【2022年4月15日施行】
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」
のポイントを解説!
- この記事のまとめ
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2022(令和4)年3月4日に、全国銀行協会が事務局を務める中小企業の事業再生等に関する研究会が「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を策定・公表し、同年4月15日より同ガイドラインが施行されました。
また、同日、経営者保証ガイドラインについても、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的な考え方」が公表されるとともに、経済産業省、金融庁、財務省が連名で「中小企業活性化パッケージ」を発表しました。
新たなガイドラインでは、従前の「私的整理に関するガイドライン」とは異なり、中小企業を念頭として、
✅平時
✅有事
✅事業再生計画成立後のフォローアップ
の各段階における中小企業(債務者)及び金融機関それぞれが果たすべき役割を明確化し、また第三者支援専門家が関与する新たな準則型私的整理手続を定めて、迅速・柔軟な事業再生等を可能とすることを目的としています。中小企業事業再生ガイドラインでは、特に「平時」の段階における中小企業(債務者)及び金融機関の対応を定めたことに特徴があるといえます。
この記事では、中小企業事業再生ガイドラインの概略やポイントについて解説します。
※この記事は、2022年7月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
中小企業事業再生ガイドライン公表・改定の背景
これまで、中小企業向けに特化して、企業の債務処理の解消を支援する民間ガイドラインは存在していませんでした。2001年9月に策定された「私的整理に関するガイドライン」(以下「私的整理ガイドライン」といいます。)は、大企業や中堅企業が念頭に置かれており、従前より、中小企業の事業再生のためのガイドラインの策定が求められていました。
このような中、2021年6月18日に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、「中小企業の事業再構築・事業再生の環境整備」として、中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定について検討するものとされました。
この背景には、2020年以降に世界的に流行した新型コロナウイルス感染症による、日本経済への影響もあると考えられます。特に、日本の企業のうち約99.7%は中小企業であって、中小企業の多くは、新型コロナウイルス感染症による影響を受けていました。実際、「成長戦略実行計画」の中では、中小企業のうち34.5%の企業が、コロナ禍の中で債務の過剰感があると回答している旨が報告されています。
「成長戦略実行計画」を受け、中小企業の事業再生・廃業(以下「事業再生等」といいます。)に関して、関係者間の共通認識を醸成し、事業再生等に係る総合的な考え方や具体的な手続等をガイドラインとして取りまとめることを目標として、全国銀行協会を事務局とし、2021年11月5日、「中小企業の事業再生等に関する研究会」が発足しました。そして、2022年3月4日、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「中小企業事業再生ガイドライン」といいます。)が公表され、同年4月15日より施行されています。
この記事では、新たに公表された中小企業事業再生ガイドラインの概略やポイントについて、解説していきます。なお、この記事では、中小企業事業再生ガイドラインの対象となる「中小企業者」(中小企業基本法2条1項)につき、便宜上、「中小企業」といいます。
私的整理とは
私的整理の定義
そもそも、私的整理とは、どういった手続でしょうか。
いわゆる「倒産・再生」と呼ばれる手続の中で、法律に定めがある代表的なものとして、破産、民事再生、会社更生等の法的手続があります。
これに対して、私的整理は、法律に定められた法的手続によらず、債務整理を行うことを言います。私的整理には、債務を整理して事業を継続させる再建型(再生型)もあれば、事業を消滅させる清算型(廃業型)もあります。
また、私的整理ガイドラインや事業再生ADR等のように、公表されているルールに基づいて進められる私的整理もあれば、これらのルールに基づかずに、任意で進められる私的整理もあります。
この記事で解説する中小企業事業再生ガイドラインは、公表されているルールに基づいて進められる私的整理に該当します。
私的整理を行うメリット・デメリット
法的手続によらず、私的整理を選択するメリット・デメリットとして、一般的に以下の点が挙げられます。
- 私的整理によるメリット
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・非公開で密かに協議を行うことができる
・対象債権者を金融機関等に限定することができる
・商取引債権を支払うことにより、事業価値を維持することができる
- 私的整理によるデメリット
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・対象債権者全員の同意が必要である
・専門のアドバイザー(弁護士、公認会計士、コンサルタント等)を起用する必要がある
このように私的整理は、非公開の場において、対象となる債権者を金融機関等に限定して協議して、一体となって合意を形成するものと言えます。そのため、取引先には知られないままに、商取引債権の支払を継続することによって、事業価値の毀損を防止することができます。
他方で、あくまでも私的整理は、対象となる債権者全員の同意を得られないと成立しません。そのため、企業としては、金融債権者の理解・同意が得られるように、丁寧な説明や情報開示が求められます。












