控訴とは?
上告との違い・民事訴訟と刑事訴訟の違い・
手続きの流れなどを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「控訴(こうそ)」とは、訴訟の第一審判決に対して不服を申し立てる手続きです。日本では、訴訟における審理に慎重を期すため「三審制」が採用されており、控訴審は第二審に当たります。
民事訴訟法と刑事訴訟法において、民事訴訟と刑事訴訟の控訴に関するルールや手続きがそれぞれ定められています。
民事訴訟の控訴と刑事訴訟の控訴の間にはさまざまな違いがありますが、控訴によって不服申立てがなされた事項に絞って審理されるというのが共通する考え方です。控訴審判決に対して不服がある場合は、さらに「上告」を行うことができます。ただし控訴に比べると、上告が認められる場合は狭く限定されています。
控訴・上告の手続きを経て、判決が確定することになります。この記事では控訴について、民事訴訟と刑事訴訟の違いや手続きの流れなどを解説します。
※この記事は、2024年12月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
控訴とは
「控訴(こうそ)」とは、訴訟の第一審判決に対して不服を申し立てる手続きです。
上訴の種類|控訴と上告の違い
訴訟における裁判所の決定に対して不服を申し立てる手続きは「上訴」と呼ばれます。控訴は、第一審判決に対する上訴に当たります。
判決に対する上訴としては、控訴のほかにも「上告」があります。上告は、控訴審の判決に対して不服を申し立てる手続きです。
日本では「三審制」が採用されており、訴訟の審理は「第一審→控訴審→上告審」の最大3段階で行われます。
控訴が認められている理由
控訴や上告が認められているのは、訴訟における審理に慎重を期すためです。
訴訟において判断を行う裁判所は、実際に事件を経験した当事者ではありません。裁判所は、当事者から提出された資料などに基づき、真実に沿った判断ができるように審理を行いますが、時には誤ってしまうこともあります。
そのため、日本では「三審制」が採用されています。1つの裁判所だけが審理を行うのではなく、控訴審や上告審を担当する上級裁判所が第一審判決の妥当性をチェックするという仕組みがとられています。
裁判所がダブルチェック、トリプルチェックを行うことにより、真実に沿った判断がなされる可能性を高めることが、控訴や上告が認められている理由です。
民事訴訟の控訴と、刑事訴訟の控訴の違い
民事訴訟とは、法律上の権利・義務に関する紛争の解決を目的とした訴訟です。
刑事訴訟とは、犯罪を疑われる被告人の有罪・無罪および量刑の決定を目的とした訴訟です。
民事訴訟と刑事訴訟では、それぞれ第一審判決に対する不服申立てとして、控訴が認められています。いずれも、控訴によって不服申立てがなされた事項に絞って審理されるというのが共通する考え方です。
その一方で、民事訴訟の控訴と刑事訴訟の控訴の間には、以下に挙げるようにさまざまな違いがあります。
民事訴訟 | 刑事訴訟 | |
---|---|---|
控訴の理由 | 限定されていない | 限定されている |
控訴を提起する裁判所 | 第一審が地方裁判所の場合 →高等裁判所 第一審が簡易裁判所の場合 →地方裁判所 | 高等裁判所 |
控訴期間 | 判決書等の送達日の翌日から起算して2週間以内 | 判決の言渡し日の翌日から起算して14日以内 |
控訴を提起する際に提出する書類 | 控訴状 控訴理由書 | 控訴申立書 控訴趣意書 |
附帯控訴 | あり | なし |
和解 | あり | なし |
弁論する人 | 両当事者 代理人弁護士 | 検察官 弁護人(被告人本人の弁論は不可) |
民事訴訟の控訴について
民事訴訟の控訴に関する手続きやルールを解説します。
控訴ができる民事訴訟の判決
民事訴訟の控訴は、地方裁判所が第一審としてした終局判決、または簡易裁判所の終局判決に対してすることができます(民事訴訟法281条1項)。
刑事訴訟とは異なり、民事訴訟の控訴の理由は特に限定されていません。
ただし、原告と被告の間で控訴をしない旨を合意していた場合には、控訴が認められません(=不控訴の合意)。
なお、上告権を留保した上で不控訴の合意をすることも認められます(=飛躍上告の合意)。飛躍上告の合意がなされた場合は、控訴が認められない一方で、上告理由があれば上告をすることができます。
民事訴訟の控訴を提起する裁判所
民事訴訟の控訴を提起する裁判所は、以下のとおりです。
・第一審が地方裁判所の場合
→高等裁判所(裁判所法16条1号)
・第一審が簡易裁判所の場合
→地方裁判所(同法24条3号)
控訴審を管轄する上級裁判所は、第一審裁判所の所在地に応じて決まります。裁判所の管轄区域は、裁判所ウェブサイトで確認できます。
民事訴訟の控訴期間
民事訴訟の控訴は、判決書または判決の言渡しをした口頭弁論期日の調書の送達を受けた日の翌日から起算して2週間以内に提起しなければなりません。ただし、判決書等の送達を受ける前に控訴を提起することは可能です(民事訴訟法285条)。
なお、2週間の最終日が土日祝日または年末年始(12月29日~1月3日)の場合は、次の平日が控訴期間の最終日となります。
判決書の送達は、判決の言渡しから数日後に郵便で受けるのが一般的です。特に希望する場合は、裁判所の書記官室で交付送達を受けることもできます。
民事訴訟の控訴を提起する手続き・費用
民事訴訟の控訴を提起する際には、第一審裁判所に控訴状を提出する必要があります(民事訴訟法286条)。
控訴の期間は限られているので、控訴状には求める判決の内容(=控訴の趣旨)だけを記載して、詳細な理由は追って提出するケースが多いです。
控訴状に控訴の理由に関する具体的な記載がないときは、控訴の提起後50日以内に控訴理由書を提出しなければなりません。控訴状とは異なり、控訴理由書の提出先は控訴裁判所です。
民事訴訟の控訴を提起する際には、所定の手数料額に相当する収入印紙を、控訴状に貼付しなければなりません。控訴の手数料額は、第一審の手数料額の1.5倍です。
例)
・訴額100万円の場合
訴えの提起(第一審):1万円
控訴の提起(控訴審):1万5千円
参考:裁判所「手数料額早見表」 |
民事訴訟の控訴審で審理される事項
民事訴訟の控訴審では、当事者が第一審判決の変更を求める事項に限って審理が行われます(民事訴訟法296条1項)。不服申立ての対象とされていない事項は、控訴審判決においても維持されます。
控訴審の口頭弁論において、当事者は第一審における口頭弁論の結果を陳述します(同条2項)。さらに、不服申立ての対象事項に関する主張や立証を行い、その内容を踏まえて和解や判決へと移行します。
附帯控訴とは
民事訴訟の控訴審において、控訴された側(=被控訴人)は「附帯控訴」をすることができます(民事訴訟法293条1項)。
附帯控訴とは、被控訴人が第一審判決について、自己に有利な変更を求める手続きです。控訴審における当事者間の公平を確保するために、附帯控訴が認められています。
附帯控訴がなされた場合、控訴裁判所は、第一審判決を被控訴人にとって有利な形で変更することも可能です。
附帯控訴の提起方法は控訴に準じますが、附帯控訴状は第一審裁判所ではなく、控訴裁判所に提出します(同条3項)。
民事訴訟の控訴審における和解
控訴審においても、第一審と同様に、裁判所は当事者に対して和解を提案することができます(民事訴訟法89条)。
当事者双方の間に和解が調った場合は、その内容を記載した和解調書が作成され、訴訟が終了します。和解調書の記載は、確定判決と同一の効力を有します(同法267条)。
民事訴訟の控訴審における判決の内容
民事訴訟の控訴審における判決の内容には、以下のパターンがあります。
- 控訴審の判決
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① 控訴棄却(民事訴訟法302条)
第一審判決を相当とするときは、控訴が棄却され、第一審判決が維持されます。② 破棄自判(同法305条)
第一審判決を不当とするときは、第一審判決が取り消されます。この場合は原則として、控訴裁判所が自ら新たな判断を行います。③ 破棄差戻し(同法307条・308条)
第一審判決を不当として取り消し、かつ以下のいずれかに該当するときは、控訴裁判所は事件を第一審裁判所に差し戻します。
・訴えを不適法として却下した第一審判決を取り消すとき(事件につきさらに弁論をする必要がないときを除く)
・事件につきさらに弁論をする必要があるとき④ 管轄違いによる移送(同法309条)
管轄違いを理由として第一審判決を取り消すときは、控訴裁判所は事件を管轄裁判所に移送します。
刑事訴訟の控訴について
刑事訴訟の控訴に関する手続きやルールを解説します。
控訴ができる刑事訴訟の判決
刑事訴訟の控訴は、地方裁判所または簡易裁判所がした第一審の判決に対してすることができます(刑事訴訟法372条)。
民事訴訟とは異なり、刑事訴訟では控訴の理由が以下の事由に限定されています(同法384条)。
- 刑事訴訟の控訴理由として認められる事由
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① 以下の事由(刑事訴訟法377条)
・法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
・法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
・審判の公開に関する規定に違反したこと② 以下の事由(同法378条)
・不法に管轄または管轄違いを認めたこと
・不法に公訴を受理し、または公訴を棄却したこと
・審判の請求を受けた事件について判決をせず、または審判の請求を受けない事件について判決をしたこと
・判決に理由を附せず、または理由に食い違いがあること③ ①②のほか、訴訟手続に法令の違反があって、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであること(同法379条)
④ 法令の適用に誤りがあって、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであること(同法380条)
⑤ 刑の量定が不当であること(同法381条)
⑥ 事実の誤認があって、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであること(同法382条)
⑦ 以下の事由(同法383条)
・再審事由があること
・判決があった後に、刑の廃止もしくは変更または大赦があったこと
刑事訴訟の控訴を提起する裁判所
刑事訴訟の控訴は、高等裁判所に対して提起します(裁判所法16条1号)。民事訴訟とは異なり、第一審が簡易裁判所の場合でも、刑事訴訟の控訴の提起先は高等裁判所です。
控訴審を管轄する裁判所は、第一審裁判所の所在地に応じて決まります。裁判所の管轄区域は、裁判所ウェブサイトで確認できます。
刑事訴訟の控訴期間
刑事訴訟の控訴期間は14日間です(刑事訴訟法373条)。
日数は原則として民事訴訟(2週間)と同じですが、起算日が以下のとおり異なります。
- 控訴期間の起算日
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民事訴訟
→判決書または判決の言渡しをした口頭弁論期日の調書の送達を受けた日の翌日刑事訴訟
→判決の言渡し日の翌日
また民事訴訟とは異なり、刑事訴訟の控訴期間については、最終日が土日祝日や年末年始であっても14日と不変です。
刑事訴訟の控訴を提起する手続き
刑事訴訟の控訴を提起する際には、第一審裁判所に控訴申立書を提出する必要があります(刑事訴訟法374条)。
また、控訴申立書とは別に、控訴の理由を簡潔に明示した控訴趣意書を控訴裁判所に提出する必要があります(刑事訴訟法376条、刑事訴訟規則236条~242条)。
控訴趣意書の提出期限は、控訴裁判所が訴訟記録の送付を受けた後、21日間以上の期間を定めて控訴申立人に通知します。
刑事訴訟の控訴審で審理される事項
刑事訴訟の控訴審では、主に控訴趣意書の記載事項について調査が行われます(刑事訴訟法392条)。
また、控訴趣意書に記載されていない事項についても、控訴理由に該当する事由に関しては、控訴裁判所による職権調査が認められています(同法393条)。
被告人のための弁論ができるのは弁護人のみ|被告人は原則として出頭不要
刑事訴訟の控訴審では、被告人のためにする弁論ができるのは弁護人のみとされています(刑事訴訟法388条)。被告人本人が弁論をすることはできません。
したがって、検察官と弁護人が弁論を行い、裁判所がそれを聞いて判断を行うことになります。
刑事訴訟の控訴審の公判期日には、原則として被告人が出頭する必要はありません(同法390条)。ただし控訴裁判所は、一部の軽微な事件を除き、被告人の権利保護のため重要であると認めるときは、被告人に対して出頭を命ずることができます。
刑事訴訟の控訴審における判決の内容
刑事訴訟の控訴審における判決の内容には、以下のパターンがあります。
- 控訴審の判決
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① 控訴棄却(刑事訴訟法396条)
控訴理由に当たる事由がないときは、控訴が棄却され、第一審判決が維持されます。② 破棄差戻し(同法398条・400条本文)
控訴理由に当たる事由があるときは、第一審判決が破棄されます。また、職権調査の結果として量刑不当と認められた場合も、第一審判決が破棄されることがあります。
民事訴訟とは異なり、刑事訴訟の控訴裁判所が判決を破棄する場合は、第一審へ差し戻すのが原則です。③ 破棄自判(同法400条但し書き)
第一審判決を破棄する場合において、すでに取り調べた証拠によって直ちに判決をすることができると認めるときは、控訴裁判所が自ら判決をすることができます。
※管轄違いや公訴棄却を理由とする場合を除きます。④ 管轄違いによる移送(同法399条)
不法に管轄を認めたことを理由として第一審判決を破棄するときは、事件が管轄のある第一審裁判所に移送されます。
控訴審判決に不服がある場合
控訴審判決に不服がある場合は、さらに上告を行うことができます。ただし控訴に比べると、上告が認められる場合は狭く限定されています。
民事訴訟の上告が認められるケース
民事訴訟の上告が認められるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
① 判決に憲法の解釈の誤りがあること、その他憲法の違反があることを理由とするとき(民事訴訟法312条1項)
② 以下の事由があることを理由とするとき(同条2項)
・法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと
・法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと
・日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと
・専属管轄に関する規定に違反したこと(特許権等に関する訴え等の管轄に関する、東京地方裁判所または大阪地方裁判所の専属管轄を除く)
・法定代理権、訴訟代理権または代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと
・口頭弁論の公開の規定に違反したこと
・判決に理由を付せず、または理由に食い違いがあること
③ 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするとき(同条3項)
※高等裁判所に対する上告に限ります。
ただし、最高裁判所に対する上告については、控訴審判決に最高裁判例と相反する判断があるなど、法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合には、上記の事由がなくても上告が受理されることがあります(同法318条)。
刑事訴訟の上告が認められるケース
刑事訴訟の上告が認められるのは、以下のいずれかに該当する場合です(刑事訴訟法405条)。
- 憲法の違反があること、または憲法の解釈に誤りがあること
- 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと
- 最高裁判所の判例がない場合に、大審院もしくは上告裁判所たる高等裁判所の判例、または刑事訴訟法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと
ただし、法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる場合は、判決確定前に限り、最高裁判所が自ら上告を受理することができます(同法406条)。
上告期間
上告の期間は、控訴の期間と同様に以下のとおりです(民事訴訟法313条、刑事訴訟法414条)。
民事訴訟:判決書または判決の言渡しをした口頭弁論期日の調書の送達を受けた日の翌日から起算して2週間
※最終日が土日祝日や年末年始(12月29日~1月3日)の場合は、次の平日が最終日
刑事訴訟:判決の言渡し日の翌日から起算して14日間
※最終日が土日祝日や年末年始でも考慮されず、14日間