民事訴訟法とは?
2022年改正の概要・全体像・主なルールの
内容を分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 【新任~若手法務向け】契約の基本がわかるハンドブック |
- この記事のまとめ
-
「民事訴訟法」とは、民事訴訟のルールなどを定めた法律です。
民事訴訟は、個人または法人の間で発生した紛争の解決を目的とする裁判手続きです。民事訴訟を適切な手続きにより公平に進行するため、民事訴訟法でルールが定められています。民事訴訟法は、以下の8編から成り立っています。
第1編 総則
第2編 第一審の訴訟手続
第3編 上訴
第4編 再審
第5編 手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則
第6編 少額訴訟に関する特則
第7編 督促手続
第8編 執行停止企業が特に知っておくべきなのは、「第1編 総則」「第2編 第一審の訴訟手続」「第3編 上訴」「第6編 少額訴訟に関する特則」「第7編 督促手続」の5つです。
この記事では、民事訴訟法の全体像や主なルールの内容を分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 法…民事訴訟法
目次
民事訴訟法とは
「民事訴訟法」とは、民事訴訟のルールなどを定めた法律です。
民事訴訟は、個人または法人の間で発生した紛争の解決を目的とする裁判手続きです。民事訴訟を適切な手続きにより公平に進行するため、民事訴訟法でルールが定められています。
【2022年改正】民事訴訟のIT化とは
2022年5月18日、民事訴訟のIT化を内容とする改正民事訴訟法が国会で成立しました。同改正法は、2026年5月までに施行される予定です。
民事訴訟のIT化により、多くの民事訴訟手続きがオンライン上で可能となり、当事者にとっての利便性の向上が見込まれます。民事訴訟のIT化の詳細については、以下の記事をご参照ください。
民事訴訟の基本原則
民事訴訟では、審理の進行については裁判所が主導する「職権主義」が採用されている一方で、主張・立証については当事者に主導権を与える「当事者主義」が採用されています。
当事者主義は、「処分権主義」と「弁論主義」という2つの原則に反映されています。
① 処分権主義
訴訟手続きの開始、審判範囲の特定、訴訟手続きの終了について、当事者の自律的な判断に委ねる原則です。
(例)
・原告が訴状を提出することにより、訴訟が開始される
・原告が訴状に記載する「請求の趣旨」により、訴訟における審理の範囲が特定される
・原告は訴えが取り下げれば、訴訟は終了する
など
② 弁論主義
訴訟で審理する事実と証拠を、当事者の権限および責任において収集・提出させるという原則です。一部の例外を除き、裁判所による職権探知(職権証拠調べなど)は行われません。
(例)
・当事者は裁判所に対して、主張する事実をまとめた準備書面を提出する
・当事者は裁判所に対して、主張を補強する証拠を提出する
民事訴訟法の全体像
民事訴訟法は、以下の全8編から成り立っています。
第1編 総則
第2編 第一審の訴訟手続
第3編 上訴
第4編 再審
第5編 手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則
第6編 少額訴訟に関する特則
第7編 督促手続
第8編 執行停止
本記事では主なルールとして、「第1編 総則」「第2編 第一審の訴訟手続」「第3編 上訴」「第6編 少額訴訟に関する特則」「第7編 督促手続」を解説します。
民事訴訟法の主なルール①|総則
「第1編 総則」では、民事訴訟全般に通ずる基本的な事項が定められています。主な規定事項は以下のとおりです。
① 裁判管轄に関するルール
② 民事訴訟の当事者
③ 訴訟費用
④ 訴訟手続き
裁判管轄に関するルール
事件について日本の裁判所が管轄権を有するかどうかは、国際裁判管轄の規定(法3条の2~3条の12)に従って決まります。
被告の住所(法人等の場合は主たる事務所または営業所)が日本国内にある場合のほか、訴えの内容などに応じて、日本の裁判所に管轄権が認められるための要件が定められています。
また、日本の裁判所に管轄権が認められる場合に、どの裁判所へ訴訟を提起すべきであるかについても定められています(法4条以下)。被告の普通裁判籍(住所など)の所在地の裁判所が原則ですが、訴えの内容や当事者間の合意などにより、別の裁判所に管轄が認められることもあります。
管轄違いが判明した場合は、原則として申立てにより職権で、正しい管轄裁判所へ事件が移送されます(法16条1項)。
民事訴訟の当事者
民事訴訟の当事者は、訴えを提起する「原告」と、その相手方となる「被告」です。
民事訴訟の原告・被告となるためには、「当事者能力」を有していなければなりません。また、実際に訴訟行為をするためには、「訴訟能力」を備えている必要があります。
① 当事者能力
自然人・法人のほか、法人でない社団または財団で代表者または管理人の定めがあるものにも認められます(法29条)。
② 訴訟能力
未成年者・成年被後見人は、法定代理人によらなければ訴訟行為ができません(未成年者が独立して法律行為ができる場合を除く。法31条)。
これに対して、被保佐人・被補助人は、一部を除いて単独で訴訟行為ができるとされています(法32条)。
民事訴訟では、訴訟代理人を選任することができます。訴訟代理人となることができるのは、原則として弁護士のみです(法54条1項。ただし、一部例外あり)。
訴訟費用
民事訴訟の訴訟費用は、原則として敗訴当事者が負担することになっています(法61条)。一部認容・一部棄却の場合は、裁判所が裁量によって訴訟費用の負担を定めますが(法64条)、実務上は認容額に応じて按分するのが一般的です。
訴訟費用の負担者は、判決主文によって示されます。
訴訟費用の具体的な金額は、民事訴訟費用等に関する法律で定められています。
訴訟手続き
民事訴訟の手続きについては、主に以下の事項が定められています。
① 口頭弁論の原則
民事訴訟は、公開法廷における口頭弁論が原則とされています(法87条1項)。ただし争点整理を目的として、口頭弁論期日の間に「弁論準備手続」や「書面による準備手続」が行われることもあります(後述)。
② 民事訴訟の期日
民事訴訟の期日は、申立てによりまたは職権で、裁判長が指定します(法93条1項)。
③ 送達
民事訴訟で当事者が提出する書面は、相手方に対して「送達」または「直送」によって送付されます。
送達:裁判所書記官が職権によって送付すること(訴状・文書提出命令の申立てなど)
直送:当事者が自ら相手方に対して送付すること(準備書面など)
民事訴訟法では、送達の方法が定められています(法100条以下)。
④ 判決の効力
確定判決の主文の内容については、後日別途の訴訟を提起して争うことはできません(=既判力。法14条)。確定判決の効力は、当事者やその口頭弁論後の承継人などに対して生じます(法115条1項)。
民事訴訟法の主なルール②|第一審の訴訟手続
争いとなった事件について、ゼロから事実認定を行う第一審の手続きについては、民事訴訟法で詳細にルールが定められています。
第一審の訴訟手続きに関する主な規定事項は、以下のとおりです。
① 訴えの提起・変更等
② 口頭弁論・争点整理の手続き
③ 証拠の取り扱い
④ 判決
⑤ 裁判によらない訴訟の完結
⑥ 簡易裁判所における訴訟手続きの特則
訴えの提起・変更等
訴えの提起は、原告が裁判所に対して訴状を提出して行います(法134条)。訴状の提出を受けた裁判所は、その訴状を被告に送達し(法138条1項)、口頭弁論期日を指定して当事者を呼び出します(法139条)。
原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求または請求の原因を変更することができます(=訴えの変更)。ただし、著しく訴訟手続きを遅滞させることとなるときは、訴えの変更が認められません(法143条1項)。
被告は、本訴の請求や防御方法と関連する請求について、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の継続する裁判所に反訴を提起することができます(法146条1項)。
反訴が提起された場合、本訴と同一の手続きによって審理されます。
口頭弁論・争点整理の手続き
民事訴訟の審理は、公開の口頭弁論により行われるのが原則です。口頭弁論では、当事者が裁判所に提出した準備書面や書証の審理や、証人尋問などが行われます。
ただし争点整理の目的で、口頭弁論期日の間に以下の手続きが行われることがあります。
① 弁論準備手続(法168条以下)
非公開で行われる争点整理手続きです。原則として裁判所内の個室で行われますが、音声通話による実施も認められています(法170条3項)。
② 書面による準備手続(法175条以下)
当事者が裁判所に出頭せず、準備書面等の提出によって争点整理を行う手続きです。音声通話による協議との併用も認められています(法176条3項)。
証拠の取り扱い
当事者は、自らが立証責任を負う事実を立証しなければなりません。ただし、当事者が自白した事実(争いのない事実)および顕著な事実は立証不要です(法179条)。
民事訴訟の立証は、原則として証拠によって行います。証拠は「書証」と「人証」の2つに大別されます。
① 書証
文書である証拠です。原告が提出する書証は「甲1号証、甲2号証……」、被告が提出する書証は「乙1号証、乙2号証……」と呼ばれます。
② 人証
証人や当事者などです。人証の証拠調べは、尋問によって行われます。
証人および当事者の尋問は、争点および証拠の整理が終了した後に集中して行われます(法182条)。複雑な事件でなければ、尋問は1回の期日で終了するのが一般的です。
判決
民事訴訟の審理が熟した段階で、裁判所は判決を言い渡します(法243条1項)。認容判決の場合は被告に命ずる支払い等の内容が、棄却判決の場合は請求を棄却する旨が、それぞれ判決主文に記載されます。
判決主文にはそのほか、訴訟費用の負担者や仮執行宣言(法259条)などが記載されることもあります。
判決の内容は原則として判決書にまとめられ、判決書は当事者に送達されます(法253条~255条)。
裁判によらない訴訟の完結
判決などの裁判によらず訴訟が完結する場合として、民事訴訟では以下のケースを定めています。
① 訴えの取下げ(法261条)
② 訴訟上の和解(法264条、265条)
③ 請求の放棄(法266条)
④ 請求の認諾(同)
簡易裁判所における訴訟手続きの特則
簡易裁判所が取り扱う民事訴訟は、請求額が140万円以下の事件などに限られます。
争いが比較的小規模であることに鑑み、簡易裁判所における訴訟手続きについては、以下のような特則が設けられています。
・簡易裁判所に対する訴えは、口頭で提起することができます(法271条)。
・訴えを提起する前に、和解の申立てをすることができます(法275条1項)。
・準備書面の提出を省略できます(法276条1項)。
・判決書の記載事項が簡略化されています(法280条)
など
民事訴訟法の主なルール③|上訴
第一審の判決に対しては「控訴」、控訴審判決に対しては「上告」による異議申立てが認められています。また、民事訴訟手続きに関する各種の決定・命令に対しては、「抗告」により異議を申し立てることができます。
控訴・上告
控訴・上告は、原審(控訴であれば第一審、上告であれば控訴審)の裁判所に対して、控訴状・上告状を提出して行います(法286条、313条)。控訴・上告の期間は、判決書の送付を受けた日から2週間以内です(法285条、313条)。
第一審が地方裁判所の場合、控訴は高等裁判所、上告は最高裁判所に対して行います。上告審判決が言い渡されるか、または期間内に適法な控訴・上告がなされなかった場合に、判決が確定します。
抗告
民事訴訟に関する決定・命令に対する抗告は、上級裁判所が抗告裁判所として審理します。
抗告には、以下の種類があります。
① 通常抗告(法328条)
口頭弁論を経ないで訴訟手続きに関する申立てを却下した決定・命令や、決定・命令により裁判できない事項についてされた決定・命令に対して行います。期間制限はありません。
② 再抗告(法330条)
抗告裁判所の決定に対する、さらなる抗告です。憲法違反、または決定に影響を及ぼすことが明らかな法令違反を理由とする場合に限って認められます。
③ 即時抗告(法332条)
原決定・命令を迅速に確定させる必要がある場合に認められた抗告です。期間は裁判の告知日から1週間に限られますが、執行停止の効力が認められています(法334条1項)。
④ 特別抗告(法336条)
不服申立てができない地方裁判所・簡易裁判所の決定・命令や、高等裁判所の決定・命令につき、最高裁判所に対して行う抗告です。憲法違反を理由とする場合に限られ、期間も裁判の告知日から5日間に限定されています。
⑤ 許可抗告(法337条)
高等裁判所の決定・命令につき、高等裁判所が許可した場合に限り、最高裁判所に対して行う抗告です。
民事訴訟法の主なルール④|少額訴訟に関する特則
訴額60万円以下の訴えについては、簡易裁判所に少額訴訟を提起することが認められています(法368条)。
少額訴訟については、迅速な解決を実現する目的で、以下の特則が設けられています。
・反訴が禁止されています(法369条)。
・審理は原則として1回の期日で完了し(法370条)、原則として即日判決が言い渡されます(法374条)。
・証拠は即時に取り調べられるものに限られます(法371条)。
・控訴は禁止され、異議申立てができるにとどまります(法378条、379条)
など
民事訴訟法の主なルール⑤|督促手続
金銭・有価証券等の給付を求める請求については、簡易裁判所の裁判所書記官に対して「支払督促」を申し立てることができます(法382条、383条)。支払督促は、簡単な書面審理のみで発せられ、権利の内容についての精査は行われません。
支払督促に対して、債務者は送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます。
期間内に異議申立てがなければ、債権者は「仮執行宣言付支払督促」の申立てが可能となります(法391条1項)。仮執行宣言付支払督促は、強制執行の債務名義として用いることができます(民事執行法22条4号)。
なお、仮執行宣言付支払督促の送達を受けた日から2週間は、債務者による異議申立てが引き続き認められています(法393条)。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 【新任~若手法務向け】契約の基本がわかるハンドブック |