特許権侵害をされたときの対処法
手続きの種類・流れや注意点などを解説!

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この記事のまとめ

特許登録している技術発明を、特許権者に無断で業として実施する行為は特許権侵害に当たります。

自社の特許権を侵害された場合は、
・差止請求
・損害賠償請求
・刑事告訴
によって対応しましょう。その際には、特許権侵害の証拠を確保することや、消滅時効・公訴時効に注意することなどがポイントです。

今回は、自社の特許権を侵害された場合の対処法について、手続きの種類・流れや注意点などを解説します。

ヒー

他社の製品の機能に、わが社の製品と同じものがあるようですが、この機能はわが社が特許を取得しています。特許権の侵害を主張できますか?

ムートン

特許権侵害の要件を確認して、迅速に対応しましょう。対処法を解説していきますね。

※この記事は、2023年4月3日時点の法令等に基づいて作成されています。

特許権侵害の要件

特許権侵害は、以下の要件を全て満たす場合に成立します。

① 「実施」行為に該当すること
② 実施が「業として」行われたこと
③ 実施された発明が「特許発明の技術的範囲」に属すること

①「実施」行為に該当すること

特許権者は、業として特許発明を実施する権利を専有しています(特許法68条)。したがって、特許権者に無断で特許発明を実施したことが、特許権侵害の要件です。

特許発明の「実施」に当たる行為は、発明の内容に応じて以下のとおりです(特許法2条3項)。

① 物の発明の場合
生産・使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申し出

② 方法の発明の場合
使用

③ 物を生産する方法の発明の場合
その方法により生産した物の使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申し出

※譲渡等:譲渡および貸し渡し(当該物がプログラム等の場合は、電気通信回線を通じた提供を含む)

②実施が「業として」行われたこと

個人的・家庭的な範囲内で特許発明が実施された場合には、「業として」の実施に当たらないため、特許権侵害は成立しません。

これに対して、単発か反復継続的であるかを問わず、事業の一環として特許発明が実施された場合には、「業として」の実施に該当します。

③実施された発明が「特許発明の技術的範囲」に属すること

特許権侵害が成立するには、実施された発明が特許権の技術的範囲に属していることが要件です。

特許権侵害の種類には、特許発明の技術的範囲の構成要件を全て満たす「直接侵害(文言侵害)」のほか、「均等侵害」と「間接侵害(みなし侵害)」があります。

直接侵害(文言侵害)とは

特許権の技術的範囲は、特許出願の際に願書へ添付した「特許請求の範囲(=請求項)」の記載に基づいて定まります(特許法70条1項)。

請求項は、特許権によって保護される発明の構成要件であり、請求項を全て満たす発明を特許権者に無断で実施した場合には「直接侵害(文言侵害)」が成立します。

均等侵害とは

請求項の一部が満たされていなくても、以下の要件を全て満たす場合には「均等侵害」が成立し、特許権侵害として取り扱われます(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)。

均等侵害の要件

・請求項との相違点が、特許発明の本質的部分でないこと
・請求項との相違点を置換しても、特許発明の目的を達成でき、同一の作用効果を奏すること
・請求項との相違点の置換が容易であること
・侵害物件が特許出願時における公知技術と同一でなく、かつ当業者が公知技術から容易に推考できたものでないこと
・侵害物件が特許請求の範囲から意識的に除外されたなどの特段の事情がないこと

間接侵害(みなし侵害)とは

以下の行為については、特許権の「間接侵害(みなし侵害)」が成立します(特許法101条)。

① 特許発明の専用品を業として生産等する行為(同条1号・4号)

② 特許発明である物の生産、または特許発明である方法の使用に用いる物であって、特許発明による課題の解決に不可欠なものを、その発明が特許発明であること・その物が発明の実施に用いられることを知りながら、業として生産等する行為(同条2号・5号)

③ 侵害物件を譲渡等または輸出のために所持する行為(同条3号・6号)

※専用品:特許発明である物の生産、または特許発明である方法の使用にのみ用いる物
※生産等:生産等・譲渡等・輸入・譲渡等の申し出
※譲渡等:譲渡および貸し渡し(当該物がプログラム等の場合は、電気通信回線を通じた提供を含む)

特許権侵害の具体例

特許権侵害に当たる行為としては、以下の例が挙げられます。

直接侵害(文言侵害)の具体例

(例)特許発明である機械の動作機構を、特許権者に無断で自社製の機械に組み込んで販売した。

均等侵害の具体例

(例)特許発明である機械の動作機構のうち、細かい部分だけを改変した上で、特許権者に無断で自社製の機械に組み込んで販売した。

間接侵害の具体例

(例)特許発明である機械の動作機構を働かせるためだけに用いられる物(=専用品)を、特許権者に無断で生産・販売した。

特許権侵害に該当しないケース

以下の実施行為には特許権の効力が及ばないため、特許権者の許諾を得ずに行ったとしても、特許権侵害は成立しません。

① 医薬品・医療機器・農薬の特許発明について、特許権の存続期間が延長された場合における、延長登録の理由となった処分の対象物に係るもの以外の実施行為(特許法68条の2)

② 試験または研究のためにする実施行為(同法69条1項)

③ 次の物についてなされる実施行為(同条2項)
(a) 単に日本国内を通過するに過ぎない船舶・航空機またはこれらに使用する機械・器具・装置その他の物
(b) 特許出願の時から日本国内にある物

④ 2以上の医薬を混合して製造される医薬の発明、または2以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に関する、医師または歯科医師の処方箋に基づく調剤行為(同条3項)

⑤ 特許料の追納によって特許権が回復した場合において、追納期間経過後、特許権の回復の登録前になされた実施行為(同法112条の3)

⑥ 再審によって特許権が回復した場合において、取消決定または審決の確定後、再審の請求の登録前に善意で行われた実施行為(同法175条)

特許権侵害を受けた場合の対処法

特許権侵害を受けた際に、損害の回復や加害者の責任追及を図るためには、以下の方法があります。

① 差止請求
② 税関での輸入差止申立て
③ 損害賠償請求・不当利得返還請求
④ 信用回復措置請求
⑤ 刑事告訴

差止請求

自社の特許権を侵害し、または侵害するおそれがある者に対しては、侵害の停止または予防を請求できます(特許法100条1項)。

また、侵害行為を組成した物の廃棄や、侵害行為に供した設備の除却など、侵害の予防に必要な行為を併せて請求することも可能です(同条2項)。

税関での輸入差止申立て

特許権を侵害する貨物が輸入されようとしている場合、特許権者は税関長に対して、当該貨物の輸入差し止めを申し立てることができます(関税法69条の13)。

損害賠償請求・不当利得返還請求

自社の特許権を侵害されて損害を受けた場合、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます(民法709条)。特許権侵害による損害額には推定規定が設けられており、特許権者側の立証責任が緩和されています(特許法102条)。

また、特許権侵害に当たる行為によって加害者が得た利得については、不当利得返還請求を行うこともできます(民法703条・704条)。ただし、不法行為に基づく損害賠償との二重取りは認められません。

信用回復措置請求

特許権を侵害した者に故意または過失が認められる場合、裁判所への申立てにより、加害者に対して業務上の信用を回復するのに必要な措置(=信用回復措置)を請求できます(特許法106条)。

具体的な信用回復措置の内容は裁判所が決定しますが、謝罪広告訂正広告の掲載などが典型例です。

刑事告訴

特許権侵害は、特許法に基づき犯罪とされています。したがって特許権者は、加害者を刑事告訴することが可能です(刑事訴訟法230条)。

特許権侵害に科される刑事罰(法定刑)

特許権侵害の法定刑は、以下のとおりです。

① 直接侵害(文言侵害)・均等侵害
10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(特許法196条)
※併科あり

② 間接侵害(みなし侵害)
5年以下の懲役または500万円以下の罰金(同法196条の2)
※併科あり

侵害行為をした者が法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者である場合、両罰規定によって法人も「3億円以下の罰金」に処されます(同法201条1項)。

ムートン

特許権侵害をした場合、会社も多額の罰金を命じられる可能性があります。注意しましょう。

特許権侵害に対する民事上の請求手続き

特許権侵害に関して、差止請求や損害賠償請求など民事上の請求を行う際の主な手続きは、以下のとおりです。

民事上の請求手続き

① 内容証明郵便の送付
② 仮処分の申立て
③ 訴訟の提起
④ 強制執行

内容証明郵便(警告書)の送付

加害者に対して、任意に侵害行為の停止や損害賠償を求める場合には、内容証明郵便を送付して警告や請求を行うのが一般的です。

内容証明郵便は、法的な文書を正式な形で送付する際によく用いられます。メールや通常の文書で抗議するよりも、証拠が残る形で請求を行うことにより、加害者に対して責任追及の強いメッセージを伝えることが可能です。

さらに、内容証明郵便を送付すると、損害賠償請求権の消滅時効の完成が6カ月間猶予されます(民法150条1項)。

仮処分の申立て

特許権侵害の状態を放置すると、自社製品の売上減少やレピュテーションへの悪影響などの被害が広がってしまうおそれがあります。そのため、特許権侵害は早急に止めさせなければなりません。

短期間で示談交渉がまとまらない場合は、裁判所に差し止め仮処分を申し立てましょう。特許権者に著しい損害または急迫の危険が生じるおそれがあり、それを避ける必要があることを疎明すれば、裁判所によって仮処分命令が発せられます(民事保全法23条2項・13条)。

訴訟よりも早期に法的判断を得られる点が、仮処分申立ての大きなメリットです。

訴訟の提起

仮処分命令はあくまでも暫定的な判断に過ぎず、特許権侵害の問題に関する最終的な解決は、訴訟手続きを通じて図ることになります。

訴訟手続きでは、特許権者は侵害行為の事実や損害額などを立証し、裁判所に対して差し止めや損害賠償を命ずる判決を求めます。特許権侵害訴訟で勝訴するためには、法的に説得力のある主張を組み立て、十分な証拠に基づく立証を行うことが必要不可欠です。

強制執行

仮処分命令や判決の確定後、加害者が侵害行為の停止・予防や損害賠償に応じない場合は、裁判所に強制執行を申し立てることができます。

侵害行為の停止・予防については「間接強制」、損害賠償については「直接強制」の申立てが可能です。

① 間接強制
加害者が侵害行為の停止・予防措置を完了するまでの間、間接強制金の支払いを義務付けます。

② 直接強制
加害者の財産を差し押さえ、損害賠償請求権の弁済に充当します。間接強制金についても、不払いとなった場合には直接強制を申し立てることが可能です。

特許権侵害に対する刑事告訴の手続き

特許権侵害に関する刑事告訴は、口頭で行うこともできますが、告訴状を提出して行うのが一般的です。

告訴先は検察官または司法警察員(警察官)で、会社が刑事告訴する際には、事業場の近くの警察署で手続きを行うのがよいでしょう。

特許権侵害に対処する際の注意点

自社の特許権を侵害された場合には、特に以下の2点に留意しつつ、迅速かつ適切に準備と対応を進めてください。

① 特許権侵害の証拠を確保する
② 消滅時効・公訴時効に注意

特許権侵害の証拠を確保する

特許権侵害に関する差止請求や損害賠償請求を行うに当たっては、侵害行為の有力な証拠を確保することが非常に重要です。

(例)
・特許権侵害に当たる実施行為の状況がわかる写真、動画
・技術的知見に関する専門家(大学教授など)の意見書
・加害者とやり取りしたメッセージのデータ
・加害者との通話や会話の録音
など

特に、特許権侵害の場合、特許権の技術的範囲に関する専門的な立証を求められます。必要に応じて大学教授の意見書などを活用しつつ、穴のない立証に努めなければなりません。

消滅時効・公訴時効に注意

特許権侵害の損害賠償請求権は、以下のいずれかの期間の経過によって時効消滅します(民法724条)。

① 損害および加害者を知った時から3年
② 侵害行為の時から20年

特許権侵害の刑事責任に関しても、公訴時効期間が経過すると、検察官は加害者を訴追(起訴)できなくなります。公訴時効期間は侵害行為の時から起算して、直接侵害(文言侵害)・均等侵害については7年、間接侵害(みなし侵害)については5年です。

消滅時効・公訴時効の各期間に留意して、特許権侵害の責任追及には早めに着手しましょう。

ムートン

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