「知識だけじゃ絶対だめ」 法務のスキルアップに本当に必要だったこと
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- この記事について
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若手のうちは、誰もが課題に直面し、乗り越えることで成長します。でも、乗り越え方は人それぞれ。さまざまな若手法務に、成長の軌跡を聞く「Progress ー若手法務の歩き方ー」。
初回は、社会人7年目、LegalForce法務部の松丸夏希さんに前職での経験を聞きました。法学部でない松丸さんが失敗した際「やっておくべきだった」と語るのは法律の勉強ではなく…?
インタビュイー
松丸 夏希
株式会社LegalOn Technologies 法務部法務課
新卒で生命保険会社に入社し、文書法務部に所属。2021年8月から株式会社LegalOn Technologiesの法務unit。営業部門の契約書審査に従事している。前職では主に契約書や社外文書(広告物など)の審査業務や、商標を中心とした知的財産管理業務などに従事した。
目次
「会社を知りたい」→法務部に
――法務担当になったきっかけを教えてください。
新卒で入社したのは、「株式会社かんぽ生命保険」の「文書法務部」でした。学生時代に家族が病気になったことで「病気ってこんなにお金かかるんだ」と知り、生保ならサポートできる。と思ったからです。
「会社がどういうものか知ることができる部署に行きたいです」と言ったら、新入社員のうち唯一、法務部配属になりました。しかし、大学は文学部で法律の知識もまったくありません。配属前は仕事のイメージはほとんどついていない状態でした。
研修では分からなかったところを書き出し、先輩に質問
――法務部の規模や研修の流れを教えてください。
文書法務部は30人弱の部署で、部署ごとに審査担当を決めており、私は広報部・知的財産の担当になりました。契約審査だけではなく、社外に出す文書はネガティブチェック※の意図もあり、あまねく法務チェックをすることになっていました。
※ネガティブチェック…おかしな表現や文体など、読み手がネガティブな印象を抱くような記載がないか確認をすること
入社して全体研修が約1カ月。そして配属直後の数日間は先輩にマンツーマンで、民法や会社法といった基本的な法律から、生命保険業法といった業界ならではの法律をレクチャーしてもらいました。そこから7月までは勉強期間に充てていただいたので、前任者が審査した過去の案件を見て勉強しました。
その後は先輩にチェックをいただきながら審査業務にあたっていました。だいたい1日1案件を見る、というペースでした。割合でいうと広報8:知財2くらいです。広報は外部に出る書類のチェック、知財は更新手続きなどの相談が多かったです。
――研修で意識していたことはありましたか。
先輩の契約書を読んでいるときは、理解ができなかった部分を書き出して、先輩に時間をもらって「なぜこういう指摘をしたんですか」と質問して理解していきました。その繰り返しです。
最初の仕事はまるでCMの再現
――法務担当として最初の仕事を教えてください。
(最初の仕事は)A4で2枚くらいの広告文章でした。自分なりにチェックしたのですが「見落としはないかな。うーん」という迷いはありました。でも最後は「いいや、はい!」という感じで先輩に提出して。まさにLegalForceのCMの状態ですよね(笑)
案の定、不安だと思ったところを先輩に指摘されました。
法実務習得にはビジ法3級がおすすめ
――知識をアップデートするためにおすすめの教材を教えてください。
ビジネス実務法務検定試験(ビジ法)3級の勉強がおすすめです。ビジネスにおける法理論がまとまっていて、毎年試験があるので最新の法令を学べます。受験するかどうかは別として、使える知識を早く習得できると思います。
それから、自分の担当に適用される業法回りの勉強です。知財でいうと、知的財産管理技能検定の勉強をしていました。さらに所管する特許庁のサイトに初心者向けの解説ページがあり、実務の知識をインプットしていました。
――一般企業が運営しているような法律知識がまとまっているサイトは見ていましたか?
出典や根拠が定かではないものは確証が取れないので、見ていませんでした。当時は契約ウォッチのような法律の専門家が執筆しているサイトは私が知る限りではありませんでしたから。
初めての弁護士依頼
――仕事をしていて壁にぶつかった経験はありましたか。
初めて弁護士に相談する案件が発生したときですね。
弁護士に相談するときは、判断に必要な情報を事業部からヒアリングするなどして論点を整理して、その論点について「Yes」か「No」で答えてもらうのが理想です。
でも、その時は論点整理もできていなかったし、全然情報が足りていなくて。漠然とした「これは大丈夫ですか?」という相談になってしまって弁護士も何をどう回答してほしいのかわからずに困らせてしまったということがありました。
先輩から、「どういう点が問題ありそうと考えていて、当社としてはこういう考えなんだがどうだろうか、という形にしないとダメだ。案件に対する解像度をもっと上げないと」と指摘されました。
ちょっとしたコミュニケーションが解像度を上げてくれる
――振り返って、何をやればよかったですか。
自分なりには弁護士が必要な情報を集められたと思っていましたが、それでも理解できている範囲が狭かった。もっと案件の解像度を上げる必要がありました。
後にも経験しましたが結局、契約審査の際にも何をやっているか理解していないと「○○ってなんですか?」から確認しなければならず、かえって時間がかかることになります。
――具体的に、どんなことをするべきでしょうか。
私は最終的に、広報の後に営業担当も担いました。そのときは当初から積極的にコミュニケーションをとるようにしました。いまどんな仕事をしていて、その部内にはどんな仕事を誰が担当していて…などの情報を知るためです。
「仕事つかれたな」というタイミングで、ちょっとしたメールを担当者に打ってみたりしてました。雑談レベルでいいんです。
ちょっとした話が、コミュニケーションを円滑にしてくれます。廊下ですれ違ったときに「おつかれさまです」でも声をかけたりすると、「来週〇〇の案件お願いするから」といった情報をもらえたりもします。逆に「この案件ちょっと時間が欲しい」というときもスムーズに相談ができます。
メール→電話・対面でコミュニケーションを
――コミュニケーションが解像度をあげることにつながるということですね。
はい。法務の仕事のレベルを上げるためには、知識だけじゃ絶対だめです。
解像度を上げる、というのは担当分野の法的リスクを判断する力を身に着けるだけではなく、事業部のことを知ることが大切です。
でも、私も最初は、事業部の事情を勘案せずに自分の知識だけをもって返事をして、摩擦を生んでしまった経験があります。
契約書は、法律リスクの法務部判断と、ビジネス上のメリットやリスクの事業部判断とで、出来上がっていくものだと考えています。そのためには「(事業部が)この案件をどう考えているのか」をしっかり把握しないと、契約書に反映することができません。
――ただ、新人だと難しいのではと思ってしまいます。
さっき話した初めての弁護士相談の時を振り返ると、メールのやりとりで終わりにしてしまっていました。メールは必要だとお互いに思っていること、あるいは必要と思い込んでいることしか情報交換できません。対面や電話、担当者間の気軽なメールでコミュニケーションを取っていれば、会話の中でポロっと重要なことが出てきたり、把握していなかった事情が見えてきたりします。
あの時ももっといろんな情報が得られたと思っています。思えば期限も差し迫った案件として急に来たこともあって、あせってしまったところもありました。
上司から「知財は松丸に聞いて」
――法務として自信がついたのはいつですか。
社会人3、4年たったころ、知財に関しては自信が持てるようになりました、上司が「知財は松丸に聞けばいいよ」と言ってくれたことがありました。「よっしゃ」と思いましたね。
――チームで仕事をするうえで「やっておいてよかった」と思うことは。
知財で担当が私だけになったとき、マニュアルを整備したことです。それまでは全部口頭で新任の担当者に教える必要があり、時間がかかっていました。
研修を受ける側だった私が言うのもなんですが、とても時間がかかります。そこで私が、担当者になったら知っておくべき法令や参照先をまとめたマニュアルを作り、それがきっかけで部内でマニュアル整備が進みました。
新任者にとっては、「どんな知識を得るべきで、何を見て勉強すればいいの」と考える時間が減りますし、教える側にとっては時間が取られない、チームとしてパワーアップにつながったと考えています。
確かにマニュアル作りは大変です。ですが、忙しい中でも、集中が途切れた時に頭の整理代わりに、気分転換に、メモをつくる気分で少しずつでも始めれば良いと思います。
契約審査だけではない「法務のスペシャリストになりたい」
――最後に、松丸さんの目指していることついて教えてください。
法務のスペシャリストになりたいです。法務の仕事は、契約審査だけではなくて、知財、コンプライアンス、社内プロジェクトへの参加など際限がありません。そのなかで、いまは担当している取締役会の運営など、コーポレート分野の知識を広げているところです。
私の一品
ブルーライトカットのメガネと目薬。メガネは会社に置きっぱなしで、目薬は絶対にカバンに入ってます(目薬はcoolタイプのスッキリするもの)。基本、画面や契約書とメガネかけつつにらめっこ、疲れてきたら目薬さして目の周りをマッサージしてます。
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