斟酌とは?
読み方・意味・法律や最高裁判例における
使用例などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

斟酌(しんしゃく)」とは、さまざまな事情を考慮するという意味の言葉です。

法律や判決文においては、「斟酌」という言葉がしばしば登場します。「考慮」「勘案」「参酌」などとの間で大きな意味の差はなく、基本的には「さまざまな事情を考慮する」という意味に理解すればよいでしょう。

この記事では「斟酌」について、読み方・意味・法律や最高裁判例における使用例などを解説します。

ヒー

「斟酌」って、そもそも読めない人が多くないですか?

ムートン

難読漢字については、国や裁判所などでも見直しがされ、文化庁の提言などに沿って言い換えが進んでいます。でも、古い判決などを読むときには理解できるよう、知識があるといいですね。

※この記事は、2023年12月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 身元保証に関する法律…昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)

「斟酌(しんしゃく)」とは

斟酌(しんしゃく)」とは、さまざまな事情を考慮するという意味の言葉です。
法律の条文や、裁判所の判決文などにおいて「斟酌」「しんしゃく」という言葉が使われることがあります。

「斟酌」の辞書的意味

「デジタル大辞泉」によると、「斟酌」は以下の意味を有するとされています。

しん‐しゃく【斟酌】

1 相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること。「採点に—を加える」「若年であることを—して責任は問わない」
2 あれこれ照らし合わせて取捨すること。「市場の状況を—して生産高を決める」
3 言動を控えめにすること。遠慮すること。「—のない批評」

デジタル大辞泉(小学館)「斟酌」

法律文書における「斟酌」の意味

法律文書の中では、主に法律の条文や、裁判所の判決文などにおいて「斟酌」「しんしゃく」という言葉が使われています。何らかの事柄を判断するに当たって、さまざまな事情を考慮するという意味で使われるのが一般的です。

特に法律の条文において、斟酌すべき旨が定められている場合には、結論を出すに当たって対象となる事項を実際に考慮した上で、その判断過程について説明責任を負うと解されます。斟酌すべき事項を一切考慮しなかった場合や、不適切な考慮をしたために合理的な説明ができない場合は、その判断が違法と評価される可能性が高いです。

どういった場合に「斟酌」される?|交通事故における斟酌事由

特に交通事故損害賠償請求においては、損害賠償の金額等を裁判所が決定するに当たり、さまざまな事由が斟酌されます。

以下に挙げるのは、交通事故における斟酌事由の一例です。

交通事故における斟酌事由の例

① 被害者が受けた精神的損害の大きさに影響を与える事由
慰謝料の金額を決定する上で、以下の事由などが斟酌されることがあります。
・交通事故の影響によって退職に追い込まれた
・交通事故の際に流産した
・交通事故の影響によって留年した
・交通事故のために入学試験を受けられず、希望していた学校に入学できなかった
など

② 過失割合に影響を与える事由
被害者が負ったケガについて、加害者側の過失に加えて被害者側の素因も作用している場合に、以下の事由などが斟酌されることがあります。
・被害者の疾患の態様、程度
・疾患に相当する被害者の身体的特徴
など

「斟酌」と「考慮」「勘案」「参酌」の違い

斟酌と類似した用語として「考慮」「勘案」「参酌」などがありますが、これらの用語は実質的に同じ意味であり、意識的に区別して用いる必要はないと考えられます。

例えば行政事件訴訟法9条2項では、以下のとおり「考慮」「勘案」「参酌」が用いられていますが、いずれも「考慮」という意味で理解すれば問題ありません

行政事件訴訟法
(原告適格)
第9条 略
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

行政事件訴訟法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

法律における「斟酌」の使用例・条文例

法律の条文において「斟酌」が使用されている例をご紹介します。

身元保証に関する法律5条では、以下のとおり「斟酌」という用語が使われています。

第5条 裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌

昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
ヒー

な、なんですかこの条文は…?

ムートン

落ち着いて読めば特別なことは書いていません。法令では「考慮」「勘案」「参酌」へ表現の置き換えが進み、「斟酌」は古いものにしか残っていないんですよ。

上記の規定を整理すると、裁判所が身元保証人の損害賠償責任の金額を決定する際には、以下の事情を斟酌(=考慮)するものと定められています

  • 被用者の監督に関する使用者の過失の有無
  • 身元保証をするに至った事由
  • 身元保証をするに当たって払った注意の程度
  • 被用者の任務または身上の変化
  • その他一切の事情

最高裁判例における「斟酌」の使用例

裁判所が作成する判決文では、しばしば「斟酌(しんしゃく)」の用語が用いられています。

最高裁判例の中で「斟酌(しんしゃく)が用いられた例として、以下の4つを紹介します。

最高裁判例における「斟酌」の使用例

① 家屋収去・土地明渡請求(最高裁昭和27年11月27日判決)
② 株主総会決議取消請求(最高裁昭和42年9月28日判決)
③ 交通事故の損害賠償請求(最高裁平成4年6月25日判決)
④ 交通事故の損害賠償請求(最高裁平成8年10月29日判決)

家屋収去・土地明渡請求(最高裁昭和27年11月27日判決)

最高裁昭和27年11月27日判決の事案では、旧借地法の規定に基づいて、借地権者が地主に対して建物買取請求権を行使しました。その結果、借地権者から地主に建物の所有権が移転し、借地権者は地主に対して建物を引き渡す義務を負うに至りました。

借地権者には、買取代金が支払われるまで建物を留意できる権利(=留置権)がありましたが、原審において借地権者は留置権の抗弁を主張しなかったので、原審では留置権の存在を斟酌せずに判決が言い渡されました。

最高裁は以下のように判示し、留置権の存在を斟酌しなかった原審判決を支持し、借地権者の上告を棄却しました。同判示では、「斟酌」が「判決の基礎として考慮する」という意味で用いられています。

……原審で上告人は被上告人に対し所論のように借地法10条による建物買収請求の意思表示をしたことは認め得るけれど、その代金の支払あるまで当該建物を留置する旨の抗弁を主張したことを認むべき証跡は存在しない。……上告人において被上告人がその代金の支払をなすまで右建物の上に留置権を取得するに至つたとしても、前説示のように上告人において該権利を行使した形跡のない以上、原審がこれを斟酌しなかつたのはむしろ当然であり原判決には所論第一点のような違法があるとはいえない……。

最高裁昭和27年11月27日判決

株主総会決議取消請求(最高裁昭和42年9月28日判決)

最高裁昭和42年9月28日判決の事案では、株主総会の招集手続きが違法であることを理由に、株主が株主総会決議の取消しを求めて訴訟を提起しました。

原審では、会社が正当な理由なく株主名簿の名義書換に応じず、新株主に対して招集通知を行わなかった点について、株主総会の招集手続きが違法である旨を認定して、株主総会決議の取消しを認めました。

なお、訴訟を提起した株主は招集通知を受けられなかった新株主ではありませんでしたが、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合にも、株主総会決議取消しの訴えは提起できると判示されました。

最高裁は、以下のように判示して原審の認定を支持し、会社側の上告を棄却しました。同判示では、諸般の事情を「考慮する」という意味で「斟酌」が用いられています。

株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得るのであるから、被上告人が株主たるEらに対する招集手続の瑕疵を理由として本件決議取消の訴を提起したのは正当であり、何等所論の違法はない。しかして、原審認定の事実関係の下においては、訴外Eらが総会招集の通知を受けず議決権を行使し得なかつたことが、本件総会の決議に影響を及ぼさないとのことを認めるべき証拠はないとした原審の判断も正当である。もつとも裁判所は諸般の事情を斟酌して株主総会の決議取消を不適当とするときは取消の訴を棄却することを要するが、原審認定の事実関係の下においてはかかる事情も認められない。

最高裁昭和42年9月28日判決

交通事故の損害賠償請求(最高裁平成4年6月25日判決)

最高裁平成4年6月25日判決の事案では、交通事故による加害行為と、加害行為前から存在した被害者の疾患がともに原因となって被害者が死亡しました。

最高裁は以下のように判示し、損害賠償額の算定に当たっては、過失相殺の規定を類推適用して被害者側の疾患を斟酌(しんしゃく=考慮)できるとしました。結論として最高裁は、被害者の素因による部分として損害の50%を減額しています。

被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である。けだし、このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである。

最高裁平成4年6月25日判決

交通事故の損害賠償請求(最高裁平成8年10月29日判決)

最高裁平成8年10月29日判決の事案では、交通事故の被害者が、平均的体格に比して首が長く多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を有していました。

原審では、被害者が事故後に発症したバレリュー症候群については、上記の身体的特徴が症状の悪化・拡大の原因となったことが認定されました。また、被害者の症状の悪化・拡大については、少なからず心因的要素が存在したとされました。

結論として原審判決は、過失相殺の規定を類推適用して被害者の首が長いという素因や心因的要素を斟酌し、損害のうち4割を減額しました。

しかし、最高裁は以下のとおり判示し、被害者の身体的特徴を斟酌(=考慮)して過失相殺を行ったことは不適切であるとして、原審判決を破棄して審理を差し戻しました。

……被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである。……
……上告人の身体的特徴は首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるということであり、これが疾患に当たらないことはもちろん、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されているといった事情は認められないから、前記特段の事情が存するということはできず、右身体的特徴と本件事故による加害行為とが競合して上告人の右傷害が発生し、又は右身体的特徴が被害者の損害の拡大に寄与していたとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するのは相当でない。

最高裁平成8年10月29日判決
ムートン

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