特集Progressのサムネイル

法務以外のキャリアが今に生きる
回り道をして見えた景色

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
ひと目でわかる要チェック条文 業務委託契約書編
この記事のまとめ

若手のうちは、誰もが課題に直面し、乗り越えることで成長します。でも、乗り越え方は人それぞれ。さまざまな若手法務に、成長の軌跡を聞く「Progress ー若手法務の歩き方ー」。

今回インタビューしたのは、安心・安全に配慮した農産物、ミールキットなどの定期宅配サービスを手掛けるオイシックス・ラ・大地株式会社で法務部マネージャーを務める岡崎みやさん。

新卒で入った広告会社で法務の基礎を学び、精密機器メーカー、プラットフォーマーなどの幅広い業界でキャリアを積みました。

それぞれの領域で何を学び、どんな思いで次のステージに歩みを進めたのか。現在マネージャーとして、チーム作りで大切にしていることとは。

インタビュイー
岡崎みや

広告会社、精密機械メーカー、プラットフォーマーを経て、現在オイシックス・ラ・大地株式会社法務部マネージャー。兼業として法律事務所LEACTのPR職なども務める。

「優秀な同期を支えたい」法務キャリアへ

―――岡崎さんが法務キャリアに進んだきっかけを教えてください。

新卒で入社したのは、大手広告代理店の制作子会社でした。もともと広告に使うコピーや企画を作りたくて入社したのですが、同期入社のメンバーがとにかく優秀で。「彼らと同じ職種になって肩を並べても、彼らほどいい仕事は生み出せないのではないか」と思うようになりました。それならば、彼らが入社1年目から第一線で活躍できる環境をつくり、彼らを支えるような仕事ができないかと思うようになり、バックオフィス部門への配属を希望しました。

すると配属希望を聞く面談で人事担当から、「法務とか興味ある?」と聞かれました。私が新卒だった2009年当時は今ほど法務という仕事が一般的に認知されておらず、「イメージはわきませんが、学生時代に法律事務所で秘書のアルバイトをしていました」と話したところ、総務部門に配属になり、そこから法務部門を立ち上げることになったという経緯です。

―――どのような仕事を担当しましたか。

入社した会社に法務部門がない状態からのスタートだったので、最初は親会社の法務部門に常駐させていただき、OJTで先輩の打ち合わせに同席したり、一緒に案件に対応したりしていました。当時はまだ電話で法務相談を受けていたので、新人として名前を覚えてもらい、新しい相談をもらえるようになるために、誰よりも早くデスクの電話を取ることを心がけていました。

―――広告会社の法務はどのような業務内容なのでしょうか。

私が担当していたのは主に事業法務の領域です。主な業務内容は、広告主や委託先と交わす契約書や広告制作物の審査でした。広告主は自動車、医薬品、食品、アパレル、不動産、金融などと幅広く、確認するべき法規制も多岐にわたり、広告の媒体もTVCMや新聞広告、Webサイト、ダイレクトメール、カタログ、店頭什器とさまざまでした。「明日撮影するから今日中に内容の確認をお願いします」「今日このWeb広告出すからすぐ見て」と言われるスピード感で、夜でも電話で追いかけられることがよくありました。

「この分野は岡崎」得意分野を見つける

―――若手のとき、仕事をする上で大切にしていたことはありましたか。

3年目の時に先輩から「あなたはどんな法務になりたいの?」と聞かれることがありました。親会社の法務部門には本当に個性豊かな先輩が数多くいらっしゃり、たくさんのロールモデルを見ることができましたが、私は「この分野だったら岡崎」と言われるような法務になることだと答えました。

岡崎みやさん

―――働くうちにその分野は見つかりましたか。

色々な広告主の案件を担当しましたが、特に医薬品や化粧品、健康食品などの、法律でいうと薬機法に関連する案件を多く担当させてもらっていました。当時、とある化粧品メーカーをクライアントに持つ営業担当が、(法的に)真っ黒な広告のデザインラフを私に持ってきたことがあって。その営業担当と何度もやり取りするうちに知識が付き、類似する内容やクライアントの相談を多く受けられるようになりました。

するとその様子を見ていた先輩からも薬機法関連の案件について相談されるようになり、「この分野は岡崎に意見を求めるのがいい」と言っていただけるようになりました。

得意分野を生かそうと転職

―――そこから転職に至った経緯を教えてください。

得意だと思えた分野を伸ばそうと、医療業界へ。精密機械メーカーに転職して、医療事業部門の契約法務を担当しました。契約書の審査や、時々来る法務相談に対応していました。ただ、薬機法に関する相談をいただく機会は残念ながらなく、大手企業で契約のひな形が決まっており、これまでのルールにきちんと沿った仕事をすることが多かったのです。また、知財部門が法務部門とは別にあり、契約審査が法務部門だけで完結しないケースも多くありました。回答に求められるスピード感も前職とまったく違い、業種・業界が異なると、法務として求められることがまったく違うことを知りました。

―――その次はプラットフォーマーに就かれています。

次にどこに行くか考えたときに、当時急速に伸びていたIT業界に興味がわきました。いくつかの企業の採用サイトを見ていたら、「広告法規の知識がある方」という募集を見つけ、「これだ」と思って応募したのが、プラットフォーマーに法務部門とは別にあった広告審査チームでした。

―――具体的な仕事内容を教えてください。

プラットフォームに掲載する広告主の広告について、広告審査ガイドラインに沿っているかを審査します。ガイドライン自体の見直しや、メンバーの育成にも取り組みました。

その後、アプリ上で医師に健康相談をするサービス立ち上げに携わりました。「精密機械メーカーに勤めた経験があり、医療業界に関する知識がある、薬機法も分かるから入れてくれ」と、半ば無理やりチームに入れてもらいました(笑)。

事業部門と技術部門との間に入って円滑に連携ができるよう調整したり、たくさんの医療従事者の方々と会い、サービスについて知ってもらうための渉外・採用広報のような仕事をしたりで、「お役に立てることはなんでもやる」という感じでした。新しいサービスが世に出ていく面白さを体験できましたし、法務部門に相談する側にまわったことで、法務部門が他の部門からどう見られるのか、事業部門が法務部門に何を求めているのかが分かるようになりました。

岡崎みやさん

もう一回、法務を学び直したい

―――法務のキャリアに戻った理由は何でしょうか。

サービス立ち上げは面白く、法務とは違う仕事には新鮮な驚きも多く、やりがいを感じてはいました。ですが、分かりやすいポータブルスキルを身につけられたわけではなく、ここで得られた経験をこの先武器にできるのか、どれだけ自分の強み・専門性としていけるのか分からなくなってしまったのです。約1年勤務した後、「もう一回、法務として学び直したい」と、転職したのが今の職場です。

―――現在の仕事内容ややりがいを教えてください。

法務部マネージャーとして、マネジメントやチームメンバーの育成、他部門との調整のほか、プレイヤーとして契約書審査や法務相談対応、法務研修や情報発信の企画などをしています。

「食に関する社会課題をビジネスの手法で解決する」を掲げる当社の様々な事業に携われることにやりがいを感じています。主力事業である3ブランドの食品宅配事業のほか、例えば今サポートしている子会社の買い物難民向け移動スーパー「とくし丸」では、47都道府県で1000台以上のトラックを活用し、約15万人のお客さまに商品を届けています。事業展開において、法務部門の存在は欠かせません(と他の部門にも強く思ってもらえたらいいなと思っています)法務部門である私たちが、事業部門が推進するひとつひとつの案件・プロジェクトに積極的に携わることで、目に見える形で世の中にインパクトを残せていると日々実感しています。

―――入社時は新型コロナウイルスの影響が拡大していた時期だと聞きました。何か取り組んだことはありましたか。

法務研修の動画をYouTubeで配信する取り組みを始めました。私が入社したのは2020年3月で、社員はリモートワーク中心になり、対面での法務研修の実施が難しくなっていました。「会社として法務リテラシーが成熟しきっていない中で、社員への教育機会は欠かしてはいけない」と思い、試行錯誤しながら取り組みました。
また、Slackで法務相談専用チャンネルを作り、法務部員がオフィスに出社していなくても気軽に相談できる体制を整えたり、法務部に問い合わせなくても、事業部門が自分たちで課題を解決できるよう、社内のイントラネットにFAQ集を置き、法務部門から全社に向けた定期的な情報発信を行うようにしました。

これらの取り組みはコロナ禍において社内でも評価いただき、法務部門の認知度は向上し、法務相談は激増しました。当時からいたメンバーだけではとても対応しきれなくなってしまったので、中途入社で優秀なメンバーに入ってもらい、私がマネージャーになり、今のチームの形が出来上がりました。

誰かがミスをしても、周りがカバーできる「チーム」を作る

―――チーム作りで心がけていることを教えてください。

誰かがミスをしても、必ず周りがリカバリーできる体制を作ることです。

実はこの前、私自身法務相談への回答を間違えてしまったことがありました。事業部門の説明と私の理解がズレていたことで起こったのですが、私が前提を確認せずに答えてしまったことが原因でした。チームメンバーが、この案件の話題が別の会議中に出たことで気づき、事業部門にリスクがあることを指摘してくれました。

マネージャーの立場として語ることが多くなりましたが、大事なのは支えてくれる周りだとつくづく感じます。法務部門の管理職である私が言うのもどうかとは思いますが、ミスやヒューマンエラーは起きるものなので、起きたことをチーム全体でリカバリーする仕組みを作るべきだと思います。
「チーム」といいましたが、その仕組みは法務部門に限らず、全社に広く網が張られているような状態が個人的な理想です。他部門から「この件、法務に話入ってる?」と法務部門に連絡をもらえて、隠れていたリスクが発覚するようなケースもありました。

岡崎みやさん

―――他部門に仲間を作るために、取り組んでいることはありますか。

リモートワーク中心の生活ですが、出社した日は絶対にオフィスを一周するようにしています。知っている人を見かけたら声を掛けたり、細かいですが、備品の配置や座席など何か変化がないか確認したりしています。せっかく出社したのに、デスクでWeb会議をしているだけではもったいないですよね。

他部門を経験したから分かる相談の本質

―――法務以外の仕事を経た経験は、今の仕事にも生きていますか。

私がマネージャーをしているチームは、私より年上のメンバーが大半です。法務職としてのスキルも、これまでの経験で培われた知識も私よりはるかに豊富で、尊敬するメンバーばかりです。そんな彼らに私ができることはそれほど多くないのですが、事業部門の視点や業務フローを意識して「進め方、伝え方はこうした方が良い」とアドバイスするようにしています。事業部門とメンバーとのコミュニケーションにはほぼ全部目を通し、「ボタンのかけ違い」が起きていると感じたら、その都度声をかけるようにしています。

振り返ってみて、回り道をして良かったなと思います。

自分が法務ではない立場を経験したことで、見える景色は大きく変わりました。事業部門がどうして法務部門に相談しづらいと思うのかが分かるようになりましたし、「この相談に違和感が残るのは、背景が聞けていないからだ」「相談者は本当はこう思っているが、何らかの事情があって言えないでいるのではないか」など、法務部門だけでキャリアを積んでいたら見えなかったことが、少し見えるようになりました。自分が事業を推進する一員でもあるのだという当事者意識も強く持てるようになりました。

私より後の世代にいる法務のみなさんには、「法務の仕事は幅広く、奥が深く、面白い」「法務以外のキャリアを選択しても、最終的に法務に戻ったときには、その経験が必ずプラスになるよ」と伝えたいです。

岡崎みやさん

私の一品

岡崎みやさん_私の一品

ハンドクリームとネイルオイル。会議後の気分転換や乾燥対策でデスクに常備しています。パッケージに書いてある時間は商品名なのですが、それぞれ香りや成分が違うので、その時の気分で使い分けています。

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
ひと目でわかる要チェック条文 業務委託契約書編