ジョブ型雇用とは?
メンバーシップ型雇用との違い・定義・メリット・
留意点と今後の展望などを分かりやすく解説!

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弁護士法人高井・岡芹法律事務所弁護士
第一東京弁護士会所属 弁護士法人高井・岡芹法律事務所 人事・労務、企業法務一般(株主総会、CSR、その他会社経営一般)、M&A、訴訟・紛争解決等を取り扱う
この記事のまとめ

現在、わが国の国際競争力の回復、生産性の向上の観点から、ジョブ型雇用」の導入が唱えられています。

しかし、一口にジョブ型雇用といっても、その内容には幅があり、現在、わが国で考えられているジョブ型雇用は、あくまで、これまでのわが国の労働法制下で培われた内容(解雇権濫用法理等)との調整の下、各企業の実情に沿った導入が求められています(内閣官房・経産省・厚労省「ジョブ型指針」)。

ジョブ型雇用の導入、あるいはジョブ型雇用へのウェートは、これまでの労働法制および裁判例をドラスティックに変更するものではないと思われますが、それでも、現行の労働法制裁判例の解釈を前提としても、ジョブ型への志向は、個別の紛争解決に対する解釈において影響を受けることとなると思われます。

本稿では、「ジョブ型雇用」について、その意義や注目されるに至った背景から、労働実務に与える影響、今後の予測までを広く解説します。

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わが社でも「ジョブ型雇用」に移行しようという話があります。法務としてアドバイスする場合はどんな点に注意が必要でしょうか?

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まずは「ジョブ型雇用」を正確に理解し、導入した場合にどのような影響が想定されるかを把握しましょう。「ジョブ型雇用」を解説します!

※この記事は、2025年3月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

ジョブ型雇用とは

昨今は、ジョブ型雇用」の導入が話題になっています。そうした声をとりまとめたものの例として、2024(令和6)年8月28日には、内閣官房経済産業省厚生労働省の連名で「ジョブ型人事指針」が出されるに至り、その中では、以下のような方針が示されています。

・「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める。」
・「従来の我が国の雇用制度は、……将来に向けたリ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第。従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムであった。個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事に移行する必要がある。」

引用元|内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針」1頁

ただし、昨今の「ジョブ型雇用」は、やや言葉が先行し、「ジョブ型雇用」の内容とその種類、それがもたらす人事労務、働き方への影響(特に、これまでのものから変更される点変更されない点)へのコンセンサスには至っていない傾向にあります。

そこで、本稿では、「ジョブ型雇用」の内実と影響について、解説していきたいと思います。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の意味|現在わが国で考えられているジョブ型雇用

「ジョブ型雇用」の内容・事例

ジョブ型雇用の定義については、色々な例が見られますが、筆者の私見では、概ね、

職務内容ジョブ)を明確にした上で、職務記述書ジョブディスクリプション)等でその内容を具体的に特定し、その職務を遂行できるような技能スキル)や実務経験を持つ者を採用する仕組み

と考えれば間違いはないと思われます。

これを貫徹すれば、従業員は、企業に採用される際に、職務内容(ジョブ)を明確に特定され、入社後は、当該職務内容のみを遂行し、当該職務内容が適切に遂行できないと判明した場合、あるいは、採用した企業が当該職務内容の属する事業を縮小・廃止した場合には、その企業での雇用を終了する、ということになりそうです。

しかし、わが国における「ジョブ型雇用」は、そこまでの貫徹は想定されていないように思われます(事業の縮小・廃止については、純粋なメンバーシップ型よりは、解雇の必要性は認められやすくなると思われます)。例えば、経団連「日本型雇用システムの変化―自社型雇用システムと自律的キャリア形成へ―」には以下のような記載があります。

・「『メンバーシップ型』と『ジョブ型』を最適な形で組み合わせた『自社型』雇用システムをつくり上げていくことが重要」
・「欧米型のように特定の仕事やポストが不要になった場合に雇用自体が無くなることは想定していない」

引用元|経団連「日本型雇用システムの変化―自社型雇用システムと自律的キャリア形成へ―」

すなわち、「ジョブ型」雇用といっても、日本におけるそれは、多分に、メンバーシップ型」雇用との混合形が想定されており、どのように混合するかは、企業各社の判断裁量によるとされています。

これは、前掲の「ジョブ型人事指針」を見ても、その大半は、ジョブ型雇用の導入事例(その数は20社に及びます)で占められていることからしても裏付けられるところです。

ムートン

ジョブ型人事指針」では、以下のような企業のジョブ型人事の導入事例が紹介されています。導入方法を検討している方には参考になるでしょう。

(1) 富士通株式会社
(2) 株式会社日立製作所
(3) アフラック生命保険株式会社
(4) パナソニック コネクト株式会社
(5) 株式会社レゾナック・ホールディングス
など

「メンバーシップ型雇用」の内容

なお、日本型のジョブ型雇用を理解するためには、その混合の相方であるメンバーシップ型雇用の内容を理解する必要もあるので簡単に紹介します。

メンバーシップ型雇用は、日本企業で長らく実施されてきた制度で、概ね、

職種や職務内容を限定せずに新卒者一括採用し、会社の業務命令の下で職務ごとにローテーション配置転換)しながら、様々な仕事の経験を積ませて企業内キャリアアップさせていく仕組み

と意味づけられます。

この特徴が具現化されたものが、年功序列賃金解雇権濫用法理です。日本型のジョブ型雇用は、年功序列的賃金はともかく、解雇権濫用法理までを否定するものではないと思われます(その理由として、後者は労働契約法16条等に法的根拠を有していることが挙げられます)。

ジョブ型雇用が注目されるに至った背景

ジョブ型雇用が着目されるに至った経緯としては、根本的には、日本経済の衰退があり、より具体的には、日本企業の競争力、さらにいえば、技術力営業力衰退があると思われます。前掲「ジョブ型人事指針」では、従来の制度について以下の点が指摘されています。

ⅰ)最先端の知見を有する人材など専門性を有する人材が採用しにくい
ⅱ)若手を適材適所の観点から抜てきしにくい
ⅲ)日本以外の国ではジョブ型人事が一般的となっているため社内に人材をリテイン(筆者注:維持)することが困難

引用元|内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針」1頁

外国資本企業を含めて数百の顧問会社を有する筆者の目から見ても、特にⅱ)、ⅲ)の点は、実務において気付かされることが少なくないのが実情です。

ジョブ型雇用の労働実務への影響|最高裁判例なども解説

はじめに|労働契約内容の変容

前述のとおり、わが国では、これまでのメンバーシップ型雇用ジョブ型雇用との混合が志向されています(その混合は企業各社の判断裁量とされている)。

その中核をなすものは従業員のスキル(片面的な言葉で言えば、人材価値)の修得という労働の現代的な側面に関するものであるため、労働契約に与える影響は相当なものがあるのは当然といえるでしょう。

以下では、既にジョブ型雇用が導入された企業の例につき、筆者が知見したところも含めて、典型的な項目に触れていくこととします。

異動(配置転換)

これまでのメンバーシップ型雇用では、長期雇用を前提としつつ、従業員の職務・職種や勤務場所が限定されずに採用されることが一般的であったので、企業は従業員に対して広汎な異動(配転)権を有し、当該異動が人事権の濫用に当たらない限り、法的に有効と解するのが一般的でした。

しかし、ジョブ型雇用を突き詰めた形態では、各従業員の職務内容、さらには職務場所労働契約により特定されることとなるため、企業としては、予め特定された職務・職種・勤務場所を超えての異動は命じられないこととなります。

この点は、これまでの裁判実務でも確認されていたことではありますが(裁判例(1))、実務としては、職種等を限定された特殊技能者についても、長期雇用を前提とした採用の場合は、採用後当分の間は職務が限定されていても、長期の勤続と共に他職種に配転されうるとの合意が成立していると解されるケースも多いとされてきました(裁判例(2)(3))。

参考となる裁判例

(1) 薬学部教授から薬剤師への配転命令の効力を否定した例として、学校法人国際医療福祉大学[仮処分]事件―宇都宮地裁令和2年12月10日決定(労判1240号23頁)

(2) アナウンサーの職種限定合意を認めず、テレビ編成局番組審議会事務局への異動を有効とした例として、九州朝日放送事件―最高裁平成10年9月10日判決(労判757号20頁)

(3) タクシー運転手から営業係への異動につき有効とした例として、古賀タクシー事件―福岡高裁平成11年11月2日判決(労判790号76頁)

このように、事実認定の解釈で、職種等の限定合意の成立を制約することも少なくなかったところですが、ジョブ型雇用が(企業各社の判断により、その濃度の高低はあるとしても)取り入れられるにつれ、こうした職種等限定合意が制約される場面は減少していくことになると思われます。

評価、昇格・降格

これまでのメンバーシップ型雇用においても、企業は一般的に、従業員をその能力貢献度等に鑑みて評価し、社員としての格付けを昇降格させてきましたが、ジョブ型雇用が取り入れられるようになれば、以下のとおり変容が見られることとなります。この変容の仕方については、評価と昇格・降格において、異なった整理が必要となるでしょう。

① 評価

ほとんどの企業は従業員を何らかの基準で評価しますが、メンバーシップ型雇用の典型的な例では、長期雇用を前提として、勤続年数(年齢を含む)、職務能力(それが現実に発揮されているか否かは理屈の上では問われない)、現実の成果といった複数の要素が基準とされていました。

これがジョブ型雇用の色彩が濃くなれば、勤続年数(年齢)や職務能力(特に潜在的なもの)よりも、現実に従事している職務(まさにジョブ)に重きをおいた基準により評価されるようになるでしょう。

その際には、評価基準の変更が必要となりますが、これは、当該変更により不利益を受ける従業員との関係で、いわゆる、就業規則の不利益変更の問題が生じることとなります(労働契約法10条)。

従来、勤続年数・年齢等の年功を主な基準としていたところ、現実の職務成果と言ってよいでしょう)に変更したことにつき、当該変更を法的に有効とした代表的な裁判例として、ノイズ研究所事件―東京高裁平成18年6月22日判決(労判920号5頁)が挙げられます。

もっとも、上記事件の第一審は企業側が敗訴しており(横浜地裁川崎支部平成16年2月26日判決(労判875号65頁))、変更を主導する企業としては、就業規則の変更の法的有効性を確保する方策につき、十分な検討を行うことが必要となります(例えば、上記事件においては、不利益に至るまでの経過措置[2年]の適否につき、高裁と地裁とで判断が分かれています)。

② 昇格・降格

企業各社によって違いはあるものの、メンバーシップ型雇用においては、従業員の格付けは、主に勤続年数(年齢)、職務能力を基準に行われることが主流でした(いわゆる、職能型人事制度。もっとも、筆者の主観では、現実の職務も一部基準に取り入れられるのが多数派ですが、そのウェートは各社により異なります)。

しかし、これが純粋なジョブ型雇用になれば、現実の職務を中心的な基準に格付けが行われることとなります(いわゆる、職務型人事制度)。

現在の日本型ジョブ型雇用の流れにおいては、従業員の格付けの基準についても、前述のノイズ研究所事件のように、現実の職務成果)にウェートを移すように人事制度を変更することが一般に行われていますが、この変更は、就業規則の不利益変更の問題をクリアすることが必要なことも、前述「①評価」のとおりです。

昇格・降格の法的有効性に関して、特に降格については、要件(どのような条件の下で降格が有効となるか)、効果(どの程度不利益となる降格が有効か)の問題があるところです。

要件については、メンバーシップ型雇用での人事制度(主に職能型制度)は、就業規則の根拠規定が必要とされる反面(裁判例(1))、ジョブ型雇用での人事制度(職務型制度)では、就業規則の規定が不要とされていることは大きな相違です(裁判例(2))。

もっとも、ジョブ型雇用(職務型制度)での降格も、使用者の全裁量に委ねられるものではなく、降格するのに相当な理由(適性や実績の不足、人事組織改編の必要等)がなかったり、本人の不利益(賃金減額幅)が大きすぎるような場合は、人事権の濫用として無効となることには注意が必要です。

参考となる裁判例

ハネウェルジャパン事件―東京高裁平成17年1月19日判決(労判889号12頁)等

なお、効果については、降格の最大の焦点として賃金の減額がありますが、この減額を就業規則に規定していることの要否については、裁判例の判断は統一されていません。しかし、予防的見地からは、賃金の減額を規定しておくことが妥当であると思われます(菅野和夫・山川隆一『労働法 第13版』679頁は規定を要すると解しているようです)。

参考となる裁判例

賃金規程に基づかない大幅な賃金減額を無効とした例として、スリムビューティハウス事件―東京地裁平成20年2月29日判決(労判968号124頁)

この点は、メンバーシップ型雇用での人事制度(主に職能型制度)もジョブ型雇用での人事制度(職務型制度)も変わりません。

解雇

ジョブ型雇用で一番関心を集めていると言ってよいのが解雇の問題と思われます。ジョブ型雇用では解雇が容易に行われるのでは、という見解も見られますが、前述「「ジョブ型雇用」の内容」のとおり、日本型ジョブ型雇用においては、企業からジョブがなくなった時に、直ちに雇用終了といったところまでは考えられていないというのが一般的です。

これまでの裁判法理においても、職種や勤務地が限定されている社員について、当該職種や勤務地での仕事がなくなった場合に、それだけの理由をもって、当該従業員を解雇(整理解雇)してよいということにはならないとされる事例や見解が多かったところです(菅野・山川『労働法 第13版』762頁)。

参考となる裁判例

勤務地限定社員の例として、シンガポール・デベロップメント銀行事件―大阪地裁平成12年6月23日判決(労判786号16頁)。ただし、結論としては解雇有効。

もっとも、企業が他の仕事を提供するのが困難という事情があれば、解雇は有効となると解されます(上記シンガポール・デベロップメント銀行事件も結論としてそのような判断を行っています)。

ただし、ジョブ型雇用を採用したにもかかわらず、解雇の実務が全く変わらないということはなく、例えば、以下の2つの場合等で、解雇は、現在多く行われている例よりは緩やかに判断されることになると思われます。

① 中途採用者

まず、現在でも、即戦力を期待された中途採用者の解雇は、期待された適性・能力が不足しているという事実があれば、新卒者の場合よりも比較的容易に有効と判断されています。

参考となる裁判例

高いマネジメント能力の発揮を期待されて事業部長として入社した者に対する不適合を理由とする解雇を有効とした、社会福祉法人どろんこ会事件―東京地裁平成31年1月11日判決(労判1204号62頁)等。

つまり、ジョブ型雇用の広がりによって、採用される者は、より、「どの範囲の職種・職務における適性・能力」を「どの程度まで」期待されて入社するのか、明確にされて入社するケースが増えることが予測されるため、明確にされた適性・能力の不足があれば、他の職種・職務での活用の機会を与えることなく、解雇することが比較的容易になると考えられます。

なお、新卒者の場合、期待される「程度」までは特定されないことも多いと思われますが、「職種・職務の範囲」が特定される方向になることは十分に考えられます。

② 整理解雇

次に、前述した整理解雇の場合でも、企業において、事業転換などにより、ある職種・職務がなくなった場合、当該職種に就業していた従業員を即解雇することはないにしても、他職種への転換を検討することがあります。

しかし、ジョブ型雇用が広がった状況においては、他職種への転換そのものが困難になる(その従業員の当該職種への関わりと専門性が深化しているため)、ということも考えられます。

ジョブ型雇用への移行に伴う労働実務の予測

以上、述べてきたように、現時点において日本で想定されているジョブ型雇用とは、「ジョブ=雇用」といったドラスティックなものではないという理解が一般ではありますが、やはり、その広がりによっては、上記「ジョブ型雇用の労働実務への影響」で述べたような実務への影響は避けられないと思われます。

したがって、従業員は、ジョブを通じて各人がキャリアをどう積むかを選択し、各人のスキルを研鑽することによって専門性を向上することが求められるようになることは必然です。

また、企業としても、そのような取り組みを支援することができる企業が、従業員から選ばれる(よい人材を確保できる)ことになると思われます。

ムートン

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参考文献

内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針」

経団連「日本型雇用システムの変化―自社型雇用システムと自律的キャリア形成へ―」

菅野和夫・山川隆一『労働法 第13版』弘文堂、2024年