事業の「ハンドル」と「アクセル」を支える!
テクノロジーと協働する企業法務の最前線

この記事について

各業界の第一線で法務・総務・労務などを担うみなさまにお集まりいただき、法務を中心とした実務の「今」を読み解く座談会を開催しました!
属人化しがちなバックオフィス業務について、「これ、みんなの会社はどうやっている?」という疑問は誰もが持っていますが、お互いに話し合うことで、答え合わせだけでなく、その先の展望や軸などを見つけることができます。

第5回は、「守りの法務」「攻めの法務」の観点で、自社の企業成長に法務がどのように貢献していくのか、そして法務のテクノロジー活用について語っていただきました。工夫いっぱいのアプローチにご注目ください!

■登壇者
株式会社ACNホールディングス 取締役上席執行役員CLO/グループ代表室室長/リスク管理戦略担当 弁護士 高橋俊輔さま(モデレーター)
株式会社弘輝 管理2部 法務担当 相澤沙織さま
株式会社アップガレージグループ 管理本部 リーガル室 室長 阿部幸枝さま
セーフィー株式会社 経営管理本部 法務部 法務グループ 弁護士 平川真澄さま
株式会社プレイド Head of Legal Department/弁護士 村井智顕さま
アデリープランニング株式会社 常務取締役 横堤恒章さま
株式会社LegalOn Technologies 丸山航司(総合司会)

1|自社の事業成長へ貢献するために”攻めの法務”の観点でどのような取り組みに力を入れている?

丸山 みなさま、このたびはお集まりいただきありがとうございます。本日は「法務は事業成長にどう貢献をしていくのか」というテーマで、業界の最前線で活躍されているみなさまと議論してまいります。議論に入る前に、まず前提知識として一般的に言われている企業法務の分類についてご説明いたします。

企業の法務部門の業務は数種類あり、1つ目が法的な紛争の発生を未然に防ぐ「予防法務」、2つ目は発生した法的紛争の解決のための「臨床法務」、そして3つ目が、企業の事業戦略立案などに法務の専門家としてコミットする「戦略法務」です。

本日は、「事業成長に貢献する」というテーマのもと、3つの観点からお話を伺っていきます。まずは「攻めの法務」、次に「守りの法務」、そして後半ではテクノロジーの活用について、皆さまの実務の工夫を共有いただきます。

高橋 ありがとうございます。それでは早速ですが「攻めの法務」におけるみなさまの取り組みについてお伺いします。

株式会社アップガレージグループ 阿部さま

阿部 事業部が「ハンドル」だとしたら、私は「アクセル」で背中を押せる存在でありたいです。ビジネスの可能性や成長機会を法務の視点から積極的に捉え、前進を後押しできる存在が理想です。そのため、情報を待っているのではなく、取りに行くことを考えています

契約ウォッチをはじめ、法律事務所のメールマガジンなどから常に情報を収集していますね。また、事業部との円滑なコミュニケーションも重視しており、文字には出ていないニュアンスを含めた相談内容を、正確に把握するためになるべく対面で話すようにしています。私のデスク横に丸椅子を置いて、相談しやすい雰囲気作りにしているのも工夫のひとつです。

セーフィー株式会社 平川さま

平川 私は「制約を超えて”事業の突破口”を作る」としました。例えば海外進出の際、現地の法規制に直面することがあります。しかし、法令を的確に理解したうえで、ビジネス要件との両立を図るスキーム設計によりその問題を突破できたことがありました。

こうした「突破口」を見つけるために、“人の生の声”が重要だと考えています。机上の調査だけではなく、コンサルや法律事務所、既に進出されている企業の方々など、複数の現地の専門家にお話を伺いました。その中から、現地の事情を踏まえた現実的な解決策を見出していくのが有効だと感じています。

株式会社プレイド 村井さま

村井 私は「売上向上」と「競争力強化」です。法務は間接部門と捉えられがちですが、これらの場面においても重要な役割を担えると思っています。わかりやすいのはM&Aで、企業の売上向上や事業成長に直結します。また、他社に先駆けて各種法改正に対応して自社の信頼度を向上させたり、契約審査のプロセスで営業に伴走して、成約までの時間を短縮したりすることでも、売上向上や競争力強化に寄与できます。

その他、当社の場合、会議体の運営も法務が中心的な役割を果たしているので、経営戦略などの会社の方向性を踏まえて、先回りで対応を考えることも意識しています。

アデリープランニング株式会社 横堤さま

横堤 私は、事業計画に即した取引拡大を考える、つまり、事業を安定的に運営し、創造していくためのルール作りを整備するのが「攻めの法務」だと考えています。実際に事業を担う部署、つまり現場で「明るい未来」にしていくためにどうしていくかを先ず考えた上、それに加える形で各種リスクを補完していくという流れを大事にしています。その過程では、攻め過ぎずに、外部環境の変化等に考慮するなどの繰り返しの作業や検討が重要だと考えます。

株式会社弘輝 相澤さま

相澤 私は「守りこそ攻め」「日常業務こそ攻め」と書きました。足元の日常業務は、守りでありながらも攻めの準備としてはとても有用です。当社もグループ全体では海外の売上比率が大きく、全世界の国や地域にいるお客様から営業部等に様々な要望がやってきます。そこから法務に依頼が来たときに、丁寧に事情を整理して方策を考え、契約等を整えて、会社を守る。それ自体が攻めになります。

そのために、営業部等からの依頼に対してはできるだけ早く返信していますし、各部署と一緒に話を聞くこともあります。それでも難しいことは順次、上司へ会社へと報告しています。また、各部署のキーパーソンには日常的に連絡をして、関係を構築しています

2|事業成長に貢献するための”守りの法務”、どんな取り組みに力を入れている?

株式会社ACNホールディングス 高橋さま(モデレーター・左)
株式会社LegalOn Technologies 丸山(総合司会・右)

高橋 続いて、守りの観点からお話を伺いたいと思います。平川さんはいかがですか?

平川 安心してチャレンジできる環境を整える」と書きました。一つはコンプライアンス研修です。当社は中途採用も多く、社歴や職種などさまざまなバックグラウンドのメンバーがいますので、社内のリアルな事例を用いた全社向けのオンライン研修を通して自分ごと化」してもらうことを心がけています

もう一つは、3カ月に1度、外部の専門家を招いて「データガバナンス委員会」を開催しています。クラウドカメラサービスという事業の特性上、個人情報の保護も非常に重要です。新しいサービスを提供する際には、法令上どこまで可能かだけではなく、お客さまへの発信の在り方などを多角的に検討しています。

また、新しい子会社、サービスが生まれるタイミングでは、法務が早期に関与し、ドキュメントや許認可の整備を積極的に進めています。事業部が安心して開発や営業に専念できる環境を整えることが「守りの法務」だと考えています。

村井 私は「戦略的なリスクコントロール」です。「あやしい」というグレーのところまで行きついたら、「ではそのリスクが本当に起きるのか」、「事業としてどこまで許容し、チャレンジしていいのか」という点を分析・クリアにして、経営側が的確に判断できる状態とすることを意識しています。些細なところにはリソースを割かず、重いところにはしっかり取り組むという効率的な資源配分にも繋がります。

過去に実例のない事象へのリスク評価は日々悩んでいるのですが、管理部門全体や事業部門から多角的な意見をもらったり、国内外のニュースなどから他社の事例を参考にしたりすることで、リスク評価の精度を高めるよう努めています。

相澤 私は「違和感を探す」と書きました。例えば営業部や生産部等の事業部に「何か最近いつもと違うことありましたか?」と聞くのは効果的ですね。

当社は60年ほど歴史があるので、昔からお付き合いのある取引先も多く、「いつも連絡がくるあの会社から音沙汰がない」「あの会社から、急にこんなことを言われた」など、事業部のみなさんの経験やスキルに乗っからせてもらって、違和感を探しています。リスク検知やトラブル対応は、上場企業であれば本来システム化するべきところですが、当社が非上場で、社員が持ち株会としてほとんど株主になっているという状況だからこそできる「阿吽の呼吸」だと思っています。

阿部 私は「一歩先を読む」です。トラブルの対応はもちろん、トラブルが起きないようにすることも重要です。例えばカスタマーハラスメント(カスハラ)の相談が以前からあったので、店舗スタッフがお客様と健全なコミュニケーションを取って働けるマニュアル作りや、社外相談窓口の設置、カスハラに対する方針のホームページ掲載などを、早い段階で整備しました。

あとは守りとして当然ですが、事業部がスピード感をもって動こうとしているときこそ、プランニングの段階で「こうしたリスクもあるため、念のため再検討をお願いします。」とお伝えすることがあります。最終的な判断は経営側に委ねつつも、適切なタイミングで選択肢や注意点を提示する「ブレーキさばき」も大切だと思っています。

横堤 私は「意識の向上」「認識の統一」としました。コンプライアンス研修やセミナーを繰り返し開催し、新しい法律の情報を定期的に発信することで、リスクに対する意識を向上させる取り組みを行うことが重要だと考えます。

私が、以前勤務していた会社で2010年代に北米に赴任していたときは、経営マネジメントネットリテラシーハラスメント・裁判事例など、レベル別にたくさんの研修がありました。外部の方が講師なんですが、クイズ形式など内容が面白くて、とても実のある研修でした。残念ながら、当社はそこまで到達していませんが、日常的な一つ一つの注意喚起からリスクヘッジができているように思います

丸山 研修の効果検証については、どうされていますか?

平川 当社は、依頼件数のデータを取っているので、「研修後にこの内容の相談がこのくらい増えた」というのが数字で分かります。研修を通して社員に気付きが生まれれば、相談が増えると感じています

阿部 当社は受講が義務化されていて、未受講者には所属長を通してリマインドを行います。効果の数値化はしていませんが、当社も研修を重ねるごとにコンプライアンスに関する問い合わせが増えてきています。

相澤 当社も研修を受けたこと自体が評価に入っているので、それ自体が能動的な受講を促していると思っています。

横堤 先ほどお話しした北米赴任時の各種研修では、研修でどれだけ理解が深まったかを人事部やマネージャーが評価する仕組みだったので、みんな真剣に受講していました。

村井 「この研修を受けなければ、該当の商品を販売できない」という仕組みも検討しています。例えば、契約が複雑で特にミスが起きやすい商品については、研修で合格した人だけが販売できるという形にすることで、リスクの未然防止と販売品質の向上を目指していくことも考えています。

3|事業成長に貢献するため、テクノロジーをどう活用している?

高橋 最後のトピックは、リーガルテックなどのテクノロジー活用です。村井さんいかがでしょうか。

村井 当社では、複数のクラウドサービスを活用しています。法務業務においてもオペレーションを自動化してミスを減らし、AIを活用したチェックで抜け漏れを抑制していこうとしてます。時間と手間がかかる議事録作成も、最近はAIサービスをトライアル利用しています。あとは、必要なデータ・ナレッジを蓄積して、検索をかければ、データ・ナレッジが得られるようにすることなどを進めています。このように効率化の部分でもテクノロジーの力は大きいと思っています。

併せて取り組んでいきたいのはデータ分析です。例えば「契約審査におけるエラーが何件あったか」、「各部門からの法務相談が何件あったか」を数値化し、過去と比較して改善状況を見るなどしていきたいですし、これを応用してリスクコントロールの高度化にも活用していきたいと考えています。

また、社内事業部からの質問に回答するためのチャットボットを導入しており、AIを活用してもっと高い精度で返せるようになるよう、自社のITチームと連携して改善を進めているところです。

横堤 当社はAI法務チェック電子署名を活用しています。これでかなり工数が削減されています。今後は、ブロックチェーンを基盤としたスマートコントラクトによって何百・何千という契約の自動更新化の実現性なども含め、課題解決のためのトライアルをしていきたいと考えております。

相澤 当社はまだ活用前の段階ですが、私個人は「外国法令のリサーチやお客様からの調査票回答をテクノロジーで楽にしたい!」と書きました。外国法令で言うと、例えばアメリカ・中国などの大国は情報も探しやすいんですが、そうではない国の場合は英語などで文献を探す必要があります。その部分を、ChatGPTDeepLといったテクノロジーで補えたらいいですね

また、全世界のお客さまから来る調査票(アンケート)も、ISO取得済みか?などであればよいですが、お客さま独自のフォーマットになると回答に時間がかかります。過去の回答を蓄積しておいて、ある程度自動でアウトプットしてくれるようなテクノロジーがあればいいですね。

阿部 当社は電子署名を進めていますが、小売店舗の不動産契約も多く、書面派のお取引先もまだまだ多いのが実情です。電子契約手続きを有料だと思っている方もいらっしゃって、「電子メールがあれば気軽にできますよ。」とお伝えすると応じてくださることもありますね。

一方で、その他の業務は生成AIで時間を短縮できています。「あなたは法務のスペシャリストです。この文章をより契約書らしく修正してください。」といったプロンプトを入れると、期待以上のものが出てくるので、契約文を作成する際にうまく利用しています。

ただ、そこはやはり生成AIなので、景表法のチェックなどで嘘をつかれることも。自分で調べると「やっぱり違う!」ということもあるので、全て信じるのではなく、ファーストアクションとして活用していけたらいいなと思っています。

平川 私は「自社にとって最適なバランスを持った”人とテクノロジーの協働”」と書きました。例えば、Slackのワークフローをスプレッドシートと連携させさせることで、契約書レビューなどの相談情報を一元管理しています。これにより「誰が何件担当しているか」など法務部内の業務の偏りを可視化でき、案件の対応漏れの検知もできるので、事業のスピードを遅らせないことに役立っています。

あとは、反社チェックの自動化電子契約の推進にも取り組んでいますし、契約書の審査ツールや管理システムも検討しています。工数やコストの関係で最終的には人の手で行った方が安く楽に済ませられるケースもあるので、テクノロジーと協働して業務を進めている状況です。

高橋 みなさんは、テクノロジーの導入・継続の判断に当たって重視していることはありますか?

村井 やりたいこと全てをテクノロジーで満たすのは難しいので、8割くらい実現できそうであれば導入する判断をしています。将来的なリプレースの可能性も踏まえて、データはきちんとバックアップしますね。

阿部 私はAI契約書レビューを導入していますが、業界特有の契約書がかなりあるため、該当する契約書が見当たらないこともあります。ただ、一人法務なので参考にはなりますし、修正前後の比較表記ゆれの統一などの機能で作業工数をかなり削減できるので、使い続けています。

読者に伝えたいメッセージ

高橋 最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いいたします。

横堤 当社には法務部がないのですが、中小企業の中にはそういった会社さんも多いかと思います。契約という仕事は、社益を守って未来の創造ができるすごく面白い作業です。もし現場を起点にした契約業務ができれば、一人ひとりが当事者意識を持って事業拡大などについても考えられるようになるはず。現在は、契約の作成や検証作業を支援するさまざまなツールやテクノロジーがあるので、それらを活用すれば実行できると思います。

相澤 私は中小企業の法務担当として仕事をしていますが、日々七転八倒して「こんなの見たことない」「どうやったらいいの」という本音を抱えながらも、一生懸命やっています。その点は、今日お話しした皆さん、そしてこれを読んでくださっている方々と通じ合える部分だと思っています。私や皆さん一人ひとりが悩んでいることは、他社の法務の皆さんも悩んでいることなんだと、確信したところです。

阿部 私は派遣社員として4年前に当社に参画し、気づけば今の室長という立場になっていました。何が役に立ったかというと、前職の不動産事務のときに取得した宅建や、昔から勉強を続けていた英語です。それらの得意分野を強みに、あとは守備範囲を広げるために、常に勉強の日々が続いています。何か専門性をつけると度胸もついて、一つずつ自分で壁を突破していけるので、参考にしていただければと思います。

平川 法務は、攻めでも守りでも、事業を進める上で欠かせない存在だと考えています。担う役割も多いですし、時にはトラブルの責任を負うこともありますが、それでも私たちがいるからこそ、事業が安心してチャレンジできる、そんな役割を担っていきたいと考えています。私自身もまだ模索の途中ですが、同じように試行錯誤されている方々と、これからも一緒に最適解を見つけていけたらうれしいです。

村井 法務の役割の中で、「狭く深い」業務はテクノロジーで代替しやすい部分ではないかと思っています。一方で、ジェネラリスト的な「広く浅い」もの、さまざまなものが絡みあったものを解決する業務は代替が難しいと思っています。そういう意味では、ジェネラリスト的な知識・経験・活動が求められる企業の法務担当者の役割は、テクノロジーが進展しても代替されることはなく、むしろテクノロジーを活用してより一層広がっていくだろうと思っています。大変ですが、すごくやりがいのある面白い仕事だなと、改めて思っています。

丸山 みなさま、本日は長い時間本当にありがとうございました。

(2025年4月25日収録)