コンプライアンス推進は「全社で」が最重要!

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この記事について

コンプライアンス推進は企業にとって重要な課題です。ESGやSDGsにも対応しつつ、どのような施策や研修を行っていくべきか、担当者として悩んでいませんか?
本特集ではさまざまな企業のコンプライアンス推進について、参考となる取り組みをご紹介します!

第2回は株式会社ユナイテッドアローズの蟹澤徹様に、コンプライアンス推進の取り組みの内容や、施策を立てる上で重視していることについて、詳しくお聞きします。

インタビュイー:
蟹澤 徹(かにさわ とおる)
株式会社ユナイテッドアローズ 管理本部 RC推進部 部長
総務法務部部長を経て、2018年から現職。株式会社ユナイテッドアローズおよびグループ企業の全社的なリスクマネジメント・コンプライアンスの責任者として施策を立案・推進する。UAワイン部(部活動)にも注力。

2018年、コンプライアンス推進のための部署を新設

――貴社の事業内容と、コンプライアンス推進を行う組織の役割を教えてください。

当社は、衣料品や雑貨の小売を主力事業としています。実店舗での販売のほかに、ECも展開。今後は事業のさらなる多角化を企図しています。
コンプライアンスに関わる業務を所管するのはRC推進部。RCは、リスクマネジメントとコンプライアンスを意味しています。メンバーは部長の私を含めて2名。以前は総務法務部がコンプライアンスを所管しており、私も統括マネージャーや部長として長年参画していましたが、2018年、経営陣の意向もあり、内部統制室(現RC推進部)が新設されました。

担当業務には「リスクマネジメント」「クライシスマネジメント」「コンプライアンス」の3つの柱があり、グループ全体のそれらを推進しています。

社内のコーポレートガバナンス体制

委員会と部会を設置し、多角的な視点でリスクに対応

――RC推進部が関わる組織と目標について教えてください。

当社のコーポレートガバナンス体制の中には「リスクマネジメント委員会」と「コンプライアンス委員会」があり、RC推進部としてはそれらの運営を行いながら、さまざまな施策を実施しています。各委員会のアジェンダをブラッシュアップしつつ、リスクマネジメントの高度化を目指しているところです。

例えば今期の主な目標は、情報セキュリティに関するリスク感度、サステナビリティへの意識を高めること。リスクマネジメント委員会の中に情報セキュリティ部会を設置したり、人権擁護などサステナビリティ観点からのリスクを討議する場も設けました。

これにより、毎月開催しているリスクマネジメント委員会をベースに、コンプライアンス委員会・情報セキュリティ部会・サステナビリティ関連リスクの討議をそれぞれ3カ月に1回実施する体制となりました。

委員会の中身を充実させることはもちろん、年に1度リスクアセスメントも行っています。これまで、各部の部長にはアンケート、本部長・執行役員にはヒアリングを行った上で、全社的にどのようなリスクに備えることが重要かを議論してきました。

――リスクマネジメントにより力を入れるようになったのですね。

体制を変える際は、それまで実施していた委員会の中身をブラッシュアップしたいと考えました。コンプライアンス委員会・情報セキュリティ部会・サステナビリティ関連リスクの討議を月替りで行う体制にしたのも、討議課題のマンネリ化を防ぐ狙いがあります。

リスクアセスメントに関しては、「こういうことが起きそうだから、その場合はどう対応するか」と、未来を先取りした「攻め」のアセスメントを実現させていきたいですね。例えば最近、メタバースへの展開が広がっていますが、今後は、3次元の仮想空間でどんなリスクが顕在化するかなども議論する必要が出てくると思っています。

コンプライアンス関連規程を整備インシデントには早めの対策を

――今注力されている取り組みについて教えてください。

直近ですと、行動指針の改訂が今期の取り組みの一つです。2022年9月、それまでの行動指針の内容を改め、新たに“Our Values”と呼ばれる行動規範を定めました。お客様、従業員、取引先様、社会、株主様という5つのステークホルダーに対する規範の中に、コンプライアンスやサステナビリティに関わるテーマも盛り込んでいます。

その前段階として、2021年4月、これまで定めていなかった「コンプライアンス規程」を策定。その中で、行動規範についても定め、規程上の後ろ盾を作りました。

2022年に改訂・規範化した「Our Values

――コンプライアンスについて、どのようなモニタリングを行っていますか?

コンプライアンス委員会は3カ月に1回ですから、毎月開催されるリスクマネジメント委員会で主にモニタリングを行っています。コンプライアンスとリスクマネジメントを厳密には分けず、機動的に対応している形です。

リスクマネジメント委員会のアジェンダには必ずインシデント報告を盛り込み、その月に起きたコンプライアンス違反の恐れのあるインシデントも含めています。各部門において取り組める再発防止策であればすぐに実施しますし、全社的な取り組みが必要な場合は改めてリスクマネジメント委員会やコンプライアンス委員会で施策の在り方を討議します。

コンプライアンス推進には、やはり起こってしまった事象に対して適切な再発防止策を考え、実行していくことが一番重要だと思っています。

社員向けには、動画視聴やWebテストを通して啓発

――コンプライアンス推進のためにどのような取り組みをしていますか?

当社ではコンプライアンスマニュアルを作成しています。内容については、社内で懲戒対象になったトラブルのほか、他社で起きた事件など、その時々に社会的にクローズアップされた事象も参考にしながら、毎年アップデート。コンプライアンス推進に当たっては、社員にその内容を周知する取り組みをしています。

店舗の社員向けには、和訳した社名を取り入れた「束矢大學(たばやだいがく)」という研修プログラムに、コンプライアンスについての内容も盛り込んでいます。対象は、新任店長や新入社員、あるいはこれまで研修を受けたことがない店長などです。
一方でこれまで、オフィスの社員向けにはコンプライアンスの取り組みがありませんでした。そこで、RC推進部が立ち上がったタイミングで「コンプライアンス月間」をスタート。繁忙期を避けた毎年2月(当初は11月)に、オフィス社員向けの研修を実施することにしました。

動画研修はコンプライアンスマニュアルを全て説明すると長時間になってしまうので、いくつかのトピックスについて動画を作成。社員には一定期間内に視聴した上で、Webテストも受けてもらいます。動画視聴は履歴を取れないため、テストのヘッダーに「動画を視聴しました」という項目を設け、チェックを入れてもらうしかけをつくりました。このWebテストについては、オフィスか店舗かを問わず、すべての社員を対象にしています。

また、当社のWeb社内報の中にコンプライアンスに関するコンテンツを設置し、不定期に記事を執筆しています。例えば、コロナ禍によるリモートワークでの情報漏洩・労務管理など、社会情勢に合わせたホットな話題を基にした内容にしています。

Webテストを年2回に拡大|店舗スタッフの教育も強化へ

――今期から、社員向けの取り組みを強化されたそうですね。

そうですね。より恒常的な取り組みにすることを目指して、コンプライアンス月間は一旦廃止しました。1年に一度なので、内容を凝縮させられるというメリットはあったものの、やはり1年経ったら内容を忘れてしまいますよね。

具体的には、Webテストを上期と下期それぞれ1回ずつ、年2回実施することにしました。社員は「結構しつこくやるんだな」と思っているかもしれません(笑)。「やりっぱなし」にならないよう、前回誤答が多かった内容を中心に出題しています。

――今後の取り組みについてはどのような展望をお持ちですか?

いま課題感を持っているのは、店舗向けの取り組みです。先ほどご紹介した「束矢大學」は、新任店長など特定の条件を満たした社員が受ける研修制度。対象にならないメンバーはコンプライアンス教育を受ける機会に乏しく、Webテストだけではカバーしきれません。

ただ、店舗スタッフは全国に3,000人以上在籍しており、日々の接客業務がある中で全員に動画を視聴してもらうのは困難です。コロナ禍の推移を見守る必要はありますが、今後はできれば実店舗を回りながら、フェイス・トゥ・フェイスで研修を実施できたらなとも思っています。

不可欠なのは業法への対応|今後はサステナビリティも重視

――コンプライアンス推進で重視している法令や分野はありますか?

2022年に個人情報保護法改正があったので、情報セキュリティについては重視しています。そして、アパレル業界と密接に関係するのは、原材料や原産国表示に関わる景品表示法、そして洗濯ネームなどに紐づく家庭用品品質表示法です。また、オリジナル商品の企画も多いため、下請法も重要であると考えています。
こうした小売業周りの法律(業法)は行政処分に直結しますので、抜かりのない対応を心がけています。
その他、アパレル関連企業としては、知的財産の分野も十分に留意する必要があると思っています。最近では「ファッションロー」という新たな分野での研究が進んでいるとの認識です。

――貴社ならではの、今後重視していく分野はありますか?

サステナビリティについては今後ますます重視していかなければならないと考えています。社会的に人権意識が高まってきており、デザインなど商品周りの効率的なチェック体制の整備を議論しているところです。取り組みに当たっては、法務部門と品質管理部門、そしてサステナビリティを所管する部門と連携。諸法令に関する研修を実施するなどの案が出ています。

コンプライアンス推進には「伝え方」の工夫も必要

――コンプライアンスの推進に悩んでいる方へメッセージをお願いします。

コンプライアンス推進への取り組みは、手段の妥当性を判断するのが難しいですよね。「懲戒処分の事例がなくなった」「ミスがなくなった」などすぐに目に見える結果が得られるわけではありませんし、社員のコンプライアンス意識の変化を定量的に測定することは困難です。

一番残念なのは、担当部署がすごく頑張っているのに、経営陣があまり腹落ちしていないというパターン。「コンプライアンス推進は重要ですか」と聞かれて、否定をする経営者はいないでしょう。幸いなことに当社ではないのですが、いざ実行に移そうすると、「人件費に見合う成果が出るのか」「それをやって何か良いことがあるのか」と二の足を踏んでしまうことも多いと聞きます。

コンプライアンス推進のために重要なのは、いかに全社的な取り組みにしていくかということ。当社の場合は、経営陣がコンプライアンスの重要性を感じているので委員会などを立ち上げることができましたが、そうでなければ上層部に積極的に働きかけていくことが必要です。

そうしたマインドの部分に加え、コンプライアンス推進のための枠組みもやはり大事になってきます。当社の委員会では、社長を委員長に据え、委員は業務執行取締役、参加者は執行役員と本部長として、形式上も全社的な取り組みになるようにしました。さらには、主要な関係会社の管理担当取締役にも参加してもらい、グループ全体の取り組みにもしています。

取り組みを継続していくには、担当者の「鈍感力」も大切だと思います。劇的な変化や大きな成果がすぐには表れなくても、そこは気にせず続けていくという気構えを持ってほしいですね。

――「こういう取り組みが社員に響く」というものがあれば教えてください。

贈収賄や情報漏洩など、何か社会的に話題になるような事件が起きたときに、コンプライアンス推進の取り組みを行うと響きますね。経営陣や社員の危機意識が高まったときが、最も浸透しやすいタイミング。そこで研修や啓発などを行い、積極的に発信していくことが効果的だと思います。

あとはやはり、「伝え方」の工夫は大切ですね。研修などの質を高めていくことはある程度できますが、なかなか社員の琴線に触れるように伝えるのは難しいことです。最近では「不正をするな」ではなく「正しいことをしよう」と伝える「エモーショナルコンプライアンス」という考え方もありますね。個人的には、コンプライアンスマニュアルをアニメにして読みやすくするとか、取り組みに何か面白さを加えられたらとも思っています。

(インタビュー日:2022年11月21日)

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