特許とは?
特許制度の概要・特許出願の流れなど
を分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「特許」とは、特許法によって特許権をあたえることであり、「特許権」とは、特許を受けた「発明」について一定期間独占的に業として実施(使用・譲渡など)できる権利です。
創作により自然に発生する著作権とは異なり、特許権を得るには出願及び設定登録が必要となります。
特許権を取得すると、特許発明が独占的に利用できるのに加えて、他社に特許発明の利用を許諾してライセンス収入を得られるなど、大きな利益を獲得できる可能性があります。特許出願は早い者勝ち(先願主義)なので、革新的な発明をした際には、早めに特許出願の準備に着手しましょう。
この記事では「特許」について、要件・有効期間・効力・職務発明・出願手続の流れなどを解説します。
(※この記事は、2022年4月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)
目次
特許(特許権)とは?意味を分かりやすく解説
「特許」とは、特許法によって特許権をあたえることであり、「特許権」とは、特許を受けた「発明」について一定期間独占的に業として実施(使用・譲渡など)できる権利です。
自社内で新たな技術などを発明した際は、特許権の登録を受けることで、その技術を一定期間独占的に利用したり、他社にその技術の利用を認めることでライセンス収入を得たりすることができます。
特許権は、「知的財産権(知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための権利)」の一つです。
特許制度は、発明の保護・利用を図ることにより、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としています(特許法1条)。
社会における技術革新を促すためには、事業者が生み出した発明はどんどん公開してもらうことが望ましいです。
事業者による発明が公開されれば、その発明をベースとして、各事業者がさらなる発明を行うでしょう。このような発明の連鎖によって、社会における急速な技術革新の実現が期待されます。
しかし、発明者である事業者にとっては、発明を公表することによって、他の事業者に対する競争優位が失われてしまう懸念があります。
発明の仕組みを自社だけが知っていれば、その発明を利用して、他社製品にはない特徴を有する自社製品を開発することが可能です。しかし、一度発明が公表されてしまえば、その発明を利用して、他社も自社と同じような製品を開発することができてしまいます。
上記のようなデメリットがある中で、事業者に発明の公表を促すためには、デメリットを上回る公表のメリットを提供しなければなりません。そのために設けられたのが特許制度です。
日本の特許制度では、発明を公表して特許権を取得した者(特許権者)が20年間、特許発明に関する権利を専有します。つまり、特許発明の公表と引き換えに、特許権者は他社に特許発明の実施を許諾することで、20年もの間ライセンス収入を得ることができるのです。
このように特許制度は、発明者に対してインセンティブ(動機・メリット)を与えることで発明の公表を促し、社会における発明の連鎖を生み出すことで、国内の産業を発達させることを目的としています。
特許権活用の例
特許を活用すると、企業は大きな利益を得られる可能性があります。特許活用のパターンとしては、以下が考えられます。
また、特許権を活用している身近な例としては、以下のようなものがあります。
特許権活用の例 | |
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雪見だいふく(特許 第1537351号) | 雪見だいふくの製品・製法について特許を取得 |
フリクションボール(特許 第6170962号) | 温度変化で色が変わるインキについて特許を取得 |
傘ぽん(特許 第2562806号) | 濡れた傘を瞬時に袋にしまうことができる装置について特許を取得 |
チョークレスボード(特許 第1135945号) | チョークレスボードに関する基本原理について特許を取得 |
ファイナルファンタジー(特許 第2794230号) | バトルシステムについて特許を取得 |
VOCALOID(特許 第4153220号) | 歌唱音声合成技術について特許を取得 |
特許権の対象となる「発明」とは
特許権の対象となるのは、「産業上利用することができる発明」のうち、「新規性」と「進歩性」の2つの要件を満たすものです(特許法29条)。
「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています(特許法2条1項)。特許法上、発明は「物の発明」「方法の発明」「物を生産する方法の発明」の3つに区別されます(特許法2条3項等)。
「新規性」「進歩性」とは、それぞれ以下の要件を満たすことを意味します。
「自然法則」とは、自然界で経験的に是とされている科学的法則のことです。精神活動・純然たる学問上の法則・人為的な取決め(スポーツのルールなど)は「自然法則」から除外されます。
「技術的思想」とは、実施可能性・反復可能性がある手段に関するアイデア(手順の流れ)のことです。当該技術分野で平均的水準にある技術者が、そのアイデアを実施すれば、同じ結果に到達し得ることが必要とされます。
上記の特許要件をまとめると、特許権の対象となる発明として認められないものの例は、それぞれ以下のとおりです。
- 特許権の対象にならないものの例
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✅自然法則そのもの
(例)エネルギー保存の法則など
※自然法則を利用した技術的思想の創作でなければ、特許権の対象にならない✅単なる自然現象の発見
※自然現象を利用した創作でなければ、特許権の対象にならない✅自然法則に反するもの
(例)永久機関など✅自然法則を利用していないもの
(例)経済法則、ゲームやスポーツのルールなど✅技術的思想でないもの
(例)ピアノの演奏技術、速く走る方法など
※平均的水準以上の技術者であれば、誰でも同じように実施できることが必要✅実施可能性・反復可能性がないもの
(例)たまたま1回だけうまくいった飛行機の離陸方法✅産業上利用できないもの
(例)学問研究のみに利用可能な発明✅新規性がないもの
(例)外国の出版物に掲載されたものと全く同じ発明✅進歩性がないもの
(例)平均的水準以上の技術者であれば誰でも、外国の出版物に掲載された発明を参照すれば生み出せるような発明など
反対に、自然法則を利用して何らかの物・方法を生み出すアイデア(手順)のうち、上記のいずれにも該当しないものについては、特許を受けられる可能性があると言えるでしょう。
特許権の有効期間(存続期間)
特許権の有効期間(存続期間)は、原則として「特許出願の日から20年」です(特許法67条1項)。有効期間が切れると、特許発明はパブリック・ドメインとなり、誰でも自由に利用できるようになります。
ただし、医薬品等については、特許期間の延長登録が認められるケースがあります(同条2項~4項)。
特許権を取得するメリット
特許権を取得すると、前述のとおり、特許発明を組み込んだ自社製品の販売・ライセンス許諾・特許権の売却などを通じて利益を得られる可能性があります。
また、他社が特許発明を無断で実施していることを発見した場合、特許権を根拠として、実施の差止めや損害賠償を請求できます。
他社のコピーを防止できる
後述するように、特許権の法的効果は、特許発明を独占的に業として実施できるようになることです(特許法68条)。具体的には、他社が特許発明に当たる物を模造・販売したり、特許発明に当たる方法を勝手に利用して製品を開発したりすることが禁止されます。
自社の商品や技術を他社に勝手にコピーされてしまうと、市場におけるシェアの奪い合いに発展し、売上減少などに直結しかねません。特許権を取得することで、他社による無断コピーを防止することができます。
また、特許発明の実施に当たる行為は、意図的でなくても差止請求の対象となります。そのため、各社が新製品等を開発する際には、事前に先行特許権に関するリサーチを行うのが一般的です。
特許発明は常に公開されるため、自社の発明について特許権を取得すれば、リサーチを行う他社に対して「この発明は特許権で保護されている」とアナウンスすることにつながります。その結果、自社製品と似たような製品が市場に出回るリスクを抑えられます。
自社製品の優位性・信頼性を向上できる
自社の発明について特許権を取得すると、その発明を利用しなければ開発が難しい商品等の市場において、競合他社の参入障壁を高くすることができます。
競合他社がその市場に新規参入したい場合には、特許権の登録期間が過ぎるのを待つか、または特許権者にライセンス料を支払わなければなりません。そのため特許権者は、市場において自社製品の優位性を確立することができます。
また、特許権は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(=発明)に限って認められます(特許法2条1項)。つまり特許権を取得すること自体が、特許権者に高い技術力・創作力が備わっていることの証左となります。
例えば自社が販売する製品に「特許取得済み」「特許第○○号」などの表示を行えば、購買する一般消費者に向けて、自社の技術力や創作力をアピールすることにつながります。その結果、市場全体の自社に対する信頼が向上し、会社としてさらなる成長を期待できるでしょう。
ライセンス料を得られる
前述のとおり特許権者は、特許発明を業として実施することを希望する他社から、許諾と引き換えにライセンス料を受け取ることができます。
特許発明の重要度が高ければ高いほど、ライセンス料を支払ってでも利用したいという会社が増え、多くのライセンス料収入を得られます。市場や技術開発などの状況によっては、年間で億単位のライセンス料収入を得られるケースも珍しくありません。
特許権は20年間存続するため、ライセンス料収入は長期間にわたり、自社の経営を安定させる収益となるでしょう。
特許権の効力
特許権を取得すると、特許発明を「業として」独占的に「実施」できるようになります(特許法68条)。ただし一部の例外的な場合については、発明技術の円滑な利用を促進する観点から、特許権の効力が制限されています。
特許発明を「業として」独占的に「実施」できる
「業として」とは、単に個人的又は家庭的な実施を除外するだけの意味と解されており、事業上特許発明を実施する場合は「業として」の要件を満たします。
「実施」とは、発明の種類に応じて、以下のとおり定義されています(特許法2条3項)。
- 「実施」に当たる行為
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✅ 物の発明
→その物の生産・使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)✅ 方法の発明
→その方法の使用✅ 物を生産する方法の発明
→その方法の使用、その方法により生産した物の使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)
特許権の効力が制限される場合
以下のいずれかに該当する場合には、特許権の効力が制限され、特許権者の許諾がなくとも特許発明を実施できます。
特許権の利用許諾について|専用実施権と通常実施権
他社に対して特許発明の利用を許諾する場合、「専用実施権」(特許法77条1項)を設定する方法と、「通常実施権」(特許法78条1項)を設定する方法の2通りがあります。
「職務発明」とは
職務発明とは、従業員等(従業員・法人の役員・国家公務員・地方公務員)がした発明のうち、使用者等(使用者・法人・国・地方公共団体)の業務範囲に属し、かつ従業員等の現在・過去の職務に属する発明を意味します(特許法35条1項)。
典型的には、従業員が会社の指示を受けて研究開発した発明や、会社からの資金提供を受けて生み出した発明などが職務発明に該当します。
会社の従業員等が生み出した発明については、会社と従業員のどちらに特許を受ける権利が帰属するかが問題となります。この問題を解決するため、特許法には「職務発明」に関する規定が設けられています(特許法35条)。
職務発明の場合、特許を受ける権利は誰のものになるか
職務発明に当たる発明については、使用者等に特許を受ける権利を原始的に取得させる旨を、契約や勤務規則などで予め定めておくことができます(特許法35条2項反対解釈)。
上記の定めがなければ、職務発明に係る特許を受ける権利は従業員等に帰属します。反対に、上記の定めがある場合には、職務発明に係る特許を受ける権利は使用者等に帰属します(同条3項)。
職務発明をした従業員は、経済上の利益を受ける権利を有する
職務発明に係る特許を受ける権利を使用者等に帰属させる場合でも、特許法の目的である発明の奨励の観点から、従業員等の発明に対する貢献には正当な報酬を与えるべきと考えられます。
そこで、職務発明について、以下のいずれかに該当する場合には、従業員等は使用者等から相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有します(特許法35条4項)。
職務発明の対価が問題となったケースとして有名なのが、いわゆる「青色発光ダイオード事件訴訟」です。
- 青色発光ダイオード事件訴訟とは?
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✅ 概要
化学メーカー勤務の研究者が生み出した職務発明について、特許を受ける権利の帰属と、帰属が認められない場合の対価の支払いが争われました。青色発光ダイオード事件訴訟で問題となった職務発明は、現在幅広く普及しているLED製品の実用化に大きく貢献した、青色発光ダイオードの製造技術に関するものでした。✅ 結果
研究者に対して支払われるべき対価が焦点となった第一審の東京地裁判決では、職務発明の対価として604億円という巨額が認定され、社会的にも大きな話題となりました(その後、控訴審の東京高裁において約8億4000万円の支払いで和解)。
特許出願の流れ
特許権は、創作により自然に発生する著作権とは異なり、設定登録によって発生します。特許権の設定登録を受けるためには、「特許出願」を行うことが必要です。
特許出願は、特許庁に対して行います。審査基準に沿った出願書類の作成が必要となるため、弁理士に出願事務を依頼するのが一般的です。
特許出願の流れについては、簡単にまとめると以下のとおりです。
- 「特許出願~特許として登録」までの流れ
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1 先行技術調査…自分が出願しようとしている発明と似たような発明がすでに特許として出願・登録されていないか確認
2 特許出願…特許庁ウェブサイトの様式にならい出願書類を作成し、提出
3 方式審査…特許庁にて、出願内容について、所定の手数料が納付されているかといった形式的な要件を満たしているのかを審査
4 出願審査請求…出願審査請求書を作成し、提出(これを提出しないと手続が進まない)
5 実体審査…特許庁にて、出願された発明の内容が、特許にふさわしいか審査
6 特許査定…実体審査を経て、特許権を付与することとなれば、特許権を付与する旨の行政処分(=特許査定)が発出
※ただし、特許権を付与するにふさわしくないと判断された場合は、特許権を付与しない旨の行政処分(=拒絶査定)が発出
7 特許権の設定の登録=特許権が発生
もっと詳細に流れを把握したい方は、以下の記事を併せてご参照ください。
特許出願にかかる費用
特許出願を行う際には、「特許印紙代」及び「出願審査請求料」と、出願を依頼する弁理士に支払う「弁理士費用」が必要になります。また、特許権の設定登録が認められれば、1年ごとに「特許料」を納付しなければなりません。
特許印紙代・出願審査請求料
特許印紙代は特許出願の際に、出願審査請求料は出願から3年以内に行う出願審査請求の際に、それぞれ納付する必要があります。
弁理士費用
弁理士費用は、各弁理士が独自に決定しているため、特許出願の費用も依頼する弁理士によって異なります。
あくまでも参考ですが、日本弁理士会が2009年10月に実施した弁理士向けのアンケート調査(日本弁理士会ウェブサイト「弁理士の費用(報酬)について」)では、以下の条件を前提とした場合、特許出願の平均事務報酬総額は「259,961円」という回答結果が得られています。
特許出願の内容が複雑になれば、その分弁理士費用も高額になるのが一般的です。
特許料
特許料の金額は、特許法107条によって定められています。2022年4月1日より、特許料が以下のとおり改訂されました。
改定前金額 改定後金額 第1年から第3年まで 毎年2,100円+(請求項の数×200円) 毎年4,300円+(請求項の数×300円) 第4年から第6年まで 毎年6,400円+(請求項の数×500円) 毎年10,300円+(請求項の数×800円) 第7年から第9年まで 毎年19,300円+(請求項の数×1,500円) 毎年24,800円+(請求項の数×1,900円) 第10年から第25年まで 毎年55,400円+(請求項の数×4,300円) 毎年59,400円+(請求項の数×4,600円) ※1~3年目までは一括納付
なお上記の改定は、2004年4月1日以降に審査請求をした出願についてのみ適用されます。同年3月31日以前に審査請求をした出願の特許料については、改定はありません。
特許権を出願する際の注意点
特許出願を行う際には、主にスケジューリングの観点から、以下のポイントに注意する必要があります。
特許権は「先願」主義|製品化の前に出願を
特許出願には、「先願」主義が採用されています(特許法39条1項)。「先願」とは、同一の発明について2以上の特許出願が行われた場合、最も早く特許出願を行った者のみが特許を受けられる制度です。
先願主義との関係で注意しなければならないポイントは、発明を用いた製品の販売を開始する前に、当該発明について特許出願をする必要がある点です。
特許出願よりも先に発明を製品化した場合、販売された製品のリバースエンジニアリング(製品の構造・技術を分析・調査し、製造方法や構成部品などを明らかにすること)によって他社が発明の内容を突き止め、先に特許出願をしてしまうかもしれません。そうなると先願主義が適用され、自社が先に発明したにもかかわらず特許を受けることができなくなってしまいます。
まずは特許出願、その後に製品化(販売開始)という流れを必ず守るようにしましょう。
特許権の登録までには時間がかかる
特許庁のウェブサイトによると、出願審査請求をしてから特許査定通知(又は拒絶通知)が行われるまでの期間は、平均9.5か月(2019年)となっています。
特許出願をする際には、審査にかなり長い期間を要することも想定したうえで、弁理士と連携しながら早めに準備を進めましょう。
この記事のまとめ
特許の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
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参考文献
特許庁ウェブサイト「令和3年特許法等改正に伴う料金改定のお知らせ(令和4年4月1日施行)」