特許権とは?
効力・取得のメリットやデメリット・
要件・取得方法・侵害への対処法などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「特許権」とは、発明を独占的に業として実施できる権利です。特許庁に対して出願した発明について、審査の末に新規性と進歩性が認められれば、特許権の設定登録を受けることができます。
特許権を取得すると、自ら特許発明を独占的に業として実施できるほか、第三者に実施権などを設定できるようになります(=積極的効力)。また、正当な権原がない第三者が特許発明を業として実施した場合には、差止めや損害賠償などの請求が可能です(=消極的効力)。
特許権の効力は、原則として特許出願の日から20年間存続します。特許権を取得するには、特許庁に対して出願をする必要があります。特許出願の手続きは、弁理士に依頼するのが一般的です。
この記事では特許権について、効力・取得のメリットやデメリット・要件・取得手続き・侵害への対処法などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年6月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 独占禁止法…私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
目次
特許権とは
「特許権」とは、発明を独占的に業として実施できる権利です。
国内における産業を発展させるためには、各事業者が積極的に発明を行い、先行発明を参考にしてさらなる発明が生み出されるという、技術的進歩の連鎖を生み出すことが望ましいです。
そのためには、事業者に対して発明のインセンティブを与える一方で、いずれはその発明を誰もが利用できるようにする法制度が求められます。
そこで日本の特許法では、特許権者に原則20年間の独占実施権を与えつつ、全ての特許発明を公開させるという仕組みが整備されました。事業者は特許権を取得すると、特許発明を20年間に限って独占的に業として実施できるようになります。
特許権の効力(効果)
特許権の効力(効果)には、「積極的効力」と「消極的効力」の2種類があります。
特許権の積極的効力
特許権の積極的効力とは、以下の2つの効力をいいます。
① 独占実施権
特許権者は、自ら特許発明を独占的に実施することができます(特許法68条)。
② 第三者に対する実施権の設定等
特許権者は、第三者に対して専用実施権を設定し、または通常実施権を許諾することができます(特許法77条・78条)。専用実施権の設定・通常実施権の許諾を受けた第三者から、特許権者はライセンス料を受け取れます。
また、特許権に質権を設定することも可能です(特許法95条等参照)。価値のある特許権に質権を設定すれば、金融機関等から多額の融資を受けられる可能性があります。
特許権の消極的効力
特許権の消極的効力とは、正当な権利を持たない第三者が特許発明を業として実施する場合に、当該実施を排除できる効力をいいます。
後述のとおり、無権原での特許発明の実施行為を排除する手段としては、差止請求や税関での輸入差止申立てが認められています。さらに、特許発明の無権利での実施によって特許権者に生じた損害については、損害賠償請求・不当利得返還請求・信用回復措置請求によって回復を図ることが可能です。
特許権の効力が制限されるケース
特許権の設定登録がなされている発明についても、以下のいずれかに該当する場合には、例外的に特許権者の許諾なく実施できるものとされています。
① 試験・研究のためにする実施(特許法69条1項)
② 日本国内を通過するに過ぎない船舶・航空機、またはこれらに使用する機械・器具・装置その他の物に関する実施(特許法69条2項1号)
③ 特許出願時から日本国内にある物に関する実施(特許法69条2項2号)
④ 医薬の調剤行為に当たる実施(特許法69条3項)
⑤ 再審により回復した特許権に係る実施(条件あり。特許法175条・176条)
特許権を取得するメリット
特許権を取得すると、自社発明の無断盗用を防ぎ、競合他社に対する優位性を確保できます。特許発明を用いていることをアピールポイントとして打ち出せば、商品イメージ・企業イメージの向上にもつながるでしょう。
また、同一の発明について、他社による特許権の取得を防げる点もメリットです。例えば、自社発明を用いて商品開発をしている最中に、他社が当該発明について特許権を取得した結果、開発を中断せざるを得ないといった事態を防げます。
さらに、他社に特許発明の実施を許諾することにより、ライセンス料収入を得ることができます。特許発明の有用性・汎用性が極めて高い場合は、多額のライセンス料収入が得られるでしょう。
特許権を取得するデメリット
その一方で、特許権を取得した場合は、発明の内容が世間に公開されます。したがって、特許発明をノウハウとして秘匿しておくことはできなくなります。
特許権の存続期間(20年)の間は、特許発明が公開されたとしても、それを業として実施できるのは、原則として特許権者と実施許諾を受けた者のみです。しかし、存続期間の満了により特許権が失効すると、それ以降は競合他社も特許発明を利用できるようになり、競争優位性が失われてしまう可能性があります。
また、特許権の出願や維持については、一定の費用がかかります(「特許権の取得にかかる費用」参照)。特許発明の有用性・汎用性が十分でない場合は、費用倒れになってしまうこともあり得るのでご注意ください。
特許権の存続期間(有効期間)
特許権の存続期間は、原則として「特許出願の日から20年」とされています(特許法67条1項)。特許権の存続期間が満了した発明は、誰でも自由に実施できます。
ただし例外的に、医薬品等については存続期間の延長登録が認められる場合があります(同条2項~4項)。
なお存続期間内であっても、特許権が消滅してしまう場合があります。具体的には、以下の場合に特許権が消滅します。
- 各年について特許料が納付されなかった場合(特許法112条4項)
- 相続人が不存在の場合(特許法76条)
- 特許権が放棄された場合
- 特許無効審決が確定した場合(特許法125条)
- 独占禁止法違反によって特許権の取消しが宣告された場合(独占禁止法100条1項1号)
特許権の対象となる発明
特許権の対象となるのは、産業上利用することができる発明のうち、新規性と進歩性の要件を満たすものです(特許法29条)。
発明とは
「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいいます(特許法2条1項)。
発明には、以下の3種類があります(同条3項)。
① 物の発明
技術思想が物の形として具現化したものです。物の発明の特許権者には、その物の生産・使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡および貸渡しの申し出につき、業としての独占実施権が認められます。
② 方法の発明
順序や時間などのプロセスを含む発明のうち、物を生産する方法の発明以外のものです。方法の発明の特許権者には、その方法の使用につき、業としての独占実施権が認められます。
③ 物を生産する方法の発明
順序や時間などのプロセスを含む発明であって、物を生産することを目的としたものです。物を生産する方法の発明の特許権者には、その方法の使用に加えて、その方法により生産した物の使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡および貸渡しの申し出につき、業としての独占実施権が認められます。
産業上の利用可能性の要件
特許権が認められるのは、産業上利用することのできる発明に限られます。
例えば、以下の発明は産業上の利用可能性がないため、特許権の登録が認められません。
① 人間を手術、治療または診断する方法の発明
→医師または医師の指示を受けた者が行うべき医療行為に当たるため、産業上の利用可能性がないとされています。
② 業として利用できない発明
→個人的にのみ利用される発明や、学術的・実験的にのみ利用される発明は、産業上の利用可能性が認められません。
③ 実際上、明らかに実施できない発明
→理論的には実施が可能であっても、実際に実施されることが考えられない発明については、産業上の利用可能性が認められません。
(例)オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐため、地球表面全体を紫外線吸収プラスティックフィルムで覆う方法
新規性の要件
「新規性」とは、以下のいずれにも該当しないことを意味します(特許法29条1項1~3号)。
- 特許出願前に日本国内・外国において公然に知られた発明
- 特許出願前に日本国内・外国において公然に実施(使用など)された発明
- 特許出願前に日本国内・外国において、頒布された刊行物に記載された発明・電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
新規性が認められない発明については、特許権の登録が認められません。
進歩性の要件
「進歩性」とは、特許出願前にその発明の属する技術分野において通常の知識を有する者(=当業者)が、公知・公用の発明に基づいて容易に発明をすることができたものと評価されないことをいいます(特許法29条2項)。
特許の審査をする審査官は、進歩性を評価するに当たり、当該発明の属する技術分野における出願時の技術水準を把握します。その上で、当該技術水準にある全ての知識を利用できる当業者が、出願時においてどのように創作を行うかを考慮した上で、進歩性の有無を判断します。
進歩性が認められない発明については、特許権の登録が認められません。
特許権を取得する方法
特許権を取得するには、以下の流れで対応・手続きを行う必要があります。
① 先行技術調査
特許出願をしようとする発明について、新規性・進歩性が否定されるような先行発明がないことを確認するための調査を行います。
② 特許出願(出願書類の作成・提出)
特許出願の書類(明細書・特許請求の範囲・図面など)を作成して、特許庁に提出します。
③ 方式審査
特許庁が、出願の形式的な要件(手数料の納付など)を満たしているかどうか審査します。
④ 出願審査請求(出願審査請求書を作成・提出)
特許庁に対して出願審査請求を行います。出願審査請求は、出願日から3年以内に行わなければなりません。
⑤ 実体審査
出願された発明について、特許庁が特許要件(産業上の利用可能性・新規性・進歩性)を満たしているかどうかの審査を行います。
⑥ 特許査定
特許庁が特許査定または拒絶査定を行います。
⑦ 特許権の設定の登録=特許権が発生
特許査定の謄本が送達された日から30日以内に特許料を納付すると、特許権の設定登録がなされます。
特許権の取得にかかる費用
特許権の取得に当たっては、以下の費用がかかります。
特許印紙代(出願時) | 14,000円 |
出願審査請求料 | 138,000円+(請求項の数×4000円) |
特許料 | 第1年から第3年まで: 毎年4,300円+(請求項の数×300円) 第4年から第6年まで: 毎年10,300円+(請求項の数×800円) 第7年から第9年まで: 毎年24,800円+(請求項の数×1,900円) 第10年から第25年まで: 毎年59,400円+(請求項の数×4,600円) |
また、弁理士に出願手続きを依頼する場合には、弁理士費用もかかります(数十万円程度)。
特許権を侵害された場合の対処法
自社の特許権を侵害された場合には、以下の方法によって侵害の停止や権利の回復を図りましょう。
① 差止請求
侵害行為の停止・予防や、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に用いた設備の除却などを請求できます。
② 税関での輸入差止申立て
特許権を侵害する貨物が輸入されようとしているときは、税関長に対して輸入の差止めを請求できます。
③ 損害賠償請求・不当利得返還請求
侵害行為によって特許権者が受けた損害につき、賠償または不当利得の返還を請求できます。
④ 信用回復措置請求
故意または過失により特許権を侵害した者に対しては、裁判所に対する申立てにより、侵害行為によって特許権者が失った業務上の信用を回復するのに必要な措置を請求できます。
⑤ 刑事告訴
故意による特許権侵害は犯罪に当たるため、特許権者は警察官または検察官に対する刑事告訴が可能です。
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