印影とは?
印章や印鑑との違い・種類・印影を残すメリット・
データの扱いなどを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「印影(いんえい)」とは、印章(ハンコ)や拇印(親指をハンコの代わりにすること)を押した際に残る朱肉の跡をいいます。
これに対して、「印章」はハンコの本体、「印鑑」は実印や銀行印として登録された印影です。主な印影(印章)の種類としては、実印・銀行印・認印(角印)・役職員・個人印などが挙げられます。押印する文書の内容や性質に応じて、これらの印影を使い分けるのが一般的です。
文書に印影を残すと、その文書の信頼性が高まり、多くの取引先に受け入れてもらいやすくなります。法律上も、本人の印章による印影が残されていれば、その文書の真正な成立が推定される効果が生じます。
なお、印影がない契約書であっても、当事者が合意に基づいて作成したものであれば有効です。ただし文書の真正な成立が推定されないので、相手方が契約書の有効性を争ってきた場合には、別の方法によって有効性を立証する必要があります。
この記事では印影について、印章や印鑑との違い・種類・印影を残すメリット・データの扱いなどを解説します。
※この記事は、2024年9月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 電子署名法…電子署名及び認証業務に関する法律
目次
印影とは
「印影(いんえい)」とは、印章(ハンコ)や拇印(指をハンコの代わりにすること)を押した際に残る朱肉の跡をいいます。
契約書などの文書を作成する際には、当事者がその文書を作成したことの証として押印をするケースが多いです。押印をすることによって、文書に残る朱肉の跡が印影に当たります。
印影・印章・印鑑の違い
印影と関係しており、かつ似ている言葉として「印章」や「印鑑」が挙げられます。
「印章」とは、いわゆるハンコの本体を意味します。印章を押した際に残る朱肉の跡が印影です。
「印鑑」とは、実印や銀行印として登録された印影です。ハンコ(印章)を用いて押した朱肉の跡はどれも印影ですが、その中でも、役所において印鑑登録を受けているものや、金融機関に銀行印として届け出ているものが印鑑に当たります。
主な印影(印章)の種類
主な印影(印章)の種類としては、以下の例が挙げられます。
① 実印
② 認印(角印)
③ 銀行印
④ 役職印
⑤ 個人印・法人印
実印
「実印」とは、市区町村において印鑑登録されている印影のことです。
実印は、個人・法人のいずれも持つことができます。個人が印鑑登録するかどうかは任意なので、全員が実印を持っているわけではありません。
法人については、従来は印鑑登録(印鑑届)が必須とされていました。しかし現在では、オンラインで登記申請をした場合に限り、印鑑登録が任意とされています。
印鑑登録されている実印については、印鑑登録証明書の発行を受けることができます。
個人の実印については、印鑑登録証を市区町村役場に提示すれば、印鑑登録証明書の発行を受けられます。また、コンビニエンスストアでマイナンバーカードを用いて、印鑑登録証明書の発行を受けられることもあります。
法人の実印については、印鑑カードを法務局の登記所に提出するか、またはオンラインで請求をすると印鑑登録証明書の発行を受けられます。
実印は、公的に認められた印鑑と位置付けられているため、混同されやすい印鑑が別に存在しないことが求められます。そのため、実印の字体は複雑に作られるケースが多いです。
実印は信頼性が高いため、不動産の売買や金銭消費貸借など、高額の金銭が関係する契約において実印による押印が求められる傾向にあります。
認印(角印)
「認印」とは、市区町村において印鑑登録されていない印影です。
実印の字体は複雑に作られることが多いのに対して、認印の字体は簡易で読みやすいものが用いられる傾向にあります。
重要な取引の契約には実印で押印する一方で、一般的な契約を締結する際には認印を用いるという使い分けがよく見られます。
法人の認印は、「角印」と呼ばれることもあります。輪郭を四角い形状に作ることが多いことが、角印という呼称の由来です。
角印は、契約書以外の書面(見積書・請求書・領収証・内部の決裁書類など)にも押印されることがよくあります。
銀行印
「銀行印」とは、銀行に対して届出がなされている印影のことです。個人・法人のいずれも、銀行口座を開設する際には銀行印を届け出る必要があります。
銀行において口座開設や窓口振込などを行う際には、所定の書類に銀行印によって押印をしなければなりません。銀行で手続きを行う場合には、必ず銀行印を持参しましょう。
銀行印としては、実印か認印のいずれかを届け出ることになります。実際には、認印を銀行印として届け出るケースが多いです。
役職印
「役職印」とは、社長・専務・部長など、会社の役職者の肩書が付された印影です。
代表取締役の役職印は、会社の実印として届け出るのが一般的です。この場合、代表取締役の役職印を契約の締結などに用います。
代表取締役以外の役職印は、会社によって用途が異なります。
比較的規模が大きな会社では、本来であれば代表取締役が有する契約締結権限を、下位の役職者(専務・部長など)に委任しているケースがあります。この場合は、受任者の役職印を契約の締結に用います。
社内においては、稟議書をはじめとする社内決裁文書など、役職者であることを明示して押印する必要がある場合に、役職印が用いられることがあります。
個人印・法人印
「個人印」とは個人の印章による印影、「法人印」とは法人の印章による印影を意味します。
実印・認印・銀行印などは、個人印であることも、法人印であることもあります。個人と法人、どちらの認証を示すものであるかによって、個人印と法人印のどちらに当たるかが決まります。
文書に印影を残すことのメリット
文書に印影を残すことには、主に以下の2つのメリットがあります。
① 文書の信頼性が高まり、多くの取引先に受け入れてもらいやすい
② 文書の真正な成立が推定される
文書の信頼性が高まり、多くの取引先に受け入れてもらいやすい
例えば契約書に押印がなされていないと、「まだドラフトの段階(=内容が確定していない段階)ではないか」「権限を持たない人が勝手に印刷しただけではないか」などと捉えられるかもしれません。
これに対して、契約書に押印がなされていれば、基本的には当事者が合意の上で作成したものとして取り扱われます。紙の契約書については、大半の企業が押印を必須としています。
契約書以外の文書についても、押印がなされていれば文書としての信頼性が高まります。印影がない文書に比べて、当事者が自らの意思で作成したものである可能性が高いと判断されるためです。
例えば入会申込書や誓約書などには、提出先の社内方針によっては押印を求められることがあります。
近年では文書への押印を廃止する企業も増えていますが、依然として押印がある文書の方が、そうでない文書よりも信頼性が高いと判断する企業が多い状況です。
文書に押印をした上で提出すれば、少なくとも「押印がない」ことを理由に差し戻されることはなくなります。押印が必要かどうか迷ったら、念のため押印をしておく方がよいでしょう。
文書の真正な成立が推定される
作成者の印章による押印がなされた文書は、以下の二段階によって真正に成立したことが推定されます(=二段の推定)。
- 二段の推定とは
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① 一段目の推定
作成者の印章による押印がある場合、当該印影は作成者の意思に基づいて成立したと推定されます(最高裁昭和39年5月12日判決)。② 二段目の推定
作成者の意思に基づく押印がある場合、当該文書は真正に成立したものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。
二段の推定の効果は、印鑑登録されている実印だけでなく、認印などによっても発生すると解されています(最高裁昭和50年6月12日判決)。
押印によって二段の推定の効果が生じた文書は、偽造などを示す特段の事情がない限り、真正に成立したものとして取り扱われます。
特に契約書などの重要な法律文書については、押印による二段の推定が、その有効性を確実に証明するためのリスクマネジメントとして機能します。
印影のデータ(画像)は電子署名に使える?
印影はハンコ(印章)を用いて残すのが一般的ですが、電子ファイル(PDFなど)については、印章を用いて印影を残すことはできません。
電子ファイルには、印影の画像データを貼り付けることによって押印の代わりとしている企業が見られます。
しかし、印影の画像をデータ化しただけに過ぎないものは、二段の推定のような法的効力を有しません。文書の真正な成立を推定させる効果を生じさせたい場合には、電子署名の要件を満たす必要があります。
データ化しただけの印影は法的効力を持たない
印影の画像データは、本人の印章によって押印されたものではないので、「二段の推定」の効力が生じません。
電子ファイルには押印ができませんが、「電子署名」を行うことにより、二段の推定と同様に文書の真正な成立を推定させる効力が生じます(電子署名法3条)。
しかし、印影の画像をデータ化しただけに過ぎないものは、電子署名の要件を満たさないのが通常です。そのため、印影の画像データを貼り付けた電子ファイルは、押印がない状態の文書と実質的に同じものとして取り扱われます。
要件を満たした電子印影(電子署名)には法的効力がある
電子ファイルについて、その真正な成立を推定させる効果を生じさせたい場合には、電子署名を行う必要があります
電子署名とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の2つの要件のいずれにも該当するものをいいます(電子署名法2条1項)。
- 電子署名の要件
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① 当該電子署名が本人によって作成されたことを示すものであること(本人性)
② 当該電子署名について改変が行われていないかどうか確認することができるものであること(非改ざん性)
電子署名を行うために必要な符号や物件(パスワードやパスワードカードなど)を適正に管理することにより、本人だけが行うことができるようになっている場合は、その電子署名を付すことにより、電子ファイルは真正に成立したものと推定されます(電子署名法3条)。
印影の画像データについても、上記の電子署名の要件を満たす措置と併せて貼り付けられる場合には、電子ファイルの真正な成立が推定されます。
例えば電子契約サービスには、自動的に印影の画像データを生成する機能を有するものが多いです。電子契約サービスには電子署名の機能が組み込まれているのが一般的で、その場合は契約書が真正に成立したことが推定されます。
印影がない契約書の法的効力
印影がない契約書であっても、当事者が合意に基づいて作成したものは有効です。ただし、印影がない契約書の有効性が争われた場合には、印影以外の方法によって契約書の有効性を立証する必要があります。
印影がなくても、当事者が作成した契約書は有効
契約の方式は原則として自由であり、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成などは必須ではありません(民法522条2項)。
印影についても、二段の推定によって契約書の真正な成立を推定させる効果は生じますが、契約書の作成に当たって押印が必須というわけではありません。
当事者が合意に基づいて契約を締結したのであれば、公序良俗に反するなどの事情がない限り、その契約は有効です。
印影がない場合に、契約書の有効性を立証する方法
印影が残されていない場合には、契約書の真正な成立が推定されません。したがって、契約書の有効性が争われた場合には、有効であることを主張する側がその有効性を立証する責任を負います。
印影がない契約書の有効性を立証するためには、以下のような資料を裁判所に提出することが考えられます。
・契約交渉の過程が分かるメールやSNS上のやり取り
・請求書、納品書、検収書、領収書などの取引関係書類
など
これらの資料は、印影がない契約書だけでなく、印影がある契約書の有効性を立証する際にも役立ちます。契約書に関連する資料は確実に保存しておき、万が一契約トラブルが発生した場合に備えましょう。