DEI(DE&I)とは?
概要・メリット・実践手順・
推進のポイントなどを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「DEI(DE&I)」とは、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包摂性)」の頭文字をとった言葉です。組織内にいる多様な構成員の特徴に合わせた処遇を行い、各構成員が強みを生かして活動できるように配慮することを意味しています。
企業がDEIを推進すれば、異なる経歴や価値観を持つ社員が積極的に意見を出し合うことにより、新しいアイデアが生まれやすくなります。また、少子高齢化が進む中でも、新規人材の確保や既存従業員の定着の観点から好影響が生じることが期待されます。
DEIを実践するに当たっては、まず企業内において疎外されている人がいないかどうか、いるとすれば誰であるかを把握する必要があります。疎外されている人がいた場合には、その理由を特定した上で、疎外を解消するための具体策を検討します。
DEIに関する取り組みを適切に行うためには、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)について敏感になることが大切です。また、多様な人々と交流する機会を設ければ、社員の自分とは異なる人々に対する理解が深まり、DEIの効果を高めることに繋がります。
この記事ではDEIについて、概要・メリット・実践手順・取り組みに当たってのポイントなどを解説します。
※この記事は、2025年1月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
DEI(DE&I)とは
「DEI(DE&I)」とは、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包摂性)」の頭文字をとった言葉です。組織内にいる多様な構成員の特徴に合わせた処遇を行い、各構成員が強みを生かして活動できるように配慮することを意味しています。
Diversity(多様性)とは
「Diversity(多様性)」とは、人々の間に存在するさまざまな違いを意味します。一例として、以下のような観点からの多様性が想定されています。
(例)
・性別
・年齢
・人種
・国籍
・障害の有無、内容
・性的指向
・宗教
・信条
・価値観
・キャリア
・経験
・能力
・働き方
など
企業の中に多様な構成員が存在するのは当然であって、それを一つの価値観に押し込めるべきではありません。「Diversity(多様性)」を尊重しつつ、構成員が活発に能力を発揮できる環境を整えることが求められます。
Equity(公平性)とは
「Equity(公平性)」とは、不均衡を正して公平に取り扱うことを意味します。
「Equity(公平性)」について理解するためには、類義語である「Equality(平等性)」との違いを意識すべきです。
「Equality(平等性)」は、全ての人々に対して同じ機会やリソースを提供することを意味します。
例えば、全ての従業員に同じ研修を受けさせることや、同じように昇進の機会を与えることなどが「Equality(平等性)」を念頭に置いたアプローチです。
これに対して「Equity(公平性)」は、人々はそれぞれスタートラインが異なることを前提に、個々の人々が同じような成果を挙げられるように支援することを主眼としています。
例えば、障害を持つ従業員に対してバリアフリーの職場環境を提供することや、経済的に恵まれない従業員に対して福利厚生や教育訓練を追加することなどが「Equity(公平性)」の考え方に沿ったアプローチです。
「Equity(公平性)」は、多様な構成員の活躍を促すという観点から、「Equality(平等性)」をさらに進展させた考え方と言えます。
Inclusion(包摂性)とは
「Inclusion(包摂性)」とは、多様な人々が組織やコミュニティの一員として尊重および歓迎され、心理的に安心感を持ちながら、意思決定のプロセスに十分な形で参加できることを意味します。
企業の中に多様な人々が存在するとしても、そのうち一部の人だけで意思決定を行っているようでは、本当の意味で多様性のメリットを享受することはできません。
多様な人々がそれぞれの立場や考え方に基づき、意思決定プロセスに参加できるような環境を整えることによって、真に多様性を尊重する企業となることができます。
「Inclusion(包摂性)」を実践するためには、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)」を解消する取り組みが重要になります(後述)。
D&IとDE&Iの違いとは
「Diversity(多様性)」と「Inclusion(包摂性)」の考え方は、比較的古くから「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」として重要視されていました。
歴史的には、アメリカにおいて人種差別などを禁止する公民権法が施行されたことに伴い、1960年代からD&Iの考え方が広がりを見せました。日本でも1980年代後半ごろからD&Iの考え方が徐々に広がってきました。
しかし、多様な人々が同じ組織やコミュニティに属するようになると、家庭環境や障害などの影響で、人によってスタートラインが違うことが浮き彫りになりました。その結果、かえって不公平感を覚えて、組織やコミュニティに対する帰属意識が減退してしまう人が出てくるようになりました。
従来のD&Iは、全ての人々に対して同じ機会やリソースを提供する「Equality(平等性)」のアプローチを念頭に置いていましたが、それでは不十分だったのです。
そこで、スタートラインが異なる人々が同じように成果を出せる、それぞれが特性を生かして活躍できるようにするということが重視されるようになり、「Diversity(多様性)」と「Inclusion(包摂性)」に「Equity(公平性)」を追加した「DEI(DE&I)」の考え方が広まるようになりました。
企業がDEIに取り組むメリット
企業がDEIに取り組むことのメリットとしては、主に以下の各点が挙げられます。
- 多角的なアイデアが生まれやすくなる
- 優秀な人材を獲得しやすくなる
- 既存の従業員が定着しやすくなる
多角的なアイデアが生まれやすくなる
企業内に多様な価値観・能力・バックグラウンドを持つ人々が属していると、多角的な視点からのアイデアが生まれやすくなります。
企業が抱えている問題に対しても、多角的なアプローチによって良い解決策を導き出すことができます。新規の商品やサービスを企画する際にも、多様な人々のニーズをくみ取りやすくなり、ヒットの可能性が高まるでしょう。
優秀な人材を獲得しやすくなる
DEIの推進は、企業としての魅力度の向上につながります。どのような属性を持つ人でも尊重される企業は、間違いなく働きやすい職場と言えるからです。
特に能力の高い優秀な人材は、多様性を尊重する企業を好む傾向にあります。DEIを推進し、多様な人材が活躍できる環境を整えることによって、優秀な人材を獲得しやすくなります。
既存の従業員が定着しやすくなる
DEIを推進することは、全ての従業員が働きやすい環境を整備することにほかなりません。
DEIの取り組みが奏功すれば、既存の従業員にとっても、仕事に対する満足度や意欲が高まります。その結果、従業員の定着率が向上し、ノウハウの蓄積などによって業績の向上が期待できます。
企業がDEIを実践するための手順
企業がDEIを実践する際には、以下の手順で検討を行いましょう。
① 自社内において疎外されている人は誰かを検討する
② 疎外されている原因を分析し、解消するための具体策を検討する
③ 疎外を解消するための取り組みを実践する
④ フィードバックを踏まえて改善を行う
自社内において疎外されている人は誰かを検討する
DEIの実践に当たっては、まず自社内において疎外されているのがどのような人々であるのかを検討する必要があります。
具体的には、以下のような観点で検討を行いましょう。
・自社内において、特に数が少ない(あるいは全くいない)のはどのような属性の人々か?
・自社の構成員のうち、特定の属性を持つ人々の待遇が低く抑えられていないか?
・自社の構成員のうち、特定の属性を持つ人々が意思決定プロセスから外されていないか?
など
特に意思決定プロセスからの疎外については、無意識に発生してしまうことが多いです。
例えば、IT事業を行う企業の経営層にはエンジニア(技術者)も入れるのが自然ですが、入っていない場合はエンジニアが疎外されている可能性があります。
創業の経緯などから無意識にそうなってしまっていることもあるので、フラットな視点から自社の状況を分析することが大切です。
疎外されている原因を分析し、解消するための具体策を検討する
自社内において疎外されている人々を特定できたら、次は疎外されている原因を分析しましょう。疎外の理由が分かれば、その原因を解消することがDEIの推進につながります。
例えば外国人従業員は、本人の意思とは無関係に外国語での対応が必要な業務へ従事させられているケースがよく見られます。
日本企業においては、主要な事業が日本語ベースで行われているケースが大半であり、経営上の意思決定もほとんどが日本語ベースで行われています。そのため、外国語の業務が中心の外国人従業員は、日本企業における意思決定のプロセスから疎外されてしまいがちです。
このような状況を解消するためには、日本語ベースの業務でも積極的に外国人従業員へ任せる、経営層に外国人従業員を登用するなどの対応が考えられます。
上記の例のように、疎外が発生している原因を分析した上で、その原因を解消できるようなアプローチを検討しましょう。
疎外を解消するための取り組みを実践する
自社内で発生している疎外の原因を踏まえて、DEIを推進するための具体策を立案したら、その取り組みを実行に移しましょう。
DEIの取り組みに当たっては、経営上の意思決定が求められるため、経営層のリーダーシップが必要不可欠です。
経営方針のうち変更すべき部分はどこか、どのように変更すべきかなどを取締役間で話し合い、迅速かつ適切に意思決定を行いましょう。
DEIの取り組みを効果的に実践するための社内体制の整備も、経営層が主導して行うことが求められます。
フィードバックを踏まえて改善を行う
DEIの取り組みがどのような効果をもたらしているかを把握するためには、従業員から定期的にフィードバックを受けるべきです。以下の項目などについてアンケート調査を行い、実際に従業員がどう感じているのかを把握しましょう。
(例)
・DEIの取り組みによって、働きやすさは変わったか?
・依然として働きにくい、過ごしにくいと感じる場面はないか?
・他の従業員が働きにくそうにしている場面を見たことはないか?
など
従業員から得られたフィードバックは、さらにDEIを推進するため、改善の取り組みに活かしましょう。
DEI推進を適切に行うためのポイント
DEIを適切な形で推進するためには、特に以下の2点に注目した取り組みを行いましょう。
① アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)について敏感になる
② 多様な人々と交流する機会を設ける
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)について敏感になる
DEIを推進するに当たっては、「アンコンシャスバイアス(unconscious bias)」に対して敏感になることが大切です。
アンコンシャスバイアスとは「無意識の偏見・思い込み」を意味する言葉です。自社内における疎外は、アンコンシャスバイアスが原因で発生しているケースがしばしばあります。
「外国人に日本語ベースの業務はできない」「育児中の女性には軽い業務を任せるべき」など、よくあるアンコンシャスバイアスを理解していれば、その観点から自社の状況を批判的に分析し、解消すべき疎外を発見することができます。
アンコンシャスバイアスに対する知識と、それを察知できる感性を身に付けられるように、役員や従業員に対する教育を行いましょう。
多様な人々と交流する機会を設ける
社内だけでなく、社外を含めた多様な人々と交流する機会を設けることも、DEIの推進にポジティブな効果をもたらします。
多様な人々と交流すれば、自社にはないような活躍をしている人と出会うことができます。その出会いがきっかけとなり、自社でも同じような活躍ができる環境を整備しようというアイデアが浮かぶかもしれません。
また、多様な人々との交流は、アンコンシャスバイアスに対する感性を養うことにもつながります。
経営層が主導して交流会を開催したり、他社主催の交流会に参加する従業員に対して補助を行ったりするなど、多様な人々との積極的な交流を促しましょう。