【2024年施行】産業競争力強化法等改正とは?
国内投資拡大・中堅企業・スタートアップ支援・
変更のポイントなどを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

2024年5月31日に産業競争力強化法等の改正法が国会で可決・成立し、同年6月7日に公布されました。改正法は同年9月2日に施行されます。

今回の産業競争力強化法等改正の目的は、戦略的国内投資を拡大すること、および国内投資拡大に繋がるイノベーションや新陳代謝の促進を図ることです。
そのために、国内外における競争力を確保すべき商品の生産や、中堅企業者・中小企業者によるイノベーションに向けた取り組みなどに関して、税制優遇措置などが設けられます。

この記事では、2024年9月施行の産業競争力強化法等改正について、従前からの変更のポイントを解説します。

ヒー

「新しく『中堅企業』って分類ができるらしいけど、うちは該当するの?」という質問がありました。これって産業競争力強化法の話でしょうか?

ムートン

そうですね、改正により、国内投資やイノベーションのための税制優遇が始まります。自社が活用できる制度がないか確認してみてもよいかもしれませんね。

※この記事は、2024年7月31日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 法…「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」による改正後の産業競争力強化法
  • 令…産業競争力強化法施行令

【2024年9月施行】産業競争力強化法等改正とは

2024年5月31日に産業競争力強化法等の改正法が国会で可決・成立し、同年6月7日に公布されました。改正法は同年9月2日に施行されます。

産業競争力強化法等改正の背景

産業競争力強化法は、日本の産業を中長期にわたる低迷の状態から脱却させ、持続的発展の軌道に乗せるための施策などを定めた法律です。

今回の産業競争力強化法等改正の背景には、30年ぶりの高水準の賃上げおよび国内投資という「潮目の変化」があります。

地政学的リスク(戦争など)の拡大をはじめとするマクロ環境の変化と、気候変動やデジタル化などの課題解決を目指した産業政策により、稀に見る高水準の賃上げと国内投資が行われています。
こうした「潮目の変化」を持続化し、賃上げと経済活性化を伴うインフレとなるように、後述する施策を盛り込んだ産業競争力強化法の改正法が成立しました。

ムートン

平たくいうと、物価高から始まったインフレを、賃上げや経済活性化に繋げていきましょうという施策ですね。

公布日・施行日

産業競争力強化法等改正の公布日施行日は、以下のとおりです。

公布日・施行日

公布日2024年6月7日
施行日2024年9月2日
※一部の規定を除く

産業競争力強化法等改正の2つのポイント

今回の産業競争力強化法等改正は、以下の2点がポイントとなっています。

① 戦略的国内投資の拡大
② 国内投資拡大に繋がるイノベーションおよび新陳代謝の促進

改正点1|戦略的国内投資の拡大に向けた税制措置等

産業競争力強化法等改正の1つ目のポイントは、戦略的国内投資の拡大に向けた税制措置等です。

具体的には、一定の要件を満たす事業活動に対して、以下の優遇措置が設けられています。

① 「産業競争力基盤強化商品」に関する税制措置等
(a) 戦略分野国内生産促進税制
(b) 日本政策金融公庫によるツーステップローン

② イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)

「産業競争力基盤強化商品」に関する税制措置等

今回の産業競争力強化法等改正では、「産業競争力基盤強化商品」の生産・販売事業を優遇する税制措置等が設けられました。

産業競争力基盤強化商品としては、

半導体(マイコン・アナログ半導体)
自動車(電気自動車)
鉄鋼(グリーンスチール)
基礎化学品(グリーンケミカル)
燃料(持続可能な航空燃料(SAF))

などのうち、かっこ内に挙げたような日本の産業の基盤となることが見込まれ、かつ国際競争力に対応して事業者が市場を獲得することが特に求められるものが、政令および主務省令によって指定されます(法2条14項)。

産業競争力基盤強化商品の生産・販売に関する計画を主務大臣が認定した場合は、「戦略分野国内生産促進税制」と「日本政策金融公庫によるツーステップローン」を利用できます。

戦略分野国内生産促進税制

戦略分野国内生産促進税制」は、生産段階におけるコストが高いことなどを理由として、投資判断が容易ではない戦略分野を対象に、企業の新たな国内投資を引き出すことを目的として税額控除措置を講じる制度です。
戦略分野国内生産促進税制を利用すると、初期投資のコストが下がるため、戦略分野への投資が増える効果が期待されます。

税額控除の対象となるのは、上記の電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料(SAF)、半導体(マイコン・アナログ半導体)です。
産業競争力強化法に基づく事業計画の認定から10年間税額控除が受けられ、さらに最大4年(半導体については3年)の繰越期間が認められています。
なお、控除できるのは法人税額最大40%(半導体については最大20%)です。

参考:経済産業省ウェブサイト「戦略分野国内生産促進税制」

日本政策金融公庫によるツーステップローン

主務大臣の認定を受けた計画に基づく産業競争力基盤強化商品の生産・販売については、日本政策金融公庫によるツーステップローンを利用できます。

ツーステップローン」とは、主務大臣の指定を受けた金融機関から、日本政策金融公庫が提供する長期・低金利の財政融資を原資とした融資等を受けられる制度です。
一般的な融資よりもはるかに好条件での借り入れができるため、戦略分野における大規模な事業投資がしやすくなります。

イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)

イノベーション拠点税制イノベーションボックス税制)」とは、研究開発拠点としての立地競争力を強化し、民間による無形資産投資を後押しすることを目的とした税制優遇を行う制度です。
特許やAI関連ソフトウェアなどの知的財産に対して税制優遇措置が適用されるため、日本国内における知的財産の研究開発およびイノベーションが促進される効果が期待できます。

イノベーション拠点税制の対象となるのは、日本国内において自ら研究開発をして生み出した、特許権およびAI関連ソフトウェアの著作権です。
対象となる知的財産によって生じたライセンス所得および譲渡所得につき、30%所得控除を受けることができます。法人の実効税率ベースでは、イノベーション拠点税制の適用を受けた場合、29.74%から約20%相当まで引き下げられます。

参考:経済産業省ウェブサイト「イノベーション拠点税制(イノベーションボックス税制)の検討経緯と概要について」

改正点2|国内投資拡大に繋がるイノベーションおよび新陳代謝の促進に向けた税制措置等

産業競争力強化法等改正の2つ目のポイントは、国内投資拡大に繋がるイノベーションおよび新陳代謝の促進に向けた税制措置等です。

具体的には、以下の優遇措置が設けられています。

① 特定中堅企業者等の事業再編計画に関する税制措置等の支援
(a) 中堅・中小グループ化税制
(b) 日本政策金融公庫によるツーステップローン
(c) 知財管理に関するINPITの助言・助成

② スタートアップ企業への支援

③ 企業横断的な措置

特定中堅企業者等の事業再編計画に関する税制措置等の支援

今回の産業競争力強化法等改正では、「特定中堅企業者」および「中小企業者」を対象として、事業再編計画に関する支援措置が設けられました。

特定中堅企業者または中小企業者が、成長を伴う事業再編計画について主務大臣の認定を受けた場合は、以下の支援措置を利用できます。

(a) 中堅・中小グループ化税制
(b) 日本政策金融公庫によるツーステップローン
(c) 知財管理に関するINPITの助成・助言

中堅企業者・特定中堅企業者・中小企業者とは

中堅企業者」とは、常時使用する従業員の数が2,000人以下の会社および個人であって、中小企業者ではない者をいいます(法2条24項。中小企業者については後述)。

特定中堅企業者」とは、中堅企業者であって、その成長発展を図るための事業活動を行っているものとして主務省令で定める要件に該当するものをいいます(法34条の2第1項)。特定中堅企業者は「特に賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者」とされており、具体的な要件は今後主務省令によって定められる予定です。

中小企業者」とは、業種に応じた資本金の額または出資の総額・常時使用する従業員の数の要件をいずれも満たす会社および個人、ならびに企業組合・協業組合・特別の法律によって設立された組合または連合会などです(法2条23項、令2条)。

<中小企業者の要件>
業種資本金の額または出資の総額常時使用する従業員の数
製造業、建設業、運輸業3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業
(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く)
5000万円以下100人以下
小売業5000万円以下50人以下
ゴム製品製造業
(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く)
3億円以下900人以下
ソフトウェア業または情報処理サービス業3億円以下300人以下
旅館業5000万円以下200人以下
その他の業種3億円以下300人以下

中堅・中小グループ化税制

成長を伴う事業再編計画について主務大臣の認定を受けた特定中堅企業者または中小企業者は、「中堅・中小グループ化税制」の適用を受けることができます。

中堅・中小グループ化税制は、特定中堅企業者または中小企業者が、複数回にわたってM&Aを行う場合に税制優遇を行う制度です。
取得価額10億円以下のM&Aを株式取得によって実施する場合に、取得価額最大100%10年間、損失準備金として積み立てることができます。
従来も取得価額の最大70%について5年間の損失準備金の積み立てが認められていましたが、今回の産業競争力強化法等改正によってさらに拡充されました。

損失準備金は、10年間の据置期間が経過した後で均等に取り崩し、法人税等または所得税・住民税の負担を軽減することができます。

参考:中小企業庁ウェブサイト「中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)」

日本政策金融公庫によるツーステップローン

主務大臣の認定を受けた特定中堅企業者または中小企業者の事業再編計画についても、日本政策金融公庫によるツーステップローンの対象となります。

ツーステップローンを利用することで、特定中堅企業者または中小企業者のM&Aに必要な資金調達を、有利な条件で行うことができます。

知財管理に関するINPITの助言・助成

独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPITは、事業再編計画について主務大臣の認定を受けた特定中堅企業者の依頼に応じて、工業所有権の保護および利用に関して必要な助言を行うものとされています(法34条の2第1項)。

またINPITは、事業再編計画について主務大臣の認定を受けた特定中堅企業者に対して、その工業所有権の保護および利用を図るために、必要な助成を行うことができるものとされています(同条2項)。

INPITの助言や助成を受けることにより、特定中堅企業者はM&A等を進めるに当たり、よりよい形で知的財産管理できるようになります。

スタートアップ企業への支援

今回の産業競争力強化法等改正では、国内投資の拡大に繋がるイノベーションと新陳代謝の促進を図るため、スタートアップ企業を支援するための以下の措置が設けられました。

スタートアップ企業への支援

(a) 産業革新投資機構(JIC)が有価証券等の処分を行う期限が、2034年3月末から2050年3月末まで延長されました。

(b) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、ディープテック・スタートアップの事業開発活動に対する補助業務を行うことができるものとされました。

(c) LPS(投資事業有限責任組合)において、暗号資産を取得・保有する事業を営むことができるようになりました。

(d) スタートアップ企業が、ストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組み(ストックオプション・プール)が整備されました。

ヒー

「ストックオプション・プール」って何ですか?

ムートン

概要としては、一定の枠内のストックオプションについて取締役会の判断で発行できるようになる仕組みで、人材獲得のためにストックオプションを機動的に付与したい会社のニーズに応えるものです。

企業横断的な措置

改正後の産業競争力強化法では、事業者と大学等が共同で行う研究開発と一体的に行う事業活動のうち、新たな需要の開拓を目的として、技術の産業標準化・国際標準化、知的財産権の取得・活用、または秘匿が必要であるものが「特定新需要開拓事業活動」と位置付けられました(法2条11項)。

特定新需要開拓事業活動については、経済産業大臣が実施指針を定めた上で(法21条の12)、INPITNEDOが必要な助言を行い(法21条の15・21条の16)、計画的に展開するものとされています。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

経済産業省ウェブサイト「「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」