第5回:具体的な事例を交えた
価値の創出・向上を支える法務機能・組織

この記事を書いた人
アバター画像
EY弁護士法人弁護士
法務機能コンサルティングおよびリーガル・マネージド・サービスとして、法務機能の強化・向上をテーマとして、日本の企業の持続的な企業価値の向上に関する支援を実施している。戦略法務・ガバナンス研究会共同代表幹事、日本組織内弁護士協会理事、国際取引法学会理事、第二東京弁護士会常議員等を務める。
この記事を書いた人
アバター画像
EY弁護士法人弁護士
EY弁護士法人所属 法務機能コンサルティング、リーガルマネージドサービスを取り扱う
この記事を書いた人
アバター画像
EY弁護士法人弁護士
EY弁護士法人所属 法務機能コンサルティング、リーガルマネージドサービスを取り扱う
この記事を書いた人
アバター画像
EY弁護士法人弁護士
EY弁護士法人所属 法務機能コンサルティング、リーガルマネージドサービスを取り扱う
この記事について

企業において法務が担う役割については、従来の守りの法務機能とともに、攻めや戦略的な観点からの法務機能の強化が求められるようになってきました。

この特集では、改めて事業の推進に資する法務機能を考えるとともに、
✅ コーポレートガバナンス・グローバルグループガバナンスを実現する体制の整備
✅ 組織全体をコントロールする本社機能・法務機能の強化
✅ 組織を支える法務人材の育成・評価
など、成長を続ける企業において、企業価値の維持・創出を支える法務の1つの姿を提示することを目的としています。

第5回は、これまでの検討を踏まえて、企業の価値創出・向上を支える法務機能・組織について、パーソルホールディングス株式会社の林大介氏に伺った内容を元に具体例をご紹介していきます。

はじめに

本特集では、過去4回の連載を通じて、法務の「機能」、「組織体制」、「人事・評価」の観点から、事業の推進に資する法務機能、成長を続ける企業における価値の創出・向上をさせる法務の在り方について、検討をしてきました。第1回では、リーガルオペレーションズリーガルリスクマネジメントといった法務機能をめぐる近時のトレンド・概要をご紹介し、第2回以降、「企業価値の共創を実現する法務の機能」「これからの法務を担う人材の育成と評価」「組織・体制の面から考える法務の在り方」について、より詳細な検討を行ってきました。

連載最終回となる第5回では、パーソルホールディングス株式会社(以下、「パーソルHD」)において、法務担当執行役員、CLO、取締役(常勤監査等委員)としてその成長を法務の面から支援をされてきた林大介氏(以下、「林氏」)からお話を伺い、パーソルHDの価値創出・向上を支える法務機能・組織について、具体例を交えながらご紹介いたします。同社は、10年間で連結売上高が3倍以上と急成長し、2022年3月期には売上高1兆円企業の仲間入りを果たしました。そんなパーソルHDにおいて、法務部門がどのようにして企業の成長、企業価値の創出・向上に貢献してきたのかをご紹介します。

(出典:パーソルHDの有価証券報告書よりEY弁護士法人作成)

林大介氏のご紹介

林氏ご略歴

1993年 4月伊藤忠商事株式会社入社
2001年 1月ニューヨーク州弁護士登録
2002年 12月シスコシステムズ株式会社入社
2007年 7月株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント入社
(法務担当バイスプレジデント)
2012年 10月株式会社インテリジェンス入社(法務コンプライアンス本部長)
2015年 4月パーソルホールディングス株式会社 執行役員(法務担当)
2019年 4月パーソルホールディングス株式会社 執行役員
(ガバナンス・リスクマネジメント・コンプライアンス担当)
2020年 4月パーソルホールディングス株式会社 執行役員 CLO
2021年 6月パーソルホールディングス株式会社 取締役 常勤監査等委員(現任)
(2023年7月1日現在)
(出典:パーソルHDウェブサイト(2024年1月20日アクセス)よりEY弁護士法人作成)

このたびお話をお伺いした林氏は、伊藤忠商事株式会社に入社後、20代でアメリカに配属され、アメリカの企業法務と日本の企業法務の違いに衝撃を受けます。日本においては、いわゆる「会社員」として所属先に対する帰属意識が強く、それは法務においても同様でした。

しかし、アメリカの企業法務責任者や担当者、すなわち社内弁護士らは、「Lawyer」という意識が強く、自分自身の持つ専門性や自身が弁護士であることに非常に重きを置き、自身のコアとなる専門性をもって、プロフェッショナルとして会社に対するリーガルサービスの提供を行うというマインドセットを持っていました。林氏は、そうしたプロフェッショナルとしての社内弁護士に大きな魅力を感じ、米国のロースクールでLL.Mを取得し、ニューヨーク州弁護士に登録、その後、シスコシステムズ株式会社に転職しました。

シスコシステムズ株式会社では、アメリカ本社のGeneral Counselをレポートラインとする組織で、法務がプロフェッショナルとして認められる環境の下で活躍をされます。次に転職した株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでは、法務を所管する「経営陣の一員」として、企業のマネジメントに携わります。

さらに、その後転職した株式会社インテリジェンス(以下、「インテリジェンス」)、そして同社を買収した当時のテンプホールディングス株式会社(現パーソルHD。以下「テンプHD」)において、法務担当執行役員CLO等を歴任され、現在は業務執行を離れ、監督側である取締役(常勤監査等委員)を務めておられます。パーソルHDでのご活躍は、次節以降、より具体的に触れていきます。

それでは早速、林氏の下で、パーソルHDにおける法務部門がどのように変革をし、急成長を果たす同社の企業価値創造・向上に寄与したのかについて、見ていきます。

法務機能・組織の変革

事業成長のための組織変革|「守りの法務機能」のみからの脱却

2013年、林氏が所属していたインテリジェンスがテンプHDに買収された当時、テンプHDの法務体制は、中核となる事業子会社であるテンプスタッフの法務が親会社のテンプHDの法務を兼任するというもので、人数は約10名程でした。

そういった体制における法務機能は、契約法務のほか、人材サービス業界特有の行政対応紛争対応といった「守りの法務機能」に限定されており、M&A案件等の企業価値向上のための「攻めの法務機能」は担っておらず、そうした攻めの法務機能は、経営企画部門が別途依頼する外部の法律事務所が担っていました。

第1回において示したように、EY弁護士法人では、法務機能を、企業価値の向上に貢献する「攻めの法務機能」と企業価値の毀損防止に貢献する「守りの法務機能」という軸に加えて、求められるフェーズによって内容が変わり得ることを踏まえて、以下の図のように、戦略レベルで求められる法務機能(以下、「戦略的法務機能」)とオペレーションレベルで求められる法務機能(以下、「オペレーショナル法務機能」)の観点からの分類を行っています。この分類に照らすと、当時のテンプHDにおいては、「守り」かつ「オペレーショナル」な法務機能のみを担っている状況でした。

(出典:EY弁護士法人作成)

その結果として、テンプHD内の法務部門のプレゼンスは必ずしも高いものではなく、また、外部法律事務所との連携に法務部門が関与していない結果、いわば全てを丸投げする形となり、高コスト体質となっていました。

林氏が2014年にテンプHDに転籍するに当たり、グループの法務機能を中核的に担う部門・部署として、コンプライアンス本部を創設し、これまでの「守り」かつ「オペレーショナル」な法務機能のみから、M&Aやグループ再編におけるスキーム選択やM&A契約等の交渉、そしてその後のPMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)に関する法務業務といった「攻めの法務機能を所管するようになったほか、「守りの法務機能」についても「オペレーショナル法務機能」だけでなく、グループコンプライアンス体制やリーガルリスクマネジメントにも関与する「戦略法務機能」を担う組織へと変革しました。

「経営者にとってバリューを発揮する組織でなければならない」

こうした変革の背景にあったのは、林氏の「法務組織がいかに経営者にとってバリューを発揮できる組織となるか」という考えでした。

当時テンプHDでは、総合人材サービス企業を目指すための事業拡大に伴い、多数のM&A案件、JV案件、組織再編案件がありました。林氏の下、テンプHDにおいては、M&Aの計画、実行、PMIにおいて法務部門が重要な役割を果たすとともに、M&Aによって多角化・グローバル化したグループ会社の経営管理を改善するため、グループ全体の最適なストラクチャー設計やガバナンス設計法務財務が中核となったプロジェクトチームで実施することとなりました。

このように、テンプHDでは、法務組織がM&Aによる事業の非連続な成長・グループ全体の経営体制の構築・グループガバナンスにも関与することで、「守り(ガーディアン機能)」と「攻め(パートナー機能)」に加えて、ビジネスの拡大や企業価値の向上のサポート役として「ビジネスの『ナビゲーター』」としての機能を果たすことにより、経営陣に対して非常に高いバリューを発揮し、グループに対して非常にプレゼンスの高い組織となりました。

「法務のプレゼンスを上げるならコーポレートガバナンス」

日本企業における法務部門はいわゆる「コストセンター」と認識され、企業内でのプレゼンスが必ずしも高くないケースが散見されます。しかし、それは、企業の法務機能が、「守り」かつ「オペレーショナル」な法務機能に限定され、企業の経営者が求めるバリューが発揮されていないことに原因があると考えられます。
第2回において述べたように、企業における法務機能とは、「企業活動に伴うあらゆる事象に対してさまざまなステークホルダー等との間で生起しうるリーガルリスクを適切にマネージすること」であるべきで、リスクテイクも含めたリーガルリスクへの対処を踏まえた攻めの経営判断への寄与・貢献も求められます。

(出典:EY弁護士法人作成)

そして、法務組織のプレゼンスを上げるためには、経営者がいかにバリューを感じるかが重要となります。その観点から、林氏も、法務組織の機能としてプレゼンスを上げるための取り組みの一つの例として、コーポレートガバナンス」を所管することを挙げています。

経営者は、多くのステークホルダーとの関係の中で企業経営を行います。経営者は、ステークホルダーと適切に協働することで、持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を達成することが可能となるため、さまざまなステークホルダーの立場を踏まえた上で、コーポレートガバナンスが健全に機能することを望んでいます。実効的なコーポレートガバナンスを実践する機能を法務組織が担うことで、経営者にとって大きなバリューを感じてもらうことが可能となります。

加えて、法務組織がコーポレートガバナンス機能を担うことのメリットには、法務組織における人材育成等の観点でもメリットがあると考えられます(後述)。

次節では機能を大幅に強化したパーソルHDにおける法務組織・体制について、述べていきます。

法務組織・体制の強化

パーソルHDの法務組織体制

上述のように、パーソルHDでは、従前の「守り」かつ「オペレーショナル」な法務機能のみ組織から、ガーディアン機能パートナー機能、さらにナビゲーター機能を持ち合わせた強固な組織となり、それに伴い組織体制も拡大しています。

インテリジェンス買収当時のテンプHDの法務体制は、中核となる事業子会社の法務と兼任で、人数が10名程度でしたが、上記の機能拡大に伴い、林氏が2014年に創設したコンプライアンス本部は、リスクマネジメントのチームを合わせ約30名と人材リソース面でも大幅な強化がなされました。

そして、現在のパーソルHDでは、グループ全体のガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンスを所管する部門として、グループGRC本部が置かれ、以下の組織体制となっています。

(出典:パーソルHDヒアリングおよびパーソルHDウェブサイトよりEY弁護士法人作成)

また、各事業を支援する法務機能を発揮するため、パーソルグループにおけるセグメントごとの中核子会社であるSBU(Strategic Business Unit)に7名から10数名の法務メンバーを置き、グループGRC本部と連携して、グローバルな法務ガバナンス体制を敷いています。

加えて、パーソルHDの組織体制は、単純な業務の縦割りではなく、例えば、内部通報を所管するリスク・コンプライアンス室に寄せられた情報が、「ビジネスと人権」に関わるような重要なものであった場合、それに基づく必要な取り組みを全社的に実行するために、グループGRC本部が横断的に動き、全社を巻き込んだプロジェクトとなることもあります。

第4回で示した「会社法務部第12次実態調査の分析報告」(米田憲市編・経営法友会 法務部門実態調査検討委員会著『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』商事法務、2022年)において、重要案件(重要な企画・事業計画等のプロジェクトおよびM&A・協業等の重要な契約)への対応や、コーポレートガバナンスや内部統制への関与、危機対応、社内意思決定への企画・提案など法務部門の役割としての認知度が高まっていることに触れたところ、パーソルHDは、そうした各機能に対応可能な組織を設計しており、日本国内における先進的な法務組織・体制を敷いている企業ということができるでしょう。

CLOは部門の延長ではなく「経営人材」

また、パーソルHDにおいては、2015年に執行役員制度が導入され、林氏が法務担当執行役員に就任し、以降6年にわたり、執行役員CLO(Chief Legal Officer)を務められました。

第3回において、CLOなどの法務責任者のミッションとして、以下のような定義例を挙げました。

✅ 企業経営における法務 (legal affairs) を担当する
✅ 経営に不可欠な当該企業の法務リテラシーを有する
✅ 経営陣のPartnerとして能動的な法的支援を提供して事業を適切に案件形成し,実施させる
✅ Guardianとして積極的に経営の意思決定に関与して会社を守る
参考元|平野温郎「制度的存在ないし機関としての Chief Legal Officer」東京大学法科大学院ローレビュー Vol.17、2022年参照

以下では、パーソルHDにおいて、CLOがどのような役割を果たしてきたのかを見ていきます。

林氏は、「CLOは経営人材であり、経営トップや他の経営陣と、経営の言葉を使って会話できることが必要」であり、その上で、「自己の専門性を発揮し、自身がこのグループの企業価値の向上、持続的な成長にいかにして貢献できるかというマインドセットが必要」といいます。林氏は、自身が持つ法律家としての高度な専門性を発揮しながら、経営陣の一員としてグループの重要な意思決定に関与され、上記に定義されるようなCLOとしての役割を果たし、企業価値向上に貢献をしてきました。

上述のように、GC(General Counsel)CLOは経営法務人材として、企業価値の向上や持続的な成長のため、法務の専門性から貢献するというPartner & Guardianというミッション(第4回参照)を有しています。

当該ミッションを達成するためには、単に法律家としての専門性のみでは足りず、全社戦略・事業戦略やコーポレートファイナンスに関する知見、何よりもビジネスに対する理解が不可欠です。自社が行おうとしている事業やビジネスがどういった意味を持つのかが理解できていなければ、当然経営における意思決定に寄与することはできません。

第3回において、1つのキャリアパスとして企業内にGCやCLOを設置することは、法務人材が目指すべき姿が明確となり、有益であると述べましたが、当然にそれらのポジションは、その求められる機能・役割が明確に与えられたポジションであるべきで、単に部門トップの名称を形式的に変更するだけでは意味がないことをパーソルHDの事例は示しています。

最後に、パーソルHDのように先進的な法務組織において求められる人材像や、企業がそういった人材をいかに育成し、法務組織・体制を維持・成長させていくのかについて、パーソルHDの事例を見ていきたいと思います。

法務人材に求められるもの

求められるスキルセット

法務人材に求められるものを検討するに当たっては、企業の経営目標や全社戦略、事業戦略から法務組織または法務機能に求める役割を明確にし、場合によっては再定義することを通じて、法務組織のミッションを打ち出すことから考えていく必要があります。

そして、法務組織のミッションは、企業によって異なるものの、法務組織の存在意義または土台にある役割は、適切なリーガルリスクマネジメントを実施しながら、企業価値の毀損防止に向けて取り組みつつ、同時に企業価値の向上のための積極的な役割を果たすことにあるといえます(第3回参照)。

(参考図)

(出典:EY弁護士法人作成)

そのような観点から検討すると、パーソルHDは、法務組織であるグループGRC本部に対して、「守りの法務機能」だけではなく「攻めの法務機能」、「オペレーショナル法務機能」だけではなく「戦略的法務機能」を求め、当該機能を果たすことでリスクマネジメントを行い、経営陣が「攻め」の意思決定を含む適切な意思決定を行うことに寄与すること、ひいては法務機能が企業価値向上に積極的に貢献することをミッションとしているとみることができます。

したがって、グループGRC本部の下の各室が担う機能に関する法律家としての専門的な知見がまず必要になります。次に、経営陣が何をやりたいのかを正確に理解する必要があり、そのためには、グループの全社戦略・事業戦略や、事業・ビジネスの理解も不可欠です。さらに、戦略的法務機能を果たすためには、全社横断的なプロジェクトを進めるためのプロジェクトマネジメント力コミュニケーション力も求められるでしょう。

求められるマインドセット

パーソルHDにおいては、法務組織による経営陣の意思決定への寄与、企業価値向上への貢献が求められるところ、VUCAの時代においては、企業も変化し、それに応じて経営陣の意思決定の方向性や企業価値向上に求められるものも断続的に変化します。法務人材には、経営陣の意思決定に必要なものは何か、企業価値向上のために今経営陣から求められているものが何かについて仮説を構築し、経営陣との対話を通じて仮説を検証し、自ら実行していく積極性が必要だと考えられます。

例えば、M&A案件の法的支援であっても、単に契約をレビューして経営陣に意見を述べるだけではなく、当該案件において、なぜ当該企業を買収したいのかという目的を踏まえ、最適な取引スキームを提案したり、デューデリジェンスで発見された情報をもとに相手方と契約条件を交渉し、企業買収の実施に伴うリスクをコントロールしたりするといった積極性が求められており、そういった人材が評価されています。

また、非常に多岐にわたるスキルセットを求められることから、自身の専門性の殻に閉じこもるのではなく、その殻を破り、さまざまな領域にアンテナを張り、変化を恐れずに、積極的に知見を吸収しようとする知的好奇心を持つことが望まれるといえます。

林氏も、「世の中は常に変化しており、例えば、従来通りのやり方で契約法務業務やリサーチ業務を行うだけでは、生成AIをはじめとした技術発展に伴い、法務機能が提供できる付加価値は減少していく。世の中の変化に合わせて自らも変化し、定型的な業務にはテクノロジーを活用して効率化を図り、より非定型的な業務に注力することが重要」とおっしゃっています。

そして、パーソルHDの法務組織のように、より積極的に経営に関与していく、企業価値向上に貢献する法務組織では、非常に困難な場面、上手くいかない場面、初めての領域に挑戦する場面に遭遇することも多くなります。上手くいかないことを失敗だとは考えず、何かを学びとるチャンスだと考えるマインドセット(growth mindset)に加え、何よりもこのような経営のダイナミズムを直接肌で感じることができる業務を楽しめることが何よりも重要ではないでしょうか。

法務組織の人材育成

第3回で触れたように、法務機能を具体的に発揮する法務人材の確保や育成は、重要な課題として指摘されています(法務機能の担い手の育成・獲得を重要テーマとするものとして、経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」2019年11月19日。)。しかし、法務人材の活用方法等については多方面からの検討や具体的な実装における実務的な難しさもあり、法務人材の組織内での位置付けや活用に関し、多くの企業において必ずしも十分な対応ができているとはいえない現状があります。

加えて、パーソルHDのような変化の激しい組織となればなるほど、求められるスキルセットは高度かつ多様なものとなり、求められるマインドセットも学習成長を重視したものとなります。そのような人材の確保が、現在の日本企業においていかに困難であるかは論を俟ちません。以下では、現在のパーソルHDにおいて、どのような人材育成や人事評価が行われているのかを見ていきます。

パーソルHDでは、新卒採用をしたメンバーを中心に、法務部の中でも予防法務室に配属をし、自社の事業の基礎的な理解や、法的知見の基礎力向上を図り、その後、戦略法務室といったより高度な専門性を要する部門に配属を行っています。また、配属に関しては、定期的なローテーション制度は置いていないものの、SBUの中核子会社への出向を通じて、より現場に近い場面でビジネスの理解を深化させることが行われております。

上述のようにグループGRC本部は、コーポレートガバナンスも所管しているため、非常に経営陣に近いところで業務を行っております。そのため、経営陣の高い視座に基づく企業経営に触れる機会が多く、また会社全体の情報も集まりやすく、全社戦略・事業戦略やビジネス・事業への理解を促進させるチャンスが多い部門となっています。

なお、パーソルHDでは、個々人の最終的なキャリアパスのゴールは、個人の希望をできるだけ尊重するスタンスをとっています。例えば、より事業と組んで業務をしたいという人は、グループGRC本部や該当のSBUの上長とも相談しながら、個人にあったキャリアパスを設計していきます。

一方、より経営法務人材になりたいという人にとっては、より積極的に経営に関与するチャンスに恵まれた環境にあります。パーソルHDとしても、本人の志向性と能力をみて、経営法務人材に適性がある人には、そういったキャリアパスをエンカレッジしています。この点は、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして定め、エンゲージメントサーベイの結果を役員報酬にも反映させているパーソルHDの理念にも合致しているものといえます。

おわりに

本稿まで全5回にわたり、成長を続ける企業において、企業価値の創出・向上を支える法務機能・組織の1つの姿を提示するために、法務の機能・組織・人材について、検討をしてきました。VUCAと呼ばれる不確実な時代において、企業を取り巻く環境は著しく、かつ、ものすごいスピードで変化しており、法務機能・組織に求められる役割の範囲、そしてその重要性が増しており、組織力の強化は急務となっています。その一方で、企業の中で働く法務人材に目を向けると、技術革新の中で、従前の法務業務だけでは、法務人材として発揮できる価値がなくなってくるリスクも日に日に高まっています。

このように法務機能・組織の変革は、企業・経営陣および企業内の法務人材のいずれにとっても喫緊の課題であり、組織も人材も変革が必要な時代となりました。そうした中で、本稿で紹介したパーソルHDの事例は、林氏の下、企業価値の共創に貢献するために、従前の法務機能・組織を変革し、内部の法務人材にも多くの成長の機会を提供する事例として、非常に示唆に富むものでした。

末筆ながら、全5回の本連載が、法務機能・組織の在り方について悩まれている経営者や法務責任者の皆様や、自身のキャリアパスに悩みを持たれている法務部員の皆様のご参考の一助となりましたら幸いです。