
「即レス」「分身の術」「御用聞き」
信頼と対話が築く、事業成長のパートナー
- この記事について
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各業界の第一線で法務に携わる方々にお集まりいただき、法務実務の「今」を読み解く座談会を開催。
第7回の今回も、さまざまな業界で活躍する法務パーソンのみなさまにお集まりいただき、「守りの法務」「攻めの法務」の観点で、自社の企業成長に法務がどのように貢献していくのかを語っていただきました。そして法務のテクノロジー活用についても皆様の現在地を語っていただきました。
■登壇者
・映像通信機器メーカー 経営管理本部 コーポレート企画部 法務グループ A.K.さま
・株式会社ケアコネクトジャパン 総務部 法務課 主任 内村圭喜さま
・株式会社ゼネラルパートナーズ コーポレート部門 リーガル・リスク・マネジメント室 室長/弁護士 梅本 遥さま
・株式会社世界文化ホールディングス 法務部 部長代理 佐藤竜一郎さま
・株式会社ACNホールディングス 取締役上席執行役員/グループ代表室室長/CLO/リスク管理戦略室担当/デジタル戦略本部管掌/弁護士 高橋俊輔さま(モデレーター)
・株式会社LegalOn Technologies 相良裕介(総合司会)

目次
1|自社の事業成長へ貢献するために”攻めの法務”の観点でどのような取り組みに力を入れている?
高橋 この座談会は「事業成長に貢献する」というテーマで進めていくなかで、これをどのような視点で捉えていくのか、相良さんから説明をお願いいたします。
相良 企業の法務部門の業務は大きく3種類あるとされていまして、法的な紛争の発生を未然に防ぐ「予防法務」と、発生した法的紛争を解決する「臨床法務」、そしてもう一つが、企業の事業戦略立案などに法務の専門家としてコミットする「戦略法務」です。近年では、予防法務と臨床法務を「守りの法務」、戦略法務を「攻めの法務」と表現し、これらを両軸で取り組むことが事業成長への貢献につながると言われています。

高橋 はじめに、「攻めの法務」におけるみなさまの取り組みについてお聞かせください。

内村 当社は「新機能・新規サービスのバリューアップ」です。当社は、開発・販売しているシステム・ソフトウェアに新機能を追加したり、新しいサービスの開発を積極的に行ったりしています。攻めの法務として、そこに関わる特許や商標の取得など、企業の価値を高める知財への対応を強化しています。またそれに加えて、法務的観点で新機能・新サービスへのフィードバック、公的機関との連携について取り組みも積極的に行い、知財以外でも企業の価値を高める動きをしています。
出願などは弁理士に委託していますが、事業部側が「こうしたい」とダイレクトにお願いしても伝わらない部分があります。双方の間に立ってそれぞれの言葉を「翻訳」し、認識を合わせながら進めるのが法務の重要な役割です。

梅本 私は当社のクレドの一つ「やってみよう 楽しもう」としました。事業部は「障害者差別という社会課題を解決したい」と熱い思いを持って新しいサービスを考えているので、法務としても全力で共感して「一緒にやってみましょう、楽しみましょう」というスタンスを取っています。ただ、やはり職業紹介事業や障害福祉サービス事業は法令の規制も厳しく、「やりたいことを正しいやり方で、正しく実現しないとダメなんです」ということを丁寧に説明しています。
高橋 クレドや会社の目的が、全社に浸透しているんですね。
梅本 人事がそうした社内文化づくりをしていますね。法務が研修を行う際も、当社の一番のビジョン・ゴールである「誰もが自分らしくワクワクする人生」に紐づけて「そのためには、お客さまの個人情報はもちろん守るし、従業員へのハラスメントもしちゃいけないですよね」というメッセージを伝えています。

佐藤 私は「法務と他部署、自社と他社の垣根を超えて会社に貢献」としました。さまざまな法務のタスクがある中で、他部署との隙間に落ちるような問題もあります。その「ポテンヒット」を防ぐプレーと申しましょうか、あえて拾いに行けるようにしています。例えば電子帳簿保存法への対応は、「財務が主導でしょ」と放っておくのではなく、こちらから財務に声をかけて社内規定づくりをしました。
自社と他社というところでは、この座談会もそうですが、社外との交流や情報交換を通して学びを得て、自社にフィードバックしています。

A.K. 私は「事業部門との打合せ参加」と書きました。戦略法務は当社は手探り状態ですが、例えば新製品開発については、なるべく初期段階から法務部門も打ち合わせに参加します。契約書や覚書といった法文書が、現場の取引内容と最大限一致したものになるよう、法的な観点から事業部をサポートしています。事業部にヒアリングしながら契約書を起案することは少し時間がかかりますが、精度の高い契約書を作成するうえで不可欠な作業だと思っています。
幸いにも、当社の場合は、法務の意見を聞いてくれたり、困ったことがあったら相談してくれたりする風土が根付いているので、事業部と意見が衝突するようなことはないですね。
高橋 そうした風土はどのように生まれたんですか?
A.K. 私の上司が「法律的なところをちゃんと守って事業をやろう」ということを、20年以上前から浸透させてきました。一昔前は、契約書のリーガルチェックという行為はあまり会社全体として浸透していなかったため、はじめは大変だったと思います。また、法務部門が相談しやすいと感じてもらえるため、「対面や電話などでも話を聞くこと」を意識しています。事業部との信頼関係があってこそ、相談しやすい風土が生まれると思います。

高橋 なるほど。事業部との信頼を築くために、みなさんが心がけている工夫はありますか?
内村 やはり「即レス」ですね。事業部からの法務相談はクラウドCRMで寄せられますが、通知が来たらその日中には必ず何かしらの回答・リアクションをしています。
当社はフリーアドレスですので、隣に座った別部署のメンバーと話す機会も多いです。中途入社でさまざまな部署を経験してから法務に来たので、他部署と話しやすいという点はあるかもしれません。
梅本 当社の場合、私が入社したことで法務ができました。気をつけていたのは、たとえ何度同じことを聞かれても、毎回丁寧に答えるということです。繰り返し質問されるということは、マニュアルや研修が分かりにくかったり、うまく伝えられていなかったりするポイントでもあると思うので、次回の社内教育に活かすように気を付けています。
佐藤 相談してもらわないことには、法務の仕事はできないですもんね。私は、相手や案件の性質、タイミングによって、メール・電話・対面など、コミュニケーションの方法を使い分けています。あとは、あえてフリースペースで仕事をしていると、事業部メンバーから声をかけてもらえることが結構あります。法務関係の業務は後回しになることが多いので、こうした「御用聞き」のような動きも効果的かもしれません。
2|自社の事業成長へ貢献するために”守りの法務”の観点でどのような取り組みに力を入れている?
高橋 続いて、守りの観点からお話を伺いたいと思います。

梅本 「分身の術」と書きました、守りの法務の要はやはり契約書審査です。契約書においては、相手方企業さまと根本的には利害関係が対立していますが、「落とすべきところに落とす」ためには、先方の立場で考えることも大切です。利害関係者全員の立場に「分身」して道筋を立てて、速く、正確に提示することを意識しています。
報酬料率など、絶対譲れないものもありますが、もう少し細かい部分で譲れるところは最初から譲りますし、事業部にも「ここを守ってもらえれば大丈夫です」と優先順位を伝えています。あとは「伝言ゲーム」にならないように、先方にお送りする素案は法務で作ることが多いですね。
佐藤 私は「事業部の腹落ちを増やす」です。相談をくれる事業部側には、必ず主張したいことがありますから、それを否定せずに聞くところから始めて、法務の意見や提案を焦らず丁寧に説明していくようにしています。
加えて、社内ポータルのコンテンツを積極的に増やしています。もちろん見ない人は見ませんが、「ここに、こういうことが載っているんですよ」と必要なときに情報を出せる体制をとっておけば、何度か繰り返すうちに理解してもらえる。あとは「わからなかったら聞いて。黙ってやるのだけはやめようね」と伝えることでしょうか。セミナーや研修もそうですが、コンテンツを作って、それに対していかにリーチしてもらうかということだと思います。

A.K. 当社は年1回のコンプライアンス研修です。対象は全社の管理職で、一般社員には管理職が研修を実施することにしています。トピックは、例えば今年は下請法の改正、いわゆるカスハラへの対応など、当社が影響を受けるものや、発生しやすいインシデント例などを中心に取り上げています。
研修で全て理解してもらうことは難しいですが、「そういえばあんな規制があったな」と受講者の頭の中に残ってもらえれば、それだけでも有意義な研修だと思っています。
最近では、研修で扱った内容についての問い合わせが増えたり、それまでなかった相談が寄せられたりという効果も見られます。
内村 当社もコンプライアンス研修をしたいと思っているんですが、みなさんはどのような形式で実施していますか?
A.K. 1回120分間の枠で、社内の法務部員が講師として実施しています。資料もすべて法務部門のお手製です。だいたい3つから4つくらいのトピックスを設けて、座学とグループワークを組み合わせています。資料は、例えば下請法なら公取委のリーフレットなど、できるだけ法律用語を使わずに説明できるものを参考文献として活用しています。グループワークでは、最後に意見を共有してもらうようにしています。

内村 ありがとうございます。当社でいう守りの法務は、「Change the industry」と「愛される法務」です。まず前者は、当社の経営理念です。介護現場のDXに向けて新たなサービス・機能を積極的に作っていく際、契約から情報セキュリティまで、とにかく法務に相談してもらうようにしています。
ただ、法務が気難しいと気軽には相談できないですよね。だからこそ、話しかけやすい雰囲気を作るように意識しています。そのベースになっているのが、私が好きな言葉である「愛される人間になってほしい」という言葉で、これは当社の代表取締役社長が毎年新入社員に向けているメッセージです。私は新入社員研修にも携わっていて、新入社員にとって身近な社員が「愛される人間」を体現していることも重要だと考えていますので、私なりの「愛される法務」を日々目指しています。
高橋 法律事務所へのアウトソーシングも活用しているそうですね。
内村 はい。法律の専門的なところはどんどん任せてしまって、どちらかというと私は会社のビジネスをメインに考えて、法律的なところでフィックスさせて事業部に返す役割を担おうと考えています。
3|事業成長に貢献するため、法務業務においてどのようにテクノロジーを活用していますか?

高橋 最後のトピックは、攻めと守り両方に関わるテクノロジーの活用です。
佐藤 「ツールや新しい技術はとりあえず触れてみる どんどん希望も言ってみる」と書きました。当社では2019年ごろから電子契約サービスを導入しました。当時は「とりあえず紙の契約書をスキャンして保管するところから使ってみよう」ということで導入したんですが、コロナ禍で電子契約がどんどん進みました。
リーガルテックについては、契約書のAIレビューサービスを導入し、それに付随した案件管理システムも活用しています。事業部とのやり取りもそちらに移行することになりました。生成AIは会社として契約をしていないため、社員個人が使う場合の規定を作って、周知しているところです。
新しいツールについては、何をどんな目的で導入したいのか、またどういった効果が期待できるのかを、経営層に対して訴え続けることが効果的です。初めは反応が薄くても、その必要性は必ず伝わります。
高橋 新しいシステムを事業部にも使ってもらうとなると、苦労もありますよね。
佐藤 従来のやり方を変えられるのは、事業部側にとってはやはりストレスです。当社の案件管理システムは、UIがうまく作られていますし、前もって綿密にマニュアルを作成したこともあり、なんとか回っていきそうです。

A.K. 当社は「法務業務管理ツール」です。現状はテクノロジーの導入があまり進んでおらず、一部の部門で電子契約を進めているくらいですが、いずれは法務業務管理ツールを入れたいと考えています。例えばメールによる契約審査依頼のフォーム化や、過去の契約書内容などのナレッジ蓄積などが実現できれば、事業部や法務部員の手間が減りますので、予算の申請をがんばっているところです。
佐藤 先ほどの話と重複しますが、個人的な経験では、初回で予算の申請が通らなくても経営層の気持ちが向いてくるタイミングが訪れることがあるので、やはり効果を訴え続けることが大事かなと思います。
内村 私は、AIレビューやドラフト作成、電子契約など、契約に関することは基本的にリーガルテックを使っています。全社員がライセンスを持っているクラウドCRMと電子契約サービスを連携させることで、契約業務も効率的になりました。
当社はDXを推進する製品を作っているため、社内でもペーパーレス化へ向けた取り組みが進んでいて、リーガルテック導入に対しても積極的です。
梅本 当社でよく使っているのはeラーニングで、年間5本ほど配信しています。障害者雇用率が高いこともあり、コロナ前からテレワークが可能で、研修もeラーニングを活用しています。移動時間などでもスマホで視聴できる点が好評です。
その他には、法律書籍のリサーチツールや、電子契約を導入しています。また、基幹システムとしてGoogle Workspaceを入れており、学習機能をオフにするなどの前提のもと、事業部の一部でGeminiなどの生成AIを利用しています。ただ、社員のAIへのリテラシーや理解度を高めて、どう適応していけばいいかは悩ましいところです。

A.K. みなさんは契約書のAIレビューツールは、どのように活用されていますか?
内村 リスクの大きさを含めてAIがレビューしてくれるので、それを基に法務や事業部担当者が確認する、という使い方が基本です。「この条文だったら必ずこの内容にする」と自社の基準を登録できる機能などをうまく使えば、担当者間のばらつきが無くなり、レビューの質が均一化されます。ナレッジを蓄積して、ぶれない一つの基準を作るという意味でもAIレビューは有益だと思います。
佐藤 私は契約書を作成する際に活用していて、自分が過去に作ったものを条文検索したり、AIレビューツール内に用意されているひな形から条文を拾ったりして、掛け合わせて作成しています。いろいろな使い方がありますよね。
読者に伝えたいメッセージ

相良 それでは最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いいたします。
A.K. 私は法務に来て5年ほどですが、契約はビジネスを作る一つのツールだと実感していますし、会社の事業へダイレクトに触れますので、管理部門の中でも非常にやりがいがある仕事だと思っています。それから今日皆様と話して感じたのは、「会社の事業に入りこんで、業務を進めよう」という気持ちの高さです。読者の皆様の中にはあまり法務部門に馴染みが薄い事業部の方もいらっしゃると思いますが、ぜひ法務部門へフラットに相談していただければと思います。
内村 私も、法務はビジネスの一つの要素だと考えています。同じく法務を担当して4~5年でわかっていないところもありますが、職種関係なく法務というものに触れて、ベースに持っておいた方が、より業務の質が上がって、楽しさも増していくと思います。
梅本 法務を含めたバックオフィスの仕事は、他の会社がどうしているか見えにくく、「自分が今どこにいるのか」がわからなくなってしまいがちです。こうしたメディアを通じて情報収集することで、同じような悩みを抱えている法務パーソンの考えに触れると、「一人じゃない」と思えますね。私も一人法務が長かったので、横のつながりをもっと広げていきたいです。
佐藤 おもに出版事業を展開する当社の社是は「情熱・創造・信頼」。法務もまさにそれが当てはまり、信頼を得て、情熱を持って作り上げることが大切です。そして、こうして他社のみなさんと交流することは新たな一歩になります、読者のみなさんもぜひ勇気を出して踏み出していただければと思います。
相良 みなさま、本日はお時間をいただきましてありがとうございました!
(2025年6月24日収録)












