発信者情報開示請求とは?
制度の概要・手続の流れ・対応方法などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「発信者情報開示請求」とは、権利侵害情報がインターネット上に匿名で発信された場合に、被害者がプロバイダに対して、発信者の特定に資する情報(発信者情報)の開示を請求することを可能にするものとして、プロバイダ責任制限法で定められているものをいいます。
発信者情報開示請求は、SNSや電子掲示板における匿名の投稿により、名誉権などの人格権や、著作権などの財産権を侵害された場合に、投稿者に対して損害賠償請求等を行うための前段階として、投稿者を特定するために行われます。
この記事では「発信者情報開示請求」について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月12日時点の法令等に基づいて作成されています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- プロバイダ責任制限法・法…特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
- 施行規則…特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則
目次
発信者情報開示請求とは
「発信者情報開示請求」とは、インターネット上の匿名の投稿により他人の権利が侵害された場合に、被害者がプロバイダに対して、発信者の特定に資する情報(発信者情報)の開示を請求することを可能にするものであり、プロバイダ責任制限法に定められています。
電子掲示板やSNSなどのインターネット上の投稿によって、名誉権やプライバシー、著作権などの権利が違法に侵害された場合、被害者は、投稿を行った発信者に対して、損害賠償請求等の法的な請求を行うことができます。しかし、電子掲示板やSNSなどのインターネット上の投稿は匿名で行われることも多く、発信者の名前や住所が分からなければ、発信者に対して法的な請求を行うことができません。
そこで、発信者情報開示請求により、電子掲示板やSNSの運営者、投稿時やアカウントへのログイン時等の通信を媒介した通信事業者などのプロバイダに対して、発信者の特定に資する情報の開示を求めることで、発信者の氏名または名称および住所といった情報を取得し、発信者に対する損害賠償請求等を実現することになります。
本記事では、発信者情報開示請求の要件等の制度概要や、手続の流れ、被害者、発信者およびプロバイダそれぞれの立場で実務上留意すべき点などについて解説します。
発信者を特定するまでの流れ
まずは、発信者情報開示請求により発信者を特定するまでの流れについて解説していきます。
上記のとおり、インターネット上の投稿により権利を侵害された者は、プロバイダに対して発信者情報開示請求をすることによって発信者を特定することができますが、請求の相手方となるプロバイダは、大別すると以下の2種類になります。
コンテンツプロバイダ:主に、SNS、電子掲示板、ブログサービスなどのインターネット上のコンテンツ(情報)を提供するサービス事業者
アクセスプロバイダ:携帯キャリアなど、インターネット接続サービスを提供する事業者
電子掲示板やSNSなどは、当該サービスのWebページ等を確認すればその運営者を確認できる場合が多いため、電子掲示板の運営者やSNS運営者等のコンテンツプロバイダが発信者の氏名や住所といった情報を保有しているケースであれば、当該コンテンツプロバイダに対して発信者の氏名や住所等の開示を請求すれば足ります。
もっとも、電子掲示板運営者やSNS事業者などのコンテンツプロバイダは、ユーザの氏名や住所といった情報を保有していない場合も多いため、多くの場合には、他人の権利を侵害する投稿(以下「権利侵害投稿」という)に係る通信または権利侵害投稿が行われたアカウントへのログイン時等の通信をたどって発信者を特定することになります。
そのため、多くのケースでは、1つの権利侵害投稿についての発信者を特定するために、以下のとおり、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求を行った後、通信を媒介したアクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求を行うという2段階の手続を経ることが必要になります。
第1段階:電子掲示板やSNSの運営者などのコンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求
第2段階:コンテンツプロバイダから開示を受けた発信者情報によって特定されるアクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求
第1段階:コンテンツプロバイダに対する請求
第1段階のコンテンツプロバイダに対する請求では、主に、権利侵害投稿時の通信または権利侵害投稿を行ったアカウントへのログイン時等の通信に係るアクセスログに含まれる情報、具体的には、当該通信に係るIPアドレスおよびタイムスタンプの開示請求が行われます。
被害者は、コンテンツプロバイダから開示を受けたIPアドレス等の情報を使用して通信を媒介したアクセスプロバイダを特定し、第2段階の手続を行うことになります。
なお、SNS等のアカウントを作成し、当該アカウントにログインして投稿等を行うログイン型のサービス(以下「ログイン型のサービス」という)については、投稿時のアクセスログを保存していない場合も多いことから、アカウントへのログイン時等のアクセスログに含まれる情報の開示を求めることになります。
具体的には、プロバイダ責任制限法5条3項、施行規則5条に定められた権利侵害投稿に関連する一定の範囲の通信(侵害関連通信)を構成するIPアドレスやタイムスタンプ等の情報(特定発信者情報)が開示請求の対象となります。
- 侵害関連通信とは
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侵害情報の発信者が行った以下に掲げる類型に該当する通信であって、侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの
・アカウント作成時の通信
・アカウントへのログイン時の通信
・アカウントからのログアウト時の通信
・アカウント削除時の通信
この特定発信者情報の開示請求は、SNS等のログイン型のサービスにおける権利侵害が深刻化しつつある中で、従来はログイン時等の通信に係る発信者情報の開示が認められるか否かが法律上明らかになっていなかったことを踏まえ、2021年のプロバイダ責任制限法改正(以下「2021年改正」という)により定められたものです。
第2段階:アクセスプロバイダに対する請求
第2段階のアクセスプロバイダに対する請求では、主に、発信者の氏名または名称および住所の開示請求が行われます。また、併せて発信者の電話番号やメールアドレスの開示が請求されるケースも多いです。
アクセスプロバイダへの請求に当たっては、コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレス、タイムスタンプ等の情報を提示し、これらによって特定される契約者の情報の開示を請求することになります。請求を受けたアクセスプロバイダは、IPアドレス、タイムスタンプ等の情報を自社のデータベース内の情報と照合することで発信者を特定し、開示請求の要件を充たす場合には、発信者情報を開示することになります。
このような2段階の手続を経ることで、被害者は、発信者の氏名、住所等の情報を取得することができます。
その他のパターン
以上は、典型的なケースにおける特定の流れをご紹介したものですが、前述のとおり、特定までの流れはケースによって異なり、例えば以下のような流れで特定されることもあります。
特定の流れ | 具体例 | |
---|---|---|
コンテンツプロバイダが発信者の氏名、住所を保有している場合 | ・コンテンツプロバイダに対する氏名、住所等の開示請求 | 氏名、住所等の登録が必要なECモールにおける口コミやレビューによって権利侵害が生じた場合 |
アクセスプロバイダが多層的に関与している場合 | 1)コンテンツプロバイダに対するIPアドレス等の開示請求 2)上層のアクセスプロバイダに対する下層のアクセスプロバイダの名称、住所等の開示請求 3)下層のアクセスプロバイダに対する発信者の氏名、住所等の開示請求 | 発信者がMVNO(下層のアクセスプロバイダ)と契約しており、MNO(上層のアクセスプロバイダ)の通信網を利用して権利侵害投稿が行われた場合 |
コンテンツプロバイダが発信者の電話番号を保有している場合 | 1)コンテンツプロバイダに対する電話番号の開示請求 2)電話会社に対する電話番号の契約者の氏名、住所等についての照会(弁護士会照会) | 権利侵害投稿を行ったSNSのアカウントにSMS認証等に用いられる電話番号が登録されていた場合 |
発信者情報開示請求の3つの要件
発信者情報開示請求が認められるには、以下の要件を充たすことが必要になります。
- 発信者情報開示請求の要件
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・「特定電気通信」による情報の流通であること(=不特定の者に受信されることを目的としたインターネット上の投稿であること)
・請求者の権利が侵害されたことが明らかであること(権利侵害の明白性)
・開示を受けるべき正当な理由
・請求の相手方が「開示関係役務提供者」に該当すること(=開示請求の相手方となるプロバイダであること)
・請求客体となる情報が「発信者情報」に該当すること
・請求先が当該発信者情報を「保有」していること
・補充性(ただし、特定発信者情報の開示請求の場合に限る)
以下では、このうち、ポイントとなる3つの要件について解説します。
①権利侵害の明白性とは
インターネット上の投稿により、請求者の権利が侵害されたことが明らかであることが要件とされており(法5条1項1号・同条2項1号)、「権利侵害の明白性」の要件と呼ばれることがあります。実務上は、この要件を充たすかどうかが争点となるケースが多いといえます。
権利が侵害されたか否かの判断基準は、名誉権やプライバシーなどの被侵害利益の種類に応じて異なります。また、被侵害利益ごとの判断基準は、プロバイダ責任制限法に定められておらず、これまでの判例や裁判例の蓄積により形成されてきたため、判例や裁判例を踏まえて本要件の該当性について検討することが必要になります。
また、発信者の表現の自由やプライバシー、通信の秘密の保護の観点から、単に権利の侵害が認められるだけでなく、権利が侵害されたことが「明らか」であるという厳格な要件が定められています。
権利が侵害されたことが「明らか」とは、権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味するとされています(総務省総合通信基盤局消費者行政第二課「プロバイダ責任制限法[第3版]」第一法規、2022年、104頁)。
②開示を受けるべき正当な理由とは
開示を受けるべき正当な理由とは、開示請求者が発信者情報を入手することの合理的な必要性が認められることを意味するとされています(前掲「プロバイダ責任制限法」107頁)。
発信者に対する損害賠償請求を予定している場合には、基本的に本要件が認められることから、実務上は、本要件が争点となるケースは少ないといえます。
③補充性とは
特定発信者情報、すなわち、アカウントへのログイン時等の通信(侵害関連通信)に係る発信者情報の開示請求を行う場合には、補充性の要件を充たすことが必要になります(法5条1項3号)。
補充性の要件は、大要、侵害関連通信をたどらないと発信者を特定できない場合であることを求めており、具体的には、以下①から③のいずれかに該当することが必要になります。
①プロバイダが当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
②プロバイダが保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもの(氏名または住所のどちらか一方、電話番号、メールアドレス、タイムスタンプ)のみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名および住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
③開示の請求をする者が法5条1項により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。
発信者情報開示請求の方法・手続
発信者情報開示請求の方法としては、以下の方法があります。
① 裁判外での請求
② 訴訟提起
③ 仮処分の申立て
④ 発信情報開示命令の申立て
大まかな傾向としては、特に海外のプロバイダやアクセスプロバイダが裁判外での請求に応じるケースは多くないといえ、多くの場合は➁~④の裁判手続によることが必要になります。
仮処分・訴訟
仮処分(仮の地位を定める仮処分)の申立ての手続は、私法上の権利義務関係を終局的に確定するものではなく、一定の暫定的は権利関係を形成するための手続です。そのため、通常の訴訟と比べ、迅速に手続が進みます。また、発信者情報開示請求権の要件に係る立証も疎明で足り、被害者の立場からすると、訴訟の場合に比べて制度上の立証の負担は軽いといえます。他方で、仮処分の場合、発信者情報開示請求の要件のほかに、保全の必要性という要件を充たすことが必要になります。
一般的には、氏名または名称、住所、電話番号、およびメールアドレスについては保全の必要性が認められないため、これらの開示を請求する場合には仮処分の手続を利用することができません。仮処分が利用できるのは、主に、コンテンツプロバイダに対して、IPアドレスやタイムスタンプ等の開示を請求する場合となります。
訴訟の場合には、手続の進行が遅く、仮処分と比べて迅速性は低いと言えます。他方で、保全の必要性の要件は不要であり、請求できる発信者情報の種類に制限はありません。2021年改正前は、氏名または名称、住所、電話番号、およびメールアドレスの開示を請求する場合には、通常、訴訟手続が用いられていました。
発信者情報開示命令事件|2022年施行の改正プロバイダ責任制限法で新設
前述のとおり、多くのケースにおいて、コンテンツプロバイダに対する仮処分の申立てによりIPアドレス等の開示を受けてから(第一段階)、アクセスプロバイダに対して訴訟により発信者の氏名、住所等の開示を請求する(第二段階)という2段階の裁判手続が必要になっていました。
このような従前の手続に関しては、裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっていることが指摘されていました(発信者情報開示に関する研究会「最終とりまとめ」4~5頁)。
このような課題を解決する観点から、2021年改正では、訴訟、仮処分の手続に加えて、一体的な手続として取り扱うことが可能な新たな裁判手続として、発信者情報開示命令事件の手続が創設されました。
発信者情報開示命令事件の手続では、以下の3つの命令を用いて手続が進められます。
発信者情報 開示命令 | ・開示関係役務提供者(プロバイダ)に対して発信者情報の開示を命ずるもの。 ・被害者の申立てに基づき、前述した発信者情報開示請求の要件を充たす場合には、決定により行うことができる。 |
提供命令 | ・開示関係役務提供者に対して、以下の事項を命ずるもの。 ①保有する発信者情報により特定される他の開示関係役務提供者(主に、通信を媒介したアクセスプロバイダ)の氏名等情報(氏名または名称および住所)を申立人に提供すること ②申立人から、①の他の開示関係役務提供者を相手方として開示命令の申立てをした旨の通知を受けた場合に、保有する発信者情報を当該他の開示関係役務提供者に提供すること ・前述した発信者情報開示請求の要件を充たすことは不要。 ・被害者の申立てに基づき、決定により行うことができる。 |
消去禁止 命令 | ・開示関係役務提供者に対して、開示命令の申立てに係る事件(異議の訴えが提起された場合にはその訴訟)が終了するまでの間、その保有する発信者情報の消去禁止を命ずるもの。 ・被害者の申立てに基づき、決定により行うことができる。 |
前述した典型的なケースにおけるこれらの3つの命令を活用した手続の流れの例は以下のとおりです。
- 発信者情報開示命令事件の手続の流れ
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① 申立人は、コンテンツプロバイダを相手方として、IPアドレス等についての開示命令の申立ておよび提供命令の申立てを行う。
② 裁判所は、コンテンツプロバイダに対して、提供命令を発令する。
③ コンテンツプロバイダは、提供命令に基づき、保有する発信者情報(IPアドレス等)を用いてアクセスプロバイダの氏名または名称および住所の特定を行う。
④ コンテンツプロバイダは、申立人に対して、③の特定の結果を提供する。
⑤ 申立人は、④で提供された結果に基づき、アクセスプロバイダを相手方として、発信者の氏名、住所等についての開示命令の申立ておよび消去禁止命令の申立てを行う。
⑥ 申立人は、コンテンツプロバイダに対して、⑤の申立てを行った旨の通知を行う。
⑦ コンテンツプロバイダは、提供命令に従い、アクセスプロバイダに対して、保有する発信者情報(IPアドレス等)を提供する。
⑧ アクセスプロバイダは、⑦で提供されたIPアドレス等を元に発信者の氏名および住所等を特定する。
⑨ 裁判所は、消去禁止命令について審理を行い、アクセスプロバイダに対して、消去禁止命令を発令する。
⑩ アクセスプロバイダは、⑨の命令に基づき、発信者情報を保全する。
⑪ 裁判所は、コンテンツプロバイダおよびアクセスプロバイダに対する開示命令の申立てについて併合した上で審理を行い、発信者情報開示請求の要件を充たす場合には開示命令を発令する。
上記のような流れはあくまでも一例ですが、提供命令によって、発信者情報開示請求の要件についての審理を行う前に、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダに対してIPアドレス等が提供されるため、アクセスプロバイダにおける発信者情報の迅速な保全が可能になるとともに、コンテンツプロバイダに対する申立てとアクセスプロバイダに対する申立てが併合されることで、同一事案について一体的に審理することが制度上可能になっています。
また、発信者情報開示命令事件は「非訟事件」の手続であり、通常の訴訟と比べて簡易な手続によって行われ、進行のスピードも訴訟の場合と比べて早い傾向にあります。
なお、訴訟と同様、請求の対象となる発信者情報の種類に制限はありません。
いずれの方法を選ぶか
被害者の立場で、いずれの方法により請求を行うべきかは個別の事案によって異なりますが、実務上は、発信者情報開示命令の申立てによるケースが多いと思われます。
裁判外開示は、金銭的・手続的な負担も少なく、迅速性も高い方法ではあるものの、前述のとおり、裁判外開示が行われるケースは少ない傾向にあり、裁判外開示を受けられなければ裁判手続によることが必要になります。
裁判手続のうち、仮処分の申立ては、IPアドレス等の開示を迅速に受けたい場合には選択肢となりますが、前述のとおり、氏名、住所等の開示請求の際には利用できません。
訴訟手続は、2021年改正の前は、氏名、住所等の開示を請求する際に利用されていたものの、2021年改正で発信者情報開示命令事件が創設されたことにより、迅速性の観点からは基本的には訴訟手続によるメリットがなくなったといえ、従来訴訟で行われていたケースの多くで発信者情報開示命令の申立てによることが有効になったと考えられます。
なお、2021年改正後も引き続き訴訟を利用するのが有益であるケースとしては、例えば、裁判外の開示に応じなかったプロバイダに対して損害賠償請求を併せて行いたい場合や、事前にプロバイダから強く争う姿勢を示されるなど、発信者情報開示命令が出たとしてもプロバイダから不服申立て行われてしまいかえって審理期間が長期化する可能性があるケースなどが考えられます。
発信者情報開示請求に関する対応
最後に、被害者、発信者、プロバイダそれぞれの立場での留意点や発信者情報開示請求に関する対応のポイントについて解説します。
被害者の立場|自分で進めることはできる?
発信者情報開示請求権は、被害者自身で行使することができ、裁判手続についても被害者本人が行うことが可能です。裁判外での請求については、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」の書式等もあり、それらを参考に手続を進めることが考えられます。
もっとも、発信者の同意が得られたケースを除いて、開示が認められるには、権利侵害の明白性の要件などの法的な要件の主張・立証が必要になること、事案に応じて適切な請求の方法を検討する必要があることなどから、弁護士に依頼することが有効であると考えられます。
発信者の立場|開示を逃れることはできる?
発信者情報開示請求は、被害者のプロバイダに対する請求権であり、発信者は請求の当事者ではないため、開示を望まないとしても、被害者からの請求に対して自ら直接反論することはできず、また、裁判で開示が認められた場合であっても自ら不服申立てをすることはできません。
他方で、発信者の手続保障のため、発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、発信者に対して、原則として、開示に応じるか否かの意見聴取を行う義務を負っており(法6条1項)、開示を望まない発信者には自らの主張や証拠を提出する機会が与えられています。発信者から主張や証拠の提出があった場合、プロバイダはかかる主張や証拠を踏まえて被害者からの開示請求に対応するため、発信者は、プロバイダを通じて間接的に請求に対する反論を行うことができます。
特に、プロバイダが投稿内容に関する事実関係等を把握することは難しいため、投稿内容の真実性などについての根拠に基づく具体的な主張を行うことが困難なケースも多いといえます。そのようなケースにおいて、投稿において摘示した事実の根拠となる資料等を発信者が提出することで、有効な反論となる可能性があります。
もっとも、請求に対する反論は、あくまでもプロバイダ自身が自らの判断で行うものであり、発信者の主張どおりの反論を行うことが義務付けられているわけではないことには留意が必要です。
プロバイダの立場|どうやって特定する?
発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、以下のような流れで対応を行うことになります。
① 請求者の本人確認(裁判外の請求の場合)
② 発信者情報の保有の有無の確認
③ 発信者への意見聴取
④ 意見聴取の結果を踏まえて開示可否判断(裁判手続の場合、必要に応じて反論)
発信者への意見照会の結果、発信者が開示に同意した場合には、被害者に対して発信者情報を開示することになります。
発信者が開示に同意しない場合であっても、発信者の主張も踏まえつつ発信者情報開示請求の要件該当性を判断し、要件を充たすと判断できる場合には開示することができます。他方、要件を充たすと判断できない場合、裁判外の請求のときには不開示の回答をし、裁判手続のときは裁判上で反論を行うことになります。
また、2021年改正により提供命令の手続が創設されたことにより、コンテンツプロバイダによるアクセスプロバイダの特定作業という従来に無い対応が必要になるケースが生じることになったことから、コンテンツプロバイダにおける提供命令への対応には留意が必要です。
アクセスプロバイダの特定作業の方法については、一般的に用いられる技術的な方法を用いることになるとされており、実務対応としては、WHOIS(フーイズ)と呼ばれる、IPアドレスなどのインターネット資源の登録情報を提供するサービスを利用して調査を行うことになると考えられます。もっとも、WHOISに登録されている情報は、情報の更新がされていない場合があるなど、必ずしも正確ではない場合があるため、WHOIS検索によって得た情報をもとに、会社ホームページや登記情報などを確認することで正確性を確保することが望ましいと考えられます。
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参考文献
総務省総合通信基盤局消費者行政第二課著「プロバイダ責任制限法[第3版]」第一法規、2022年