意匠を出願(申請)する方法を解説!
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- この記事のまとめ
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意匠とは、簡単に言うと、物品などのデザインのことです。
ただ、どんなに画期的な意匠でも、特許庁へ出願して、審査を通過しないと意匠権は取得できず、保護を受けることができません。
この記事では、特許庁へ意匠を出願(申請)する具体的な方法について解説します。
※この記事は、2022年12月2日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
意匠とは
「意匠」とは、
✅物品(例:車・テレビ)
✅建築物(例:博物館・ホテル)
✅画像(例:スマホの操作画面・アプリの表示画面)
の「形状・模様・色彩」に関するデザインのことです(意匠法2条1項)。また、物品等の「部分」のデザインも「意匠」に含まれます。
特許庁ウェブサイト「令和元年意匠法改正特設サイト」
意匠権を取得するメリットとは
意匠権を取得した者(意匠権者)は、意匠権を取ったデザイン(登録意匠)を独占的に実施(使用など)できるようになります。
また、意匠権は、登録意匠と同一のデザインだけでなく、類似のデザインに対しても及びます(意匠法23条)。
他人が無断で登録意匠を使用した場合、意匠権者は、裁判所に、使用差し止め(意匠法37条)や、損害賠償(民法709条、意匠法39条)を請求することができます。
このように、意匠権を取得すると、特許権等と同様に、意匠権を取ったデザインの使用を独占できるというメリットがありますが、意匠権には、「見た目に関する権利」ならではのメリットがあります。
- 意匠権取得のメリット
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✅模倣品を発見しやすい
✅他者へのけん制や模倣品排除に効果的
✅特許性の有無にかかわらず権利化できる
✅ブランド形成に役立てることができる
✅手続が簡便なため、出願しやすい
✅費用と時間を抑えて権利化できる
意匠権は、見た目に関する権利であるため、製品の具体的な性能等を確認しなくても、見た目が似ているものをすぐに発見することができ、比較的容易に模倣品対策ができる点は大きなメリットです。
意匠権には、デザインの保護だけでなく、特許性のない形態を保護したり(技術保護の補完)、継続的に使用する形態を保護したり(ブランドの形成)する効果が期待されます。
意匠出願から意匠権取得までの流れ、費用
意匠出願から意匠権取得までの流れ
意匠権を取得するためには、特許庁に意匠登録の出願(申請)をし、審査にパスしなければなりません。意匠権は、意匠権の設定の登録がされることにより発生します(意匠法20条)。
特許庁ウェブサイト「初めてだったらここを読む~意匠出願のいろは~」
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1 意匠出願(出願書類の作成・提出)
2 方式審査(書類の形式や料金などに関する審査)
3 実体審査(その意匠を登録できるか否か、実体的な内容に関する審査)
4 登録査定(登録することができない理由が見つからなければ、「登録査定」が送付)
5 登録料納付(所定の登録料を納付後に設定登録)
6 意匠権の設定登録(意匠権が発生)
3の実体審査の結果、登録することができない理由(拒絶理由)が通知されたとしても、登録できないことが確定したわけではありません。
出願した人(出願人)は、拒絶理由について意見を述べたり(意見書の提出)、指定商品等の修正を行ったり(手続補正書の提出)することができます。
これらの手続により、
拒絶理由が解消された場合→意匠登録できる旨の通知(登録査定)(意匠法18条)
拒絶理由が解消されない場合→意匠登録できない旨の通知(拒絶査定)(意匠法17条)
いずれかの通知が出願人に送付されます。
費用
上記「『意匠出願』から『意匠権取得』までの流れ」において、特許庁に手数料を支払う必要があるのは、「1 意匠出願」での出願料と、「5 登録料納付」での登録料です。なお、意匠には、特許とは異なり審査請求制度(実体審査を行うように請求する制度)がないため、審査請求料は発生しません。
出願料 | 16,000円 |
登録料 | 8,500円 / 年(1~3年目) 16,900円 / 年(4~25年目) |
意匠権を発生させるためには登録料を納付する必要がありますが、1年分(8,500円)の納付でも権利を発生させられるため、意匠権の取得に最低限必要な費用は、出願料および登録料1年分の24,500円となります。
特許庁に支払う手数料は、特許庁ウェブサイト「手続料金計算システム 国内出願に関する料金」で調べることができます。なお、意匠に関しては、特許料のように中小企業等を対象とした減免制度はありません。
また、意匠出願を弁理士に依頼する場合は、特許庁に支払う手数料の他に、代理人手数料がかかります。一般的には、出願時と、登録料納付時の他に、拒絶理由が通知された場合の対応時に代理人手数料が発生することが多いです。代理人によって手数料が異なるため、事前に必ず見積もりを依頼しましょう。
権利化までの平均期間
意匠出願から最初の審査結果通知までの期間は平均6.4カ月、権利化までの期間は平均7.4カ月(2021年度。「特許行政年次報告書 2022年版」20頁)で、審査にかかる期間は比較的短いです。
権利化について緊急性を要する等の一定の要件を満たす出願は、出願人からの申請により、早期審査の対象となり、速やかに審査を受けることができます。早期審査の申出から一次審査通知までの期間は平均2.3カ月(2021年度。「特許行政年次報告書 2022年版」127頁)となっています。
なお、意匠審査については、物品等の分類により「意匠審査スケジュール」が定められており、出願する際に審査時期の参考とすることができます。
意匠権を取得するための要件
意匠登録のための主な要件
意匠が登録されるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 主な要件
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① 工業上利用できるデザインであること(意匠法3条1項柱書)
② 新規性があること(意匠法3条1項各号)
③ 創作非容易性がある(高い創作性がある)こと(意匠法3条2項)
意匠登録されるためには、その意匠が「工業上利用できる」デザインであること、すなわち、そのデザインと同一のものを複数製造(建築、作成)できるものでなければなりません。
例えば、自然石をそのまま使用した置物のように、ほとんど加工されていない自然物をそのままの形状で使用するものは、「工業上利用できる」デザインには該当しません。
また、純粋美術の分野に属する著作物(1点ものの油絵や彫刻など)についても、同一物を反復して多量に生産することを目的として製作されたものではないため、「工業上利用できる」デザインには該当しません。
さまざまな意匠について
日本の意匠制度には、さまざまな意匠の出願制度があります。これらを適切に利用することで、ニーズに応じた意匠権を取得することができます。
部分意匠
部分意匠とは、物品等の部分について意匠登録を受けることができる制度です(意匠法2条1項)。物品等の全体から物理的に切り離せない部分にデザイン上の特徴がある形状や、物品等を全体として出願すると、その特徴的な部分の形状が埋もれてしまうような形状について権利を取得することで、独創的で特徴ある部分が第三者に模倣されることを防ぐことができます。
特許庁「事例から学ぶ 意匠制度活用ガイド」8頁
関連意匠
関連意匠とは、自己が出願した意匠に類似する複数のバリエーションの意匠を、所定の要件を満たした上で、関連意匠として出願した場合には、各々の意匠について意匠登録を受けることができる制度です(意匠法10条)。権利範囲の拡大と明確化を狙う場合などに有効です。
特許庁「事例から学ぶ 意匠制度活用ガイド」8頁
秘密意匠
秘密意匠とは、意匠の設定登録の日から最長3年間、登録意匠の内容を公表せずに秘密にできる制度です(意匠法14条)。意匠の創作後、すぐに製品化しない場合などに有効です。秘密意匠にする請求は、出願時または登録料の納付時に行うことができます。
特許庁「事例から学ぶ 意匠制度活用ガイド」9頁
組物の意匠
組物の意匠とは、同時に使用される2つ以上の物品で、経済産業省令(意匠法施行規則別表第二)で定められた組物に関する意匠について、全体として統一感があるときは、セットで登録を受けることができる制度です(意匠法8条)。
特許庁「事例から学ぶ 意匠制度活用ガイド」9頁
内装の意匠
内装の意匠とは、複数の物品(机や椅子等)や建築物(壁や床等の装飾)、画像から構成される内装のデザインのことで、内装全体として統一感があるときは、一体として登録を受けることができます(意匠法8条の2)。
特許庁「事例から学ぶ 意匠制度活用ガイド」9頁
意匠を出願(申請)する方法
①事前調査|出願する前にすべきこと
先行意匠調査
既に同じようなデザインが公開されている場合は、審査に通ることができません。また、意匠権が設定されているデザインを無断で使うと意匠権の侵害となる可能性もあります。
出願前には必ず先行意匠調査を行いましょう。
調査は、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)意匠検索」を用いて無料で行うことができます。
調査方法については、下記の独立行政法人工業所有権情報・研修館ウェブサイトに詳細が掲載されています。
②意匠出願|書類の作成・提出
意匠の出願を行うには、「願書」と「図面」を作成し、特許庁へ提出する必要があります。
特許庁 事例から学ぶ意匠制度活用ガイド
願書・図面について
願書には、出願人と創作者の氏名などのほか、「意匠に係る物品」や、必要な場合には、「意匠に係る物品の説明」、「意匠の説明」を記載します。
図面には、意匠を特定するために必要な数の図を記載しなければなりませんが、文章での説明は必要ありません。
立体物の形状等を意匠登録出願する際は、現実の立体物ではなく、平面上に記載した図面等によって表されます。したがって、第三者が見ても、その形状等を正しく理解できるように、出願に当たっての作図方法は、詳細に定められています。
立体を表す図面は、例えば、正投影図法による六面図(正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図および底面図)や斜視図などを基本とし、必要に応じて、断面図、拡大図、参考図などを加えます。
独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)
なお、CGによる図面や、図面に代わるものとして写真、ひな形、あるいは見本による出願も可能となっています。
願書と図面の様式、記載方法の詳細は、特許庁やINPITのウェブサイトに掲載されています。
- 願書と図面の記載方法等の詳細
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独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT) 知的財産相談・支援ポータルサイト
「各種申請書類一覧(紙手続の様式)」独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)
「意匠登録出願書類の書き方ガイド 書面による出願手続について」
出願方法
意匠出願は、インターネットを用いて出願する方法(インターネット出願)と、紙面で出願する方法(紙出願)の2つの方法があります。
- インターネットを用いて出願する方法
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インターネット出願を行う場合、
① 電子証明書を準備
② 特許庁の「電子出願ソフトサポートサイト」から、「インターネット出願ソフト」(特許庁へのオンライン手続きが可能となる専用ソフトウェア)をダウンロードしてPCにインストール
③ 利用登録をする必要があります。
インターネット出願の場合、特許庁への書類の提出だけでなく、審査結果等の書類の受け取りなどもオンラインで行うことができます。また、手数料の支払いにクレジットカードを利用できます。
特許庁の「意匠登録出願等の手続のガイドライン」では、オンライン手続きを念頭にした「願書」、「図面」、「手続補正書」等の作成方法が詳細に説明されています。
- 紙面で出願する方法
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紙出願の場合、特許庁の受付窓口へ直接持参する方法と、郵送する方法とがあります。特許庁のウェブサイト「初めてだったらここを読む~意匠出願のいろは~」で、詳細に説明されています。
紙出願の場合、出願時に加え、特許庁に書類を提出する度に、書類を電子化するための手数料として、
電子化手数料:2400円+(800円×書類のページ数)
がかかる点に注意が必要です。
③方式審査
意匠出願すると、まず、書類の形式や料金などの形式的または手続的な要件を満たしているかの審査(方式審査)が行われます。
運用基準は、特許庁ウェブサイトの「方式審査便覧」にまとめられています。
④実体審査
方式審査をパスすると、次は、その意匠が、登録できるか否かの要件(意匠法3条等)を満たしているかの審査(実体審査)が行われます。
実体審査は、意匠審査基準の指針にのっとって行われます。
拒絶理由が通知された場合
実体審査において、意匠を登録することができないと判断されると、その理由(拒絶理由)が記載された書面が通知されます。
拒絶理由が通知されても、審査が終わったわけではありません。所定の期間内において、拒絶理由の内容を踏まえ、意見を述べたり(意見書の提出)、誤記や不明瞭な記載などの訂正等(手続補正書の提出)を行ったりすることで審査官の判断を覆すことができます(意匠法19条・60条の24、特許法50条)。
特許庁の「お助けサイト~通知を受け取った方へ~」では、「意匠の拒絶理由通知書を受け取った方へ」として、拒絶理由通知の見方やその後の手続について案内しています。
これらの手続により、拒絶理由が解消した場合は、意匠登録できる旨の通知(登録査定)が送付されます(意匠法18条)。
拒絶査定が出た場合
一方、拒絶理由が解消できなければ、意匠登録できない旨の通知(拒絶査定)が送付されます(意匠法17条)。拒絶査定が送付されると、審査は終了となります。
しかし、拒絶査定について不服がある出願人は、審査結果の撤回を求める審判(拒絶査定不服審判)を請求することができます(意匠法46条)。
また、さらに、審判の結果(審決)についても不服がある場合は、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができます(意匠法59条)。
登録査定が出た場合(審査に合格した場合)
審査に合格した場合は、登録査定が送付されますが、登録査定を受け取っただけでは、意匠権は発生しません。
意匠権を取得するためには、登録査定を受け取ってから30日以内に登録料を支払う必要があります(意匠法43条1項)。
登録料の納付方法や、納付書の作成方法等は、特許庁のお助けサイトの「意匠の登録査定を受け取った方へ」に記載されています。
⑤意匠権の設定の登録(意匠権が発生)
登録料の納付がされると、意匠権の設定の登録がされ、意匠権が発生します(意匠法20条)
意匠権の存続期間は、出願から25年です(意匠法21条1項)。何年間、権利を維持するかは、権利者が自由に決めることができます。
意匠を出願(申請)する際の注意点
弁理士に依頼すべきか
意匠の出願は、意匠を創作した人であれば原則誰でもできるため、弁理士に依頼せず、自力で行うことは可能です。書類の作成も、公開されているガイドラインや手引きを調べて、自力で行うことはできます。
しかし、意匠制度は、部分意匠や関連意匠等の様々な制度があり、どのような制度を利用すれば適切な保護を受けられるかは、具体的なデザインの内容によって変わってきます。専門的な知識を有していないと、質の高い書類の作成は困難でしょう。
また、精度の高い先行意匠調査や、拒絶理由通知書への対応は、高度な知識が必要になることが多く、自力でやって費用は抑えられたものの、適切な範囲で権利取得できず、他者の模倣品を排除することができない(出願が無駄になってしまう)、ということが少なくありません。
大事なデザインを適切に保護するためには、知的財産権の専門家である弁理士に依頼することをお勧めします。
出願前に意匠を公開していないか確認
出願前に公開された意匠は、意匠登録の要件(新規性)を満たさない(意匠法3条1項各号)として、原則として意匠登録が認められません。
ただし、出願と同時に、「新規性喪失の例外規定」の適用を受ける手続をすることにより、その公開されてしまった意匠について新規性を失っていないものとして取り扱われます。出願をしようとする際は、出願前に自ら意匠を公開していないかについてしっかりと確認しておきましょう。
ここにいう「公開」とは、製品の販売開始、新製品発表、カタログ配布、展示会出品、各種メディアの報道による意匠の公開などのほか、インターネットによる公開も含まれます。
- インターネットによる公開の例
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✅ 自社のウェブサイト、販売サイト、ブログ、動画チャンネル
✅ SNS(例:Twitter、Instagram、Facebook、TikTokなど)
このように、「公開」とは、正式な製品販売等のプレスリリースだけではなく、社長や社員のブログ、SNS投稿なども含みます。複数回意匠を公開した場合は、原則として全ての公開事実に対し例外適用を受ける必要があります。SNSでの公開は、それぞれのプラットフォームでの公開事実について手続きをしなければいけない点に注意しましょう。
なお、意匠の新規性喪失の例外規定は、あくまでも「例外」です。自らの公開について、新規性を喪失していないという取り扱いを受けることができるものであって、第三者が同じ意匠を独自に創作し、先に出願していた場合や、すでに公開していた場合は、意匠登録を受けることはできません。
また、海外出願を予定している場合、各国で新規性喪失の例外規定が異なるため、自らの公開により、国によっては意匠登録を受けることができない可能性があることにも注意が必要です。
- 意匠の新規性の注意点についてまとめられたウェブサイト
この記事のまとめ
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