法務が関わることでビジネスが加速!
事業理解を深めたら、次の一手は?

この記事について

各業界の第一線で法務・総務・労務などを担うみなさまにお集まりいただき、法務を中心とした実務の「今」を読み解く座談会を開催しました!
属人化しがちなバックオフィス業務について、「これ、みんなの会社はどうやっている?」という疑問は誰もが持っていますが、お互いに話し合うことで、答え合わせだけでなく、その先の展望や軸などを見つけることができます。

第4回は、多様な企業の法務・管理業務を担当されているみなさまが集結。基本的な法務プロセスやテクノロジー活用の「次」についてご検討いただきました。工夫いっぱいのアプローチにご注目ください!

■登壇者
弁護士法人咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕先生(モデレーター)
株式会社ナシエルホールディングス 法務総務部 部長 石原 諭さま
株式会社イングリウッド 法務部 部長 岩田 和晃さま
GBtechnology株式会社 管理本部 本部長 尾﨑 昌宏さま
株式会社ファンコミュニケーションズ 総務法務部 総務法務課 小澤 貴紀さま
株式会社ネットプロテクションズ 法務グループ 法務統括 門倉 紘子さま
株式会社LegalOn Technologies 丸山 航司(総合司会)

1|事業成長に貢献するための”攻めの法務”、どんな取り組みに力を入れている?

池内 「事業成長にどう貢献できるか」というテーマで、まずは、いわゆる「攻めの法務」についてお話を伺いたいと思います。経済産業省の報告書でも、法務部門が保守的なストッパーとして見られてしまう懸念が指摘されました。法務が経営目線を持ち、事業部門と同じ方向を見ながら「できない理由」だけではなく「できる方法」を考える姿勢が求められています。

戦略法務に加えて、公共政策法務といった領域も含めて、みなさまの現場でどのような工夫や注力されている点があるか、お聞かせください。

株式会社イングリウッド 岩田さま

岩田 一つは「新規事業」ですね。当社は新規事業の開発を盛んに行っており、法規制や契約や知財など、法務として総合的に関わっています

ただ、私は「攻め」「守り」をきっちり分けているわけではありません。守り」に当たる業務でも、当然「攻め」もなくてはならず、そのバランスが大事です。事業部門のニーズを生かしながら、守るところでは守り、事業を前へ進めるかを意識しています。

GBtechnology株式会社 尾﨑さま

尾崎 私は「協業先を探す」としました。われわれ管理本部の方針は「会社を成長させるための経営サポートをすること」です。当社の主な事業は物流ですので、拠点を増やす際、倉庫を借りて、トラックを買って…と設備投資をすると、莫大な金額になってしまいます。

そこで、資金調達をしなくても成長ができる方策を考えました。倉庫を持っている運送会社さんとパートナー提携をして、空いている倉庫を貸してもらい、初期投資を削減する提案が経営層に採用され、協業先が増えている状況です。

株式会社ファンコミュニケーションズ 小澤さま

小澤 これはコーポレート部門全体の目標でもありますが、「事業部門の戦略的パートナーになる」としました。

その一つは、良好な人間関係の構築です。最近はSlackなどテキストコミュニケーションが多くなっていますが、法務から指摘をする場合も、テキストだと圧を感じさせてしまいがちですよね。出社の際は積極的に事業部へ行って、直接声掛けをしています。依頼は案件管理ツールで受けますが、テキストだけでやりとりすると遅くなりそうな場合は、「ちょっとそっち行きますね」と話しかけるようにしています。

また、「法務が関わることでビジネスが加速する」という意識を醸成するため、事業部から相談を受けた際は、複数のプランを提案しています。新規事業を立ち上げる際も、売上計上のタイミングを含めて契約面でサポートし、いかにKPIを実現して事業を拡大するか、一緒に考えることを意識しています。

株式会社ネットプロテクションズ 門倉さま

門倉 私は、「鉄ではなく柳のような法務」としました。これはメンバーの共通認識となるクレドの一つです。プロフェッショナルとして法務が知見を提供するのは大前提として、「アドバイスして終わり」ではなく、組織の一員として事業を一緒に考え、作っていくことを大事にしています。

もう一つは行政への働きかけです。当社の後払い(BNPL)決済サービス事業は、今のところ規制がかかっていない分野ですが、2021年に同業他社さまと協会を作り、省庁へのアプローチを実施しました。会員社の法務として、その場に同行したり、資料を作ったりという動きをしています。

株式会社ナシエルホールディングス 石原さま

石原 僕は「グレーを愛す」です。事業を進めるうえで、もちろん法や契約に反することはしてはいけないですが、契約書の文言でも解釈はっきりしない場面もあります。そのときに「リスクがあるからやめておこう」だと、ビジネスがそこで終わってしまいます。そうではなく、まず絶対に黒ではない、そのうえで、白と判断できるかをしっかり検討し、あえて明確に白黒つけずにグレーのまま進めたほうがよい場合もあります。

弁護士法人咲くやこの花法律事務所 池内先生(モデレーター)

池内 電話などで官公庁に確認をすると、どうしても保守的な回答になることが多いですよね。たとえ事案の詳細を丁寧に説明しても、「個別の判断になります」といった返答で終わってしまう。行政の立場としては、そうした回答にならざるを得ないのだと思います。
ただ、その回答が社内では、いつのまにか「行政に聞いたら適法とは言えなかった」といったニュアンスだけが一人歩きしてしまい、結果的に「やめておこうか」という判断につながってしまうケースもあります。
もちろん、違法(いわゆる「黒」)なものは論外ですが、適法かどうかが明確でないグレーな領域では、ただ避けるのではなく、「どうすればリスクを抑えながら実現できるか」を社内で主体的に検討することも、法務として重要な役割ではないかと思います。

石原 会社のフェーズや、リスクの大きさ、費用対効果の部分にもよりますよね。顧問弁護士の先生に、「こう解釈をすると、ここが論点化するリスクはありますが、会社としては、そのリスクを取っていますので、それでいいですよね?」と確認することもあります。

2|事業成長に貢献するための”守りの法務”、どんな取り組みに力を入れている?

池内 先ほど「攻めと守りは切り分けられない」というお話が出ましたが、ここではあえて「守りの法務」に焦点を当てて、お話を伺えればと思います。いわゆる守りの法務とは、法的なトラブルを未然に防ぐ「予防法務、そして、起きてしまった法的トラブルに対応し問題解決をする「臨床法務に分けられます。皆さまが現場で取り組まれている工夫や意識されている点について、お聞かせください。

尾崎 私が意識しているのは、トラブルの「予防」と「現場負担の軽減」です。トラブルが起きたとき、現場のメンバーにいつまでも関わらせておくのではなく、早めに法務が巻き取ってトラブルの相手先と話をします。現場には、事業成長の方にエネルギーを費やしてもらうようにしていますね。

小澤 私は「安心の提供」としました。当社はアフィリエイトサービスプロバイダですので、電気通信事業法をはじめ、さまざまな法規制が事業に関わってきます。法改正によってサービスが動かせなくなる可能性もあるので、そうしたリスクを早めに事業部に伝えることが、お客さまの安心にもつながります。その情報収集に「契約ウォッチ」は役立っていますね。

一方で、門倉さんがおっしゃった、業界団体を作って行政に働きかけるような「守りから攻めに行く」という部分はまだできていないので、これからの課題です。

門倉 私は「ROIの意識」と「常識を武器にする」です。契約チェックや社内規程作りなども、目指すべきゴールに向かって最善を尽くして、利益を最大化するという前提があります。

そして、社会の常識と近い距離にいる法務には、防波堤としての機能があります。一方で、事業部の「こうしたい」に対して、「常識的に考えて無理」と切って捨ててしまっては、よいものは生まれません。そうではなく、「こんな常識があるけれど、どうしてそうなんだろう」というところから解きほぐして、常識を武器にする。当社のミッション「つぎのアタリマエをつくる」の実現のためにも、その点に取り組んでいます。

石原 僕は「人は分かりあえない」と書きました。予防法務の観点では、「きっとこうだろう」とか、自分の感覚と他の人の感覚が一緒であるという考えをいかに排除するかが大事だと思います。

例えば「売上が大事」と言ったときに、単に売上なのか、利益なのか、過去の経験立場によって考え方が全く違う。人と人は分かりありえないなら、きちんと相手の話を聞かなければなりません。小澤さんがおっしゃったように、やはりダイレクトにコンタクトを取った方がいいと思います。

尾崎 業界地域によっても言葉の意味や捉え方が違いますしね。本当に一つひとつのすり合わせは大切です。

石原 ミスコミュニケーションの全てが、「相手はたぶん分かってるよね」と思うところからスタートするので、それを前提にコミュニケーションを取らないといけないですね。

ただ、実際に失敗をしないと人は学ばないので、僕が責任をとれる範囲では部下にはできるだけ失敗させたいと思っています。

岩田 私は「事業全体の理解」です。例えば契約も、重要なものは法律論だけでなく、事業計画や販売計画などの数字まで見て、事業全体のイメージを描きます。そうして初めて、「ここにリスクがある」「こうすれば事業に寄与できる」とアドバイスできる。法務という「殻」に閉じこもらずに仕事をするようにしています。

3|事業成長に貢献するため、テクノロジーをどう活用している?

池内 最後に、事業成長に貢献するうえで、テクノロジーをどのように活用されているかを伺います。
契約管理やAIによる契約レビューだけでなく、たとえば、デジタルフォレンジック技術を使った不正調査、過去データを用いたAIによる与信審査の精度向上など、法務が担う領域でのテクノロジーの導入も広がっています。
みなさんが取り組まれている工夫や、今後活用していきたい技術があれば、ぜひ教えてください。

小澤 当社は「契約管理ツールの導入」です。これまでは契約書管理が部署ごとに分かれ、集約されていない状況で、「すでに契約しているサービスなのに、他部署で新しく契約してしまった」という事例もありました。このため、契約書管理についてはリーガルテックを導入したところです。

あとは、「契約書作成の補助」として生成AIを活用し始めました。特に海外向けの契約書の起案は、ゼロから英語で作成するよりも、GeminiやChatGPTで下書きを作って手直しすることで、かなり工数が減っていると思います。

岩田 当社は、「案件管理」「契約書管理」「電子契約」にはリーガルテック企業が開発している製品を導入しています。一方で、生成AIの技術は本当に日進月歩なので、そうした最先端の技術をどう法務業務に使っていけるかという課題感は抱いています。

尾崎 私は「AIのパートナーがほしい」としました。AIの機能が人間レベルになってくれたらいいなと思ってるんです。例えば「あの契約はどうして変更をOKしたんだっけ?」と聞けば、「こんな理由があったんですよ」とすぐ回答してくれるものであれば、すごく使いやすいですよね。

門倉 当社は案件管理や電子契約など、一通りのテクノロジーは導入しているんですが、「ナレッジマネジメント」「情報のオープン化」を挙げました。

当社は基本的にどの部署の情報も見えるようになっていて、ナレッジは膨大にあります。
情報のオープン化というところでは、文書管理ツールを活用して、そこに情報やドキュメントを蓄積してはいるものの、それらをテクノロジーの力で「使えるナレッジ」としてマネジメントしていくことが課題になっています。

小澤 当社の場合、法務は2人体制なので、退職などがあってもナレッジが消えてしまわないように、Notionを使って情報をまとめています。そうして法務内のナレッジをまとめてはいますが、法務の外に向けては、みなさんどうされていますか?

石原 社内研修をやったりしても、法務の話は堅苦しくなりがちなので、誰も聞いていない状況になりがちですよね。僕は、例えば景品表示法の誇大広告だったら「これはちょっとずるいよね」という「感覚」を身につけてもらうことを心がけています。

門倉 私も、「細かいところは後で資料を見てくれればいいから、今日はこれだけ覚えて帰って」と概念を抽象化して伝えています。あとは、ワークをやってもらうなど「自分ごと化」する努力はしています。

岩田 難しいことを言っても、なかなか伝わらないですからね。私は月に一度、全社向けに5~10分の短い時間で簡単な話をしています。

尾崎 私はマネージャー層に「もしこういうことが起きると、こんな責任を問われるよ」と個別に話をしています。相手によって「刺さる」ポイントも違いますね。

石原 テクノロジー活用に関しては、今使っているのは申請・決裁などの「ワークフローの電子化」です。

あとは、「今後活用していきたい 人とAIとしました。人間とAIは得意分野が違いますし、何でもゼロからAIに任せるのは違うと思います。自分の脳を鍛えて、そこにあるものの一部を移行して、秘書・パートナーになってもらう。そうやって使いこなすのがAIだと思っています。

例えば、「この契約のこの条文に、こんなふうに書いてありましたよ」と拾ってきてくれたり、「これと同じ条文を、以前作りましたよね」とぱっと出してくれたりするようなものがあれば、AIの最高到達点というか、自分の業務の中で一番助かると感じています。

丸山 質問を投げかければ、それに適した契約書を引っ張ってくれたり、条文を出してくれたりするアシスタント機能は、当社でも開発を進めているところです。今後は、企業ごと、案件ごとの個別具体の契約を、どれだけAIでカバーできるかを追求していかなければなりません。

読者へのメッセージとエール

池内 本日は、「攻め」と「守り」という切り口で、法務の役割や姿勢、さらにはテクノロジーの活用について、非常にリアルなお話を伺うことができました。
最後に、日々奮闘されている法務の読者のみなさまに向けて、ひと言ずつメッセージをいただければと思います。

門倉 私は法務として、判断の根拠をしっかり持つことを前提に、柔軟な対応を心がけています。そのためには、自社の経営環境やプロダクト、お取引先さまの状態など含めて、多様な観点を吸収していくことはとても大事です。今日もみなさんとお話しすることで「そういう考え方があるのか」と発見があり、またこれから頑張っていきたいなと思いました。

石原 契約書は「ビジネスの取扱説明書」。ビジネスや会社の仕組みを一番分かっていなきゃいけないのは、実は法務なんです。だから法務って面白いと感じますし、とても人間味を感じる仕事だと伝えたいですね。

法務以外の方には、法務パーソンもやっぱり人間で、「このビジネスをなんとかしたい」と常に悩みながら仕事をしていることを分かってもらえたらと思います。他部署の方と手を携えながら、Win-Winの関係で一緒に歩んでいけるといいですね。

岩田 今日は「攻めの法務」「守りの法務」について議論しましたが、あまり型にはまらないほうがいいのかもしれません。いろいろな知識や事実をたくさん仕入れて、総合的に判断をすることが法務にとって大事だと思っています。

尾崎 やはり法務は、ビジネスの現場を理解することが大切だと思います。どんなビジネスをしているかがわからなければ、リスクマネジメントはできません。もう一つは、意思決定において、経営者の目線も理解しておくこと。経営と現場の両方を理解できると、すごく頼られる法務になれるのかなと思います。

小澤 私自身、すごく「他社の法務はどうやってるんだろう?」と気になっていました。今日は当社でも取り入れたいアイディアもたくさんありましたし、共感できることも多く、参加してすごく良かったなと思います。特に1人など少人数の法務の方は、他社の法務の方と広く関わることで、悩みが解決するのではないでしょうか。

丸山 みなさま、本日はありがとうございました!事業部との向き合い方からAI活用まで、幅広いお話をお伺いすることができました。共通していたのは「法務はもっとできる」という前向きな姿勢だったと思います。読者の皆さまにとっても、明日からの実務に役立つヒントや気づきにつながれば幸いです。

(2025年2月21日収録)