同法95条1項4号、2項4号 )

民事上の責任

私的独占をはじめとする独占禁止法違反の行為によって損害を被った場合、違反事業者に対して損害賠償を請求できます(独占禁止法25条1項)。独占禁止法違反に基づく損害賠償責任は、通常の債務不履行や不法行為とは異なり、故意または過失がなかったことを証明しても免れることができない無過失責任です(同条2項)。

ただし、訴訟を通じて損害賠償請求を行うことができるのは、違反事業者に対する排除措置命令(排除措置命令が行われない場合は、課徴金納付命令)が確定した後に限られます(同法26条1項)。排除措置命令(課徴金納付命令)が確定する前の段階では、和解によって損害賠償を受けることはできるものの、訴訟を通じた請求はできない点に注意が必要です。

なお、独占禁止法違反に基づく損害賠償請求権は、排除措置命令(課徴金納付命令)が確定した日から3年が経過すると、時効によって消滅します(同条2項)。この時効期間は、通常の債務不履行や不法行為よりも短く設定されています。

行政処分

私的独占をはじめとする独占禁止法違反の行為に対しては、以下の行政処分が行われる可能性もあります。

(1)排除措置命令
独占禁止法違反の行為を排除するため、公正取引委員会が違反事業者に対して必要な措置を講ずることを命じます。確定した排除措置命令に違反した場合は、刑事罰の対象となります。

(2)競争回復措置命令
特定の商品・サービスについての独占的状態を排除するため、公正取引委員会が違反事業者に対して必要な措置を講ずることを命じます。確定した競争回復措置命令に違反した場合は、刑事罰の対象となります。

(3)課徴金納付命令
独占禁止法違反の行為によって得た利益を吐き出させるため、公正取引委員会が違反事業者に対して金銭の納付を命じます。私的独占に対する課徴金額の算定方法は、以下のとおりです。

支配型私的独占の課徴金額
=(違反期間中の対象商品・サービスの売上額または購入額+密接関連業務の対価の額)×10%+違反期間中の財産上の利益に相当する額

排除型私的独占の課徴金額
=違反期間中の対象商品・サービスの売上額または購入額×6%

参考文献

公正取引委員会ウェブサイト「独占禁止法」

土田和博他「条文から学ぶ独占禁止法」第2版

白石忠志「独占禁止法」第3版