知財業務とは?
全体像を分かりやすく解説!

この記事を書いた人
アバター画像
インハウスハブ東京法律事務所弁理士
大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了 2007~17年 特許庁審査第四部にて、情報処理(情報セキュリティ)、インターフェース分野の特許審査に従事。2017年弁理士登録。特許事務所勤務を経て2020年4月より現職。2019~22年 特許庁審判部における法律相談などの業務を弁護士とともに携わる。専門分野は、ソフトウェア、ビジネスモデル、セキュリティ、AI、UIなど。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます
知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ
この記事のまとめ

知財業務とは、知的財産についての戦略を立案し、創造・保護・活用を行う業務のことをいいます。

知財業務は、
✅ 知的財産戦略の立案
✅ 知的財産戦略の実行
に大きく分けることができます。

知的財産戦略の実行は、知的財産の創造・保護・活用という「知的創造サイクル」を促進することに相当します。

この記事では、一般的な知財業務の全体像について解説します。

※この記事は、2022年9月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

知財業務の全体像

知財業務とは、知的財産についての戦略を立案し、創造・保護・活用を行う業務のことをいいます。知財業務は、知財部で行っている業務だけに限りません。法務部門や、研究開発部門、企画部門など多岐に渡ります。

知財業務は、「知的財産戦略の立案」と、「知的財産戦略の実行」に分けることができます。

そして、その立案した戦略を実行するにあたって、

  • 「管理」(戦略に従って、実務の支援、評価等を行う業務)
  •  「創造」、「保護」、「活用」(知的創造サイクルを築き上げる業務)

に、細分化することができます。

これらを整理したものが、以下の図です。

以下では、各業務について解説していきます。

知的財産戦略の立案

知的財産戦略の立案とは、新規事業の創出、既存事業の維持・成長・撤退の戦略など事業への貢献のための、総合的・中長期的な計画を立案することをいいます。

事業部門、研究開発部門、企画部門などとの連携や、知財以外の知識、経験も必要とされることが多いでしょう。

知的財産戦略の立案における主な業務

✅ IPランドスケープ
事業戦略・経営戦略を定める際に、市場情報のみならず知財情報も含めて分析を行い、経営者などとともに、今後の戦略を議論する

✅ 知財ポートフォリオ(自社が保有する知財を分かりやすくまとめたもの)
知財ポートフォリオの構築、マネジメントを行う

✅ オープン&クローズ戦略
自社が保有する技術について、オープンにするもの(他者にライセンスを認めるもの)・クローズにするもの(占有し秘匿化するもの)に分け、自社利益の最大化を図る

知的財産戦略の実行

立案した知的財産戦略の実行に関しては、以下の2つに分けられます。

  •  知的創造サイクル(知的財産の創造・保護・活用)を促進させる実務的な業務
  •  実務的な業務を支援・評価等する管理的な業務

知的財産の管理

ここでは、知的財産の管理的な業務について、それぞれ詳しく解説します。

知的財産の管理における主な業務

✅ 知財法務
✅ 知財予算
✅ 知財情報
✅ 知財教育
✅ アウトソーシング

知財法務

知財法務とは、知的財産に関する法律に関わる業務です。

知財法務における主な業務

✅ 営業秘密
営業秘密管理指針を策定し、自社の営業秘密の管理を行う

✅ 社内規程
職務発明規程などの社内規程の策定・順守体制の構築を行う

✅ 知財関連の法律相談
社内における知的財産関連の法律問題について、助言を行う。また、知的財産関連の契約書等について、法律面、事業活動の面から検討・提案を行う

✅ リスクマネジメント
他社の知的財産に関する権利の監視・排除、自社ブランドの保全を行う

知財予算

知財予算とは、知的財産戦略を実現するために必要な予算の計算・分析などを行う業務です。

知財予算における主な業務

✅ 予算の策定
会社の財務状況、過去の予算・実績等を勘案しつつ、知的財産戦略に基づいた活動に必要な予算案を作成する

✅ 予算の管理
策定された予算を適切に管理実行する。翌期の予算策定のための分析なども行う

✅ 資金調達
各種資金調達手段(信託、証券化等)を検討し、資金を調達する

知財情報

知財情報とは、知的財産に関する情報を管理する業務です。

知財情報における主な業務

✅ 情報開示
社内へ、自社の知的財産戦略や方針などの情報発信、IR等を行う

✅ 情報収集・分析
市場の将来動向を分析するとともに、知的財産戦略に関連する情報を社内外から収集し、知的財産戦略の実行を支援する

✅ システム管理
知的財産に関連する各種データベース、管理システムなどの導入・保守を行う

知的教育

知財教育とは、社内の従業員に対して、知的財産に関する教育を行う業務です。

社内全体の知的財産制度に関する啓蒙や、知的財産担当者の育成等を行います。例えば、知財教育に関する情報収集(社外研修情報、検定・資格、e-Learning等)や、研修の企画・実施、教材の作成などがあります。

アウトソーシング

知的財産の創造、保護、活用という知的創造サイクルを促進させる実務的な業務は、外部の専門家を活用することが多いです。

そのため、知財業務の一環として、特許事務所、法律事務所、翻訳会社、調査会社などへ業務を発注する際の納期、品質、コスト等の管理も行います。

知的財産の創造

知的財産の創造とは、企業内に埋もれている発明等の知的財産を見いだすことです。知的財産の「創造」に関する業務は、以下の4つに分けられます。

知的財産の創造における主な業務

✅ 特許調査
✅ 発明発掘
✅ デザイン、コンテンツ創造支援
✅ ブランド創出支援

特許調査

特許調査とは、特許情報の中から、特定の特許公報等を検索・抽出(調査)して、特定の目的のためにまとめることをいいます。特許調査は、目的によって、いくつかの種類に分かれます。

種類概要
先行技術調査すでに知られている技術を調査する
技術動向調査ある特定の技術分野や競合他社の技術動向を調査する(パテントマップの作成なども含まれる)
侵害予防調査自社の新商品などが、他社の特許権等を侵害していないかどうかを調査する
無効資料調査他者の特許を無効化するために必要な資料を調査する

独立行政法人工業所有権情報・研修館が、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」という無料のデータベースを運用しています。特許調査を行うには、「特許情報プラットフォーム」を活用するとよいでしょう。特許以外に、意匠や商標に関する調査も行うことができます。

参考文献
独立行政法人工業所有権情報・研修館ウェブサイト「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)

発明発掘

研究開発戦略・知的財産戦略に沿って、戦略上必要な発明(特許)を見いだしていく業務です。

知財担当者が、開発者等と十分に情報を共有し、先行技術調査や技術動向調査などを踏まえて、自社の開発内容から、どのような技術を保護していくべきか、検討します。出願(権利化)するべきか、営業秘密として管理するかの判定なども行います。

デザイン、コンテンツ創造支援

事業戦略・知的財産戦略を意識した製品のデザイン(意匠)開発、コンテンツ(著作物)開発を支援する業務です。

デザインマップや先行意匠調査などを踏まえて、権利化の判断を行います。また、コンテンツに関して、必要な権利調査(例えば、団体間協定の適用の有無など)を行って、コンテンツ創造に必要な権利処理を支援します。

ブランド創出支援

ブランド戦略を踏まえ、商標の使用可否や、出願の可否などの判断を行う業務です。関連部門(ネーミングを行う部門等)に対して先行商標情報を提供し、適切な商標の選定を支援します。

知的財産の保護

知的財産の保護とは、創造した知的財産を権利化することです。知的財産の保護に関する業務は、以下の3つに分けられます。

知的財産の保護における主な業務

✅ 国内権利化
✅ 外国権利化
✅ コンテンツ保護

国内権利化

日本において、特許、実用新案、意匠、商標に関して権利を取得するためには、日本国特許庁に対し、出願(権利化のための申請)をする必要があります。

特許庁「2022年度知的財産権制度入門テキスト第2章 第1節 特許制度の概要」31ページ

例えば、特許権を取得しようとする場合、出願しただけでは権利を取得することができません。特許出願してから、特許取得までにはさまざまな手続きが発生します。これらに関し、自社の知的財産戦略に沿った権利範囲となるように書類を作成し、適切な対応をして、特許庁の審査をパスしなければなりません。

権利化については、高度な専門知識を必要とすることもあるため、特許事務所に依頼する場合が多いでしょう。日ごろから、頼りになる弁理士を選定しておくことが重要です。

国内権利化のための実体的な業務

✅ 弁理士の選定
✅ 出願書類(願書、明細書など)の作成
✅ 拒絶理由通知(※1)などの中間処理(意見書、手続補正書の作成、審査官との面接など)
✅ 審判請求(※2)等の検討

※1 特許庁からの、発明が保護に値しない理由の通知
※2 拒絶査定などの判断について、特許庁内の審判部でその妥当性等について判断してもらうよう請求すること

また、国内権利化においては、専門的な事務が発生します。手続きを特許事務所に依頼している場合は、事務所と連携して管理を行います。

国内権利化のための事務的な業務

✅出願事務
出願書類等の準備、特許庁に対する事前手続き(識別番号の付与請求、包括委任状の提出、料金納付方法の確認)など

✅期限管理
権利化にかかわるさまざまな期限(審査請求期限、拒絶理由通知の応答期限など)の管理

✅年金管理
権利発生後、権利維持のために支払う必要がある年金(特許料)などの納付管理

✅資料管理
出願に関連する資料の管理

✅包袋管理
審査や審判における経過に関する書類の管理

外国権利化

日本国特許庁に出願して取得した権利は、日本国内のみで有効であり、外国まで及ぶものではありません(「属地主義」といいます)。

外国において知的財産の保護を求める場合、各国それぞれにおいて権利を取得する必要があり、基本的には、各国ごとに、現地代理人に指示し、その国の法制度に基づいて手続きを行います。外国権利化においても、国内権利化と同様に、専門的な事務が発生します。

外国権利化のための実体的な業務

✅ 外国出願戦略の立案(知的財産戦略に沿って、出願方法、出願国、出願する時期などを決定する)
✅ 現地代理人の選定
✅ 出願書類などの翻訳文の作成
✅ 各国の法制度に基づいた中間対応

外国権利化のための事務的な業務

✅ 通信事務
現地代理人とのコミュニケーション

✅ 出願事務
各国の法制度に基づいた出願書類等の準備

✅ 期限管理
国内移行期限、拒絶理由通知の応答期限、審判請求期限などの管理

✅ 年金管理
権利発生後、権利維持のために支払う必要がある年金、登録料などの納付管理

✅ 資料管理
出願に関連する資料の管理

✅ 包袋管理
審査や審判における経過に関する書類の管理

外国において権利化する場合、各国で法制度が異なり、高度な専門知識が必要となるため、手続きを国内代理人(特許事務所)に依頼することが多いでしょう。その場合は、国内代理人とも連携して権利化を進めます。

✅ 直接現地代理人に指示する場合の流れ

✅ 国内代理人に手続きを依頼して、現地代理人に指示する場合の流れ

コンテンツ保護

著作物に関しては、公的機関(例:文化庁、SOFTIC(一般財団法人ソフトウェア情報センター))への著作権登録や、著作権管理事業者(例:JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会))への管理申請について検討し、コンテンツの適切な保護を行います。

知的財産の活用

知的財産の活用とは、保有する知的財産をライセンスしたり使用したりして、事業活動に生かすことを指します。知的財産の「活用」に関する業務は、以下の3つに分けられます。

知的財産の活用における主な業務

✅ 契約
✅ 権利行使
✅ 価値評価

契約

知的財産(権)の活用方法としては、

  •  ライセンス:知的財産の使用・利用を第三者に許諾すること
  • 譲渡:知的財産権を第三者に譲渡すること

などが考えられます。

合意内容を明確化するため、ライセンスや譲渡を行う際は、契約書を作成し、相手方との交渉を経て、契約を締結するのが通常です。そのため、契約書の作成や審査、交渉の業務も知財業務に含まれます。

より詳細に知りたい方は、以下の記事を参照ください。

権利行使

取得した権利を適切に行使することも、知財業務の一つです。

例えば、特許権は、特許にかかる発明を独占することができる権利なので、その発明を無断で実施する第三者に対して発明の実施を停止するように要求することができます(差止請求権、特許法100条)。

権利行使にかかわる業務の詳細としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 侵害判定
    他社事業・製品・サービスを分析し、自社の権利を侵害しているか調査する
  • 侵害警告
    自社の権利を侵害している者に対して知的財産権の侵害である旨の警告を行い、その回答に対して対応する
  • 訴訟対応
    知的財産関連訴訟のための証拠資料の収集、訴訟提起の検討、公判準備全般を関係者と連携して行う
  • 模倣品排除
    模倣品排除のための証拠資料を収集し、税関における取り締まりを行う

価値評価

価値評価とは、取得した権利について、多面的に評価し、権利を維持するか、放棄するか等の判断を行うことです。価値評価業務のやり方としては、以下が挙げられます。

  • 定量評価
    知的財産権としての定量面(例:経済的価値、ライセンス対価、譲渡価格等)での評価を行う
  • 定性評価
    知的財産権としての定性面(例:技術評価、権利の有効性等)で評価を行う
  • 棚卸し
    権利の価値評価に基づいて、権利維持・放棄について判断する

この記事のまとめ

知財業務とは、企業における知的財産に関する業務であり、事業へ貢献する戦略の立案、創出された知的財産の権利化、第三者との知財トラブルの防止や解決など、大変幅が広いです。社会全体の知財意識の高まりから、知財業務の重要性はますます高まっていくでしょう。

知財業務の全体像についての記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ

参考文献

特許庁ウェブサイト「知財人材スキル標準(version 2.0)」

特許庁ウェブサイト「2022年度知的財産権制度入門テキスト」