退職勧奨(退職勧告)とは?
解雇との違い・違法となるケース・手続き(進め方)・成功させるためのポイントなどを解説!
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- この記事のまとめ
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「退職勧奨」とは、使用者が労働者に対して任意の退職を促すことをいいます。解雇の場合は強制的に労働者を退職させますが、退職勧奨の場合はあくまでも、退職するかどうかを労働者が任意に決断します。
退職勧奨は、強制に及ぶ場合やパワハラに当たる場合には違法となります。違法な退職勧奨を行うと、労働者を復職させなければならなくなり、さらに多額の解決金や未払い賃金の支払いを強いられるおそれがあるので注意が必要です。
退職勧奨を行う際には、まず全体方針を決定した上で、その方針に基づいて対象者を選定します。対象者との間では、退職条件等についての交渉を行います。交渉が合意に至った場合には、退職届を提出してもらい、さらに退職合意書を締結しましょう。
退職合意書には、労働者とのトラブルを予防するために必要な事項を記載します。退職勧奨を成功させるためには、労働者に対して退職のメリットを提示することがポイントです。また、後のトラブルを避けるために、退職強要やパワハラを疑われないような交渉環境を整えましょう。
この記事では退職勧奨について、解雇との違い・違法となるケース・手続き・成功させるためのポイントなどを解説します。
※この記事は、2023年10月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
退職勧奨とは
「退職勧奨」とは、使用者が労働者に対して任意の退職を促すことをいいます。
解雇の場合は強制的に労働者を退職させますが、退職勧奨の場合はあくまでも、退職するかどうかを労働者が任意に決断します。
退職勧奨を受け入れて退職する場合、雇用保険との関係では会社都合退職となります。
退職勧奨の目的
退職勧奨の目的は、解雇に関する厳しい規制を避けつつ、円満に労働者を退職させることです。
会社が労働者を解雇する際には、「解雇権濫用の法理」が適用されます。すなわち、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効です(労働契約法16条)。
この解雇権濫用の法理は厳格に運用されており、多くのケースで解雇が無効と判断されています。解雇された労働者側も反発し、労使間の深刻なトラブルに発展することが少なくありません。
このような不当解雇(解雇無効)に関するトラブルを避けるためには、退職勧奨が有力な解決策になり得ます。合意に基づいて退職してもらえば、解雇に関する厳しい規制は適用されず、労働者とのトラブルを回避できるからです。
多くの会社では、辞めさせたい労働者をいきなり解雇するのではなく、退職勧奨を行って円満に退職させようとしています。
退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨を受けた労働者は、それを受け入れて退職するかどうかを任意に判断できます。退職勧奨を拒否して、会社で働き続けることも可能です。
これに対して解雇は、会社が労働者を強制的に辞めさせるものであり、労働者に選択の余地は与えられません。その反面、退職勧奨とは異なり、解雇には厳しい法律上の規制(解雇権濫用の法理など)が適用されます。
退職勧奨は会社都合?自己都合?
雇用保険との関係では、いわゆる「会社都合退職」と「自己都合退職」のどちらであるかによって、退職後に受給できる基本手当の期間が変わります。
「会社都合退職」と呼ばれるのは、退職者が「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に当たる場合です。
会社都合退職の場合、申し込みから7日間を経過すると雇用保険の基本手当を受給できます。また、全体の受給期間も自己都合退職より長くなることが多いです。
これに対して、退職者が特定受給資格者・特定理由離職者のどちらにも当たらない場合は、「自己都合退職」の扱いとなります。
自己都合退職の場合は、申し込みから7日間と3か月が経過しなければ雇用保険の基本手当を受給できず、全体の受給期間は会社都合退職よりも短くなることが多いです。
退職勧奨を受けて退職した者は、恒常的に設けられている早期退職優遇制度などに応募した場合を除いて「特定受給資格者」に該当します。
特定受給資格者の範囲
特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要 – ハローワークインターネットサービス
1. 略
2. 「解雇」等により離職した者
(1)~(10) 略
(11)事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(12)・(13) 略
したがって、退職勧奨を受けて退職した場合は、申し込みから7日間が経過すれば、雇用保険の基本手当を受給可能です。
退職勧奨のメリット・デメリット
会社にとって退職勧奨を行うことのメリットは、円満に労働者を辞めさせることができる可能性がある点です。
前述のとおり、解雇に関する法律上の規制は非常に厳しいため、労働者が反発すれば会社は難しい対応を迫られます。退職勧奨によって円満に労働者を辞めさせることができれば、解雇に関するトラブルを回避できます。
これに対して、退職勧奨のデメリットは、労働者が同意しなければ辞めさせることができない点です。
退職勧奨に同意してもらうためには、退職金の上乗せなどを提案することも考えられますが、会社にとっては経済的負担が生じます。また、どうしても退職に同意しない労働者については、リスクを覚悟で解雇することも検討すべきでしょう。
退職勧奨が違法となるケース
退職勧奨は、適正に行われる限り違法ではありません。しかし、以下のいずれかに該当する場合には、退職勧奨が違法となるので注意が必要です。
①退職勧奨が強制に及ぶ場合
②退職勧奨がパワハラに当たる場合
違法となるケース1|退職勧奨が強制に及ぶ場合
退職勧奨は、あくまでも労働者に対して、任意に退職に応じることを提案するものでなければなりません。強制に及ぶ退職勧奨(=退職強要)は実質的な解雇であるため、解雇に関する厳しい法律上の規制が適用され、退職が無効となる可能性があります。
例えば、会社側に以下のような言動が見られる場合は、退職勧奨が強制に及んでいると評価されるおそれがあるので要注意です。
・威圧的な言動で退職するように迫った
・労働者を密室に閉じ込めて、複数人で圧迫面談を行って退職を迫った
・労働者を「追い出し部屋」に異動させて、仕事を全く与えなかった
・過度に厳しい叱責を行い、労働者のメンタルにダメージを負わせた上で退職を提案した
など
違法となるケース2|退職勧奨がパワハラに当たる場合
退職勧奨の方法がパワハラに当たる場合は、退職強要として違法となり得るほか、会社は労働者に対して安全配慮義務違反(労働契約法5条)や使用者責任(民法715条1項)に基づく損害賠償責任を負います。
厚生労働省のパワハラ防止指針では、パワハラの類型として以下の6つが挙げられています。退職勧奨の中でいずれかに該当する言動がなされた場合には、パワハラとして違法と評価され得るのでご注意ください。
①身体的な攻撃
(例)退職勧奨をしている最中に、上司が労働者を殴った。
②精神的な攻撃
(例)退職勧奨をしている最中に、上司が労働者の人格を否定する発言をした。
③人間関係からの切り離し
(例)退職させる目的で、労働者を「追い出し部屋」に異動させた。
④過大な要求
(例)無理難題なノルマを課して、労働者のモチベーションを失わせてから退職勧奨をした。
⑤過小な要求
(例)管理職を経験した労働者に対して全く仕事を与えず、「会社に求められていない」という意識を植え付けてから退職勧奨をした。
⑥個の侵害
(例)退職勧奨の説得材料を探すため、労働者のプライベートを監視した。
パワハラの詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。
退職勧奨の際に言ってはいけない言葉の例
前述のとおり、強制やパワハラに当たる退職勧奨は違法となります。そのため退職勧奨を行う際には、強制やパワハラに当たる言葉を言わないように注意しなければなりません。
例えば、以下のような言葉を退職勧奨の際に用いた場合は、強制やパワハラとして違法となる可能性があります。
・退職に応じないなら、解雇するしかないな。
・退職に応じないなら、退職金を払わないぞ。
・お前はもう会社に必要ない。会社に残っても居場所はないぞ。
・お前はあまりにも無能で、会社にとっては役立たずだ。
など
違法な退職勧奨を行った場合のリスク
強制やパワハラに当たる違法な退職勧奨を行った場合、会社は以下のリスクを負うことになってしまいます。これらのリスクを避けるため、退職勧奨は適切な方法によって行いましょう。
①労働者を復職させなければならない
②多額の解決金や未払い賃金の支払いを強いられる
リスク1|労働者を復職させなければならない
違法な退職勧奨を受けての退職には、客観的に合理的な理由はなく、社会通念上相当であるとも認められません。この場合は退職が無効になってしまい、会社は労働者を復職させる必要があります(労働契約法16条)。
リスク2|多額の解決金や未払い賃金の支払いを強いられる
退職が無効となるケースにおいて、労働者をどうしても復職させたくない場合は、会社が労働者に解決金を支払って手打ちとすることがあります。解決金は賃金の6か月分から1年分程度が標準的で、会社にとっては大きな経済的負担となってしまいます。
また、不当に退職させられた労働者は、会社を離れていた期間の賃金全額を会社に対して請求できます(民法536条2項)。会社は、働いていなかった労働者に対して賃金の支払いを強いられるため、こちらも大きな経済的損失となるでしょう。
退職勧奨の手続き・進め方
会社が労働者に対して退職勧奨を行う際には、以下の流れに従って手続きを進めましょう。
①退職勧奨の方針決定・対象者の選定
②対象者との交渉・退職条件の決定
③退職届の提出・退職合意書の締結
1|退職勧奨の方針決定・対象者の選定
まずは、退職勧奨の全体的な方針を定めましょう。具体的には、以下のような事項を決めておきます(特定の労働者に対してピンポイントで退職勧奨をする際には、省略して構いません)。
・退職させたい労働者の人数
・削減したい人件費の金額
・退職勧奨の対象者の選定基準、優先順位
など
全体方針を決めたら、その中で定めた選定基準や優先順位に従って、退職勧奨の対象者を選びましょう。
2|対象者との交渉・退職条件の決定
退職勧奨の対象者を選んだら、実際に対象者との間で退職に関する交渉を行います。
労働者側から退職金の上乗せなどを提案された場合は、会社として許容できる水準と照らし合わせつつ、必要に応じて減額交渉などを行いましょう。
3|退職届の提出・退職合意書の締結
退職条件について会社と労働者の間で合意したら、労働者に退職届を提出してもらいましょう。
退職条件については、退職合意書にまとめて締結することをおすすめします。退職合意書の中には、清算条項※を定めておきましょう。
※清算条項:当事者間に債権債務関係がないことを確認する条項です。退職合意書に清算条項を定めれば、退職後に労働者がさらなる請求をしてくる事態を防げます。
退職勧奨を成功させるためのポイント
会社が退職勧奨を成功させるためには、以下のポイントを意識して対応しましょう。
①労働者に対してメリットを提示する
②退職強要やパワハラを疑われない交渉環境を整える
ポイント1|労働者に対してメリットを提示する
労働者が退職勧奨に応じるのは、退職することにメリットを感じた場合です。
会社側としても、労働者に対して退職のメリットを提示することが、退職勧奨を成功させるためのポイントになります。退職金の上乗せなどで退職条件を優遇する、労働者にとって適性のある別の業界の魅力を紹介するなどの対応が考えられるでしょう。
ポイント2|退職強要やパワハラを疑われない交渉環境を整える
退職強要によって退職が無効となったり、パワハラによって会社が損害賠償責任を負ったりする事態は、厳に避けなければなりません。
退職勧奨を行う際には、強制やパワハラを疑われるような言動を避けるとともに、交渉環境についても配慮すべきです。例えば、複数人による面談は避けて1対1とする、短時間にとどめる、労働者に考える機会を十分に与えるなどの配慮を行いましょう。
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