特許の出願公開制度とは?
出願公開が行われる理由・タイミング・
公開に関する注意点などを解説!

この記事のまとめ

特許における出願公開制度とは、出願してから1年6か月経った場合、審査の進捗にかかわらず出願が公開される制度のことを言います。

出願公開制度には、発明や特許申請が重複する事態を避け、社会全体の研究開発投資を効率化するとともに、出願公開された発明をベースとした新たな発明を促す目的があります。

出願人にとっては、出願公開により自社の技術が広く知られることは、競争優位性を失うことに繋がる可能性があります。そのため、特許権取得のメリットと出願公開によるデメリットを天秤にかけ、本当に特許出願すべきかどうか慎重に検討することが必要です。

この記事では特許の「出願公開」について、出願公開が行われる理由・タイミング・公開に関して出願人が注意すべきポイントなどを解説します。

特許出願すると、いずれは公開されてしまうんですね…。

そうですね。知財担当者は、特許権を取得するメリットと発明が公開されるデメリットを正しく理解した上で適切な判断をしなければなりません。

※この記事は、2022年5月19日時点の法令等に基づいて作成されています。

特許の出願公開制度とは

特許における出願公開制度とは、出願してから1年6か月経った場合、審査の進捗状況にかかわらず、出願が公開される制度のことを言います。公開は、特許庁が発行する「公開特許公報」にて行われ、第三者が、出願された発明の内容を確認・参照できるようになります。

出願公開制度は、1970年の特許法改正によって導入され、その後本記事執筆現在(2022年4月)に至るまで維持されています。

特許要件を満たす発明を生み出した事業者は、

・出願内容の公開を受け入れて特許出願を行うか
・特許出願をせずに発明を秘密のまま保持して競争優位を得るか

どちらかを選択することになるのです。

特許出願の内容が公開される理由

特許の出願公開が行われる主な理由は、以下のとおりです。

①発明や特許申請が重複して行われることを避け、社会全体の研究開発投資を効率化するため
②出願公開された発明をベースとした新たな発明を促すため

これらについて詳しく解説します。

①発明や特許申請が重複して行われることを防ぐ

特許法では先願主義が採用されており、同一の発明について複数の特許出願がなされた場合、最初の特許出願人だけに特許権の取得が認められます(特許法39条1項)。

言い換えれば、同一の発明について2番目以降となった出願人は、特許権を得ることができません。また、最初の特許出願人が特許権を取得すると、2番目以降の出願人は、当該発明を業として実施することができなくなります。つまり、発明を生み出すために行った投資が無駄になってしまうのです。

このように、発明や特許申請が重複することは、社会全体における損失となります。特許の出願審査(特許権が認められるかどうかの審査)には時間がかかるケースが多いため、特許権が登録されるタイミングまで発明内容の公表を待っていると、特許を受けられない無駄な投資が相次ぐ事態になりかねません。

そこで、こうした事態を回避するため、特許出願から一定期間が経過した場合には、すべての出願内容を公開する出願公開制度が設けられました。

②出願公開された発明をベースとした、新たな発明を促す

そもそも発明に特許権を認める目的は、発明者に独占的な実施権という強い権利を与えることと引き換えに、発明内容を公開させることにあります。

発明が公開されれば、その発明をベースとした新たな発明の登場が促され、産業の発達に寄与すると考えられるからです。

出願公開制度の目的にも、公開される出願内容をベースとする新発明の登場を促し、産業の発展に寄与することが含まれています。出願公開制度があることによって、出願内容が公開されるタイミングが早まり、産業発達スピードを向上させる効果が期待されます。

公開された特許出願情報の確認方法

特許出願に関する情報は、特許庁が発行する「特許公報」に掲載する方法によって公開されます。特許公報には、以下のとおり2種類があります。

特許掲載公報:特許権が認められた発明が掲載される公報
公開特許公報:出願公開制度の対象となった発明(=特許権を得る前の発明)が掲載される公報

すべての特許出願の内容は、いずれかの特許公報に掲載されることになります。

特許公報は、特許庁が提供するデータベースである「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を通じて、すべて無料で閲覧できます。特許情報プラットフォームの使い方は、特許庁ウェブサイトで解説されているので、適宜ご利用ください。

特許情報プラットフォームウェブサイト
特許庁ウェブサイト「特許公報を検索してみましょう」

特許の出願内容が公開されるタイミング

特許の出願内容が公開されるタイミングには、以下の3つのパターンがあります。

①特許権の設定登録(=特許権が認められた)がなされたとき
②特許出願の日から1年6か月(一年半)経過したとき
③早期公開制度による出願公開の請求がなされたとき

以下、それぞれ詳しく解説します。

①特許権の設定登録がなされたとき

特許庁により特許を認める旨の査定が行われた後、特許料を納付し設定登録されると特許権が発生します(特許法66条1項)。特許権の設定登録がなされた場合、「特許掲載公報」に以下の事項が掲載されます(同条3項)。

✅ 特許権者の氏名(名称)・住所(居所)
✅ 特許出願の番号と年月日
✅ 発明者の氏名・住所(居所)
✅ 願書に添付した明細書・特許請求の範囲に記載した事項・図面の内容
✅ 願書に添付した要約書に記載した事項(出願公開がされている場合を除く)
✅ 特許番号・設定登録の年月日
✅ そのほか、必要な事項

なお、特許権の設定登録による出願内容の公開は、「出願公開制度」とは別の制度として位置づけられています。そのため、出願公開制度に基づき設定登録前に一度公開されていたとしても、設定登録後に改めて、特許掲載公報にて公開されます。

②特許出願の日から1年6か月(一年半)経過したとき

特許掲載公報が発行されていなくても(特許権が未登録の状態でも)、特許出願の日から1年6か月が経過した場合、出願公開が行われます(特許法64条1項)。

出願公開の内容が掲載されるのは「公開特許公報」です。特許権の設定登録時に発行される特許掲載公報とは、掲載先が異なる点に注意しましょう。なお、特許掲載公報・公開特許公報のいずれも、前掲の特許情報プラットフォームを通じて検索できます。

③早期出願公開制度による出願公開の請求がなされたとき

出願の日から1年6か月が経過していない段階でも、特許の出願人は、特許庁長官に対して出願公開を請求できます(特許法64条の2第1項、64条1項)。これを「早期公開制度」と言います。早期公開制度は、1999年の特許法改正によって導入されました。

早期公開を請求することのメリットは、出願公開の効果である「補償金請求権」詳しくは、「①補償金請求権が発生する」にて解説)を早期に発生させることができる点にあります。

特許権を取得する前の段階で、発明内容の公開がなされると、発明内容を第三者に模倣される可能性がでてきますが、この段階では特許権がないため、対価の請求等ができません。

そこで、早期に出願公開を請求することによって補償金請求権を発生させることが有力な選択肢となります。補償金請求権の発生により、第三者が発明を模倣した場合に対価を請求できるようになるからです。

出願公開の請求が適法に行われた場合、公開特許公報を通じて出願公開が行われます。なお、出願公開の請求は取り下げることができません(特許法64条の2第2項)。

出願公開される事項

出願公開が行われる場合、公開特許公報に以下の事項が掲載されます(特許法64条2項)。

✅ 特許出願人の氏名(名称)・住所(居所)
✅ 特許出願の番号・年月日
✅ 発明者の氏名・住所(居所)
✅ 願書に添付した明細書・特許請求の範囲に記載した事項・図面の内容 ※
✅ 願書に添付した要約書に記載した事項 ※
✅ 外国語書面出願(英語の書面を添付する出願)においては、外国語書面・外国語要約書面に記載した事項 ※
✅ 出願公開の番号・年月日
✅ そのほか、必要な事項

なお、上記で※を付した項目については、特許公報に掲載することが公の秩序・善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは掲載されません。

また、要約書の記載が特許法36条7項の規定に適合しない場合等には、「要約書に記載した事項」に代えて、特許庁長官が自ら作成した事項を掲載することができます(特許法64条3項)。

出願公開が行われる発明については、特許審査を通過していないため、出願内容に不適切な部分が含まれている可能性があります。そのため、特許庁長官の判断によって、出願内容の一部を伏せ、又は差し替えて出願公開を行うことが認められています。

出願公開の法的効果

出願公開が行われると、以下の法的効果が発生します。

補償金請求権が発生する
②当該特許出願に関して、特許庁が行政機関等に調査を依頼できるようになる

以下、詳しく解説します。

①補償金請求権が発生する

補償金請求権とは、出願公開をした発明ついて、特許権を取得する前にその発明を実施した第三者に対して、実施料相当額の補償金の支払いを請求できる権利のことです。(特許法65条1項)

出願公開がなされると、その発明を知った第三者に模倣されるリスクがでてきます。そこで、補償金請求権を設けることで、出願公開によるリスクの補填を行っています。

ただし、補償金請求権を行使するには、出願人が第三者に対して、発明内容を記載した書面を提示し、警告する必要があります。

補償金の額は、特許権を有していると仮定した場合に、特許使用料等として受けるべき金銭に相当する額です。

なお、補償金請求権自体は出願公開後に発生しますが、実際に行使できるのは、特許権を取得した後になります(同条2項)。つまり、特許権を取得できれば警告書面の提示から特許権取得時までの期間に対応する特許使用料相当額を遡って請求できるということです。

特許権を取得しないと、補償金請求権が行使できないのはなぜですか?

特許庁の審査の結果、特許権取得が認められない(拒絶査定が出される)可能性があるためです。特許権がないのに、使用料を請求することはできません。しかし、「審査が終わる前に、補償金請求権を行使できる」としてしまうと、「特許権がないのに、使用料が請求されていた」という事態が起きてしまうんですよ。

②特許庁が行政機関等に調査を依頼できるようになる

出願公開によって公開された内容については、特許庁長官・審査官の秘密保持義務が解除されます。

そのため出願公開以降、特許庁長官・審査官は、関係する行政機関・学校その他の団体に対して、特許審査に必要な調査を依頼できるようになります(特許法194条2項)。出願公開後も特許審査が継続する場合は、関係行政機関等への調査依頼によって、審査の質が高まる効果が期待されます。

出願公開について、特許出願人が注意すべきこと

特許法に基づく出願公開制度の内容を踏まえると、特許出願人は以下の各点に留意したうえで、特許出願をするかどうかの判断や、特許出願の準備を行う必要があります。

①公開されることを前提に明細書を作成する
②特許権の登録が認められなくても、出願公開は行われる
③改良発明の特許出願は、基本技術の出願公開前に行う
④公開と引き換えに特許権を取得すべきかどうか、慎重に検討する

以下、それぞれ解説します。

①公開されることを前提に明細書を作成する

特許出願の際に提出する明細書には、発明の内容を詳しく記載する必要があります。

しかし、将来的に公開されることを考えると、明細書の記載内容は、特許を受けるために必要十分な記載にとどめることが望ましいです。特許審査に不要なノウハウなどは、極力記載すべきではありません。

そのため明細書を作成する際には、特許の要件や審査基準などを踏まえたうえで、必要十分な記載内容を検討することが大切です。必要に応じて、弁理士のアドバイスを受けるとよいでしょう。

②特許権の登録が認められなくても、出願公開は行われる

出願公開制度により、最終的に特許権の登録が認められない場合でも、特許出願の内容は公開されます。

特許出願人にとっては、自社の発明が公開されたにもかかわらず特許権を得られないと、損失ばかりを被る結果となってしまいます。特許出願を行う際には、こうした事態を避けるべく慎重に準備を進める必要があります。

③改良発明の特許出願は、基本技術の出願公開前に行う

先に基本技術に係る発明について特許出願を行い、後から改良発明(先行する発明を元に改良を加えた発明)について特許出願を行うケースがあります。

この場合、改良発明の特許出願は、基本技術に係る発明の出願公開前に行わなければなりません。基本技術に係る発明が出願公開されると、改良発明の新規性(特許法29条1項)または進歩性(同条2項)が失われる可能性が高いからです。

基本技術に係る発明と改良発明の特許出願を連続して行う場合は、開発と特許出願のスケジュールにつき、事前に検討・調整を行うことが大切です。

④公開と引き換えに特許権を取得すべきかどうか、慎重に検討する

営業秘密を手放すのと引き換えに特許権を取得するか、特許権を諦めて営業秘密を保持するかの選択は、発明を生み出した事業者にとって悩ましい問題です。

特許権が存続している間は、使用料等によって巨額の利益を得られる可能性があります。その反面、特許権は20年で消滅するため(特許法67条1項)、それ以降は他社に対する競争優位を失ってしまうおそれがあることに注意が必要です。

競争優位性の確保を重視するのであれば、あえて特許出願を行わずに営業秘密を保持する選択肢も有力でしょう。

特許出願を行うべきかどうかは、特許権のメリットと公開によるデメリットを比較して、自社にとってどちらが良いのかを適切に判断したうえで決める必要があります。

この記事のまとめ

人材紹介契約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

独立行政法人工業所有権情報・研修館ウェブサイト「特許情報プラットフォーム」

特許庁ウェブサイト「特許公報を検索してみましょう」

奥田百子著『なるほど図解特許法のしくみ〈第4版〉』中央経済社、2017年