減給とは?
上限額の計算方法・労基法のルール・
適法な減給理由・注意点などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「減給」とは、労働者の賃金を減額することをいいます。
減給が認められるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
・労働者との合意に基づいて労働契約を変更する場合
・懲戒処分を行う場合なお、懲戒処分については、さらに以下のケースに分かれます。
・減給自体を懲戒処分として行うケース
・出勤停止や降格の懲戒処分に減給が伴うケース労働者との合意に基づいて減給を行う場合、減給に対する労働者の同意は、完全に任意でなければなりません。少しでも強制の要素が含まれていると、減給の合意が無効となるおそれがあるので注意が必要です。
懲戒処分としての減給を行う場合には、懲戒権の濫用に当たらないように気を付けなければなりません。労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、重すぎる懲戒処分は無効となるおそれがあります。特に、降格処分に伴う減給があまりにも大幅である場合は、懲戒権の濫用として無効になりやすいので要注意です。
減給の懲戒処分については、労働基準法によって金額の上限が設けられています。労働者の賃金に応じて正しく上限額を計算し、その範囲内で減給処分を行いましょう。
この記事では減給について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年11月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
減給とは
「減給」とは、労働者の賃金を減額することをいいます。
労働者の賃金額は労働契約に基づき双方が同意することで決まるため、会社が一方的に減額することは原則としてできません。しかし、労働者と合意した場合や、懲戒処分を行うことができる場合には、減給が認められることがあります。
懲戒処分としての「減給」の上限|労基法のルールを含め解説
労働基準法91条では、懲戒処分としての減給の上限が定められています。
(制裁規定の制限)
「労働基準法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
上記の上限規制は、減給の懲戒処分についてのみ適用されます。
- 労働者との合意に基づく減給
- 出勤停止・降格処分に伴う減給
には、上記の上限規制は適用されません。
懲戒処分としての「減給」の上限額の計算方法
減給の1回の上限額は、平均賃金1日分の半額です。
「平均賃金」とは原則として、減給処分の直前の賃金締め切り日から遡って3カ月間に支払った賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額です(労働基準法12条1項、2項)。
例えば、直前3カ月間(7月~9月)に支払われた賃金の総額が92万円の場合には、
92万円÷92日(内訳:7月→31日/8月→31日/9月→30日)=平均賃金1万円
となり、減給の上限額は、「5,000円」となります。
※ただし、以下のいずれかに該当する者については、異なる計算方法が適用されることがあります(同条3項~8項)。
①平均賃金の計算期間において、以下のいずれかの期間が含まれている者
・業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
・産前産後休業を取得した期間
・使用者の責に帰すべき事由によって休業した期間
・育児休業または介護休業を取得した期間
・試用期間
②平均賃金の計算期間において、臨時に支払われる賃金、3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金、または通貨以外のもので支払われる賃金の支払いを受けた者
③雇入後3カ月に満たない者
④日々雇入れられる者
⑤その他、通常の計算方法によって平均賃金を算定できない者
なお、減給の総額につき「一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」とされている点にも、注意が必要です。
「一賃金支払期」とは、月給制であれば1カ月、週給制であれば1週間など、減給が行われる賃金の計算の基礎となる期間のことです。
例えば減給される前の月給が30万円の労働者であれば、一賃金支払期における賃金総額は30万円となります。30万円の10分の1は、「3万円」であり、1カ月の間に、3万円を超える減給を行った場合、違法となります。
適法な(違法にならない)減給理由
会社が適法に労働者の賃金を減額できるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
理由1|労働者との合意に基づいて、労働契約を変更する場合
理由2|減給の懲戒処分を行う場合
理由3|出勤停止処分に伴って減給する場合
理由4|降格処分に伴って減給する場合
なお、仕事ができないことを理由とする減給が認められるかどうかは、具体的な事情によって異なります。
理由1|労働者との合意に基づいて、労働契約を変更する場合
労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者(会社)の合意によって変更できます(労働契約法8条)。
賃金も労働条件の一つなので、労働者との合意があれば変更可能です。賃金を増額するだけでなく、減額についても合意があれば認められます。
理由2|減給の懲戒処分を行う場合
懲戒処分としての「減給」も法的に認められています。
ただし、懲戒処分を適法に行うためには、就業規則に、あらかじめ、
- 懲戒事由
- 懲戒処分の種類
を明記しておく必要があります。
なお、前述のとおり、懲戒処分による減給の金額は、以下の2つの上限以下でなければなりません(労働基準法91条)。
①平均賃金の一日分の半額
②一賃金支払期における賃金の総額の十分の一
また、同じ懲戒事由を理由として、何度も減給を行うことはできません。
理由3|出勤停止処分に伴って減給する場合
減給よりも一段階重い懲戒処分として、「出勤停止」を定めている会社が比較的多数存在します。出勤停止は、労働者に対して出勤を禁止する懲戒処分です。
ノーワーク・ノーペイの原則により、出勤停止期間中の賃金は支給されません。そのため、出勤停止期間が長ければ長いほど、労働者の賃金は大幅に減給されます。
減給の懲戒処分とは異なり、出勤停止による減給には法律上の上限がありません。ただし、あまりにも長すぎる期間の出勤停止処分は、懲戒権の濫用(労働契約法15条)として無効となるリスクが高いので注意が必要です。
理由4|降格処分に伴って減給する場合
労働者を降格させる場合にも、合理的な範囲内で減給を行うことができます。
降格処分は、人事権の行使として行う場合と、懲戒処分として行う場合の2通りがあります。
人事権の行使としての降格処分
会社は、労働者をどのように配置し、どのような業務を任せるかを決める「人事権」を有します。労働者の役職を決定することは、会社の人事権に属する事項です。
労働者をその指揮命令下で働かせるため、会社には広範な人事権が認められています。労働契約上の制限に抵触しない限り、労働者の役職や任せる業務は、会社の広い裁量によって決めることができます。
降格処分についても、業務上の合理的な理由がある限り、人事権の行使として行うことが可能です。降格に伴い、役職手当を不支給または減額とすることは、労働契約で予定されたものとして、合理的な範囲内で認められると考えられます。
懲戒処分としての降格処分
降格処分は、懲戒処分として行われることもあります。
出勤停止よりもさらに一段階重い懲戒処分として、降格を定めている会社が多いです。降格よりも重い懲戒処分は懲戒解雇や諭旨解雇に限られるため、降格はかなり重い部類の懲戒処分といえます。
懲戒処分として降格を行う場合も、会社が定める職位の制度等に従い、役職手当を不支給または減額とすることができます。ただし、あまりにも大幅な減給を伴う降格処分は、懲戒権の濫用として無効となるリスクが高いので注意が必要です。
仕事ができないことを理由に減給できる?
会社が仕事のできない労働者の賃金を減額したいと考えるのは自然ですが、法的にそれが認められるかどうかについては、ケースバイケースであり、事案ごとに検討する必要があります。
まず、労働者との合意に基づいて賃金を減額する場合、基本的にその理由は問われません。労働者が自由な意思により同意したと認められる限りは、仕事ができないことが背景にあったとしても、減給は適法と考えられます。ただし後述するように、労働者に対して会社が同意を強制したと評価される場合には、減給が無効となり得る点に注意が必要です。
これに対して、懲戒処分として減給・出勤停止・降格を行う場合は、労働者の行為が懲戒事由に該当しなければなりません。
単に「仕事ができない」だけでは、懲戒事由に該当するケースは少ないと思われます。仮に該当するとしても、懲戒権の濫用として懲戒処分が無効となってしまう可能性が高いです。これに対して、具体的な仕事上のミスを理由とする場合には、その程度に応じた懲戒処分が認められることがあります。例えば無断欠勤を繰り返した場合や、会社に多額の損失を与えた場合などには、懲戒処分が認められることが多いでしょう。
また懲戒処分は、労働者の行為の性質・態様等に見合った内容・重さとしなければなりません。労働者の行為に照らして、あまりにも重すぎる懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となるおそれがあります(労働契約法15条)。
従業員に対して減給をする際の注意点
従業員の賃金を減額する際には、以下の各点に注意ください。
注意点1|労働者の減給に関する同意は、任意でなければならない
注意点2|懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用に要注意
注意点3|減給の懲戒処分には、金額の上限がある
注意点1|労働者の減給に関する同意は、任意でなければならない
労働者との合意に基づいて賃金を減額する場合、会社は労働者に対して減給への同意を強制してはなりません。
言葉の上では労働者の判断に任せるとしていても、会社側の態度に強制の要素が含まれている場合は、減給への同意を強制したと評価されるおそれがあります。
例えば、労働者を個室に閉じ込めて複数人で圧迫面談をしたり、減給に同意させるために仕事を全く与えなかったりした場合には、減給を強制したと評価される可能性が高いでしょう。
労働者とのトラブルを避けるため、このような行為は厳に避けるべきです。
注意点2|懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用に要注意
懲戒処分として減給・出勤停止・降格を行う際には、懲戒権の濫用に当たらないように配慮しなければなりません。
例えば常習性のない無断欠勤や、仕事上の比較的軽微なミスなどについては、一般的に戒告や譴責などの厳重注意を与える懲戒処分が限度です。これらの軽微な就業規則違反に対して、減給・出勤停止・降格などの重い懲戒処分を行うと、懲戒権の濫用に当たる可能性が高いと考えられます。
懲戒処分を行う際には、労働者の行為の性質や態様などを踏まえて、過去の処分事例や裁判例などとも比較しつつ、その処分が妥当であるかどうかを慎重に検討しましょう。
降格処分に伴う大幅な減給は、違法になりやすい
懲戒権の濫用に当たるかどうかは、懲戒処分の種類だけでなく、その内容からも判断されます。
特に降格処分については、多かれ少なかれ減給を伴うことが多いです。減給が多額であればあるほど、労働者にとっては不利益になります。あまりにも多額の減給を伴う場合は、労働者の行為に釣り合わない懲戒処分として、降格が無効となる可能性が高いです。
注意点3|減給の懲戒処分には、金額の上限がある
前述のとおり、減給の懲戒処分には1回当たりの金額に上限があります。上限を超える減給は無効となるので注意が必要です。
減給の上限額は、労働基準法の規定に従って計算する必要があります。計算方法についてはやや複雑な部分があるので、不安があれば弁護士や社会保険労務士などの専門家にアドバイスを求めましょう。
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